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現代数学解説
文献あり

ラマヌジャン・佐藤級数を理解したい(その7、公式集2)

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はじめに

 この記事では 前回の記事 に続いてラマヌジャン・佐藤級数に関する公式の数々をまとめていきます。
 前回の記事ではChan, Cooper (2012)にて提示されていたLevel 1~6およびLevel 8,9の公式をまとめました。なのでこの記事では残るLevel 7およびLevel 10以上の公式についてまとめていきます。
 なお種々の文献から要点を抜き取ってまとめたものとなるので表記揺れや誤植などが目立つと思いますが、あしからず。

Level 7,18

メモ

 Chan, Cooperの手法では
(n+1)2sn+1=(an2+an+b)sn+cn2sn1(n+1)3tn+1=(2n+1)(an2+an+a2b)tn(4c+a2)n3tn1
という漸化式を考え
1π=n=0(2nn)snAn+BXn=n=0tnAn+BYn
という公式を構成した。ここでun=(2nn)snとおくとこれは
(n+1)3un+1=2(2n+1)(an2+an+b)un+4cn(4n21)un1
を満たすことに注意したい。
 しかし[CTYZ]にて考えられた数列
Bn=k=0n(nk)4
の満たす漸化式はunのそれとは絶妙に異なるもの
(n+1)3Bn+1=2(2n+1)(3n2+3n+1)Bn+4n(16n21)Bn1
であった。
 そこでCooperはs1=0,s0=1および
(n+1)3sn+1=(2n+1)(an2+an+b)sn+n(cn2+d)sn1
によって定まる数列を考えることとした。これをsn[a,b,c,d]と置くことにすると、例えば
tn[a,b,c]=sn[a,2ba,(4c+a2),0]un[a,b,c]=sn[2a,2b,16c,4c]Bn=sn[6,2,64,4]
と表せる。なおαnsn[a,b,c,d]=sn[αa,αb,α2c,α2d]が成り立つことに注意する。
 Cooperは
1a50, |b|20, |c|200, |d|30
におけるsn[a,b,c,d]の値を探索してみたところ従来のtn,un型のものの他に新たな数列
sn[6,2,64,4]=Bnsn[13,4,27,3]=k=0n(nk)2(2kn)(n+kk)sn[14,6,192,12]=k=0n(1)k(nk)(2kk)(2n2knk)((2n3k1n)+(2n3kn))
が得られたという。

Level 7

Level 7の関係式

j7A(τ)=(j7B(τ)+7j2B(τ))21j7B(τ)=(η(τ)η(7τ))4
および
s7A(n)=sn[13,4,27,3]=k=0n(nk)2(2kn)(n+kk)
とおくと
([1][7])2=n=0s7A(n)j7A(τ)n+23
が成り立つ。

Level 7の円周率公式

12πIm(τ)=(j7A(τ)27)(j7A(τ)+1)j7A(τ)n=0s7A(n)n+12+λj7A(τ)n+12
これは|j7A(τ)|>27において収束する。

特殊値一覧

τNj7A(τ)λ+121/πN/7453421853n=0s7A(n)21n+453n1+N/7213431039743n=0(1)ns7A(n)39n+1043n612231286118957223n=0(1)ns7A(n)11895n+1286223n

Level 18

 例の如く[n]=η(nτ)とおく。

Level 18の関係式

j18A(τ)=(j18B(τ)+3j18B(τ))2j18B(τ)=([3][6])4([1][2][9][18])2
および
s18A(n)=sn[14,6,192,12]=k=0n(1)k(nk)(2kk)(2n2knk)((2n3k1n)+(2n3kn))
とおくと
([3][6])2=n=0s18A(n)j18A(τ)n+34
が成り立つ。

Level 18の円周率公式

12πIm(τ)=(j18A(τ)16)(j18A(τ)12)j18A(τ)n=0s18A(n)n+12+λj18A(τ)n+12
これは|j18A(τ)|>16において収束する。

特殊値一覧

τNj18A(τ)λ+121/π21802327n=0s18A(n)n18nN/18562320354n=0s18A(n)20n+362n1112215883108n=0s18A(n)88n+15122n29542789638034374n=0s18A(n)6380n+789542n1362926327n=0(1)ns18A(n)26n+962n1+N/32251803142327n=0(1)ns18A(n)14n+3180n3724217110363864n=0(1)ns18A(n)1036n+171242n

Level 10

Level 10の関係式

j10A(τ)=(j10B(τ)1j10B(τ))2=(j10C(τ)+4j10C(τ))2=(j10D(τ)+5j10D(τ))24j10B(τ)=([2][5][1][10])6j10C(τ)=([1][5][2][10])4j10D(τ)=([1][2][5][10])2j10E(τ)=[2][5]5[1][10]5
および
β1(n)=k=0n(nk)4β2(n)=(2nn)k=0n(nk)(2kk)1β1(k)β3(n)=(2nn)k=0n(nk)(2kk)1(4)nkβ1(k)
とおくと
([1][5])4+4([2][10])4=n=0β1(n)j10A(τ)n+12=n=0β2(n)(j10A(τ)+4)n+12=n=0β3(n)(j10A(τ)16)n+12
が成り立つ。

Level 10の円周率公式

12πIm(τ)=(j10A(τ)+4)(j10A(τ)16)j10A(τ)n=0β1(n)n+12+λ1j10A(τ)n+12=(j10A(τ)16)j10A(τ)j10A(τ)+4n=0β2(n)n+12+λ2(j10A(τ)+4)n+12=j10A(τ)(j10A(τ)+4)j10A(τ)16n=0β3(n)n+12+λ3(j10A(τ)16)n+12
これらはそれぞれ|j10A(τ)|>16, |j10A(τ)+4|>20, |j20A(τ)16|>20において収束する。

 ちなみにβ1(n)は三項間漸化式
(n+1)3β1(n+1)=2(2n+1)(3n2+3n+1)β1(n)+4n(16n21)β1(n1)
を満たし、β2(n),β3(n)は五項間漸化式
(n+1)3β2(n+1)=4(8n3+9n2+5n+1)β2(n)116(18n321n2+11n3)β2(n1)+8(2n3)(64n2132n+73)β2(n2)320(2n3)(2n5)(n2)β2(n3)(n+1)3β3(n+1)=2(34n3+27n2+15n+3)β3(n)14(12n7)(36n231n+16)β3(n1)32(2n3)(304n2672n+413)β3(n2)20480(2n3)(2n5)(n2)β3(n3)
を満たす。

特殊値一覧

 以下
λ=(j10A(τ)+4)(j10A(τ)16)j10A(τ)λ1=(j10A(τ)16)j10A(τ)j10A(τ)+4λ2=j10A(τ)(j10A(τ)+4)j10A(τ)16λ3
とおく。(収束条件には重々注意されたい。)
τNj10A(τ)λ362526N/105142191014133621886511719762785238332561+N/525202559825341718222017153

Level 13

Level 13の関係式

j13A(τ)=j13B(τ)+2+13j13B(τ)j13B(τ)=(η(τ)η(13τ))2
 数列AnA0=1および六項間漸化式
(n+1)3An+1=(15n3+18n2+10n+2)An1(23n363n2+27n9)An1(11n3+24n2118n+70)An2+6(2n5)(3n29n+5)An34(2n5)(2n7)(n3)An4
によって定めると
qddqlogj13B(τ)=n=0An(j13A(τ)+4)n
が成り立つ。

Level 13の円周率公式

12πIm(τ)=j13A(τ)24j13A(τ)48j13A(τ)+4n=0Ann+12+λ(j13A(τ)+4)n+12
これは|j13A(τ)+4|>6+213=13.21において収束する。

 ちなみにこれが有理的になる例はτ=(1+31/13)/2の場合
31π=9750n=0(1)nAn750n+161124n(j13A=128)
しか知られていない。

Level 14

Level 14の関係式

j14A(τ)=(j14B(τ)+1j14B(τ))2j14B(τ)=([2][7][1][14])4bn=k=0n(2kk)2j=0k(kj)(n+j2k+2j)(2k+2jk+j)
とおき数列ana0=1および四項間漸化式
(n+1)3an+1=(2n+1)(11n2+11n+5)an1n(121n2+20)an1+98n(n1)(2n1)an2
によって定めると
[1][2][7][5]=n=0anj14A(τ)n+1=n=0bn(j14A(τ)4)n+1
が成り立つ。

Level 14の円周率公式

12πIm(τ)=(j14A4)(j14A218j14A+49)j14An=0ann+1+λ1j14A(τ)n+1=j14A(j14A218j14A+49)j14A4n=0ann+1+λ2(j14A(τ)4)n+1
この前者は|j14A(τ)|>9+42=14.65において収束する。

τNj14A(τ)λ1+121817N/1432584554911601+N/721917173340

Level 15

Level 15の関係式

j15A(τ)=(j15B(τ)+3j15B(τ))2j15B(τ)=([1][5][5][15])2
とおき数列ana0=1および四項間漸化式
(n+1)3an+1=(2n+1)(7n2+7n+3)an1n(29n2+4)an1+30n(n1)(2n1)an2
によって定めると
[1][3][5][15]=n=0anj15A(τ)n+1
が成り立つ。

Level 15の円周率公式

12πIm(τ)=(j15A12)(j15A22j15A+5)j15An=0ann+1+λj15A(τ)n+1
これは|j15A(τ)|>12において収束する。

τNj15A(τ)λ+12N/1521514430313131511261+N/15229752519863713511351853363232713250

Level 20

Level 20の関係式

j20A(τ)=(j20B(τ)+1j20B(τ))2j20B(τ)=([4][5][1][20])2
とおき数列ana0=1および四項間漸化式
(n+1)3an+1=4(2n+1)(n2+n+1)an116n(4n2+1)an1+8(2n1)3an2
によって定めると
([2][10])2=n=0anj20A(τ)n+1
が成り立つ。

Level 20の円周率公式

12πIm(τ)=(j20A4)(j20A212j20A+16)j20An=0ann+12+λj20A(τ)n+12
これは|j20A(τ)|>2(3+5)=10.47において収束する。

 ちなみにこれが有理的になる例はτ=3/20の場合
1π=116n=0an6n+116n
しか知られていない。

Level 21

Level 21の関係式

j21A(τ)=(j21B(τ)1j21B(τ))2j21B(τ)=([3][7][1][21])2
とおき数列ana0=1および四項間漸化式
(n+1)3an+1=(2n+1)(n2+n+1)an1+n(35n2+12)an1+6(3n1)(3n2)(2n1)an2
によって定めると
[1][3][7][21]=n=0anj21A(τ)n+43
が成り立つ。

Level 21の円周率公式

12πIm(τ)=(j21A+4)(j21A22j21A27)j21An=0ann+12+λj21A(τ)n+12

τNj21A(τ)1/πN/212838n=0an2n+18n1+N/21277177n=0(1)nan6n+17n232711083n=0(1)nan138n+3527n

Level 22

Level 22の関係式

j22A(τ)=(j22B(τ)+2j21B(τ))2j22B(τ)=([1][11][2][22])2
とおき数列ana0=1および五項間漸化式
(n+1)3an+1=2(2n+1)(2n2+2n+1)an1+4n3an12(2n1)(9n29n+4)an2+8(n1)(2n1)(2n3)an3
によって定めると
[1][2][11][22]=n=0anj22A(τ)n+32
が成り立つ。

Level 22の円周率公式

12πIm(τ)=(j22A8)(j22A34j22A+4)j22An=0ann+12+λj22A(τ)n+12

 これが有理的になる例はτ=(1+23/11)/2の場合
23π=192n=0(1)nan665n+15792n
しか知られていない。

Level 33

Level 33の関係式

j33A(τ)=j33B(τ)+1+3j33B(τ)j33B(τ)=[1][11][3][33]
とおき数列ana0=1および六項間漸化式
(n+1)3an+1=(2n+1)(n2+n+)an1+n(11n2+4)an1+4(2n1)(7n27n+5)an2+4(n1)(24n248n+29)an3+22(n1)(n2)(2n3)an4
によって定めると
[1][3][11][33]=n=0anj33A(τ)n+2
が成り立つ。

Level 33の円周率公式

12πIm(τ)=(j33A22j33A11)(j33A3+4j33A2+8j33A+4)j33A2n=0ann+12+λj33A(τ)n+12

 これが有理的になる例はτ=(1+19/33)/2の場合
11π=1121n=0(1)nan266n+8111n
しか知られていない。

Level 35

Level 35の関係式

j35A(τ)=j35B(τ)+11j35B(τ)j35B(τ)=[5][7][1][35]
とおき数列ana0=1および六項間漸化式
(n+1)3an+1=(2n+1)(5n2+5n+3)an1n(37n2+24)an1+2(2n1)(25n225n+24)an24(n1)(34n268n+43)an3+70(n1)(n2)(2n3)an4
によって定めると
[1][5][7][35]=n=0anj35A(τ)n+2
が成り立つ。

Level 35の円周率公式

12πIm(τ)=(j35A22j35A+5)(j35A38j35A2+16j35A28)j35A2n=0ann+12+λj35A(τ)n+12

τNj35A(τ)1/πN/3527104935n=0an4n+17n1+N/3521771497n=0(1)nan170n+1237n412812827n=0(1)nan2665n+100428n

その他

 ここには明示的な関係式がよくわからなかったものについて、その係数となる数列と具体例だけをまとめておく。
 なお各種数列s(n)の初期値はs(k)=0(k<0)によって定めるものとする。

Level 11

 数列ana0=1および四項間漸化式
(n+1)3an+1=2(2n+1)(5n2+5n+2)an18n(7n2+1)an1+22n(n1)(2n1)an2
によって定めると
12πIm(τ)=120x+56x244x3n=0an(An+B)xn
なる円周率公式が構成できる。例えば
1π=122n=0(1)nan221n+6744n+12
が成り立つ。

Level 17

 数列AnA0=2および八項間漸化式
(n+1)3An+1=(19n3+24n2+14n+3)An1+3(5n5+27n28n+4)An1(101n3300n2+213n52)An2+3(55n3267n2+491n305)An33(n3)(101n2297n+253)An4+9(n4)(n3)(37n66)An5127(n5)(n4)(n3)An6
によって定めると
11π=n=0(1)nAn748n+30721n+2
が成り立つ。

Level 25

x2(1+xx2)3(14x16x2)z+3x(1+xx2)3(16x32x2)z+(1+xx2)(112x142x2224x3+77x4+192x5108x6)z(1+3x+6x22x3)(1+17x+9x2+3x3+6x4)z=0
によって定まる関数
z=n=0anxn
について、anはある九項間漸化式を満たし
12πIm(τ)=n=0an(An+B)xn
なる円周率公式が構成できる。

おわりに

 どうやら今年の初頭に公開されたプレプリント

S. Cooper, Apéry-like sequences defined by four-term recurrence relations, arXiv, 2023

のTable 3 (p.18)にて現在解明されている
Z=n=0T(n)Xn,12πIm(τ)=Bn=0T(n)(n+λ)Xn
なるZ,X,B,T(n)についての詳細と対応する文献がいくつかまとめられているようです。
 流石に気力が尽きてしまったのでこの記事ではその全てを追うことはしませんが、興味があればそちらを参照されてはいかがでしょうか。

総括

 その5ではこの公式集をまとめているうちに何か見出せるかもしれないと思っていましたが、確かに多少の発見はあったとは言えど、むしろ何もわからないということがわかるばかりでした。前回までの記事で紹介してきたChan, Cooperの手法はかなり特別な例であっただけで、より一般のラマヌジャン・佐藤級数についてはあんな簡便な法則はなく、その構成には中々煩雑な議論が必要なようです。
 このシリーズの初回でも「観賞用の側面が強い」と評していたように私は一般のラマヌジャン・佐藤級数に対する関心はあまり高くなく、この記事で見てきたように観賞用としての側面も弱くなってしまうとなるとかなりモチベーションが下がってしまいました。なのでChan, Cooperの論文を通じてかなり面白い議論も嗜めたことですし、その蛇足にならぬようこのシリーズは今回の記事で終わりにしたいと思います。
 このシリーズが誰かの参考になっていれば幸いです。では。

参考文献

[1]
S. Cooper, Sporadic sequences, modular forms and new series for 1/π, Ramanujan Journal, 2012, 163-183
[2]
S. Cooper, Level 10 analogues of Ramanujan’s series for 1/π, J. Ramanujan Math. Soc., 2012, 59-76
[3]
S. Cooper, D. Ye, The Rogers–Ramanujan continued fraction and its level 13 analogue, Journal of Approximation Theory, 2015, 99-127
[4]
S. Cooper, D. Ye, Level 14 and 15 analogues of Ramanujan’s elliptic functions to alternative bases, Transactions of the American Mathematical Society, 2015, 7883-7910
[5]
T. Huber, D. Schultz, D. Ye, Level 17 Ramanujan-Sato series, Ramanujan Journal, 2020, 303-322
[6]
T. Huber, D. Schultz, D. Ye, Series for 1/π of signature 20, arXiv, 2017
[7]
T. Anusha, E.N. Bhuvan, S. Cooper, K.R. Vasuki, Elliptic integrals and Ramanujan-type series for 1/π associated with Γ_0(N), where N is a product of two small primes, Journal of Mathematical Analysis and Applications, 2019, 1551-1570
[8]
S. Cooper, Apéry-like sequences defined by four-term recurrence relations, arXiv, 2023
投稿日:20231227
更新日:20231227
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子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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