以前、
[1] ある恒等式と部分分数分解/koumei
[2] 多項式関数の根における微分係数についての等式の別証/koumei
において、以下の等式を証明しました。$K$は任意の体とします(よく分からなければ、$K$は実数全体の集合$\mathbb R$, または複素数全体の集合$\mathbb C$だと思って下さい)。
$a_1,\ldots,a_n \in K$を相異なる2個以上の元とし、$f(x)=(x-a_1)\cdots(x-a_n)$とおく。このとき
$$ \sum_{i=1}^n \frac 1{f'(a_i)}=0$$
が成り立つ。
また、
[3] 「ある恒等式と部分分数分解」で得られた等式の応用/koumei
[4] OMCE005(E)に自分が見つけた公式を使ってみる/koumei
において、より一般化した等式を示しました。
さて、最近ふと考えました。2階微分でも同じような等式ってあるのかなと。
これまでの手法が応用できないかと考えた結果、
[2]
で扱った逆関数を用いる方法が使えそうだと思ったので、やってみました。あまり綺麗な結果にはなりませんでしたが、一応等式は得られたのでとりあえず書いておきます。
以下では$K=\mathbb C$の場合を考えます。まず、逆関数の2階微分を計算しておきます。
(どうせ多項式関数とその逆関数しか扱わないので、細かい仮定は置いておいて)
関数$y=f(x)$の逆関数を$x=g(y)$とおくと、
$$ g''(y)=-\frac {f''(x)}{(f'(x))^3}$$
が成り立つ。
$$ g'(y)=\frac 1{f'(x)}$$
の両辺を$x$で微分して、
$$ g''(y)y'=-\frac{f''(x)}{(f'(x))^2}$$
$y'=f'(x)$であるから
$$ g''(y)=-\frac {f''(x)}{(f'(x))^3}$$
さて、ここからは、 [2] と同じ手法を使います。細かい議論は元の記事をご覧下さい。
$a_1,\ldots,a_n \in \mathbb C$を相異なる2個以上の複素数とし、$f(x)=(x-a_1)\cdots(x-a_n)$とします。$f(x)$は各$x=a_i$のまわりで逆関数を持ちます。それを$g_i(y)$とします。
$t$を$0$に近い複素数とすると、$f(g_i(t))=t$が成り立ちます。したがって、方程式 $f(x)=t$ の解は
$$ x=g_1(t),\ldots, g_n(t)$$
です。解と係数の関係から、$g_1(t)+\cdots+g_n(t)$は $f(x)-t$ の$n-1$次の係数の$-1$倍ですが、これは$t$によりません。したがって、関数$g_1(y)+\cdots+g_n(y)$は$y=0$のまわりで定数関数であることが分かります。$h(y)=g_1(y)+\cdots+g_n(y)$とおきます。
以前の記事では、$h'(0)=0$を用いて等式を導きました。しかしよく考えてみると、$h$は何回微分しても$0$になります。というわけで、$h'$の代わりに$h''$を用いれば、2階微分に関する等式が得られると期待できます。さっそくやってみましょう!
\begin{align}
0 &= h''(0)\\
&= g_1''(0) + \cdots + g_n''(0)\\
&= -\frac{f''(a_1)}{(f'(a_1))^3} - \cdots - \frac{f''(a_n)}{(f'(a_n))^3}
\end{align}
したがって、
$a_1,\ldots,a_n \in \mathbb C$を相異なる2個以上の複素数とし、$f(x)=(x-a_1)\cdots(x-a_n)$とおく。このとき
$$ \sum_{i=1}^n \frac {f''(a_i)}{(f'(a_i))^3}=0$$
が成り立つ。
とりあえず等式は得られましたが……なんじゃこりゃ?
もうちょっと遊んでみます。
[2]
では、$g_1,\ldots,g_n$ の$n-1$次以下の基本対称式が定数関数であることを用いて一般化が得られました。今回も同様にすることもできそうですが、もう少し手間を減らす方法が見つかりました。
まず、対称式の性質から次が言えます。
$\varphi(\lambda_1, \ldots, \lambda_n)$を高々$n-1$次の$\mathbb C$係数対称式とするとき、$\varphi(g_1(y),\ldots, g_n(y))$は定数関数である。特に、$1\leq k \leq n-1$とするとき
$$ g_1(y)^k+\cdots+g_n(y)^k$$
は定数関数である。
という訳で、$g_1(y)^k+\cdots+g_n(y)^k$の$y$についての2階微分が$0$であることを利用して、等式を作ってみます。まず
\begin{align}
0=\left( \sum_{i=1}^n g_i(y)^k \right)' = \sum_{i=1}^n kg_i(y)^{k-1}g_i'(y)
\end{align}
両辺を$k$で割ってもう1度微分すると、
\begin{align}
0&=\left( \sum_{i=1}^n g_i(y)^{k-1}g_i'(y) \right)' \\
&= \sum_{i=1}^n \left( (k-1)g_i(y)^{k-2}(g_i'(y))^2 + g_i(y)^{k-1}g_i''(y) \right)
\end{align}
$y=0$とすれば、$g_i(0)=a_i$であることに注意して
\begin{align}
0&= \sum_{i=1}^n \left( (k-1)g_i(0)^{k-2}(g_i'(0))^2 + g_i(0)^{k-1}g_i''(0) \right)\\
&= \sum_{i=1}^n \left( (k-1)a_i^{k-2}\cdot \frac{1}{(f'(a_i))^2} + a_i^{k-1} \cdot \left( - \frac {f''(a_i)}{(f'(a_i))^3} \right) \right)\\
&= \sum_{i=1}^n \left( \frac{(k-1)a_i^{k-2}}{(f'(a_i))^2} - \frac {a_i^{k-1}f''(a_i)}{(f'(a_i))^3} \right)
\end{align}
よって、以下の等式が得られます。
$a_1,\ldots,a_n \in \mathbb C$を相異なる2個以上の複素数とし、$f(x)=(x-a_1)\cdots(x-a_n)$とおく。また、$1\leq k \leq n-1$とする。このとき
$$ \sum_{i=1}^n \frac {a_i^{k-1}f''(a_i)}{(f'(a_i))^3}=(k-1) \sum_{i=1}^n \frac{a_i^{k-2}}{(f'(a_i))^2}$$
が成り立つ。
ただし、$a_i$がなんであれ$a_i^0=1$とし、$k=1$のときは右辺は$0$であると約束します。
これまたよく分からん等式ですね……。
なにはともあれ、命題1の2階微分バージョンを見つけたい、という当初の目標は一応達成できたと思うことにします($\mathbb C$の場合しか証明できていませんが)。
また、上に書いた通り、$h$は何回微分しても$0$になるので、同様の方法でさらに謎の等式を量産することができます。
どういう意味があるのかは分かりませんが、少なくとも間違ってはいないはずです。ひょっとしたら、いつかどこかで役に立つかもしれません。
ではまた