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第5回匿式図形問題エスパー杯 (T-GUESS Cup 5) 問題A~Eの解説

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 2025年5月3日~5月11日にかけて『 第5回匿式図形問題エスパー杯 (T-GUESS Cup 5: Tock's Geometry "Using Extra-Sensory Solutions" Cup The 5th)』を開催しました。ご参加くださった皆様、ありがとうございました。
 本記事では、当該コンテストで出題した問題A問題B問題C問題D問題Eの紹介および解説を行います。昨年度同様、最終問題である問題Fは別記事にて解説することといたします。


T-GUESS Cup 2の解説記事: 問題A~C 問題D
T-GUESS Cup 3の解説動画: 問題A~H
T-GUESS Cup 4の解説記事: 問題A~E 問題F


問題紹介

問題A、writer: 翔子さん 様)

 対角線が直交する四角形$ABCD$が円に内接しています。$AB=3,$$CD=4$のとき、$AB,\overset{\Huge \frown}{BC},$$CD,\overset{\Huge \frown}{DA}$で囲まれる領域の面積を求めてください。ただし、円周率は$\pi$とします。

問題B

 1辺の長さが$6$である正方形$PQRS$において、$QP,PS$の延長上にそれぞれ点$A,B$を、$QA=QB$となるようにとります。$\angle PAS$$=\angle ABS$が成立するとき、$\triangle ABS$の面積を求めてください。

問題C、writer: nmoon 様)

 正方形$ABCD$の内部に点$P$をとり、直線$BD$上に2点$E,F$をとると、四角形$ABEP,APDF$はいずれも円に内接しました。$\angle EAF={60}^{\circ},$$BP=5,$$DP=4$のとき、正方形の1辺の長さを求めてください。

問題D

 3つの円$\omega_S,\omega_M,\omega_L$があり、$\omega_S$$\omega_L$は2点$A,B$で、$\omega_M$$\omega_L$は2点$C,D$で、$\omega_S$$\omega_M$は2点$E,F$で、それぞれ交わっています。いま、$AC$$BD$は直交し、その交点は点$E$に一致しました。直線$AC$に関し点$B$がある側の領域を$\rho$とし、$\overline{\omega_S}\cap\overline{\omega_M}\cap\omega_L\cap\overline{\rho},$$\omega_S\cap\omega_M\cap\rho$の面積がそれぞれ$25,1$であるとき、$\overline{\omega_S}\cap\overline{\omega_M}\cap\omega_L\cap\overline{\rho}$の面積を求めてください。

問題E

 正五角形$ABCDE$の外部に$\angle DFE={48}^{\circ},$$\angle AEF={144}^{\circ}$となる点$F$をとります。線分$BC$上に$BK=KL=LC$となる点$K,L$ $(\neq B,C)$を、線分$DF$上に$DM=MN=NF$となる点$M,N$ $(\neq D,F)$をそれぞれとり、$DE$$KM$の交点を$G$としたとき、$\angle EGK$の大きさを求めてください。


解答発表

問題A $\dfrac{25}{8}\pi+6$
問題B $36$
問題C $\sqrt{\dfrac{61}{2}}$
問題D $76$
問題E ${96}^{\circ}$


軽い解説

問題A

 線分$AA'$が円の直径となるような点$A'$をとると、円周角の定理(もしくはタレスの定理)より$\angle ABA'$$=\angle ACA'$$={90}^{\circ}$です。したがって$A'C /\!/ BD$であり、$\overset{\Huge \frown}{A'B}$$\overset{\Huge \frown}{DA}$の長さは等しくなります。ある円における弧の長さが等しければ弦の長さも等しいため、$A'B=4$となり、三平方の定理を用いて$AA'=5$が判ります。
 また、$A'B,\overset{\Huge \frown}{A'B}$で囲まれた領域を$DA,\overset{\Huge \frown}{DA}$で囲まれた領域に移動させることができるので、求める面積はもとの円の半分に$\triangle ABA'$をくっつけた領域のそれです。半円の面積は$\dfrac{1}{2}\times \left(\dfrac{5}{2}\right)^2\pi$$=\dfrac{25}{8}\pi$$\triangle ABA'$の面積は$\dfrac{3\times 4}{2}$$=6$と計算でき、結局本問の答えは${\color{red} \dfrac{25}{8}\pi+6}$となります。


問題B

 $AP=6x$とおきます。$\triangle APS$$\triangle BPA$に注目すれば、2つの角がそれぞれ等しいのでこれらの三角形は相似です。ゆえに$\dfrac{SP}{AP}=\dfrac{AP}{BP}$となり、$SP=6$より$BP=6x^2$が得られます。
 いま、$\triangle PQB$で三平方の定理を用いると、
$$6^2 + (6x^2)^2 = (6x+6)^2 \,\Longrightarrow\, x^3-x=2$$となり、$x=\sqrt[3]{1+\frac{\sqrt{78}}{9}}+\sqrt[3]{1-\frac{\sqrt{78}}{9}}$と求められ……なくもありませんが、ここでは$x$の厳密な値を求めなくてよいです。なぜならば、
$$\triangle ABS=\dfrac{AP\times BS}{2}=\dfrac{6x\times (6x^2-6)}{2}=18\left(x^3-x\right)$$と計算できて、$x^3-x$の値さえ分かれば答えを出せるからです。つまり、本問の答えは${\color{red} 36}$となります。


別解(天真 氏より)

 直線$QR$に関し点$A,P,S$と対称な点をそれぞれ$A',P',S'$とすると、点$A'$は四分円を延長した円周上に存在します。円周角の定理から$\angle ABA'={90}^{\circ}$が判るため、$\triangle APS,$$\triangle BPA,$$\triangle A'P'S',$$\triangle A'PB$は、2つの角がそれぞれ等しいのですべて相似といえます(どの2つの角を用いるかは三角形の組により異なります)。よって$\angle PA'B$$=\angle P'A'S'$であり、3点$A',S',B$は同一直線上に存在するのですね。$\triangle APS \sim \triangle A'SB$より$\dfrac{AP}{PS}=\dfrac{A'S}{SB}$、すなわち$AP\times SB$$=PS\times A'S$$=6\times 12$$=72$と導けて、特に求めるべき面積は${\color{red} 36}$となります。エレガント。


問題C

 問題A問題Bよりも条件が多く戸惑いますが、「$BD$の長さを求められそう」という直感が大事です。
 $\angle EAP=x$とし、円$ABEP$に注目すれば$\angle EBP=x$となります。このとき$\angle FAP={60}^{\circ}-x$なので、円$APDF$に注目して$\angle EDP={60}^{\circ}-x$も判ります。ゆえに、$\triangle BPD$の内角を考え、$\angle BPD={120}^{\circ}$が得られます。あとは単なる余弦定理で済み、$BD=\sqrt{61}$、すなわち本問の答えは${\color{red} \sqrt{\dfrac{61}{2}}}$です。より簡単では?


問題D

 $\overset{\Huge \frown}{JK}_{X}$で、円$\omega_X$における劣弧$JK$を表すこととします(独自表記です)。$\overset{\Huge \frown}{AE}_{S},$$\overset{\Huge \frown}{ED}_{M},$$\overset{\Huge \frown}{DA}_{L}$に対する円周角を考えると、これらはすべて${30}^{\circ}$です。したがって、これらはいずれも円周の$\dfrac{1}{6}$に相当し、$AE,\overset{\Huge \frown}{AE}_{S}$で囲まれる領域、$ED,\overset{\Huge \frown}{ED}_{M}$で囲まれる領域、$DA,\overset{\Huge \frown}{DA}_{L}$で囲まれる領域(それぞれ$\alpha_S,\alpha_M,\alpha_L$とします)は相似であるといえます。相似比は$AE:ED:DA$に等しく、三平方の定理より$AE^2+ED^2=DA^2$ですから、面積について$\alpha_S+\alpha_M=\alpha_L$が成立します(相似比が$x:y$のとき、面積比は$x^2:y^2$です)。$\overline{\omega_S}\cap\overline{\omega_M}\cap\omega_L\cap\overline{\rho}$から$\alpha_L$を除き、$\alpha_S$$\alpha_M$をくっつければ$\triangle AED$になるため、$\triangle AED=25$が判明します。
 $\overline{\omega_S}\cap\overline{\omega_M}\cap\omega_L\cap\overline{\rho}$の面積(求める面積)を$s$とおき、$BE,\overset{\Huge \frown}{BE}_{S}$で囲まれる領域、$EC,\overset{\Huge \frown}{EC}_{M}$で囲まれる領域、$CB,\overset{\Huge \frown}{CB}_{L}$で囲まれる領域をそれぞれ$\beta_S,\beta_M,\beta_L$とします。前段落の議論と同様にして$\beta_S+\beta_M=\beta_L$が判り、$\triangle CEB=s-1$が従いますね(行間が広くないか?)。$\triangle AED \sim \triangle CEB$に気づくと、その相似比は明らかに$1:\sqrt{3}$ですから、$\triangle CEB=75$、ひいては$s={\color{red} 76}$が確定します。一目瞭然ですが、 ヒポクラテスの三日月 を応用して作問しました。


問題E

 半直線$CD$上の無限遠点(限りなく遠くにある点)を$P$とします。このとき、$BE /\!/ CD$より、2直線$BE,BP$は重なるとみなせるのです。よって、3直線$BD,CD,EB$$\triangle PBD$の3辺をそれぞれ含むと言えます。
 いま、$\triangle PBD$ フランク・モーリーの定理 を用いてみましょう。$\angle PDB={144}^{\circ}$なので、この角は${48}^{\circ}$ずつ分ければよいです。また、$\angle PBD={36}^{\circ}$なので、この角は${12}^{\circ}$ずつ分ければよいです。$\angle BPD$はどうしましょうか。実は、三角形のある頂点を無限遠に飛ばしたとき、その頂点から引いた内角の三等分線は、その頂点が属する平行な2辺をちょうど三等分する平行線になるのです(すごく細長い三角形を考えるとイメージが掴めるかも)。
 今回の場合、点$P$は辺$BP,DP$に属するため、直線$KN,LM$がまさにその三等分線なのです。ということで、モーリーの三角形$MST$を拵えることができます(ただし、$S$$\angle PBS={12}^{\circ}$をみたす線分$KN$上の点、$T$$\angle TBD={12}^{\circ},$$\angle TDB={48}^{\circ}$をみたす$\angle BDP$内の点)。
 ここまで思いつけたらあと一息です。$BS$$DM$の交点を$U$とすれば、$\triangle UBD$の内心が$T$に一致し、$\angle MUT$$=\angle SUT$$={30}^{\circ}$、すなわち$\triangle MSU$も正三角形になります(ヒント:中心$M$、半径$MS$の円で$\overset{\Huge \frown}{ST}$に対する円周角を考えます)。よって$BS /\!/ TM$であり、また$\angle CBS={60}^{\circ}$から$BC /\!/ SM$も従います。ゆえに四角形$KLMS$は平行四辺形と判り、必然的に四角形$BKMS$も平行四辺形です(1組の対辺が平行かつ等長)。このことは$BS /\!/ KM$を導き、直ちに$\angle EGK={\color{red} {96}^{\circ}}$と結論づけられます。三角関数の計算を頑張っても正答できますが、こう解いたほうが明らかにスタイリッシュですね。


次回予告

 ここまでで5問の解説が済みました。あなたのお気に入りの問題はどれですか? えっ、ない? そう仰らずに……。
  前回のA~E と比べると、今回は結構大人しいですね。あとは問題Fを残すのみですが、はたしてこちらは大人しく解かれてくれるでしょうか。

問題F

 九角形$ABCDEFGHI$$AB=BC=CD,$$DE=FG,$$GH=HI=IA$および$AE /\!/ CD,$$AF /\!/ HG$をみたします。$\angle ABC={162}^{\circ},$$\angle BCD={150}^{\circ},$$\angle CDE={96}^{\circ},$$\angle FGH={108}^{\circ},$$\angle GHI={156}^{\circ},$$\angle HIA={150}^{\circ},$$\angle EAF={60}^{\circ}$のとき、$\angle AEF$の大きさを求めてください。

 おや、今回はレムニスケートや三角形の五心で威圧する感じではなさそうです。とはいえ、よく分からない等辺や角度の情報が多く、GeoGebra等で作図してみても使えそうな性質がほぼ出てきません。毎度お馴染み「どうやってこの図形を見つけてきたんだ……?」タイムが訪れますね。お答えしましょう。根性です。$O\left(n^9\right)$の超低品質プログラムを組み、ノートパソコン様に十数時間頑張ってもらいました。本当にありがとうマイラップトップ。
 次回、この問題Fを解き、さらに若干の一般化を与えます。昨年ほどの暴走は控えるつもりですが、何卒ご期待くださいませ。


 ご感想・ご指摘・巧妙な解法・コンテスト広報活動のコツなどがございましたら、是非ともコメントに残していってください。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


投稿日:511
更新日:511
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匿(Tock)
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主に初等幾何・レムニスケート。時々偏差値・多重根号。 「たとえ作曲家が忘れ去られた日であっても、彼の旋律が街並みを縫って美しく流れていますように。」

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