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現代数学解説
文献あり

【層理論第6回】層の導来圏と層に対する演算

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$$\newcommand{bbC}[0]{\mathbb C} \newcommand{bbN}[0]{\mathbb N} \newcommand{bbR}[0]{\mathbb R} \newcommand{bbZ}[0]{\mathbb Z} \newcommand{bfk}[0]{\mathbb{k}} \newcommand{C}[0]{\mathsf{C}} \newcommand{cA}[0]{\mathcal{A}} \newcommand{cB}[0]{\mathcal{B}} \newcommand{Cb}[0]{\mathsf{C}^\mathrm{b}} \newcommand{cC}[0]{\mathcal{C}} \newcommand{cD}[0]{\mathcal{D}} \newcommand{cHom}[0]{\mathcal{H}om} \newcommand{cI}[0]{\mathcal{I}} \newcommand{cJ}[0]{\mathcal{J}} \newcommand{cM}[0]{\mathcal{M}} \newcommand{Cm}[0]{\mathsf{C}^-} \newcommand{cO}[0]{\mathcal O} \newcommand{Coker}[0]{\operatorname{Coker}} \newcommand{Cp}[0]{\mathsf{C}^+} \newcommand{cRHom}[0]{R\mathcal{H}om} \newcommand{cT}[0]{\mathcal{T}} \newcommand{D}[0]{\mathsf{D}} \newcommand{Db}[0]{\mathsf{D}^\mathrm{b}} \newcommand{Dm}[0]{\mathsf{D}^-} \newcommand{Dp}[0]{\mathsf{D}^+} \newcommand{End}[0]{\operatorname{End}} \newcommand{Ext}[0]{\operatorname{Ext}} \newcommand{Hom}[0]{\operatorname{Hom}} \newcommand{id}[0]{\mathrm{id}} \newcommand{Image}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{K}[0]{\mathsf{K}} \newcommand{Kb}[0]{\mathsf{K}^\mathrm{b}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{Km}[0]{\mathsf{K}^-} \newcommand{Kp}[0]{\mathsf{K}^+} \newcommand{lten}[0]{\overset{L}{\otimes}} \newcommand{lto}[0]{\longrightarrow} \newcommand{Mc}[0]{\mathrm{Mc}} \newcommand{Mod}[0]{\operatorname{Mod}} \newcommand{MS}[0]{\operatorname{SS}} \newcommand{op}[0]{\mathrm{op}} \newcommand{PSh}[0]{\mathrm{PSh}} \newcommand{pt}[0]{\mathrm{pt}} \newcommand{RG}[0]{R\Gamma} \newcommand{RHom}[0]{R\mathrm{Hom}} \newcommand{Sh}[0]{\mathrm{Sh}} \newcommand{simto}[0]{\overset{\sim}{\to}} \newcommand{supp}[0]{\operatorname{supp}} \newcommand{Supp}[0]{\operatorname{Supp}} \newcommand{tl}[0]{\widetilde} \newcommand{toone}[0]{\overset{+1}{\to}} $$

はじめに

こんにちは!層理論の第6回です.今回は層の導来圏について説明します.層のアーベル圏の導来圏を考えて,そこに層の演算を導来して持ち上げることを考えます.層の導来圏の間の函手たちの関係についても説明します.今回も書き方が古く基本的には有界な導来圏のみを考えるのでご了承ください.

前回までの超高速おさらい

位相空間$X$上のアーベル群の層の圏$\Sh(X)$を考えると,大域切断函手$\Gamma(X;\ast) \colon \Sh(X) \to Ab$は左完全函手となって,層の短完全列からは最後の部分の大域切断の全射性は一般には成り立たないのでした( 第1回 第2回 ).そこでこの列を右側に完全になるように伸ばしていける層係数コホモロジーというものを導入しました( 第3回 ).もっと一般に,入射的対象を十分持つアーベル圏からの左完全函手に対する右導来函手というものを考えることができて,層係数コホモロジーはその特殊な場合ともみなせました( 第3.5回 ).また,層に対してテンソル積・sheaf Hom・逆像・順像・固有順像の五つの演算を定義して,それらの間の随伴を調べたりしました( 第4回 第5回 ).導来函手を作るときの分解の考えを抽象化して,対象が複体でコホモロジーの間に同形を誘導する複体の射を同形だと思った導来圏を定義して,その間の函手として導来函手を捉えなおしました( 第5.5回 ).

補足:Hom函手の右導来函手

前回Hom函手の導来函手についてやり残したので,ここで補足をしておきましょう.実は2変数の函手の導来函手について一般論も展開できるのですが,ここでは主に計算の仕方だけを説明します.

以下,$\cA$をアーベル圏とします.Hom函手は$\cA^\op \times \cA \to Ab$という函手でした.この右導来函手として
$$ \RHom_{\cA}(\ast,\ast) \colon \D(\cA)^\op \times \Dp(\cA) \to \D(Ab) $$
というのものが作りたいわけです.しかし,Hom函手は2変数の函手なので両方の引数に複体を入れると出力が二重複体になります.そこでその全複体を取った普通の複体を考えましょう.すなわち,$L,M \in \C(\cA)$に対して
$$ \Hom_{\cA}^\bullet(L,M)^n := \prod_{k \in \bbZ} \Hom_{\cA}(L^k, M^{n+k}) $$
として,$f=\{ f^k \}_k \in \Hom_{\cA}^\bullet(L,M)^n$に対して$(d^n f)^k:=d_M^{n+k} \circ f^k + (-1)^{n+1} f^{k+1} \circ d_L^{k}$とすることで,複体$\Hom_{\cA}^\bullet(L,M) \in \C(Ab)$が定まります.これにより,複体の圏の間の2変数の函手$\Hom_{\cA}^\bullet(\ast,\ast) \colon \C(\cA)^\op \times \C(\cA) \to \C(\cA)$が定まります.しかも,計算してみると$\Ker d^0$が複体の射の集合$\Hom_{\C(\cA)}(L,M)$$\Image d^{-1}$$0$にチェインホモトピックな射の集合なので
$$ H^0(\Hom_{\cA}^\bullet(L,M)) \simeq \Hom_{\K(\cA)}(L,M) $$
となることが分かります.さらに,この函手はホモトピー同値なものをホモトピー同値なものにうつすので,ホモトピー圏の間の2変数の函手$\Hom_{\cA}^\bullet(\ast,\ast) \colon \K(\cA)^\op \times \K(\cA) \to \K(\cA)$を誘導します.

さて,$\cA$は十分多くの入射的対象をもつと仮定して$\cI_\cA$で入射的対象からなる$\cA$の充満部分圏をあらわします.このとき,$L \in \K(\cA)$が非輪状($0$に擬同形)または$I \in \Kp(\cI_\cA)$であって非輪状ならば$\Hom_\cA^\bullet(L,I)$も非輪状になることがチェックできます($I$が下に有界であることを使いました).これより写像錐を考えることで,$L \in \K(\cA), M \in \Dp(\cA)$に対して$I \in \Kp(\cI_\cA)$$M \underset{\text{qis}}{\overset{\sim}{\to}} I$となるものを取って,$\RHom_{\cA}(L,M):=Q_{Ab} \circ \Hom_{\cA}^\bullet(L,I) \in \D(Ab)$とすればwell-definedになります.擬同形で取り替えるときにも下に有界であることを使いました.このようにして導来圏の間のHom函手の右導来函手
$$ \RHom_{\cA}(\ast,\ast) \colon \D(\cA)^\op \times \Dp(\cA) \to \D(Ab) $$
が得られました.$\RHom_\cA$$\cA$は省略する場合もあります.アウトプットの複体$\RHom_{\cA}(L,M)$のコホモロジーは導来圏$\D(\cA)$のHomを次のように回復します.

RHomの0次コホモロジーは導来圏のHom集合

$L \in \D(\cA), M \in \Dp(\cA)$に対して,同形
$$ H^0(\RHom_{\cA}(L,M)) \simeq \Hom_{\D(\cA)}(L,M) $$
が成立する.

概略

$I \in \Kp(\cI_\cA)$$M \underset{\text{qis}}{\overset{\sim}{\to}} I$となるものを取ると,$\RHom_{\cA}(L,M)=Q_{Ab} \circ \Hom_{\cA}^\bullet(L,I)$であった.上で見たことから,$H^0(\Hom_{\cA}^\bullet(L,I)) \simeq Hom_{\K(\cA)}(L,I)$である.もし$L \in \Dp(\cA)$なら, 第5.5回 の命題7より圏同値$\Kp(\cI_\cA) \simto \Dp(\cA)$が成り立つので$Hom_{\Kp(\cA)}(L,I) \simeq \Hom_{\Dp(\cA)}(L,I)$である.一般の場合も$N \in \K(\cA)$が非輪状のとき,$\Hom_{\K(\cA)}(N,I)=0$であることから,写像錐を考えることで$Hom_{\K(\cA)}(L,I) \simeq \Hom_{\D(\cA)}(L,I)$が分かる.$\D(\cA)$において$M \simeq I$であるから結果が得られる.

2変数函手の導来函手の存在定理

アーベル圏の間の2変数の左完全函手$T \colon \cA \times \cB \to \cC$に対する右導来函手$RT$が存在する十分条件は,任意の$B \in \cB$を固定したときに$T(\ast,B)$-入射的になる充満部分圏$\cJ_\cA \subset \cA$と任意の$A \in \cA$を固定したときに$T(A,\ast)$-入射的になる充満部分圏$\cJ_\cB \subset \cB$が存在することと述べられる.上でHom函手については$\cA \subset \cA$$\cI_\cA \subset \cA$を使った.

層の導来圏

さて,本筋の層理論に戻ってきて層のアーベル圏の導来圏を考えてみましょう.以下ずっと$X$を(局所コンパクトハウスドルフな)位相空間とします.これまでは$X$上のアーベル群の層の圏$\Sh(X)$を考えてきましたが,ここで少し一般化して,アーベル圏だけでなく環上の加群に値を取る層の圏を導入しておきましょう.アーベル群$M$に対して,$X$上の茎が$M$の定数層を$M_X$と書くのでした.

環上の加群に値を取る層のアーベル圏

$\bfk$を可換環とする.$\bfk$上の加群$\Mod(\bfk)$に値を取る層,すなわち函手$\cT_X^\op \to \Mod(\bfk)$であって貼り合わせ条件を満たすもののなす圏を$\Mod(\bfk_X)$と書く.

この記号を使うと,これまで扱っていた層の圏は$\Sh(X)=\Mod(\bbZ_X)$とあらわせます.これまで考えていた層の演算は可換環上の加群の層の圏の間の函手を誘導します:
\begin{align} \cHom & \colon \Mod(\bfk_X)^\op \times \Mod(\bfk_X) \to \Mod(\bfk_X), \\ \otimes_\bfk & \colon \Mod(\bfk_X) \times \Mod(\bfk_X) \to \Mod(\bfk_X). \end{align}
連続写像$f \colon X \to Y$に対して
\begin{align} f_* & \colon \Mod(\bfk_X) \to \Mod(\bfk_Y), \\ f^{-1} & \colon \Mod(\bfk_Y) \to \Mod(\bfk_X), \\ f_! & \colon \Mod(\bfk_X) \to \Mod(\bfk_Y). \end{align}
随伴$(\otimes_\bfk,\cHom), (f^{-1},f_*)$もこの状況で同様に成立します.

層の導来圏とその間の函手

以下では可換環$\bfk$を固定します.それでは層の圏$\Mod(\bfk_X)$の導来圏を考えましょう.

層の導来圏

位相空間$X$上の$\bfk$加群の層のアーベル圏$\Mod(\bfk_X)$の導来圏を
$$ \D^*(\bfk_X):=\D^*(\Mod(\bfk_X)) \quad (*=\emptyset, +,-,\mathrm{b}) $$
と書く.誤解がない場合は単に$\D^*(X)$とも書く場合がある.
同様に$\C^*(\bfk_X):=\C(\Mod(\bfk_X)), \K^*(\bfk_X):=\K^*(\Mod(\bfk_X))$と書く.

層の導来圏の記号

$\D^*(X)$の記号は代数幾何だと連接層の導来圏$\D^*(\mathrm{Coh}(X))$をあらわすことが多いので,$\D^*(\Mod(\bfk_X))$に用いるのは不評である.Sheaves on Manifoldsでは単に単に$\D^*(X)$と書かれている部分が多い.

以下では層の演算を導来函手として導来圏に持ち上げることを考えましょう.

Homとテンソル積

ここでは内部演算のsheaf Homとテンソル積の導来函手について考えます.

まず,sheaf Hom $\cHom$を考えましょう.これは2変数函手なので既によく分からないですが,上で見た$\RHom$が参考になりそうです.$F,G \in \C(\bfk_X)$に対して
$$ \cHom^\bullet(F,G)^n := \prod_{k \in \bbZ} \cHom(F^k, G^{n+k}) $$
として,微分は$\Hom^\bullet$のときと同様に定めることで,2変数の函手$\cHom^\bullet \colon \C(\bfk_X)^\op \times \C(\bfk_X) \to \C(\bfk_X)$が定まります.これはホモトピー圏の間の函手$\cHom^\bullet \colon \K(\bfk_X)^\op \times \K(\bfk_X) \to \K(\bfk_X)$を誘導し,各開集合での切断を取り$\RHom$のところで見たことを使うと,$F \in \Kp(\bfk)$が非輪状または$I \in \Kp(\bfk_X)$が入射的層からなる下に有界な複体で非輪状ならば$\cHom^\bullet(F,I)$も非輪状になることが分かります.ゆえに,$F \in \D(\bfk_X), G \in \Dp(\bfk_X)$に対して,入射的層からなる下に有界な複体$I \in \Kp(\bfk_X)$$G \underset{\text{qis}}{\overset{\sim}{\to}} I$となるものを取って,$\cRHom(F,G):=Q \circ \cHom^\bullet(F,I) \in \D(\bfk_X)$とすればwell-definedになります.こうして,$\cHom$の右導来函手
$$ \cRHom \colon \D(\bfk_X)^\op \times \Dp(\bfk_X) \to \D(\bfk_X) $$
が得られました.この記事では,空間$X$上であることを強調するために$\cRHom_X$(Homの導来函手についても$\RHom_X$)と書いたりもします.

さて,テンソル積はどうすれば良いでしょうか?これも2変数の函手なので二重複体の全複体を考えれば良いわけです.記号が煩雑になるのを避けるために以下でもテンソル積$\otimes_\bfk$を単に$\otimes$と書いてしまいます.$F,G \in \C(\bfk_X)$に対して
$$ (F \otimes^\bullet G)^n := \bigoplus_{j+k=n} F^j \otimes G^k $$
として,$d^n|_{F^j \otimes G^k}:=d_F^j \otimes \id_{G^k} + (-1)^j \id_{F^j} \otimes d_G^k$とすると,$F \otimes^\bullet G \C(\bfk_X)$が定まります.いつものようにこれは2変数の函手$\otimes^\bullet \colon \C(\bfk) \times \C(\bfk_X) \to \C(\bfk_X)$および$\K(\bfk_X) \times \K(\bfk_X) \to \K(\bfk_X)$を定めます.さて問題は擬同形をこの函手で送っても擬同形のままになるようにふるまう充満部分圏をどう取って導来函手を作ればよいかということです.写像錐を取るいつもの議論でこの充満部分圏の対象からなる非輪状な複体を送って非輪状になってくれればよい,つまりこの部分圏上でテンソル積が完全になればよいわけです.

平坦な層

$F \in \Mod(\bfk_X)$$\bfk$平坦であるとは,函手$F \otimes_\bfk (\ast) \colon \Mod(\bfk_X) \to \Mod(\bfk_X)$が完全函手となることをいう.

明らかな場合は「$\bfk$上」というのを省略します.層の完全性は茎の完全性と同値であることとテンソル積の茎は茎のテンソル積であることから,$F$が平坦であることと任意の$x \in X$に対して$F_x$が平坦$\bfk$加群であることは同値です.さて,任意の層は入射的層への単射が存在したのでした.これと逆向きに任意の層に対して平坦層からの全射が存在します.

任意の層には平坦層からの全射がある

任意の$F \in \Mod(\bfk_X)$に対して,$\bfk$上平坦な層$P \in \Mod(\bfk_X)$と全射$P \to F$が存在する.

$\mathfrak{S}:=\{ (U,s) \mid \text{$U$は$X$の開部分集合, $s \in \Gamma(U;F)$} \}$とする.$(U,s) \in \mathfrak{S}$に対して,$\bfk(U,s):=\bfk_U \in \Mod(\bfk_X)$と定める.同形$\Hom(\bfk_U,F) \simeq \Gamma(U;F)$により,$s$に対応する射$\bfk_U \to F$$\Gamma(U;\bfk_U)=\bfk \ni 1 \mapsto s \in \Gamma(U;F)$なるものが存在する.$P:=\oplus_{(U,s) \in \mathfrak{S}} \bfk(U,s)$と定めて,上の射から誘導される射を$P \to F$とする.すると,任意の$x \in X$に対して$P_x$$\bfk$の直和だから平坦で,作り方から射$P \to F$は全射である.

上の補題と茎での平坦性を考えることで,$\Mod(\bfk_X)$の平坦層のなす充満部分圏は$\otimes$-射影的($T$-入射的の定義で射の向きを逆にしたもの)となることが分かるので,テンソル積の左導来函手
$$ \lten \colon \Dm(\bfk_X) \times \Dm(\bfk_X) \to \Dm(\bfk_X) $$
が定まります.$F,G \in \Dm(\bfk)$に対して,平坦層からなる上に有界な複体$P \in \Km(\bfk)$$P \underset{\text{qis}}{\overset{\sim}{\to}} F$となるものを取って$F \lten G:=P \otimes^\bullet G$とすればよいわけです.平坦層からなる上に有界な複体$Q \in \Km(\bfk)$$Q \underset{\text{qis}}{\overset{\sim}{\to}} G$となるものを取って$F \otimes^\bullet Q$を考えても,さらに$P \otimes^\bullet Q$を考えても導来圏では同形になります.

いやしかし,ここで出てきたのは上に有界な導来圏$\Dm(\bfk_X)$でした.上で見た$\RHom$は下に有界な導来圏$\Dp(\bfk)$からの函手だったし他の右導来函手も下に有界な導来圏の間の函手だったので,これは都合が悪いことがあります.下に有界・有界な導来圏の間の函手としてテンソル積を考えたい場合はさらに条件が必要です.それは,ある$n \in \bbZ_{\ge 0}$が存在して任意の$\bfk$加群が長さ$n$以下の平坦加群による分解を持つことです($\bfk$の弱大域次元が$n$以下と言います).この条件は例えば$\bfk$がPIDならば満たされます.さてこの条件のもとでは,$*=+,\mathrm{b}$について,$F \in \K^*(\bfk_X)$に対して平坦層からなる複体$P \in \K^*(\bfk_X)$$P \underset{\text{qis}}{\overset{\sim}{\to}} F$となるものが存在します.層の複体が上に有界・有界なら上に有界・有界な平坦層からなる複体に擬同形に取り替えられるのです.したがって,$\bfk$の弱大域次元が有限ならばテンソル積の左導来函手は
$$ \lten \colon \D^*(\bfk_X) \times \D^*(\bfk_X) \to \D^*(\bfk_X) \quad (*=+,-,\mathrm{b}) $$
と下に有界・有界な導来圏の間の函手となります.以下では常に$\bfk$の弱大域次元が有限であることを仮定しましょう.特に$\bfk$が体ならテンソル積は完全函手なので,そのままテンソル積を施せば良いことになります.この場合は導来しなくて良いので$\lten$を単に$\otimes$と書きます.

さて,導来する前のテンソル積とsheaf Homの間には随伴の関係がありました.それは導来函手にしても成り立ちます.

導来圏でも層のテンソル積とsheaf Homは随伴

$F,G \in \Dm(\bfk_X), G \in \Dp(\bfk_X)$に対して自然な同形
$$ \RHom(F \lten G,H) \simeq \RHom(F,\cRHom(G,H)) $$
が成り立つ.

概略

まず$Q \in \Mod(\bfk_X)$が平坦層で$I \in \Mod(\bfk_X)$が入射的層であるとき,$\cHom(Q,I) \in \Mod(\bfk_X)$は入射的層であることに注意する.実際,アーベル圏での随伴から$\Hom(\ast,\cHom(Q,I)) \simeq \Hom((\ast) \otimes Q,I)$であり,右辺は完全函手の合成として完全函手だからである.

さて,平坦層からなる上に有界な複体$Q \in \Km(\bfk)$$Q \underset{\text{qis}}{\overset{\sim}{\to}} G$となるものと入射的層からなる下に有界な複体$I \in \Kp(\bfk_X)$$G \underset{\text{qis}}{\overset{\sim}{\to}} I$となるものを取る.すると,左辺は$\Hom^\bullet(F \otimes^\bullet Q,I)$で,上で見たことから$\cHom^\bullet(Q,I)$が既に入射的層からなる複体なので取り替えなくて良くて右辺は$\Hom^\bullet(F,\cHom^\bullet(Q,I))$である.符号の計算を頑張るとアーベル圏の随伴からこれらが同形であることが分かるので,結果が従う.

$\RHom$$0$次コホモロジーは導来圏の$\Hom$なので,随伴$(\lten, \cRHom)$が成り立つことに注意しましょう.同様の議論で,$F,G \in \Dm(\bfk_X), G \in \Dp(\bfk_X)$に対して自然な同形
$$ \cRHom(F \lten G,H) \simeq \cRHom(F,\cRHom(G,H)) $$
も得られます.この証明のようにあるクラスの層に演算をかけても良いクラスに送られるという条件を用いて導来圏で様々な同形を示すことが基本的なテクニックなのです!

順像と逆像

さて次に外部演算の順像と逆像を考えます.以下では$f \colon X \to Y$を連続写像とします.

まず前回も例としてすこし説明しましたが,順像$f_* \colon \Mod(\bfk_X) \to \Mod(\bfk_Y)$についてです.この函手は左完全函手で,脆弱層からなる$\Mod(\bfk_X)$の充満部分圏が$f_*$-入射的となるのでした.したがって,右導来函手の存在定理( 第5.5回 の定理8)より,右導来函手$Rf_* \colon \Dp(\bfk_X) \to \Dp(\bfk_Y)$が存在します.$F \in \Dp(\bfk_X)$に対して,脆弱層からなる下に有界な複体$F' \in \Kp(\bfk_X)$$F \underset{\text{qis}}{\overset{\sim}{\to}} F'$となるものを取って$Rf_*F=f_*F'$と計算されます.$f_*$は脆弱層を脆弱層に送る( 第4回 の補題6)ので,導来函手の合成についての命題( 第5.5回 の命題9)から次が得られます.

合成の導来順像は導来順像の合成

$f \colon X \to Y, g \colon Y \to Z$を連続写像とすると,$F \in \Dp(\bfk_X)$に対して自然に$R(g \circ f)_*F \simeq Rg_* Rf_* F$が成り立つ.

一点への連続写像$a_X \colon X \to \pt$に対しては$Ra_X=\RG(X;\ast)$であって,$n \in \bbZ$に対して$H^n(X;\ast)=H^n \circ \RG(X;\ast)$とあらわします.これは以前定義した層係数コホモロジーと一致しています.特に層係数コホモロジー導入の動機であった完全列を右に引き伸ばすという話は,「$\Dp(\bfk_X)$における完全三角$F \to G \to H \to F[1]$に対して$\RG(X;F) \to \RG(X;G) \to \RG(X;H) \to \RG(X;F)[1]$$\Dp(Ab)$における完全三角である」というところに吸収されたのでした.実際,これは右導来函手$\RG(X;\ast)$が完全三角を完全三角にうつすことから成り立っていて,$H^0$がコホモロジー的函手であることと$H^n=H^0 \circ [n]$であることから,後者の完全三角から長完全列
$$ \cdots \to H^{n-1}(X;H) \to H^n(X;F) \to H^n(X;G) \to H^n(X;H) \to H^{n+1}(X;F) \to \cdots $$
が得られるからです.

連結準同形の符号

図式追跡あるいは蛇の補題で普通に作った連結準同形の符号と導来圏での射$H \to F[1]$から誘導される射は符号がずれることがあるので注意が必要である.

次も良いクラスの層に演算をかけても良いクラスに入っていることから示せます.

導来sheaf Homの大域切断はRHom

$F \in \Dm(\bfk_X), G \in \Dp(\bfk_X)$に対して,同形
$$ \RG(X;\cRHom(F,G)) \simeq \RHom(F,G) $$
が成り立つ.

どうせ取り替えるのではじめから$G$は入射的層からなる複体としてよい.すると,左辺は$\RG(X;\cHom^\bullet(F,G))$であるが,$G$が入射的だから 第5回 の補題5から$\cHom^\bullet(F,G)$は脆弱層からなる複体である.よって,$\RG(X;\ast)$を施す際に取り替える必要がなく,左辺は$\Gamma(X;\cHom^\bullet(F,G)) \simeq \Hom^\bullet(F,G)$である.これは$G$が入射的だから右辺に等しい.

次に逆像$f^{-1} \colon \Mod(\bfk_Y) \to \Mod(\bfk_X)$ですが,これは完全函手なのでした.したがって,任意の擬同形を擬同形に送るので何も気にする必要がなくただ$f^{-1}$を施すだけで函手$f^{-1} \colon \D^*(\bfk_Y) \to \D^*(\bfk_X) \ (*=\emptyset,+,-,\mathbb{b})$が定まります.

逆像と順像は層のアーベル圏においては随伴でしたが,それは導来圏でも成り立ちます.

導来圏でも逆像と順像は随伴

$F \in \Dp(\bfk_X), G \in \D(\bfk_Y)$に対して,自然な同形
$$ \RHom_X(f^{-1}G,F) \simeq \RHom_Y(G,Rf_*F) $$
が成り立つ.

はじめから$F$は入射的層からなる複体としてよい.すると,右辺は$\RHom_Y(G,f_*F)$であるが,入射的層の順像も入射的( 第4回 の命題11)なので,これは$\Hom^\bullet_Y(G,f_*F)$である.アーベル圏での随伴を使うと最後の複体は$\Hom^\bullet_X(f^{-1}G,F)$と同形になるが,これは右辺に等しい.

さらに強くsheaf Homについても同形が言えます.

逆像と順像の随伴のsheaf Hom版

$F \in \Dp(\bfk_X), G \in \Dm(\bfk_Y)$に対して,自然な同形
$$ Rf_* \cRHom_X(f^{-1}G,F) \simeq \cRHom_Y(G,Rf_*F) $$
が成り立つ.

はじめから$F$は入射的層からなる複体としてよい.すると,上と同様にして右辺は$\cHom^\bullet_Y(G,f_*F)$である.一方,左辺は$\cHom^\bullet_X(f^{-1}G,F)$が脆弱層からなる複体であることから,$f_*\cHom^\bullet_X(f^{-1}G,F)$である.よって,アーベル圏での同形から結果が得られる.

だんだんと証明のやり方にも慣れてきたと思うので,以下ではときどき証明は省略してしまいます.

固有順像

さて,それでは固有順像について考えてみましょう.$f \colon X \to Y$を(局所コンパクトハウスドルフ空間の間の)連続写像とすると,固有順像$f_! \colon \Mod(\bfk_X) \to \Mod(\bfk_Y)$は左完全函手でした.この函手の右導来函手を計算するために,$f_!$-入射的な充満部分圏であって$f_!$で送ってもその性質を満たすものがあるとうれしいわけです.それが以下で説明するc-柔軟層というものです.

$F \in \Mod(\bfk_X)$$X$のコンパクト部分集合$K$に対して,$\Gamma(K;F|_K)$$K$を含む$X$の開部分集合$U$をわたる$F$の切断の帰納極限と同形になる.すなわち
$$ \Gamma(K;F|_K) \simeq \varinjlim_{K \subset U} \Gamma(U;F) $$
が成り立つことが分かります.随伴に付随する射または上の帰納極限との同形により制限写像$\rho_{K,X} \colon \Gamma(X;F) \to \Gamma(K;F|_K)$が誘導されます.c-柔軟層とは脆弱層の定義で任意の開部分集合への制限写像が全射のところを任意のコンパクト部分集合への制限写像が全射に置き換えたものです.cはコンパクトを意味します.

c-柔軟層

$F \in \Mod(\bfk_X)$がc-柔軟 (c-soft) であるとは,任意の$X$のコンパクト部分集合$K$に対して制限写像$\rho_{K,X} \colon \Gamma(X;F) \to \Gamma(K;F|_K)$が全射であることをいう.

c-柔軟層の例

(i) 上で見たコンパクト部分集合上の切断と帰納極限との同形により,脆弱層はc-柔軟層である.
(ii) $X$$C^\infty$級多様体とすると,$X$上の$C^\infty$級函数の層$C^\infty_X$$1$の分割の存在によりc-柔軟である.

c-柔軟層たちの性質は次のようにまとめられます.

c-柔軟層の性質

$F \in \Mod(\bfk_X)$をc-柔軟層とする.
(i) $Z$$X$の局所閉部分集合とすると$F|_Z$はc-柔軟である.
(ii) $f \colon X \to Y$を連続写像とすると$f_!F$はc-柔軟である.
(iii) $Z$$X$の局所閉部分集合とすると$F_Z$はc-柔軟である.

概略

$F$がc-柔軟であること任意の$X$の閉部分集合$Z$に対して,制限写像$\Gamma_c(X;F) \to \Gamma_c(Z;F|_Z)$が全射であることと同値であることがチェックできる.

(i)は上のことを使えばよい.(ii)は任意の$Y$のコンパクト部分集合$K$に対して固有基底変換を使って$\Gamma(K;f_!F) \simeq \Gamma_c(f^{-1}(K);F|_{f^{-1}(K)})$であることと上のことから従う.(iii)は(i)と(ii)から得られる.

c-柔軟層のなす$\Mod(\bfk_X)$の充満部分圏は実際に$f_!$-入射的になっています.

c-柔軟層のなす部分圏は固有順像に関して入射的

$f \colon X \to Y$を連続写像とする.このとき,c-柔軟層のなす$\Mod(\bfk_X)$の充満部分圏は$f_!$-入射的である.

概略

三つの条件を確かめればよい.
(1)は脆弱層がc-柔軟であることと,任意の層は脆弱層に単射で埋め込めることから従う.
(3)は任意の$y \in Y$に対して$y$の茎での完全性を調べればよいが,固有順像の茎は計算できて$(f_!F)_y \simeq \Gamma_c(f^{-1}(y);F|_{f^{-1}(y)})$であること( 第5回 の命題1)と制限もc-入射的であることから,$f=a_X \colon X \to \pt$として示せばよい.つまり,$0 \to F \to G \to H \to 0$$\Mod(\bfk_X)$の完全列で$F$がc-柔軟のときに$0 \to \Gamma_c(X;F) \to \Gamma_c(X;G) \to \Gamma_c(X;H) \to 0$が完全であることを示せばよい.これはちょっと面倒で脆弱層と大域切断函手に対して同様のことを示したとき( 第3回 の命題2)にZornの補題を使ったところをコンパクト性を使って有限被覆の議論に置き換えればできる.
(2)は脆弱層のときと同じ議論で(3)とc-柔軟の定義から従う.

遠可算型のときはc-柔軟層のなす部分圏は大域切断函手に関しても入射的

$X$が遠可算型 (countable at infinity) のときは上の命題で見た(3)を使って,
$0 \to F \to G \to H \to 0$$\Mod(\bfk_X)$の完全列で$F$がc-柔軟ならば$0 \to \Gamma(X;F) \to \Gamma(X;G) \to \Gamma(X;H) \to 0$は完全列
が示せる.これはc-柔軟層のなす$\Mod(\bfk_X)$の充満部分圏は$\Gamma(X;\ast)$-入射的であることを示しているので,大域切断函手の右導来函手はc-柔軟層に擬同形で取り替えて計算することができる.これが 第3回 の例2で見たド・ラーム複体で定数層の層係数コホモロジーが計算できる理由である.

上の命題によって$f_!$の右導来函手$Rf_! \colon \Dp(\bfk_X) \to \Dp(\bfk_Y)$が存在します.$F \in \Dp(\bfk_X)$に対して,c-柔軟層からなる下に有界な複体$F' \in \Kp(\bfk_X)$$F \underset{\text{qis}}{\overset{\sim}{\to}} F'$となるものを取って$Rf_!F=f_!F'$と計算できます.$f_*$はc-柔軟層をc-柔軟層に送るので,導来函手の合成についての命題( 第5.5回 の命題9)から次が得られます.

合成の導来固有順像は導来固有順像の合成

$f \colon X \to Y, g \colon Y \to Z$を連続写像とすると,$F \in \Dp(\bfk_X)$に対して自然に$R(g \circ f)_!F \simeq Rg_! Rf_! F$が成り立つ.

固有基底変換も次のように導来函手に拡張されます.

固有基底変換

位相空間のファイバー積の図式
\begin{xy} \xymatrix{ X' \ar[r]^-{f'} \ar[d]_-{g'} & Y' \ar[d]^-{g} \\ X \ar[r]_-{f} & Y } \end{xy}
$F \in \Dp(\bfk_X)$に対して,自然な同形
$$ g^{-1} Rf_!F \simeq Rf'_! g'^{-1}F \in \Dp(\bfk_{Y'}) $$
が成り立つ.

特に$f \colon X \to Y$$F \in \Dp(\bfk_X)$に対して,任意の$y \in Y$について$(Rf_!F)_y \simeq \RG_c(f^{-1}(y);F|_{f^{-1}(y)})$が成り立つことに注意しましょう.

次は射影公式 (projection formula) と呼ばれ,いろいろなところで役立つ同形です.

射影公式

$f \colon X \to Y$を連続写像,$F \in \Dp(\bfk_X), G \in \Dp(\bfk_Y)$とする.このとき,同形
$$ Rf_!F \lten G \simeq Rf_!(F \lten f^{-1}G) $$
が成り立つ.($\bfk$は有限な弱大域次元を持つと仮定していたことに注意する.)

概略

まず$S \in \Mod(\bfk_X)$$\bfk$上平坦な加群$M$に対して,同形$\Gamma_c(X;S) \otimes_\bfk M \simeq \Gamma_c(X;F \otimes M_X)$が成り立つことが示せる.特に,$S$がc-柔軟なら$S \otimes_\bfk M_X$もc-柔軟である.ゆえに$H \in \Mod(\bfk_Y)$$\bfk$上平坦な層ならば,茎を考えることにより$(\ast) \otimes f^{-1}H$$X$上のc-柔軟層を任意のファイバー$f^{-1}(y)$に制限したときにc-柔軟となる層に送る.任意のファイバー$f^{-1}(y)$に制限したときにc-柔軟となる層のなす$\Mod(\bfk_X)$の充満部分圏は$f_!$-入射的であるから,命題を示すには$G$$\bfk$上平坦な層からなる複体として茎の同形を見ればよい.

さてテンソル積とsheaf Hom・逆像と順像は導来圏でも随伴になっていたのでした.しかし,固有順像には相方がいなくて悲しくなってしまいます.これはアーベル圏では存在しないと以前説明しましたが,マイルドな仮定のもとで導来した固有順像$Rf_! \colon \Dp(\bfk_X) \to \Dp(\bfk_Y)$には右随伴$f^! \colon \Dp(\bfk_Y) \to \Dp(\bfk_X)$が存在します!これが上付きびっくりというものなのです!これは次回ゆっくり説明します.

その他の演算

さて上の五つの演算の他にも役立つ演算があったのでした.その導来函手について少しだけ説明します.

台の切り落としと相対コホモロジー

$Z$$X$の局所閉部分集合としたとき,台の切り落とし函手$(\ast)_Z \colon \Mod(\bfk_X) \to \Mod(\bfk_X)$は完全だったので,導来圏の函手$(\ast)_Z \colon \D^*(\bfk_X) \to \D^*(\bfk_X) \ (*=\emptyset,+,-,\mathrm{b})$を誘導します.複体の短完全列が導来圏における完全三角を与えること( 第5.5回 の補題5)と台の切り落としに付随する完全列( 第5回 の命題7)から次が得られます.(i)は切除,(ii)と(iii)はMayer-Vietorisに対応します.

台の切り落としに付随する完全三角

$F \in \Dp(\bfk_X)$とする.
(i) $Z$$X$の閉部分集合とすると,完全三角
$$ F_{X \setminus Z} \to F \to F_Z \to F_{X \setminus Z}[1] $$
が存在する.
(ii) $Z_1,Z_2$$X$の二つの閉部分集合とすると,完全三角
$$ F_{Z_1 \cup Z_2} \to F_{Z_1} \oplus F_{Z_2} \to F_{Z_1 \cap Z_2} \to F_{Z_1 \cup Z_2}[1] $$
が存在する.
(iii) $U_1,U_2$$X$の二つの開部分集合とすると,完全三角
$$ F_{U_1 \cap U_2} \to F_{U_1} \oplus F_{U_2} \to F_{U_1 \cup U_2} \to F_{U_1 \cap U_2}[1] $$
が存在する.

次に相対コホモロジーについて考えましょう.$\Mod(\bfk_)$函手$\Gamma_Z \colon \Mod(\bfk_X) \to \Mod(\bfk_X)$の右導来函手$\RG_Z \colon \Dp(\bfk_X) \to \Dp(\bfk_X)$が考えられます.$F \in \Dp(\bfk_X)$に対して入射的層からなる複体$I$$F \underset{\text{qis}}{\overset{\sim}{\to}} I$となるものを取って,$RG_Z(F)=\Gamma_Z(I)$と計算されるわけです.入射的層は脆弱であること・脆弱層に対する相対コホモロジーの完全列( 第5回 の補題9)・複体の短完全列が導来圏における完全三角を与えること( 第5.5回 の補題5)から次も得られます.ここでもやはり(i)は切除,(ii)と(iii)はMayer-Vietorisに対応します.

相対コホモロジーの完全三角

$F \in \Dp(\bfk_X)$とする.
(i) $Z$$X$の局所閉部分集合,$Z'$$Z$の閉部分集合とすると,完全三角
$$ \RG_{Z'}(F) \to \RG_Z(F) \to \RG_{Z \setminus Z'}(F) \to \RG_{Z'}(F)[1] $$
が存在する.
(ii) $Z_1,Z_2$$X$の二つの閉部分集合とすると,完全三角
$$ \RG_{Z_1 \cap Z_2}(F) \to \RG_{Z_1}(F) \oplus \RG_{Z_2}(F) \to \RG_{Z_1 \cup Z_2}(F) \to \RG_{Z_1 \cap Z_2}(F)[1] $$
が存在する.
(iii) $U_1,U_2$$X$の二つの開部分集合とすると,完全三角
$$ \RG_{U_1 \cup U_2}(F) \to \RG_{U_1}(F) \oplus \RG_{U_2}(F) \to \RG_{U_1 \cap U_2}(F) \to \RG_{U_1 \cup U_2}(F)[1] $$
が存在する.

台の切り落とし函手と相対コホモロジーは導来圏でも随伴の関係です.

導来圏でも台の切り落とし函手と相対コホモロジーは随伴

$Z$$X$の局所閉部分集合とする.このとき,$F,G \in \Dp(\bfk_X)$に対して,自然な同形
$$ \RHom(F_Z,G) \simeq \RHom(F,\RG_Z(G)) $$
が成り立つ.

$G$を入射的層からなる複体として示せばよいが,アーベル圏での随伴から$\Gamma_Z$は入射的層を入射的層にうつすので結果が従う.

層の合成演算

ここでいろいろな場面で役立つ層の意味での積分変換を導入しておきましょう.そのために,ちょっと函数の積分変換を思い出してみます.$Y$上の函数$g(y)$$X \times Y$上の核函数$k(x,y)$による積分変換は可積分性などを無視すると,
$$ \int_Y k(x,y) g(y) dy $$
と定義されたのでした.よく考えるとこれは

  1. $Y$上の函数$g(y)$$Y$の成分のみに依存する$X \times Y$上の函数とみなす.
  2. $X \times Y$上の函数$k(x,y)$をかける.
  3. $Y$成分で積分する.

という操作の組合せでできています.これを層の言葉に直していけば層の積分変換は次のように定めるのが自然です:$G \in \Dp(\bfk_Y)$に対して

  1. $G$を射影$X \times Y \to Y$で引き戻して$X \times Y$上の層を作る.
  2. $K \in \Dp(\bfk_{X \times Y})$をテンソルする.
  3. 射影$X \times Y \to X$の固有順像をとる.

実際,固有順像はファイバーに沿った積分という気分なのでした.これをもうちょっとだけ一般化して,層の意味の核の合成演算を定義します.

核の合成演算

$X,Y,Z$を位相空間として$q_{XY}, q_{XZ}, q_{YZ}$をそれぞれ$X \times Y \times Z$からの$X \times Y, X \times Z, Y \times Z$への射影とする:
\begin{xy} \xymatrix{ & X \times Y \times Z \ar[ld]_-{q_{XY}} \ar[d]^-{q_{XZ}} \ar[rd]^-{q_{YZ}} & \\ X \times Y & X \times Z & Y \times Z. } \end{xy}
このとき,$K_{XY} \in \Dp(\bfk_{X \times Y})$$K_{YZ} \in \Dp(\bfk_{Y \times Z})$に対して,
$$ K_{XY} \circ_Y K_{YZ} := R{q_{XZ}}_!\left( q_{XY}^{-1}K_{XY} \lten q_{YZ}^{-1} K_{YZ} \right) $$
と定め,$K_{XY} \circ_Y K_{YZ}$$K_{XY}$$K_{YZ}$$Y$上の合成と呼ぶ.文脈から明らかな場合は$\circ_Y$を単に$\circ$と書く.

合成演算は結合的であることがチェックできます.さっきまで考えていた積分変換は$Z=\pt$の場合に対応します.この合成演算は次のように固有順像と逆像(とテンソル積)を特殊な場合として含んでいます.$f \colon X \to Y$を連続写像として$\Gamma_f \subset X \times Y$$f$のグラフとします.このとき,$\Gamma_f$上の定数層のゼロ拡張$\bfk_{\Gamma_f} \in \Mod(\bfk_{X \times Y})$に関する積分変換を考えれば,$F \in \Dp(\bfk_X), G \in \Dp(\bfk_Y)$に対して
$$ Rf_! F \simeq F \circ \bfk_{\Gamma_f}, \quad f^{-1}G \simeq \bfk_{\Gamma_f} \circ G $$
となることが分かります.何かと便利な合成演算は新しい層を作る際に大活躍し,例えばフーリエ・佐藤変換を考える際に現れます.

まとめ

今回は

  • 層の導来圏
  • 層に対する演算を導来圏の間の函手としてみること
  • 導来圏における層の演算の間の関係
  • 層の合成演算(積分変換)

について説明しました.次回は満を持して固有順像の右随伴函手上付きびっくりの説明をする予定です!それではまた!

参考文献

投稿日:202126
OptHub AI Competition

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