5
現代数学解説
文献あり

n回合成関数の基本的な定理や式【反復合成写像#1】

113
0
概要

最近話題の反復合成写像、関数的平方根について、以前遊んでいたものに一致する部分があった(主に代数関数で遊んでいました。)ので書き留めておこうと思います。関数的平方根を求めるのってロマンありますよね。この記事を書くにあたって甘くないなっぽーさんの記事疑問:2回合成してe^xとなる関数は?cbrtxさんの記事合成関数の逆操作についてsinxの分解にチャレンジが大変参考になり、面白い内容だったので紹介しておきます。

定義

いろいろな記法があると思いますが、個人的には逆関数の記法であるf1(x)を包含する次のような記法が好みです。(巨大数の分野でも頻繁に使われるようです。グラハム数とか、急増加関数とか。)

定義

nNについて、
(ff)nf(x)=f(f(f(x)))nf=fn(x)
とする。

nNについて、f(x)の逆関数が存在し、g(x)=f1(x)のとき、
(gg)ng(x)=g(g(g(x)))ng=fn(x)
とし、n=0のとき、
f0(x)=x
とすることで、nZについても定義することができる。

f1(x)は通常の逆関数に一致する。

a,bZ,b0について、
hb(x)=fa(x)
となるような関数h(x)が存在する時、fab(x)h(x)と定義することで、nQについて定義することができる。

・とくに、a=1のとき、f1a(x)a回合成することでf(x)となる関数であり、b=2のとき「関数的平方根」と呼ぶ。

fn(x)f(x)n回合成、n重合成という。とくに、0回合成はxとなり、-1回合成は逆関数となる。

あまり厳密ではない定義かもしれませんが、一次関数などfn(x)が存在する関数であれば、nQまではとくに問題なく計算できると思います。なお、以下出てくる関数は全てf:RRとします。

基本的な定理

合成→掛け算、反復合成→冪乗と対応し、冪乗に成り立つ指数法則のような法則が成り立ちます。

定理1

f1(x)=g(x),nZのとき、
gn(x)=fn(x)

定義より明らかに成り立ちます。

定理2-1

f1(x)=g(x)のとき、
f(g(x))=x

逆関数の定義x=f(y)y=f1(x)より、
f(g(x))=f(f1(x))=f(y)=x

定理3-1 (限定的な)関数的交換法則

f1(x)=g(x)のとき、f(x)g(x)のみを複数個合成して得られる関数は、合成する順番を変えても同じとなる。

nNについて、
fn(f(x))=fn+1(x)は明らかに成り立つ。
fn(f(x))=gn(f(x))=gn1(g(f(x)))=gn1(x)=fn+1(x)
fn(f1(x))=fn(g(x))=fn1(f(g(x)))=fn1(x)
fn(f1(x))=gn(g(x))=gn+1(x)=fn1(x)
も成り立つことがわかる。
したがって、整数回合成した関数にf(x)またはf1(x)を合成することは、整数を+1または-1することに等しい。よって、和の交換法則より、f(x)またはf1(x)を合成する順番は交換できる。

定理2-2

f1(x)=g(x),nZのとき、
fn(gn(x))=x

定理2-1および定理3-1より、
fn(gn(x))=f(f(f(nfg(g(g(x))))))ng=f(g(f(g(f(g(x))))))nfg=x
(nが負のときも、fとgが入れ替わるだけなので同様に成り立つ。)

定理4 関数的指数法則

a,bZについて、
fa(fb(x))=fa+b(x)
g(x)=fa(x)gb(x)=fab(x)

証明は、指数法則の証明とほとんど同様に、a,bを自然数、0、負の数の9通りに場合分けすることでできます。

  • a,bNのときは、明らかに成り立つ。
  • aN,b=0のとき、
    fa(fb(x))=fa(x)=fa+b(x)
    g(x)=fa(x)gb(x)=x=f0(x)=fab(x)
    より、成り立つ。
  • a=0,bNのとき、
    fa(fb(x))=fb(x)=fa+b(x)
    g(x)=fa(x)=xgb(x)=x =f0(x)=fab(x)
    より、成り立つ。
  • a=b=0のとき、
    fa(fb(x))=x=f0(x)=fa+b(x)
    g(x)=fa(x)=xgb(x)=x=f0(x)=fab(x)
    より、成り立つ。

ここからは、上記の自然数および0に対する関数的指数法則が成り立つものとして用います。

  • a,bNのとき、f1(x)=g(x)とすると、定理1と、定理3-1より、
    a>bのとき、
    fa(fb(x))=fa(gb(x))=fab(gbb(x))=fa+(b)(x)
    a=bのとき、
    fa(fb(x))=fa(gb(x))=x=f0(x)=fa+(b)(x)
    a<bのとき、
    fa(fb(x))=fa(gb(x))=faa(gba(x))=gba(x)=fa+(b)(x)
    また、
    h(x)=fa(x),i(x)=h1(x)=fa(x)=ga(x)hb(x)=ib(x)=gab(x)=fab(x)=fa×(b)(x)
    より、成り立つ。
  • a,bNのとき、f1(x)=g(x)とすると、定理1と、定理3-1より、
    a>bのとき、
    fa(fb(x))=ga(fb(x))=gab(fbb(x))=gab(x)=f(a)+b(x)
    a=bのとき、
    fa(fb(x))=ga(fb(x))=x=f0(x)=f(a)+b(x)
    a<bのとき、
    fa(fb(x))=ga(fb(x))=gaa(fba(x))=fba(x)=f(a)+b(x)
    また、
    h(x)=fa(x)=ga(x)hb(x)=gab(x)=fab(x)=f(a)×b(x)
    より、成り立つ。
  • a,bNのとき、f1(x)=g(x)とすると、定理1より、
    fa(fb(x))=ga(gb(x))=ga+b(x)=f(a)+(b)(x)
    h(x)=fa(x)=ga(x),i(x)=h1(x)=fa(x)hb(x)=ib(x)=fab(x)=f(a)×(b)(x)
    より、成り立つ。
  • a=0,bNのとき、f1(x)=g(x)とすると、定理1より、
    fa(fb(x))=fa(gb(x))=gb(x)=fb(x)=fa+(b)(x)
    h(x)=fa(x)=xhb(x)=x=f0(x)=fa×(b)(x)
    より、成り立つ。
  • aN,b=0のとき、f1(x)=g(x)とすると、定理1より、
    fa(fb(x))=ga(fb(x))=ga(x)=fa(x)=f(a)+b(x)
    h(x)=fa(x)=ga(x)hb(x)=x=f0(x)=f(a)×b(x)
    より、成り立つ。

ここからは、上記の整数に対する関数的指数法則を用います。

  • a,bZ,b0のとき、h(x)=fab(fcd(x))とすると、定義g(x)=fab(x),gb(x)=fa(x)より、
    hbd(x)=fad(fcb(x))=fad+cb(x)=f(ab+cd)bd(x)
    よって、h(x)=fab(fcd(x))=fab+cd(x)
    また、i(x)=fab(x),j(x)=icd(x)とすると、定義g(x)=fab(x),gb(x)=fa(x)より、
    jbd(x)=ibc(x)=fac(x)=f(ab×cd)×bd(x)
    よって、j(x)=icd(x)=f(ab×cd)(x)
    以上より、nQについても成り立つ。
定理3-2 関数的交換法則

fn(x)(nZ)のみを複数個合成して得られる関数は、合成する順番を変えても同じとなる。

定理4より、整数回合成した関数にfn(x)(nZ)を合成することは、整数を+nすることに等しい。よって、和の交換法則より、fn(x)を合成する順番は交換できる。

不動点についての定理

前述した、cbrtxさんの記事合成関数の逆操作についてで言及されていた「合成不動点定理」を一般化したものです。なお、nQの証明は、n=12の場合の証明をお借りさせていただきました。グラフを見ると明らかにf(αi)=αi(i=1,2,,m)fn(αi)=αi(nQ)が成り立つように見えるんですが、とりあえずm=1f(x)=xが唯一の解αを持つ場合)に限定して証明します。

定理5 一般合成不動点定理(より適当な名前)

f(x)=xが唯一の解αを持つならば、
fn(α)=α(nQ)
  • nNのとき、
    n=1のときは、前提よりfn(α)=α
    n=kのとき、fk(α)=αが成り立つと仮定すると、
    n=k+1のとき、fk+1(α)=fk(f(α))=fk(α)=α
    よって、成り立つ。
  • nZについて、
    n=0のとき、明らかにfn(α)=α
    g(x)=f1(x),mNのとき、gm(x)について考えると、
    m=1のとき、逆関数の定義y=f1(x)x=f(y)より、g(α)=α
    m=kのとき、gk(α)=αが成り立つと仮定すると、
    m=k+1のとき、gk+1(α)=gk(g(α))=gk(α)=α
    よって、成り立つ。
  • nQについて、
    a,bZ,b0のとき、まずf1b(α)=αを示す。
    f1b(α)=βαと仮定する。
    f1b(f1b(f1b(α)))b=f(α)
    f1b(f1b(f1b(α)))b=f1b(f1b(f1b(β)))b1=f(α)=α
    f1b(f1b(f1b(β)))b=f1b(α)=β
    f1b(f1b(f1b(β)))b=f(β)
    したがって、f(β)=βとなるが、f(x)=xの唯一の解がαであることに矛盾するため、f1b(α)=αが示された。
    よって、定理4を用いて、fab(α)=fa(f1b(α))=fa(α)=αより、成り立つ。

唯一の解であることを証明に用いるのはnQの場合のみなので、同様の証明で以下の予想のnZの場合も成り立つことがわかります。多分。

予想 第ニ一般合成不動点定理(さらに適当な名前)

f(x)=xm個の解αi(i=1,2,,m)を持つならば、全ての解について、
fn(αi)=αi(nQ)

例として、f(x)=axについてfn(x)(n=2,1,0,1,2)のグラフを見てみましょう。

!FORMULA[157][425232429][0]のときのグラフ(赤が濃いほど!FORMULA[158][38042][0]が大きく青が濃いほど!FORMULA[159][38042][0]が小さい) a=0.5のときのグラフ(赤が濃いほどnが大きく青が濃いほどnが小さい)
!FORMULA[160][1422036310][0]のときのグラフ(赤が濃いほど!FORMULA[161][38042][0]が大きく青が濃いほど!FORMULA[162][38042][0]が小さい) a=1.3<eeのときのグラフ(赤が濃いほどnが大きく青が濃いほどnが小さい)
!FORMULA[163][539350248][0]のときのグラフ(赤が濃いほど!FORMULA[164][38042][0]が大きく青が濃いほど!FORMULA[165][38042][0]が小さい) a=eeのときのグラフ(赤が濃いほどnが大きく青が濃いほどnが小さい)

nZのとき、第二一般合成不動点定理が成り立っている様子がわかります。ちなみに、この場合の不動点はxx=aより、ランベルトのW関数を用いてx=W(loga)logaと表されるので、aによって0~2つあることがわかります。

微分

高校数学で合成関数・逆関数の微分法を学んだと思いますが、同様の方法で反復合成写像、n回合成関数の微分を考えることができます。

定理6 n回合成関数の微分

nZについて、n>0のとき、
{fn(x)}=k=1nf(fnk(x))=f(fn1(x))f(fn2(x))f(x)
n=0のとき、
{fn(x)}=1
n<0のとき、
{fn(x)}=1k=1nf(fn+k1(x))=1f(fn(x))1f(fn+1(x))1f(f1(x))

n>0のとき、
合成関数の微分法y=f(u),u=g(x)のときdydx=dydududxより、n回合成したときは、y=f(u1),u1=f(u2),un1=f(x)のときdydx=dydu1du1du2dun1dxとなる。
合成されるのは同じ関数f(x)なので、dydududx=f(f(x))f(x)と置き換えられ、同様に、
dydu1du1du2dun1dx=f(fn1(x))f(fn2(x))f(x)
と置き換えられる。したがって、
{fn(x)}=k=1nf(fnk(x))=f(fn1(x))f(fn2(x))f(x)
n=0のとき、
fn(x)=xより、{fn(x)}=1
n<0のとき、
合成関数の微分法より、n回合成したときは、y=f1(u1),u1=f1(u2),un1=f1(x)のときdydx=dydu1du1du2dun1dxとなる。
合成されるのは同じ関数f1(x)なので、逆関数の微分法y=f1(x),x=f(y)のときdydx=1dxdy=1f(f1(x))より、
dydu1du1du2dun1dx=1f(f1(fn+1(x)))1f(f1(fn+2(x)))1f(f1(x))
と置き換えられる。したがって、
{fn(x)}=1k=1nf(f1(fn+k(x)))=1k=1nf(fn+k1(x))=1f(fn(x))1f(fn+1(x))1f(f1(x))



y=x8f(x)=x2の3回合成なので、
 y=2(x4)2(x2)2x=8x7
y=22xf(x)=log2xの-2回合成なので、
 y=1122xlog2112xlog2=22x+xlog2x
後書き

次回は単項式、一次関数といった簡単な代数関数について触れたいと思います。
次回:単項式と一次関数のn回合成関数【反復合成写像#2】

参考文献

投稿日:21日前
更新日:9日前
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

suda
suda
20
798
・アイコンは推し・初学者・受験数学の知識の欠如・数学に関するWikipediaの記事を執筆※精神状態により記事の更新が滞る場合があるのでご了承ください...

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中