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現代数学解説
文献あり

ラマヌジャン総和法4:応用例

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はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続きラマヌジャンの総和法について勉強していきます。
 今回の記事では 前回の記事 で紹介した定理たちを用いたラマヌジャン和の興味深い応用例について見ていき、このシリーズの最終回としたいと思います。

Z上の総和

nZReαn=0(0<|α|<π)

 オイラーは"divergent calculation"として次のような式変形をしていたようです。
nZeαn=n1eαn+n0eαn=eα1eα+11eα=0
しかしこれはラマヌジャン和を用いることで次のように正当化できます。

  前々回の記事 の例1として求めたように
n1Rezn=ez1ezezz
が成り立つので
nZReαn=n1Reαn+n1Reα(1n)01eαxdx=(eα1eα+eαα)+(eα1eαeαα)eαeα1α=0
を得る。

nZRnk=0(k0)

 「整数のk乗の総和は0となる」と言うとそんなわけなさ過ぎて面白いですね。

n1R1=12n1Rn2k=12k+1n1Rn2k1=1B2k2k
であったことに注意すると
nZRnk=n1Rnk+n1R(n)k11xkdx=0
を得る。

nZR1zπn=cotz

  通常の部分分数展開 では
cotz=1z+n=n0(1zπn+1πn)
のように収束因子1/πnが必要でしたがラマヌジャン和ではその必要はありません。

n1R1zπn=1z+n1R1zπn+n1R1z+πn111zπxdx=1z+n1R2zz2π2n2012zz2π2x2dx=1z+n=12zz2π2n212zz2π2x2dx012zz2π2x2dx=cotz+[1πlogzπxz+πx]0=cotz
を得る。

 部分分数展開と言えばディガンマ関数
ψ(z)=ddzlogΓ(z)=γn=0(1n+z1n+1)
に関する次の式も面白いですね。

n1R1n+z=ψ(z+1)+log(z+1)

n1R(1n1n+z)=n=1(1n1n+z)1(1x1x+z)dxn1R1nn1R1n+z=γ+ψ(z+1)[logxx+z]1γn1R1n+z=γ+ψ(z+1)log(z+1)
とわかる。

倍数公式

1+n=12(4n)34n=32log2

 たまには収束級数も求めてみましょう。ちなみにこれはラマヌジャンがインドの数学誌に初めて出題した問題の一つでした。

Collected Papersより Collected Papersより

 倍数公式などから
n1R1n=γ=n1R12n+n1R12n11212dxxn1R12n1=γ+log22n1R12n+1=n1R12n11+12dx2x1=γ+log2+log321=n1R14n+1+n1R14n11212dx2x+1
が成り立つことに注意すると
n1R2(4n)34n=n1R12n(4n+1)(4n1)=nR12n+n1R14n+1+n1R14n1=γ2+γ+log2+log321+log5log34=1+12log2+14log3+14log5
がわかる。
 また
12(4x)44xdx=1(12x+14x+1+14x1)dx=[14log(4x)21x2]1=log214log314log5
が成り立つことに注意すると
1+n=12(4n)34n=1+n1R2(4n)34n+12(4x)44xdx=32log2
を得る。

ガンマ関数の倍数公式

Γ(Nz)=NNx12(2π)N12k=0N1Γ(x+kN)

 f(x)=logxのfractional sumはφ(x)=logΓ(x+1)と求まるのでf(x/N)=logxlogNつまり
φ[f(x/N)](x)=logΓ(x+1)xlogN
が成り立つことおよび
n1Rlogn=12log2π1n1RlognN=n1RlognlogNn1R1=12log2π112logNN1/N1logx dx=N[xlogxx]1/N1=logN(N1)
に注意すると
logΓ(x+1)xlogN=k=1NlogΓ(x+kN)N12log2π+12logN
を得る。

ディリクレ級数

ディリクレ級数の解析接続

 ディリクレ級数
L(s)=n=1c(n)ns
は一般に解析接続を考えることが難しいと思われますが、c(x)
c(x)=k0akxαk
(無限和とは限らない)と展開できるときは
L(s)=n1Rc(n)ns+1c(x)xsds=n1Rc(n)ns+k0aks+αk1
によって解析接続することができ、特にラマヌジャン和が正則関数を定めることからL(s)s=1αkを単純極に持つ以外は正則であることがわかったりします。

レルヒの公式

 一般ディリクレ級数
Z(s)=n=11a(n)s
に対しても同様にラマヌジャン和を考えることで次のような公式も導くことができます。

 フルヴィッツのゼータ関数
ζ(s,a)=n=01(n+a)s
について
ζ(k,a)=Bk+1(a)k+1(k0)
が成り立つ。

 ラマヌジャン和により
ζ(s,a+1)=n1R1(n+a)s+1dx(x+a)s=n1R1(n+a)s+(a+1)1ss1
と解析接続できるので、 前回の記事 の補題4から
n1R(n+a)k=1Bk+1(a+1)k+1+1a+1xkdx=(a+1)k+1Bk+1(a+1)k+1
が成り立つことに注意するとわかる。

正規化積

 数列anに対し
Z(s)=n=11a(n)s
と定まる関数がs=0周りまで解析接続できるとき、anの正規化積を
n1regan=eZ(0)
によって定める。

レルヒの公式

n1reg(n+a)=2πΓ(a+1)

ζ(s,a+1)=n1R1(n+a)s+(a+1)1ss1
sについて微分することで
sζ(s,a+1)=n1Rlog(n+a)(n+a)s(a+1)1ss1(log(a+1)+1s1)
特に
sζ(0,a+1)=n1Rlog(n+a)+(a+1)(log(a+1)1)
が成り立つので 前回の記事 の補題4から
n1Rlog(n+a)=logΓ(a+1)+12log2π1+1a+1logxdx=logΓ(a+1)+12log2π(a+1)(log(a+1)1)
と求まることに注意すると
sζ(0,a+1)=logΓ(a+1)2π
を得る。

関数等式

 最後にこのシリーズの 0 で紹介していた
ζ(1s)=21sπscosπs2Γ(1s)ζ(s)G2(1z)=z2G2(z)2πiz
という関数等式のラマヌジャン和を用いた証明を見ていくこととしましょう。

ゼータ関数の関数等式

n1R1n+u=log(1+1u)+20(1e2πt112πt)tu2+t2dt

 ラマヌジャン和の明示式
n1Rf(n):=f(1)2+i0f(1+it)f(1it)e2πt1dt
においてf(x)=1/(x1+u)とおくことで
n1R1n1+u=12u+i01u+it1uite2πt1dt=12u+201e2πt1tu2+t2dt
が成り立つので
0dtu2+t2=[1uarctantu]0=π2u
に注意すると
n1R1n+u=n1R1n1+u1u+01dtt+u=log(1+1u)12u+201e2πt1tu2+t2dt=log(1+1u)+20(1e2πt112πt)tu2+t2dt
を得る。

ζ(1s)=21sπscos(πs2)Γ(s)ζ(s)

  Ramanujan's Master Theorem ϕ(s)=1,1/sの場合から
0us11+udu=πsinπs0log(1+1u)us1du=0log(1+u)us1du=πssinπs
と求まることに注意すると
0(n1R1n+u)us1du=n1R0us1n+udu=n1Rns10us11+udu=πsinπsn1Rns1=πsinπs(ζ(1s)+1s)0(n1R1n+u)us1du=πssinπs+200(1e2πt112πt)tu2+t2us1dt
つまり0<Re(s)<1において
πsinπsζ(1s)=20(1e2πt112πt)0tu2+t2us1dudt
が成り立つ。
 またこの右辺の積分はRamanujan's Master Theoremを二回使う(?)ことによって
=0(1e2πt112πt)0tu2+t2us1dudt=120(1e2πt112πt)0tu+t2us21dudt=π/2sin(πs/2)0(1e2πt112πt)ts1dt=π/2sin(πs/2)(2π)sΓ(s)ζ(s)
と求まる。したがって
sinπsππ/2sin(πs/2)=cosπs2
に注意すると
ζ(1s)=21sπscos(πs2)Γ(s)ζ(s)
を得る。

アイゼンシュタイン級数の関数等式

 アイゼンシュタイン級数とは
G2k(z)=m,n1(mz+n)2k
のように定義される関数のことを言います。これらの関数は一般に
G2k(1z)=m,nz2k(mnz)2k=z2kG2k(z)
という関係式を満たしますが、k=1のとき
G2k(z)=m=(n=(m,n)(0,0)1(mz+n)2k)
はこの級数が条件収束となるためこのような操作が正当化されず、実際には
G2k(1z)=z2G(z)2πiz
という関係式を満たすこととなります。
 このことについては一般にこのq-展開(フーリエ級数展開)を考えることで示されますが、ラマヌジャン和を用いることで級数の形のまま示すことができます。

 適当な条件下で
m=1n=1(f(m,n)f(n,m))=11(f(x,y)f(y,x))dydx
が成り立つ。

 ラマヌジャン和においては
m1Rn1Rf(m,n)=m1Rn1Rf(n,m)
が成り立つことに注意してこれをSとおく。
 このとき
m=1n=1f(m,n)=m=1(n1Rf(m,n)+1f(m,y)dy)=m1Rn1Rf(m,n)+1(n1Rf(x,n))dx+m=11f(m,y)dy=S+m=11f(m,y)dy+n1R1f(x,n)dx
および同様に
m=1n=1f(n,m)=S+m=11f(x,m)dx+n1R1f(n,y)dy
が成り立つのでこの差を取ることで
m=1n=1(f(m,n)f(n,m))=m=11(f(m,y)f(y,m))dym1R1(f(m,y)f(y,m))dy=11(f(x,y)f(y,x))dydx
を得る。

G2k(1z)=z2G(z)2πiz

G2k(z)=2m=1n=1(1(mz+n)2+1(mzn)2)+2(1+1z2)ζ(2)1z2G2k(1z)=2m=1n=1(1(nz+m)2+1(nzm)2)+2(1+1z2)ζ(2)
と表せることに注意すると
f(m,n)=1(mz+n)2+1(mzn)2
に対し
m=1n=1(f(m,n)f(n,m))=πiz
が成り立つことを示せばよい。
 そしてこれは上の補題から
m=1n=1(f(m,n)f(n,m))=11(f(x,y)f(y,x))dydx=1z[logx+zxzlog1+xz1xz]1 =πiz
とわかる。

おわりに

 以上がラマヌジャン総和法に関する理論の概説でした。
 最初
n1Rf(n)=f(1)2n=1B2n(2n)!f(2n1)(1)
という定義が出てきたときは一体この謎の定数から何がわかるのかと思いましたが
R(x)R(x+1)=f(x),12R(x)dx=0
という方程式によって特徴付けられる関数
R(x)=1xf(t)dt+f(x)2+i0f(x+it)f(xit)e2πt1dt
が正則関数の積分変換という解析的に扱いやすい対象となっているため、例えばゼータ関数の解析接続
ζ(s)=n1Rns+1s1
を定めるなど重要な結果をもたらしてくれるのでした。
 結局アベル・プラナの和公式やメリン変換のような積分変換が偉いだけじゃね?と思うところもままありますが、総和法としてを用いて表すことで議論が明瞭になるというのは確かです。
 総和法は雰囲気だけで使っていると非常に危ういものではありますが、正しい使い方を知っていれば怖いものはありません。比較的幅広く使える総和法として中々面白い武器を手に入れたという感触があります。
 皆さんもラマヌジャン総和法を用いて色々遊んでみてはいかがでしょうか。
 では。

参考文献

[1]
Bernard Candelpergher, Ramanujan Summation of Divergent Series, Springer, 2017
投稿日:2024212
更新日:202469
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. $\Z$上の総和
  3. 倍数公式
  4. ディリクレ級数
  5. ディリクレ級数の解析接続
  6. レルヒの公式
  7. 関数等式
  8. ゼータ関数の関数等式
  9. アイゼンシュタイン級数の関数等式
  10. おわりに
  11. 参考文献