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大学数学基礎解説
文献あり

ラマヌジャンの円周率公式を理解した!

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[4]{{}_2F_1\l(\begin{array}{c}#1,#2\\#3\end{array};#4\r)} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事は 日曜数学 Advent Calendar 2022 の22日目の記事となります。

 12/22といえばかの稀代の数学者シュリニヴァーサ・ラマヌジャンの誕生日です(今年で生誕135周年!)。
ラマヌジャンの肖像 ラマヌジャンの肖像
ちなみに1222は私のMathlogのユーザーID( https://mathlog.info/users/1222/articles )でもあります。運命的ですね。

 というわけでこの記事では今日が誕生日であるラマヌジャンが遺した数式の一つである
$$\frac1\pi=\frac{2\sqrt2}{99^2}\sum^\infty_{n=0}\frac{(4n)!}{(n!)^4}\frac{26390n+1103}{396^{4n}}$$
について解説していこうと思います。

過去の学び

 約2年前に書いた記事「 ラマヌジャンの円周率公式を理解したい 」ではラマヌジャンが発見した円周率公式シリーズ
$$\frac1\pi =\sum^\infty_{n=0}\frac{(\frac12)_n(\frac1s)_n(1-\farc1s)_n}{(1)_n}\frac{An+B}{C^n} \quad(s=2,3,4,6)$$
のカラクリについて考察しました。まだ読んでいない方は読んでもらえると嬉しいです。
 その記事で考察したことのあらましとしてはこうでした。

 考えている級数
$$\sum^\infty_{n=0}\frac{(\frac12)_n(\frac1s)_n(1-\farc1s)_n}{(1)_n}\frac{An+B}{C^n}$$
は超幾何関数${}_3F_2(z)$を用いて
$$\frac AC\frac{d{}_3F_2}{dz}(1/C)+B\cdot{}_3F_2(1/C)$$
と表せる。Clausenの公式と二次変換公式からこれはさらに$4\a(1-\a)=1/C$なる$\a$と超幾何級数$F_s(z)={}_2F_1(z),G_s(z)=zF'_s(z)$を用いて
$$\frac{2(1-\a)}{1-2\a}AF_s(\a)G_s(\a)+BF_s(\a)^2$$
と変形できる。
 ここで$\b=1-\a$とおくと
$$\a F_s(\a)G_s(\b)+\b F_s(\b)G_s(\a)=\frac1\pi\sin\frac\pi s$$
という関係式があるので$F_s(\a),G_s(\a)$$F_s(\b),G_s(\b)$の間に何らかの関係があって
$$\frac{2(1-\a)}{1-2\a}AF_s(\a)G_s(\a)+BF_s(\a)^2 =\frac{\a F_s(\a)G_s(\b)+\b F_s(\b)G_s(\a)}{\sin\frac\pi s}$$
とできれば$=1/\pi$となって円周率公式の完成となる。

 2年前の記事ではこの「何らかの関係」とは何なのかがわからなくて行き詰っていたのでした。
 ということで今回の記事はこの「何らかの関係」について一つの解答を与えていこうと思います。

超幾何関数から楕円積分へ

 超幾何関数の積分表示
$$\F abcz=\farc{\G(c)}{\G(a)\G(c-a)}\int^1_0t^{a-1}(1-t)^{c-a-1}(1-zt)^{-b}dt$$
からもわかるように楕円積分は超幾何関数によって
\begin{eqnarray} K(k)&=&\int^1_0\frac{dx}{\sqrt{(1-x^2)(1-k^2x^2)}} \\&=&\frac12\int^1_0\frac{dt}{\sqrt{t(1-t)(1-k^2t)}}\quad(t=x^2) \\&=&\frac12\frac{\G(\frac12)^2}{\G(1)}\F{\frac12}{\frac12}1{k^2} \\&=&\frac\pi2\F{\frac12}{\frac12}1{k^2} \end{eqnarray}
と表せます。
 これに 超幾何関数の"魔法" (2,34,42番)
\begin{eqnarray} \tag{1}\F ab{\frac{a+b+1}2}z&=&\F{\frac a2}{\frac b2}{\frac{a+b+1}2}{4z(1-z)} \\\tag{2}\F ab{a-b+1}z&=&(1+z)^{-a}\F{\frac a2}{\frac{a+1}2}{a-b+1}{\frac{4z}{(1+z)^2}} \\\tag{3}\F a{\frac{2a+1}6}{\frac{4a+2}3}z &=&\l(1-\farc z4\r)^{-a}\F{\frac a3}{\frac{a+1}3}{\frac{4a+5}6}{\frac{27z^2}{(4-z)^3}} \end{eqnarray}
を使うと
\begin{eqnarray} z_2&=&k^2 \\z_4&=&\l(\frac{2k}{1+k^2}\r)^2 \\4z_6(1-z_6)&=&\frac{27}4\frac{(kk')^4}{(1-(kk')^2)^3}\quad(k'=\sqrt{1-k^2}) \end{eqnarray}
によって$z_s=z_s(k)\;(s=2,4,6)$を定めたとき
\begin{eqnarray} \frac2\pi K(k)&=&F_2(z_2) \\\frac2\pi K(k)&\overset{(2)}{=}&\frac1{\sqrt{1+k^2}}F_4(z_4) \\\frac2\pi K(k)&\overset{(1)}{=}&\F{\frac14}{\frac14}1{(2kk')^2} \\&\overset{(3)}{=}&\frac1{\sqrt[4]{1-(kk')^2}}\F{\frac1{12}}{\frac5{12}}1{\frac{27}4\frac{(kk')^4}{(1-(kk')^2)^3}} \\&\overset{(1)}{=}&\frac1{\sqrt[4]{1-(kk')^2}}F_6(z_6) \end{eqnarray}
$K(k)$一つで$F_s$全てを表現できてしまうことになります($s=3$の場合も多分なんかあります)。
 つまり適当な$a,b$によって
$$aF_s(\a)\frac{dF_s}{dz}(\a)+bF_s(\a)^2=\frac1\pi$$
という関係を考える問題は
$$aK(\kappa)\frac{dK}{dk}(\kappa)+bK(\kappa)^2=\frac\pi2$$
を考える問題に帰着でき、$K$にはルジャンドル関係式
$$KE'+K'E-KK'=\frac\pi2\quad \l(\begin{array}{l}K'(k):=K(k')=K(\sqrt{1-k^2})\\E'(k):=E(k')=E(\sqrt{1-k^2})\end{array}\r)$$
があったので
$$\frac{dK}{dk}=\frac{E-k'^2K}{kk'^2}$$
に注意すると$K(\kappa),E(\kappa)$$K'(\kappa),E'(\kappa)$の間に何らかの関係があって
$$aK\frac{dK}{dk}+bK^2=KE'+K'E-KK'$$
とできれば万事解決というわけです。

「何らかの関係」って何だ?!

 前節によって話は大分簡単になりました。
 ではその最後のピース、これまでさんざん悩ませ続けてきた「何らかの関係」とは一体何なのか!
 それは...
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 自然数$N$に対し$k_N$を方程式
$$\frac{K'}{K}=\sqrt{N}$$

によって定めると、$k_N$および
$$\a(N)=\frac{E'}{K}-\frac\pi{4K^2}$$

代数的数となる!!!!!!!!!!
 
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ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ<な、なんだってー!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

円周率公式を生み出す魔法の式

 はい。
 随分と一般性の高い事実が成り立つんですね。
 この事実はモジュラー方程式という概念が関わってくる深い事情があってのものなので、その導出や$k_N,\a(N)$の計算方法についてはまた別の記事で解説するとしましょう。

 気を取り直してこの事実、
$$\frac{K'}{K}=\sqrt N$$
なる$k=k_N$に対して$k_N$および
$$\a(N)=\frac{E'}{K}-\frac\pi{4K^2}$$
は代数的数になる、ということを認めて円周率公式を考えてみましょう。
 やりたいことは適当な$a,b$を取って
$$aK\dot K+bK^2=KE'+K'E-KK'\quad(\dot K=dK/dk)$$
を成り立たせることでした。そのためにこの右辺を変形していくと
\begin{eqnarray} \frac\pi2&=&KE'+K'E-KK' \\&=&K\l(K\a(N)+\frac\pi{4K}\r)+\sqrt NK\l(k'^2K+kk'^2\dot K\r)-\sqrt NK^2 \\&=&\sqrt Nkk'^2K\dot K+(\a(N)-\sqrt N(1-k'^2))K^2+\frac\pi4 \\&=&\sqrt Nkk'^2K\dot K+(\a(N)-\sqrt Nk^2)K^2+\frac\pi4 \end{eqnarray}
つまり
$$\sqrt Nkk'^2K\dot K+(\a(N)-\sqrt Nk^2)K^2=\frac\pi4$$
が得られます。
 これが無数の円周率公式を生み出す魔法の式となっています。

ラマヌジャンの円周率公式

 ラマヌジャンの円周率公式はこの"魔法の式"を$s=4$の級数に直した公式
$$\frac1\pi=\sum^\infty_{n=0}\frac{(4n)!}{(n!)^4}\frac{an+b}{4^{4n}x^{2n+1}}$$
$$g^{12}=\frac{k'^2}{2k},\;x=\frac{g^{12}+g^{-12}}2,\; a=\sqrt{N}\frac{g^{12}-g^{-12}}2,\; b=\frac{\a(N)}{1+k^2}x-\frac{\sqrt N}4g^{-12}$$
における$N=58$の場合となっており、実際に
\begin{eqnarray} k_{58}&=&\l(\frac{\sqrt{29}+5}2\r)^3(99\sqrt2-13\sqrt{29}-70) \\g_{58}^{12}&=&\l(\frac{\sqrt{29}+5}2\r)^6=99^2+1820\sqrt{29} \\\a(N)&=&\l(\frac{\sqrt{29}+5}2\r)^6(99\sqrt2-13\sqrt{29}-70)(99\sqrt{29}-444) \end{eqnarray}
を代入することで
\begin{eqnarray} x&=&\frac{(99^2+1820\sqrt{29})+(99^2-1820\sqrt{29})}2=\textcolor{red}{99^2} \\a&=&\sqrt{58}\frac{(99^2+1820\sqrt{29})-(99^2-1820\sqrt{29})}2=\sqrt2\cdot29\cdot1820=\textcolor{red}{2\sqrt2\cdot26390} \\b&=&\frac{\a(N)/g^6 k}{1/g^6k+k/g^6}x-\frac{\sqrt N}4g^{-12} \\&=&\frac{99\sqrt{29}-444}{(99\sqrt2+13\sqrt{29}+70)+(99\sqrt2-13\sqrt{29}-70)}\cdot99^2 -\frac{\sqrt{58}}4(99^2-1820\sqrt{29}) \\&=&\frac{99}4\sqrt2(99\sqrt{29}-444)-\frac{\sqrt2}4(99^2\sqrt{29}-2\cdot26390) \\&=&\sqrt2(13195-111\cdot99)=\textcolor{red}{2\sqrt2\cdot1103} \end{eqnarray}
となることが確かめられます。

おわりに

 ということでラマヌジャンの円周率公式のからくりを完全解明することができました!
 やった~~~~~!!!!!!!

 といってもこの魔法の式
$$\sqrt Nkk'^2K\dot K+(\a(N)-\sqrt Nk^2)K^2=\frac\pi4$$
ことボールウェインの公式の導出自体は3か月ほど前には知っており、 先日の日曜数学会 でもそのことについて発表しました。
 今は残る課題である$k_N$$\a(N)$の計算方法について勉強しているところです(最近投稿している記事はそれに向けた準備記事だったりします)。本当はそこら辺も含めてこのラマヌジャンの誕生日である今日にまとめ切りたかったのですが、諸々の行間を埋めるのに四苦八苦していたらあっという間に今日になっていました。

 何はともあれ 2年前の挫折 を越えて今日という日にラマヌジャンの円周率公式の証明を伝えることができてよかったと思います。この記事を読んでラマヌジャンの円周率公式についてもっと知りたいと思った人は今後の記事にも注目してもらえると嬉しいです。
 (2023/10/09 追記)長らくお待たせしましたがようやく ラマヌジャンの円周率公式の証明 の解説記事が書き上がりました。ぜひご一読ください。

 とりあえず今回はこんなところで。
 では。

参考文献

[1]
J. M. Borwein, P. B. Borwein, Pi and the AGM: A Study in Analytic Number Theory and Computational Complexity, Wiley-Interscience, 1987, pp. 152-156, pp. 177-184
投稿日:20221221

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投稿者

子葉
子葉
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218028
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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