14
大学数学基礎解説
文献あり

保型形式の基礎のキソ:アイゼンシュタイン級数とラマヌジャンのデルタ

1396
0
$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{D}[0]{\Delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\mathrm{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{id}[0]{\mathrm{id}} \newcommand{Im}[0]{\mathrm{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\mathrm{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{M}[4]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \end{pmatrix}} \newcommand{ndiv}[0]{\nmid} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{Re}[0]{\mathrm{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\tau} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/{#1}\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/{#1}\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続いてモジュラー形式のお話を、今回はアイゼンシュタイン級数
$$E_{2k}(z)=1-\frac{4k}{B_{2k}}\sum^\infty_{n=1}\frac{n^{2k-1}q^n}{1-q^n}$$
とラマヌジャンのデルタ
$$\D(z)=q\prod^\infty_{n=1}(1-q^n)^{24}$$
に焦点を当てて解説していきます。

ランベルト級数

 モジュラー形式の$q$-展開にはフーリエ級数
$$\sum^\infty_{n=0}a_nq^n$$
の他にランベルト級数
$$\sum^\infty_{n=1}A_n\frac{q^n}{1-q^n}$$
という展開をすることがあります。
 フーリエ級数とランベルト級数は以下のような関係によって変換し合うことができます。

 数列$a_n,A_n$に対し
$$a_n=\sum_{d|n}A_n\iff A_n=\sum_{d|n}\mu\l(\frac nd\r)a_d$$
が成り立つ。またこのとき
$$\sum^\infty_{n=0}a_nq^n=\sum^\infty_{n=0}A_n\frac{q^n}{1-q^n}$$
が成り立つ。ただし$\mu(n)$はメビウス関数とした。

 前者はメビウスの反転公式である。また後者については
$$\sum^\infty_{n=1}A_n\frac{q^n}{1-q^n} =\sum^\infty_{n=1}A_n\sum^\infty_{m=1}q^{mn} =\sum^\infty_{l=1}\left(\sum_{d|l}A_d\right)q^l$$
とわかる。

アイゼンシュタイン級数

 アイゼンシュタイン級数は以下のように定義される級数のことを言います。

アイゼンシュタイン級数

 自然数$k\geq2$$z\in\H$に対して
$$G_{2k}(z)=\sum_{\substack{m,n\in\Z\\(m,n)\neq(0,0)}}\frac1{(mz+n)^{2k}},\quad E_{2k}(z)=\frac12\sum_{\substack{c,d\in\Z\\\gcd(c,d)=1}}\frac1{(cz+d)^{2k}}$$
と定められる関数のことをそれぞれアイゼンシュタイン級数、正規化アイゼンシュタイン級数と言う。

 いま$m,n\in\Z$の最大公約数を$l$として$m=lc,n=ld$とおくことで
\begin{eqnarray} G_{2k}(z)&=&\sum_{l=1}^\infty\sum_{(c,d)=1}\frac1{l^{2k}(cz+d)^{2k}} \\&=&\left(\sum_{l=1}^\infty\frac1{l^{2k}}\right)\sum_{(c,d)=1}\frac1{(cz+d)^{2k}} \\&=&2\z(2k)E_{2k}(z) \end{eqnarray}
という関係があることがわかります。
 またアイゼンシュタイン級数は重さ$2k$のモジュラー形式となります。そのことは
\begin{align} G_{2k}(z+1)&=\sum_{(m,n)\neq(0,0)}\farc1{(mz+(m+n))^{2k}}=G_{2k}(z)\\ G_{2k}\l(-\farc1z\r)&=\sum_{(m,n)\neq(0,0)}\frac{z^{2k}}{(nz-m)^{2k}}=z^{2k}G_{2k}(z) \end{align}
が成り立つことから( 前回の記事 の命題3と合わせて)わかります。

$q$-展開

 上のように$G_{2k}$の逆数和による表示はその保型性を確かめるのに便利ですが、モジュラー形式を考える上ではその$q$-展開による表示が重要となってきます。
 いまアイゼンシュタイン級数の$q$-展開を求めるためにまず以下の公式を紹介しておきましょう。

リプシッツの公式

 自然数$k\geq2$に対し
$$\sum^\infty_{n=-\infty}\frac1{(z+n)^k}=(-1)^k\farc{(2\pi i)^k}{(k-1)!}\sum^\infty_{n=1}n^{k-1}q^n$$
が成り立つ。

  部分分数展開の記事 で紹介したように$\cot z$
$$\cot z=\frac1z+\sum^\infty_{\substack{n=-\infty\\n\neq0}}\l(\farc1{z-\pi n}+\farc1{\pi n}\r)$$
という部分分数展開を持ち、これを$z\mapsto\pi z$として$\pi$を掛けることで
$$\pi\cot\pi z=\frac1z+\sum_{n\neq0}\l(\farc{1}{z+n}-\frac1n\r)$$
が成り立つ。
 また$q=e^{2\pi iz}$とおくと$\pi\cot\pi z$
\begin{align} \pi\cot\pi z &=\pi i\frac{e^{\pi iz}+e^{-\pi iz}}{e^{\pi iz}-e^{-\pi iz}}\\ &=-\pi i\l(1+\frac2{1-q}\r)\\ &=-\pi i-2\pi i\sum^\infty_{n=1}q^n \end{align}
$q$-展開できるので
$$\frac1z+\sum_{n\neq0}\l(\farc1{z-n}+\farc1n\r) =-\pi i-2\pi i\sum^\infty_{n=1}q^n$$
がわかり、これを$k-1$回微分することで主張を得る。

 これを用いると$E_{2k}(z)$は次のような$q$-展開を持つことがわかります。

\begin{align} E_{2k}(z) &=1-\frac{4k}{B_{2k}}\sum^\infty_{n=1}\frac{n^{2k-1}q^n}{1-q^n}\\ &=1-\frac{4k}{B_{2k}}\sum^\infty_{n=1}\s_{2k-1}(n)q^n \end{align}
が成り立つ。ただし$B_{2k}$はベルヌーイ数、$\s_k(n)$は約数関数
$$\s_k(n)=\sum_{d|n}d^k$$
とした。

 リプシッツの公式から$G_{2k}(\tau)$
\begin{eqnarray} G_{2k}(z)&=&\sum_{n\neq0}\frac{1}{(0z+n)^{2k}}+2\sum^\infty_{m=1}\sum^\infty_{n=-\infty}\frac1{(mz+n)^{2k}} \\&=&2\z(2k)+(-1)^{2k}\frac{2(2\pi i)^{2k}}{(2k-1)!}\sum^\infty_{m=1}\sum^\infty_{n=1}n^{2k-1}q^{mn} \\&=&2\z(2k)+\frac{2(2\pi i)^{2k}}{(2k-1)!}\sum^\infty_{n=1}n^{2k-1}\frac{q^n}{1-q^n} \end{eqnarray}
とランベルト級数展開できる。
 またゼータ関数の特殊値は
$$\z(2k)=-\farc{(2\pi i)^{2k}}{2(2k)!}B_{2k}$$
と表せたので結局
$$G_{2k}(z)=2\z(2k)\l(1-\frac{4k}{B_{2k}}\sum^\infty_{n=1}\frac{n^{2k-1}q^n}{1-q^n}\r)$$
が成り立ち、あとは$G_{2k}(z)=2\z(2k)E_{2k}(z)$であったことと$q$-展開の変換公式(定理1)に注意すると主張を得る。

 $E_{2k}(z)$が"正規化"アイゼンシュタイン級数と言われているのは、このように$q$-展開の定数項が$1$となることにちなんでいたわけです。

おまけ:ベルヌーイ数の具体値

\begin{array}{cccccc} \dis B_2=\frac16,&\dis B_4=-\frac1{30},&\dis B_6=\frac1{42},& \dis B_8=-\frac1{30},&\dis B_{10}=\frac5{66},&\dis B_{12}=-\frac{691}{2730} \\\dis\frac{4}{B_2}=24,&\dis \frac{8}{B_4}=-240,&\dis \frac{12}{B_6}=504,& \dis \frac{16}{B_8}=-480,&\dis \farc{20}{B_{10}}=\frac{1320}{5},&\dis \frac{24}{B_{12}}=-\frac{65520}{691} \end{array}

重さ$2$のアイゼンシュタイン級数

 ところで上で定義したアイゼンシュタイン級数では$2k\geq4$としていました。しかし諸性質の証明を追ってみると$2k=2$のときにも同じ議論ができるように思います。でも実は$2k=2$のときはうまくいかないみたいです。具体的には$2k=2$のときは
$$\sum_{(m,n)\neq(0,0)}\farc1{(mz+n)^2}$$
が条件収束になる(絶対収束しない)ことが関わっているのだと思います。(ちなみに後で見るように実は重さ$2$のモジュラー形式はどこを探しても存在しないのでこれは必然的な現象とも言えます。)
 ですが$E_2(z)$$q$-展開から定義することで重さ$2$のモジュラー形式のようなものは構成することができます。

$$E_2(z)=1-24\sum^\infty_{n=1}\frac{nq^n}{1-q^n}$$
とおくと$E_2(z+1)=E_2(z)$および
$$E\l(-\frac1z\r)=z^2E(z)+\farc{6z}{\pi i}$$
が成り立つ。

 $E_2(z+1)=E_2(z)$は定義から明らか。
 また以下で登場するラマヌジャンのデルタの対数微分を取ると
\begin{align} \log\D(z) &=2\pi iz+24\sum^\infty_{n=1}\log(1-q^n)\\ \farc{d}{dz}\log\D(z)&=2\pi i-24\sum^\infty_{n=1}\farc{2\pi inq^n}{1-q^n}\\ &=2\pi iE_2(z) \end{align}
が成り立つ。
 このとき$\D(z)$の保型性
$$\D\l(-\frac1z\r)=z^{12}\D(z)$$
から、この両辺を対数微分することで
\begin{align} \frac{d}{dz}\log\D\l(-\frac1z\r) &=\farc1{z^2}\frac{d\log\D}{dz}\l(-\frac1z\r)=\farc{2\pi i}{z^2}E_2\l(-\frac1z\r)\\ &=\farc{12}z+\farc d{dz}\log\D(z)=\frac{12}z+2\pi iE_2(z) \end{align}
すなわち
$$E\l(-\frac1z\r)=z^2E(z)+\farc{6z}{\pi i}$$
を得る。

 ちなみに一般に
$$\D\l(\frac{az+b}{cz+d}\r)=(cz+d)^{12}\D(z)$$
を対数微分することで
$$E_2\l(\frac{az+b}{cz+d}\r)=(cz+d)^2E_2(z)+\frac{6c(cz+d)}{\pi i}$$
となることがわかります。

ラマヌジャンのデルタ

 ラマヌジャンのデルタとは次に定義されるような関数のことを言います。

ラマヌジャンのデルタ

 $z\in\H$に対して
$$\D(z)=q\prod^\infty_{n=1}(1-q^n)^{24}\qquad(q=e^{2\pi iz})$$
と定められる関数$\D(z)$のことをラマヌジャンのデルタと言い、その$q$-展開
$$\D(z)=\sum^\infty_{n=1}\t(n)q^n$$
の係数として定まる数列$\t(n)$をラマヌジャンの$\t$関数と言う

 以下に示すようにラマヌジャンのデルタは重さ$12$のモジュラー形式となります。またカスプ$z=i\infty$(つまり$q=0$)において$0$になるカスプ形式でもあります。
 ここで出てくるラマヌジャンの$\t$は数論的に興味深い性質を持つことで有名ですが、それはしばしばこのラマヌジャンのデルタそのものがそもそも良い性質を持っていることに起因します。ラマヌジャンのデルタが持つ良い性質の中で特に注目すべき点は$z\in\H$において零点を持たないことだと私は思います。
 この性質により逆数$\D(z)^{-1}$$z\in\H$において正則であり、カスプにおいて一位の極を持つことを除けば形式的に重さ$-12$のモジュラー形式として扱え、様々なモジュラー形式に$\D(z)^{-1}$を掛けて重さ$0$のモジュラー形式とすることで 前回の記事 の命題5と合わせて様々な関数等式を生み出すことができます。

デデキントのイータ関数

 いま$\D(z)$の保型性を確かめるためにデデキントのイータ関数
$$\eta(z)=q^{\frac1{24}}\prod_{n=1}^\infty(1-q^n)\quad(=\D(z)^{\frac1{24}})$$
というものを考えましょう。イータ関数は次のフーリエ展開を持ちます。

オイラーの五角数定理

$$\prod^\infty_{n=1}(1-q^n)=\sum^\infty_{n=-\infty}(-1)^nq^{\farc{n(3n-1)}{2}}$$
が成り立つ。特に
$$\eta(z)=\sum^\infty_{n=-\infty}(-1)^nq^{\farc{(6n-1)^2}{24}}$$
と表せる。

  楕円関数の記事 のおまけとして示したヤコビの三重積
$$\sum^\infty_{n=-\infty}p^{n^2}w^n =\prod^\infty_{n=1}(1-p^{2n})(1+p^{2n-1}w)(1+p^{2n-1}w^{-1})$$
において$p=q^{\farc32},w=-q^{-\frac12}$とすると
\begin{eqnarray} \sum^\infty_{n=-\infty}(-1)^nq^{\frac{3n^2-n}2} &=&\prod^\infty_{n=1}(1-q^{3n})(1-q^{3n-2})(1-q^{3n-1}) \\&=&\prod^\infty_{n=1}(1-q^n) \end{eqnarray}
を得る。あとは
$$\frac{3n^2-n}2+\frac1{24}=\frac{(6n-1)^2}{24}$$
に注意するとわかる。

 いま
$$\eta(z)=\sum^\infty_{n=1}(-1)^nq^{\farc{(6n-1)^2}{24}}+\sum^\infty_{n=0}(-1)^nq^{\farc{(6n+1)^2}{24}}$$
なのでディリクレ指標$\chi(n)$
$$\chi(n)=\left\{\begin{array}{cl} 1&n\equiv\pm1\pmod{12} \\-1&n\equiv\pm5\pmod{12} \\0&\mathrm{otherwise.} \end{array}\right.$$
と定めると
$$\eta(z)=\sum^\infty_{n=1}\chi(n)q^{\frac{n^2}{24}}$$
と表すことができます。このことからイータ関数は以下の関数等式を持ちます。

$$\psi_\chi(t)=\sum^\infty_{n=1}\chi(n)e^{-\frac{\pi n^2t}{12}}$$
とおくと
$$\psi_\chi(t)=\frac1{\sqrt{t}}\psi_\chi\l(\frac1t\r)$$
が成り立つ。特に
$$\eta\l(-\frac1z\r)=\sqrt{-iz}\eta(z)$$
が成り立つ。

 ディリクレ指標$\chi$が法$12$において原始的であること、偶指標であること、実指標であることに注意すると この記事 の公式4から
$$\psi_\chi(t)=\frac{\sqrt{12}}{\tau(\chi)\sqrt{t}}\psi_\chi\l(\frac1t\r)$$
が成り立つ。このとき$\chi$のガウス和は
\begin{eqnarray} \tau(\chi)&=&\sum^{12}_{n=1}\chi(n)e^{\frac{2\pi in}{12}} \\&=&e^{\frac{\pi i}6}-e^{\frac{5\pi i}6}-e^{-\farc{5\pi i}6}+e^{-\frac{\pi i}6} \\&=&2\cos\frac\pi6-2\cos\farc{5\pi}{6} \\&=&2\sqrt3 \end{eqnarray}
と計算できるので
$$\psi_\chi(t)=\frac1{\sqrt{t}}\psi_\chi\l(\frac1t\r)$$
を得る。
 また$\psi(t)=\eta(it)$に注意するとこれは
$$\eta(it)=\frac1{\sqrt t}\eta\l(-\frac1{it}\r)$$
と表せるので$t=-iz$とおくことで
$$\eta\l(-\frac1z\r)=\sqrt{-iz}\eta(z)$$
がわかる。

 以上により$\eta(z)$は(擬)保型性
$$\eta(z+1)=e^{\frac{\pi i}{12}}\eta(z),\quad\eta\l(-\frac1z\r)=\sqrt{-iz}\eta(z)$$
を持つことがわかり、これを$24$乗することで
$$\D(z+1)=\D(z),\quad\D\l(-\frac1z\r)=z^{12}\D(z)$$
つまり$\D(z)$は重さ$12$のモジュラー形式となることがわかります。

アイゼンシュタイン級数との関係

 上でも触れた通り重さ$k\geq12$のカスプ形式$f$に対し$f/\D$は重さ$k-12$の正則モジュラー形式となります。特に$k=12$のときは 前回の記事 の命題5からこれは定数関数となり$f=A\D$という等式が得られることとなります。
 更に$E_{2k}$の正規性$E_{2k}(i\infty)=1$に注意するとアイゼンシュタイン級数とラマヌジャンのデルタは次のような関係を持つことがわかります。

$$\D(z)=\frac{E_4(z)^3-E_6(z)^2}{1728}$$
および
$$\D(z)=\frac{691}{65520+1008\cdot691}(E_{12}(z)-E_6(z)^2)$$
が成り立つ。

$$E_4(z)^3,E_6(z)^2,E_{12}(z)$$
はそれぞれ重さ$12$のモジュラー形式であり、それぞれカスプ$z=i\infty$において$1$となるので
$$E_4(z)^3-E_6(z)^2,\;E_{12}(z)-E_6(z)^2$$
は重さ$12$のカスプ形式となり
$$\frac{E_4(z)^3-E_6(z)^2}{\D(z)},\;\frac{E_{12}(z)-E_6(z)^2}{\D(z)}$$
は重さ$0$の正則モジュラー形式、つまり定数関数$A,B$となる。
 あとは
\begin{align} \D(z)&=q+\t(2)q^2+\cdots\\ E_4(z)^3&=(1+240q+\cdots)^3=1+3\cdot240q+\cdots\\ E_6(z)^2&=(1-504q+\cdots)^2=1-2\cdot504q+\cdots\\ E_{12}(z)&=1+\frac{65520}{691}q+\cdots \end{align}
に注意すると
\begin{align} A&=\lim_{z\to i\infty}\frac{E_4(z)^3-E_6(z)^2}{\D(z)} =3\cdot240+2\cdot504=1728\\ B&=\lim_{z\to i\infty}\frac{E_{12}(z)-E_6(z)^2}{\D(z)} =\frac{65520}{691}+2\cdot504=\frac{65520+1008\cdot691}{691} \end{align}
を得る。

モジュラー形式の基底

 重さ$k$のモジュラー形式、カスプ形式全体の集合をそれぞれ$M_k=M_k(\G),S_k=S_k(\G)$とおくとこれらは$\C$上の線形空間となります。さらにその次元は有限であり、その基底はアイゼンシュタイン級数で表現できることがわかります。以下でその次元や基底がどう表現されるのか見ていきましょう。

補題

 $\o=e^{\frac{2\pi i}3}$とおくと
$E_4(i)\neq0,\;E_6(i)=0$
$E_4(\o)=0,\;E_6(\o)\neq0$
が成り立つ。

$$E_4(\o)=E_6(i)=0$$
であることは 前回の記事 の命題8系として示した。
$$E_4(i),E_6(\o)\neq0$$
であることは、任意の$z\in\H$$\D(z)\neq0$であることと
$$E_4(z)^3-E_6(z)^2=1728\D(z)$$
であったことから、$E_4(\o)=E_6(i)=0$と合わせてわかる。

\begin{align} M_k&=\C E_k\oplus S_k&&(k\geq4)\\ S_k&=\D\cdot M_{k-12}&&(k\geq12) \end{align}
が成り立つ。

 任意の$f\in M_k\;(k\geq4)$に対し$a_0=f(i\infty)$とおくと$f-a_0E_k$はカスプにおいて$0$になるのでこれは$S_k$の元となり、したがって
$$M_k=\C E_k\oplus S_k\quad(k\geq4)$$
を得る。(直和であることは明らか)
 また任意の$f\in S_k\;(k\geq12)$に対し$g=f/\D$は重さ$k-12$の正則モジュラー形式となり、逆に任意の$g\in M_{k-12}$に対し$f=\D\cdot g$は重さ$k$のカスプ形式となるので
$$S_k=\D\cdot M_{k-12}\quad(k\geq12)$$
を得る。

 $M_0=\C,\; M_2=0$および
\begin{align} M_k&=\C E_k&&(4\leq k\leq10)\\ S_k&=0&&(0\leq k\leq10) \end{align}
が成り立つ。

 $M_0=\C$ 前回の記事 の命題5そのものである。
 いま任意の$f\in S_k\;(k<12)$に対し$f^{12}/\D^k$は例のごとく定数関数となるが、これはカスプ$z=i\infty$を少なくとも$12-k$位の零点に持つので$f^{12}/\D^k=0$となることがわかる。したがって
$$S_k=0\quad(0\leq k\leq10)$$
および
$$M_k=\C E_k\oplus S_k=\C E_k\quad(4\leq k\leq10)$$
を得る。
 また任意の$f\in M_2$に対し$f\cdot E_4\in M_6=\C E_6$なのである$c\in\C$$f\cdot E_4=cE_6$が成り立つが、補題8より
$$c=\frac{f(i)E_4(i)}{E_6(i)}=0$$
つまり$f=0$となることがわかる。したがって$M_2=0$を得る。

$M_k$の次元と基底

\begin{align} \dim M_k&=\left\{\begin{array}{ll} \left\lfloor\farc k{12}\right\rfloor+1&k\not\equiv2\pmod{12} \\\left\lfloor\farc k{12}\right\rfloor&k\equiv2\pmod{12} \end{array}\right.\\ \dim S_k&=\left\{\begin{array}{ll} 0&k<12 \\\dim M_{k-12}&k\geq12 \end{array}\right. \end{align}
が成り立つ。

 $\dim S_k$については$k<12$において補題10より、$k\geq12$において補題9からわかる。
 $\dim M_k$については補題13より$0\leq k\leq10$において
$$\dim M_k=\left\{\begin{array}{cl} 1&k\not\equiv2\pmod{12} \\0&k\equiv2\pmod{12} \end{array}\right.$$
と求まり、補題12より$k\geq12$において
$$\dim M_k=\dim(\C E_k)+\dim(S_k)=1+\dim M_{k-12}$$
という漸化式が成り立つことからわかる。

$$M_k=\bigoplus_{\substack{4a+6b=k\\a,b\geq0}}\C E_4^aE_6^b$$
が成り立つ。

$$M'_k=\bigoplus_{\substack{4a+6b=k\\a,b\geq0}}\C E_4^aE_6^b$$
とおくと$0\leq k\leq 10$において
$$M'_0=\C,\;M'_2=0,\;M'_4=\C E_4,\;M'_6=\C E_6,\;M'_8=\C E_4^2,\;M'_{10}=\C E_4E_6$$
であるので
$(E_8-E_4^2)\in S_8=0$
$(E_{10}-E_4E_6)\in S_{10}=0$
つまり$E_8=E_4^2,\;E_{10}=E_4E_6$に注意すると
$$M_k=\C E_k=M'_k\quad(0\leq k\leq10)$$
がわかる。
 いま$M_{k-12}=M'_{k-12}$が成り立っているとする。このとき任意に$4a+6b=k$なる非負整数$a,b$を取ると、補題9と同様にして
\begin{align} M_k &=\C E_4^aE_6^b\oplus S_k\\ &=\C E_4^aE_6^b\oplus\D\cdot M_{k-12}\\ &=\C E_4^aE_6^b\oplus(E_4^3-E_6^2)\cdot M_{k-12}\subset M'_k \end{align}
がわかるので、明らかに$M'_k\subset M_k$であることから
$$M_k=M'_k$$
を得る。

直和であること

 上では触れていなかったが
$$\sum_{\substack{4a+6b=k\\a,b\geq0}}\C E_4^aE_6^b$$
が直和であることは次にようにしてわかる。
 いまある$r$個の複素数$c_l\neq0$と異なる非負整数の組$a_l,b_l\;(4a_l+6b_l=k)$があって
$$\sum^r_{l=1}c_iE_4^{a_l}E_6^{b_l}=0$$
が成り立つとする。このとき$b_l$のなかで最小のものを$b_j$とすると
$$\sum^r_{l=1}c_lE_4(i)^{a_l}E_6(i)^{b_l-b_j}=c_jE_4(i)^{a_j}=0$$
となるが$E_4(i)\neq0$なので$c_j=0$であり、これは$c_l$の取り方に反する。
 よって$E_4^aE_6^b\;(4a+6b=k,\;a,b\geq0)$$\C$上線形独立である。

おまけ:モジュラー形式の微分

 上ではモジュラー形式のなす環
$$M=\bigoplus^\infty_{k=0}M_k$$
$E_4,E_6$によって生成される、つまり
$$M=\C[E_4,E_6]$$
となることを見ました。
 さて余談ですが$E_2,E_4,E_6$は次のような微分関係式を持つことが知られています(証明については 便利さんの記事 などをご参照ください)。
\begin{align} \frac1{2\pi i}\frac{dE_2}{dz}&=\frac{E_2^2-E_4}{12}\\ \frac1{2\pi i}\frac{dE_4}{dz}&=\frac{E_2E_4-E_6}3\\ \frac1{2\pi i}\frac{dE_6}{dz}&=\frac{E_2E_6-E_4^2}2 \end{align}
このことから$M$$E_2$を付加したもの
$$\tilde{M}=M[E_2]=\C[E_2,E_4,E_6]$$
は微分演算に対して閉じた環となったりします。
 ちなみにこの環$\tilde{M}$のことはring of quasimodular forms(準モジュラー形式環)と言います。

ラマヌジャンの$\tau$関数

 以上がモジュラー形式の基本的な理論の一端となりますが、折角なので発展的な話としてラマヌジャンの$\tau$関数の持つ性質についても解説していこうと思います。

漸化式と乗法性

 素数$p$に対しMordell作用素$T_p$
$$T_pf(z)=\frac1p\sum^{p-1}_{l=0}f\left(\frac{z+l}{p}\right)+p^{11}f(pz)$$
によて定めると
$$T_p\D(z)=\t(p)\D(z)$$
が成り立つ。

 $T_p\D(z)$が重さ$12$のモジュラー形式であること、および$\frac{T_p\D(z)}{\D(z)}$がカスプ$z=i\infty$において$\t(p)$となることを示せばよい。

$T_p\D(z)$がモジュラー形式であること

 $T_p\D(z+1)=T_p\D(z)$であることは簡単にわかる。
 $T_p\D(-1/z)=z^{12}T_p\D(z)$を確かめるには
\begin{eqnarray} T_p\D\l(-\frac1z\r) &=&\frac1p\sum^{p-1}_{l=1}\D\left(\frac{-1+lz}{pz}\right)+\frac1p\D\left(-\farc1{pz}\right)+p^{11}\D\bigg(-\frac pz\bigg) \\&=&\frac1p\sum^{p-1}_{l=1}\D\left(\frac{lz-1}{pz}\right)+p^{11}z^{12}\D(pz)+\frac{z^{12}}p\D\left(\frac zp\right) \end{eqnarray}
より
$$\sum^{p-1}_{l=1}\D\left(\frac{lz-1}{pz}\right) =z^{12}\sum^{p-1}_{l=1}\D\left(\frac{z+l}{p}\right)$$
となることを示せばよい。
 そのことは$1\leq l\leq p-1$に対して$ll'\equiv-1\pmod{p}$なる$1\leq l'\leq p-1$を取り$k=(ll'+1)/p$とおくと
$$\M lkp{-l'}\in SL(2,\Z)$$
かつ
$$\M l{-1}p0=\M lkp{-l'}\M1{l'}0p$$
が成り立つことから
\begin{align} \sum^{p-1}_{l=1}\D(\M l{-1}p0z) &=\sum^{p-1}_{l'=1}\D(\M lkp{-l'}\M1{l'}0pz)\\ &=\sum^{p-1}_{l'=1}\l(p\frac{z+l'}p-l'\r)^{12}\D\left(\frac{z+l'}p\right)\\ &=z^{12}\sum^{p-1}_{l'=1}\D\left(\frac{z+l'}{p}\right) \end{align}
とわかる。

比が$\t(p)$であること

\begin{eqnarray} \frac1p\sum^{p-1}_{l=0}\D\left(\farc{z+l}{p}\right) &=&\frac1p\sum^{p-1}_{l=0}\sum^\infty_{n=1}\t(n)e^{2\pi in\frac{z+l}{p}} \\&=&\sum^\infty_{n=1}\t(n)\left(\frac1p\sum^{p-1}_{l=1}e^{\farc{2\pi inl}{p}}\right)q^{\frac np} \\&=&\sum^\infty_{n=1}\t(pn)q^n \end{eqnarray}
に注意すると
$$\lim_{z\to i\infty}\frac{T_p\D(z)}{\D(z)}=\lim_{q\to0}\frac{(\t(p)q+\t(2p)q^2+\cdots)+p^{11}(q^{p}+\t(2)q^{2p}+\cdots)}{q+\t(2)q^2+\cdots}=\t(p)$$
を得る。

 素数$p$と自然数$n$に対して漸化式
$$\t(pn)+p^{11}\t\left(\frac np\right)=\t(p)\t(n)$$
が成り立つ。ただし自然数ではない実数$x$に対しては$\t(x)=0$と定める。

 補題6とその証明で見たように
\begin{eqnarray} T_p\D(z)&=&\sum^\infty_{n=1}\t(pn)q^n+p^{11}\sum^\infty_{n=1}\t(n)q^{pn} \\&=&\t(p)\sum^\infty_{n=1}\t(n)q^n=\t(p)\D(z) \end{eqnarray}
が成り立ってるのでこの両辺の$q^n$の係数に注意するとわかる。

 ラマヌジャンの$\t$関数は乗法性を持つ。つまり任意の互いに素な自然数$m,n$に対し$\t(mn)=\t(m)\t(n)$が成り立つ。

 任意の素数$p$と自然数$k,n\;(p\ndiv n)$に対して
$$\t(p^kn)=\t(p^k)\t(n)$$
が成り立つことを示せばよい。$k$についての数学的帰納法で示す。
 $k=0$のときは$\t(1)=1$に注意すると
$$\t(p^0n)=1\t(n)=\t(p^0)\t(n)$$
と、$k=1$のときは定理14および$\t(\frac np)=0$に注意すると
$$\t(pn)=\t(p)\t(n)-p^{11}\t\left(\frac np\right)=\t(p)\t(n)$$
とわかる。
 いま$l\leq k$において
$$\t(p^ln)=\t(p^l)\t(n)$$
が成り立つとすると定理14において$n\mapsto p^kn,\;n\mapsto p^{k+1}$とすることで
\begin{align} \t(p^{k+1}n)+p^{11}\t(p^{k-1}n)&=\t(p)\t(p^kn)\\ \t(p^{k+1})+p^{11}\t(p^{k-1})&=\t(p)\t(p^k) \end{align}
がわかるので
\begin{eqnarray} \t(p^{k+1}n)&=&\t(p)\t(p^kn)-p^{11}\t(p^{k-1}n) \\&=&(\t(p)\t(p^k)-p^{11}\t(p^{k-1}))\t(n) \\&=&\t(p^{k+1})\t(n) \end{eqnarray}
$l=k+1$においても
$$\t(p^ln)=\t(p^l)\t(n)$$
が成り立つことがわかる。

二次のオイラー積

 ラマヌジャンの$L$関数を
$$L(s,\D)=\sum^\infty_{n=1}\frac{\t(n)}{n^s}$$
と定めるとこれはオイラー積表示
$$L(s,\D)=\prod_{p:\mathrm{prime}}\farc1{1-\t(p)p^{-s}+p^{11}p^{-2s}}$$
を持つ。

 $\t(n)$の乗法性より
$$L(s,\D)=\sum^\infty_{n=1}\frac{\t(n)}{n^s}=\prod_{p:\mathrm{prime}}\sum^\infty_{n=1}\frac{\t(p^n)}{p^{ns}}$$
と分解できるので$x=p^{-s}$に対して
$$\sum^\infty_{n=1}\t(p^n)x^n=\frac1{1-\t(p)x+p^{11}x^2}$$
が成り立つことを示せばよい。
 いま定理14において$n=p^{k-1}\;(k\geq1)$とした式
$$\t(p^k)+p^{11}\t(p^{k-2})=\t(p)\t(p^{k-1})$$
から
\begin{eqnarray} &&\sum^\infty_{k=0}\Big(\t(p^k)-\t(p)\t(p^{k-1})+p^{11}\t(p^{k-2})\Big)x^k \\&=&\Big(\t(p^0)-\t(p)\t(p^{-1})+p^{11}\t(p^{-2})\Big)x^0=1 \end{eqnarray}
であって、また
\begin{eqnarray} &&\sum^\infty_{k=0}\Big(\t(p^k)-\t(p)\t(p^{k-1})+p^{11}\t(p^{k-2})\Big)x^k \\&=&\sum^\infty_{k=0}\t(p^k)x^k-\sum^\infty_{k=0}\t(p)\t(p^k)x^{k+1}+\sum^\infty_{k=0}p^{11}\t(p^k)x^{k+2} \\&=&\sum^\infty_{k=0}\t(p^k)x^k(1-\t(p)x+p^{11}x^2) \end{eqnarray}
なので
$$(1-\t(p)x+p^{11}x^2)\sum^\infty_{k=0}\t(p^k)x^k=1$$
すなわち
$$\sum^\infty_{n=1}\t(p^n)x^n=\frac1{1-\t(p)x+p^{11}x^2}$$
を得る。

 ちなみにここで現れる$x$についての二次式
$$1-\t(p)x+p^{11}x^2$$
の判別式$D=\t(p)^2-4p^{11}$が常に負である、つまり
$$|\t(p)|<2p^{\frac{11}2}$$
が成り立つことを主張するのがラマヌジャン予想と呼ばれています。ラマヌジャン予想は長年未解決でありましたが1974年に肯定的に解決されたそうです。

ラマヌジャンの合同式

ラマヌジャンの合同式

$$\t(n)\equiv\s_{11}(n)\pmod{691}$$
が成り立つ。特に素数$p$に対して
$$\t(p)\equiv1+p^{11}\pmod{691}$$
が成り立つ。

 定理7
$$(65520+1008\cdot691)\D(z)=691E_{12}(z)-691E_6(z)^2$$
の両辺において
\begin{align} \D(z)&=\sum^\infty_{n=1}\t(n)q^n\\ E_6(z)^2&=\left(1-504\sum^\infty_{n=1}\s_5(n)q^n\right)^2\\ 691E_{12}(z)&=691+65520\sum^\infty_{n=1}\s_{11}(n)q^n \end{align}
の各係数が整数であることに注意して、法$691$で係数を比較すると
$$65520\t(n)\equiv65520\s_{11}(n)\pmod{691}$$
がわかり、$65520$$691$と互いに素なので
$$\t(n)\equiv\s_{11}(n)\pmod{691}$$
を得る。

参考文献

投稿日:2021330
更新日:113

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

子葉
子葉
969
218158
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中