この記事では 前回の記事 に引き続き離散付値環の理論について勉強していきます。
離散付値体$K$とその拡大体$L$において、$K$の加法付値$v$に対しある$L$の加法付値$w$が存在して$w|_K=v$を満たすとき、$w$は$v$の延長であるという。
このとき$v,w$が定める値群の指数と剰余体の拡大次数
$$e=|w(L^\times):v(K^\times)|,\quad f=[\la:\k]$$
をそれぞれ$w$の$v$に対する分岐指数、相対次数と言う。
$A,B$をそれぞれ$v,w$に関する付値環、$\p=\pi A,\q=\pi' B$をその素イデアルとすると
$$v(K^\times)=v(\pi)\Z,\quad w(L^\times)=w(\pi')\Z$$
が成り立つことから$e=w(\pi)/v(\pi')$、特に
$$\p B=\{x\in B\mid w(x)\geq ew(\pi')\}=\q^e$$
が成り立つ。このように付値の分岐指数、相対次数は素イデアルの分岐指数、相対次数と等価である。
$A$をデデキント環、$K$をその分数体、$L$を$K$の有限次拡大体、$B$を$L$における$A$の整閉包とする。
このような状況設定を$AKLB\,setup$あるいは単に$AKLB$と呼ぶことにする。この記事の命題17として紹介したように$AKLB$において$B$はデデキント環となることに注意する。
逆に$AKLB$において$A$の素イデアル$\p$が
$$\p B=\q_1^{e_1}\q_2^{e_2}\cdots\q_r^{e_r}$$
と素イデアル分解されるとき、素イデアル$\p,\q$が定める$K,L$の正規付値を$v_\p=\ord_\p,v_\q=\ord_\q$とおくと
$$w_i(x)=\frac1{e_i}v_{\q_i}(x)$$
によって定まる$L$の離散付値$w_i$は$v_\p$の延長であり、その分岐指数・相対次数は$\q_i$の分岐指数・相対次数と等しくなる。
このように一般に付値の延長は複数個存在するが、
前回の記事
の命題4として示したように$A$が完備離散付値環である場合には
$$w(x)=\frac1{[L:K]}v_\p(N_{L/K}(x))$$
によって一意的に定まり、また$B$はこの付値に関する完備離散付値環となるのであった。
特にこのとき以下が成り立つ。
$w$の分岐指数、惰性次数を$e,f$とおくと
$$[L:K]=ef$$
が成り立つ。
なお一般の$AKLB$における
基本等式
は$L/K$が分離的である場合にしか示せないが、上の命題は$A$が完備離散付値環であれば$L/K$の分離性を仮定する必要がないことを示唆している。
またこのことから
デデキント・クンマーの定理
における分離性の仮定も$A$の完備性に置き換えられることに注意する。
$B/\p B$の$A/\p$-線形空間としての基底の代表元を$\o_1,\o_2,\ldots,\o_m\in B$とおくと、これらの$K$-線型結合が$L$を生成すること、特に
$$B=A\o_1+A\o_2+\cdots+A\o_m$$
が成り立つこと示す。もしこれが成り立てば
この記事
の補題5,6と同様にして
\begin{align}
[L:K]&=\dim_{A/\p}(B/\p B)\\
&=\dim_{A/\p}(B/\q^{e_\q})=e_\q f_\q
\end{align}
が得られる。
いま
$$M=A\o_1+A\o_2+\cdots+A\o_m$$
とおくと$B=M+\p B$より
$$B=M+\p(M+\p B)=M+\p^2B$$
のようにして任意の非負整数$\nu$に対し
$$B=M+\p^\nu B$$
が成り立つことがわかる。
したがって$M$は$B$において稠密であり、また$A$の完備性より$M$も完備なので$B=M$を得る。
$B$の正規付値$v_\q=\ord_\q$について
$$v_q(x)=\frac1fv_\p(N_{L/K}(x))$$
が成り立つ。
付値の延長の一意性から
$$\frac1nv_\p(N_{L/K}(x))=\frac1ev_\q(x)$$
が成り立つことと$n=ef$からわかる。
以下$AKLB$において$A$を完備離散付値環とし
とする。
また$\k$の標数$p$について
一般に$A$がHensel体である場合や$L/K$が無限次代数拡大である場合にもその分岐性を議論することができるが、この記事では完備離散付値環の有限次拡大の場合のみを考える。
剰余体の拡大$\la/\k$が分離的であればある$\a\in B$が存在して$B=A[\a]$が成り立つ。
命題1の証明から$B/\p^e B$の$A/\p$-基底の代表元は$A$上で$B$を生成していたこと、および$B$の素元$\pi$と$\la$の完全代表系$\G$に対し写像
\begin{align}
\G^e&\to B/\p B=B/\pi^eB\\
(a_0,a_1,\ldots,a_{e-1})&\mapsto a_0+a_1\pi+\cdots+a_{e-1}\pi^{e-1}
\end{align}
は全射となることに注意すると、$A[\a]$が$B$の素元を含み、また自然な準同型$A[\a]\to\la$が全射となるような$\a$が存在することを示せばよい。
いま$\la/\k$は有限次分離拡大なので$\la=\k(\ol\a)$なる$\ol\a\in\la$が存在する。このとき$\ol\a$の任意の代表元$\a\in B$に対し自然な準同型$A[\a]\to\la$は全射となる。
また$\ol\a$の最小多項式$\ol f\in\k[x]$の持ち上げ$f\in A[x]$に対し$\pi'=f(\a)$が素元となるような代表元$\a$の取り方が存在する。実際任意の代表元$\a$に対し$\ol f$の最小性より$f'(\a)\not\in\q$が成り立つこと、および
$$f(x)=f(\a)+f'(\a)(x-\a)+g(x)(x-\a)^2$$
と展開できることに注意すると$f(\a)\not\in\q^2$または$f(\a+\pi)\not\in\q^2$が成り立つ、つまり$\a$または$\a+\pi$が所望の代表元となることがわかる。
以上より主張を得る。
$L/K$が不分岐であるとき、$A$の素元$\pi$は再び$B$の素元となり、また$A[\a]\to\la=\k(\ol\a)$は全射であることから$B=A[\a]$を得る。
$L/K$が完全分岐であるとき、$A\to\la=\k$は全射なのでこれに$B$の素元を添加すれば$B=A[\pi]$となることがわかる。
以下の二条件は同値である。
またこのとき$B=A[\a]$が成り立つ。
命題2系より明らか。
$\ol f$は既約である。実際そうでないとするとHenselの補題から$f\in A[x]$の非自明な因数分解が得られることになり矛盾。
また$L=K(\a)$から$\la=\k(\ol\a)$が成り立つので
$$[\la:\k]=[\k(\ol\a):\k]=\deg g=[K(\a):K]=[L:K]$$
つまり$L/K$は不分岐であり、また命題2系より$B=A[\a]$を得る。
$\k$が$q$元体$\F_q$であるとき、以下は同値である。
ただし$\z_m$は$1$の原始$m$乗根とした。またこのとき
$$q^{n'}\equiv1\pmod m$$
なる正整数$n'$であって最小のものを$n$とおくと
$$n=[L:K],\quad B=A[\z_{q^n-1}],\quad\Gal(L/K)\simeq\Z/n\Z$$
が成り立つ。
$n=[L:K]$とおくと不分岐性より$n=[\la:\k]$つまり$\la=\F_{q^n}$が成り立つ。
いま$\F_{q^n}^\times$は位数$q^n-1$の巡回群となることに注意すると多項式$f(x)=x^{q^n-1}-1$は$\la$において異なる一次式の積に分解され、Henselの補題より$f(x)$は$L$においても一次式の積に分解される。特に$L$は$1$の原始$q^n-1$乗根$\z_{q^n-1}$を持つことがわかる。また$\la$における$\z_{q^n-1}$の像は$\la^\times$を生成するので命題2系より$B=A[\z_{q^n-1}]$、つまり$L=K(\z_{q^n-1})$を得る。
$\z_m$を根に持つ多項式$f(x)=x^m-1$について$x\not\in\p$であれば
$$f'(x)=mx^{m-1}\not\equiv0\pmod\p$$
が成り立つので$f$および$\z_m$の最小多項式$g$は$\k$において分離的であり、上の命題より主張を得る。
$\la=\k(\ol{\z_m})$は$1$の原始$m$乗根を持つ$\F_q$の拡大体であって最小のものであり、また$\F_{q^n}^\times$は位数$q^{n'}-1$の巡回群であることから
$$\ol{\z_m}\in\F_{q^{n'}}\iff m\mid(q^{n'}-1)$$
が成り立つことに注意するとこのような$n'$であって最小のもの$n$に対し
$$n=[\la:\k]=[L:K]$$
が成り立つ。
また
ヒルベルトの分岐理論
などから$\Gal(L/K)$はフロベニウス元
$$\s_a:\z_{q^n-1}\mapsto\z_{q^n-1}^q$$
によって生成される巡回群となることがわかる。
$A$上の多項式
$$f(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots a_1x+a_0$$
がアイゼンシュタイン多項式であるとは、その係数が
$$a_n\not\in\p,\quad a_k\in\p\quad(0\leq k< n),\quad a_0\not\in\p^2$$
を満たすことを言う。
アイゼンシュタイン多項式は$K$上既約である。
アイゼンシュタイン多項式$f=\sum^n_{k=0}a_kx^k$が$A$上の多項式$g=\sum^n_{k=0}b_kx^k,\ h=\sum^n_{k=0}c_kx^k$の積に分解されたとすると
$$a_0=b_0c_0\in\p\setminus\p^2$$
より$b_0\in\p$かつ$c_0\not\in\p$としてよく、このとき
$$a_k=b_kc_0+\sum^{k-1}_{j=0}b_jc_{k-j}\in\p$$
より$b_1,b_2,\ldots,b_{n-1}\in\p$となり、また
$$a_n=b_nc_0+\sum^{n-1}_{j=0}b_jc_{n-j}\not\in\p$$
であるためには$b_n\not\in\p$、特に$\deg g=n$でなければならないことがわかる。
よって$f$は$A$上既約であり、したがって$K$上既約となる(cf. ガウスの補題)。
$B$の素元の$A$上の最小多項式はアイゼンシュタイン多項式である。
また$L$の代数閉包$\ol K$における付値の延長を$v$とおくと
前回の記事
の補題5より$\pi$の共役元$\pi'$に対し$v(\pi')=v(\pi)>0$が成り立つ。特に$\pi$の最小多項式$f$を
$$f(x)=\prod^n_{i=1}(x-\pi_i)=\sum^n_{k=0}a_kx^k$$
とおくと
$$a_n=1,\quad v(a_k)>0\quad(0\leq k< n),\quad v(a_0)=v(\pi^n)$$
が成り立つので$f$はアイゼンシュタイン多項式となる。
以下の二条件は同値である。
命題2系より$B=A[\pi]$、$L=K(\pi)$が成り立ち、また上の補題から$\pi$は$A$上のアイゼンシュタイン多項式の根となる。
$$w(\pi)=\frac1{[L:K]}v(N_{L/K}(\pi))=\frac1{[L:K]}v(f(0))$$
および$f$のアイゼンシュタイン性から$L/K$は完全分岐であることがわかる。
$n$を$\k$の標数で割り切れない正整数とする。
このとき以下の二条件は同値である。
$A,B$の任意の素元$\pi_A,\pi_B$に対し$\pi_AB=\pi_B^nB$が成り立つので、ある$B$の単元$u_B$が存在して
$$\pi_A=u_B\pi_B^n$$
と表せる。また剰余体の拡大は起こらないことからある$A$の単元$u_A$が存在して
$$u_A\equiv u_B\pmod{\pi_B}$$
が成り立つので$u_A^{-1}\pi_A,\ u_A^{-1}u_B$を再び$\pi_A,\ u_B$とおくことで
$$u_B\equiv1\pmod{\pi_B}$$
としてよい。
このとき$g(x)=x^n-u_B$とおくと$p\nmid n$より
$$g(1)\equiv 1^n-1=0,\quad g'(1)=n\not\equiv0\pmod{\pi_B}$$
が成り立つのでHenselの補題より$g(u)=0$を満たすような$u\in B$が存在する、つまり
$$u\pi_B=\pi_A^{1/n}\in L$$
となるので$L=K(\pi_A^{1/n})$を得る。
$\pi_B=\pi_A^{1/n}$を根に持つ多項式$f(x)=x^n-\pi_A$はアイゼンシュタインであるので上の命題より$L/K$は完全分岐であり、また$f$の既約性より$n=[L:K]$なのでこれは順分岐である。
有限次拡大$L/K,M/K$において、$L/K$が不分岐であれば$LM/M$も不分岐となる。
命題2系より$\la=\k(\ol\a)$なる$\a$に対し$L=K(\a)$が成り立つのであった。このとき$M,LM$の剰余体を$\mu,\mu'$とおくと、$\a$の$M$上の最小多項式$f$は$\mu[x]$において分離的なので既約であり(可約であるとするとHenselの補題により$f$も可約となり矛盾)、したがって
$$[\mu':\mu]\leq[LM:M]=[M(\a):M]=[\mu(\ol\a):\mu]\leq[\mu':\mu]$$
つまり$[LM:M]=[\mu':\mu]$を得る。また$\mu'/\mu=\mu(\ol\a)/\mu$は分離的であったので$LM/M$は不分岐となる。
不分岐拡大$L/K,M/K$の合成$LM/K$は再び不分岐となる。
$LM/M,M/K$が不分岐であることと不分岐拡大の推移性より主張を得る。
有限次拡大$L/K$において全ての部分不分岐拡大の合成として得られる体$T$を$L/K$の最大不分岐拡大体と言う。
$L/K$の最大不分岐拡大体$T$の剰余体は$\la/\k$の分離閉包$\la_s$に等しい。
$\k$上の分離元$\ol\a\in\la$に対しその最小多項式$\ol f\in\k[x]$の持ち上げ$f\in A[x]$を取ると$f$は$A$上既約であり(そうでなければ$\ol f$が可約となって矛盾)、またHenselの補題から
$$\a\equiv\ol\a\pmod\q$$
を満たすような根$\a\in L$を持ち、このとき$[K(\a):K]=\deg f=[\k(\ol\a):\k]$が成り立つので$K(\a)/K$は不分岐拡大、つまり$K(\a)\subseteq T$が成り立つ。よって$\ol\a$は$T$の剰余体に含まれることがわかる。
なお最大不分岐拡大体$T$について
$$L/T\ \mbox{が完全分岐}\iff\la/\k\ \mbox{が分離的}$$
が成り立つことに注意する。
有限次拡大$L/K,M/K$において、$L/K$が順分岐であれば$LM/M$も順分岐となる。
$L/K$の最大不分岐拡大体を$T$とおくと$L/T$は完全順分岐となるので命題6より$L=T(\pi^{1/n})$と表せる。また$LM/M$の最大不分岐拡大体を$T'$とおくと$LM=LT'=T'(\pi^{1/n})$が成り立つので$LM/T'$は完全順分岐、つまり$LM/M$は順分岐となる。
順分岐拡大$L/K,M/K$の合成$LM/K$は再び順分岐となる。
$LM/M,M/K$が順分岐であることと順分岐拡大の推移性より主張を得る。
有限次拡大$L/K$において全ての部分順分岐拡大の合成として得られる体$V$を$L/K$の最大順分岐拡大体と言う。
$e=p^ae'\ (p\nmid e')$とおいたとき、最大順分岐拡大$V/K$の分岐次数は$e'$となる。
命題6の証明のようにして$w(\a)=v(\pi_A)/e'$なる元$\a\in B$に対しある単元$u_A\in A,u\in B$が存在して$u\a=(u_A\pi_A)^{1/e'}$となることに注意するとわかる。
$$\xymatrix@R=5pt{
K\ar[r]^{不分岐}&T\ar[r]^{完全順}&V\ar[r]^{暴分岐}&L\\
\k\ar[r]&\la_s\ar@{=}[r]&\la_s\ar[r]&\la
}$$
なお最大順分岐拡大体$V$において
$$L/V\ \mbox{が完全暴分岐}\iff\la/\k\ \mbox{が分離的}$$
が成り立つ。