※本記事は Witten指数とMorse理論 1/2 の続きです。
前回の記事では、超対称量子力学及びWitten模型を導入し、ゼロエネルギー状態と超対称性の自発的破れ、さらにWitten指数等に関して述べました。本記事ではWitten指数とMorse理論の関係に関して述べます。
Morse理論は多様体の位相的性質をその多様体上で定義される微分可能な関数によって解析する理論です。Euler標数とBetti数に関するMorse理論から導かれる定理、また「Morseの不等式」と呼ばれる不等式に関し、超対称量子力学における解釈が存在します。そしてこれはWitten指数と関係します。この解釈は直感的であり、量子力学の初歩的な知識があればある程度理解できます。ここでは厳密な証明の解説ではなく、この「解釈・直感」の説明を目指すことをご承知ください。
本記事はRefs.Eguchi1998Eguchi1991Witten1982-1Witten1982-2に基づきます(江口先生のpdfの劣化コピーになってしまった...)。
まず、超対称量子力学に関連するMorse理論・Hodge理論のいくつかの定理を証明なしに記します(証明追ってない)。Refs.Nakahara2000Matsumoto1997からの引用ですので、詳しくはこれらの文献をご参照ください。申し訳ありませんが、homology・de Rahm cohomologyに関しては既知とさせてもらいます(例えばRef.Nakahara2000をご参照ください)。
次章 からが本題です。
が成立することです。
のことです。
臨界点
臨界点、退化・非退化は、局所座標の取り方に依存しません。以下、臨界点は非退化であるような状況を考えます。
点
ここで
ここで
この
で定義されます。
Euler-Poincareの定理は以下です:
がなりたつ。
Morse関数とはすべての臨界点が非退化な関数のことです。このときMorseの不等式とは以下の定理です。
多様体
よって両者の次元は同じであり、
多様体
を考えます。Laplacian
で定義されます。
を満たすとき、
コンパクトで向き付け可能なRiemann多様体
また次の事実が成立します。
が成立する。Euler標数は
で与えられる。(※定理2も参照のこと)
関係する定理の導入は以上です。
前回の記事 で示したように、Witten指数は超対称変換の生成子のゼロモードにより定まります。ゼロモードは超ポテンシャルの微分がゼロとなる点(=臨界点)の付近に局在します。そのモードがboonicかfermionicかは、臨界点における超ポテンシャルの2階微分の係数の正負で定まります。ただしこれらは厳密なゼロエネルギーを持つモードではないことがあります。実際には各臨界点の「近似的ゼロモード」は他の臨界点に漏れ出し、トンネル効果によりエネルギーが持ち上がることで厳密なゼロモードではなくなる場合があります。しかしながら、近似的ゼロモードにより計算したWitten指数は、厳密なゼロモードにより計算したWitten指数と一致します。これはWitten指数が超ポテンシャルの微分の漸近的な振る舞いを固定した変形に対して不変であり、その意味でトポロジカルな不変量であることによります。
以下この事実を概観します。
Witten模型のWitten指数
を満たす解を求めればよいです。
とすれば(前回の記事では
となり、解は
のように簡単に求まります。
ただし解はnormalizableでなければならないので、
解のnormalizabilityを調べます。Witten模型のHamiltonianは
ですが、ここで
となります。よって
一方、例えば
このとき局所化した波動関数はbosonとfermionがひとつずつ存在するので
それにも関わらず、Witten指数は、
図2の
無限遠での
この意味でWitten指数はトポロジカルな不変量です。
曲がった空間における超対称量子力学は、理論が定義される多様体におけるde Rham cohomologyと直接の対応を持ちます。この対応から、超対称変換の生成子のゼロモードは、この理論上に定義される調和形式と関係します。これらの事実から、Morseの不等式や前記定理5を、超対称量子力学とWitten指数を通して理解することができます。
以下この事実を概観します。
今までbosonとfermionの空間は、上成分・下成分により表示していました。ここからは、これをfermionの生成・消滅演算子
このときHamiltonianは
と書けます。ここで
であり、
Morseの補題より、臨界点付近で適当な座標を採ると
のように書けます。よって臨界点付近で
です。この時Hamiltonianは対角化されていて
です。上で見たように、この臨界点には
この系は微分形式と対応づけることができます。以下これを見ていきます。
前に行ったように、
のように定義しなおします。
fermionが
となります。ここで
となります。ここで
これらのモードのすべてがゼロエネルギーというわけではないですが、bosonicな近似的なゼロモードを引いておけば、前に述べたように正しくWitten指数を与えます。
さて、超対称量子力学と調和形式との対応を見ることにします。簡単のため、
を考えます。これらの
となります。
となります。ここで
ここで
これは
となり、これはLaplacianになります。実際のHamiltonianは
が成立します(fermion数がevenの場合はbosonの数に対応することに注意)。ゆえに定理2よりWitten指数はEuler標数
が成立します。これは弱いMorse不等式と呼ばれるものです。
このように、超対称量子力学はEuler標数、Betti数、Morse指数に直感的な解釈を与えます。
以下今回の記事のまとめです:
ゼロモードの波動関数は超ポテンシャルの微分がゼロになる点(=臨界点)に局在する。モードがbosonicかfermionicかは、臨界点での波動関数の傾きの正負に依存する。高次元の多様体
臨界点に局在するモードが必ずしも厳密なゼロモードとは限らない。トンネル効果で他の臨界点に局在するモードと混ざることでゼロエネルギーから変化するため、各臨界点に局在するモードは「近似的ゼロモード」である。
超対称量子力学は微分形式と対応する。厳密な真のゼロモードは調和形式であり、
である。これより、Euler-Poincareの定理を用いると、多様体
が成立する。
各臨界点におけるHessianの指数(=Morse指数)は近似的ゼロモードのfermion数に対応する。多様体
が成立する。これはMorseの不等式である。
Witten指数はトポロジカルな不変量であり、遠方の
である。後者の等式はMorseの基本定理として知られる。
最近、量子アノマリー・指数定理に関わる記事をいくつか書きましたが(例えばinfinite_hotelDirac_zeromode)、本記事の話もLaplacianのゼロモードに関する指数(Witten指数)に関する定理であることを付記しておきます。
たわいない余談なのですが、最近若者言葉(ネットスラング?)で「〜からしか摂取できない栄養」なる言い回しがあります。「〜」の部分には自身の好きな事柄を入れます。自身の好きな事が持つ何らかの特徴が唯一無二であり、他では得られない面白さ・深遠さをもたらす事を表す言葉です。この言葉を使うなら、超対称量子力学とMorse理論の関係は、「物理学からしか摂取できない栄養」という言い回しがしっくりくるように個人的に思います。
以上です。おしまい。