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大学数学基礎解説
文献あり

保型形式の基礎のキソ:アイゼンシュタイン級数とラマヌジャンのデルタ

1995
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はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続いてモジュラー形式のお話を、今回はアイゼンシュタイン級数
E2k(z)=14kB2kn=1n2k1qn1qn
とラマヌジャンのデルタ
Δ(z)=qn=1(1qn)24
に焦点を当てて解説していきます。

ランベルト級数

 モジュラー形式のq-展開にはフーリエ級数
n=0anqn
の他にランベルト級数
n=1Anqn1qn
という展開をすることがあります。
 フーリエ級数とランベルト級数は以下のような関係によって変換し合うことができます。

 数列an,Anに対し
an=d|nAnAn=d|nμ(nd)ad
が成り立つ。またこのとき
n=0anqn=n=0Anqn1qn
が成り立つ。ただしμ(n)はメビウス関数とした。

 前者はメビウスの反転公式である。また後者については
n=1Anqn1qn=n=1Anm=1qmn=l=1(d|lAd)ql
とわかる。

アイゼンシュタイン級数

 アイゼンシュタイン級数は以下のように定義される級数のことを言います。

アイゼンシュタイン級数

 自然数k2zHに対して
G2k(z)=m,nZ(m,n)(0,0)1(mz+n)2k,E2k(z)=12c,dZgcd(c,d)=11(cz+d)2k
と定められる関数のことをそれぞれアイゼンシュタイン級数、正規化アイゼンシュタイン級数と言う。

 いまm,nZの最大公約数をlとしてm=lc,n=ldとおくことで
G2k(z)=l=1(c,d)=11l2k(cz+d)2k=(l=11l2k)(c,d)=11(cz+d)2k=2ζ(2k)E2k(z)
という関係があることがわかります。
 またアイゼンシュタイン級数は重さ2kのモジュラー形式となります。そのことは
G2k(z+1)=(m,n)(0,0)1(mz+(m+n))2k=G2k(z)G2k(1z)=(m,n)(0,0)z2k(nzm)2k=z2kG2k(z)
が成り立つことから( 前回の記事 の命題3と合わせて)わかります。

q-展開

 上のようにG2kの逆数和による表示はその保型性を確かめるのに便利ですが、モジュラー形式を考える上ではそのq-展開による表示が重要となってきます。
 いまアイゼンシュタイン級数のq-展開を求めるためにまず以下の公式を紹介しておきましょう。

リプシッツの公式

 自然数k2に対し
n=1(z+n)k=(1)k(2πi)k(k1)!n=1nk1qn
が成り立つ。

  部分分数展開の記事 で紹介したようにcotz
cotz=1z+n=n0(1zπn+1πn)
という部分分数展開を持ち、これをzπzとしてπを掛けることで
πcotπz=1z+n0(1z+n1n)
が成り立つ。
 またq=e2πizとおくとπcotπz
πcotπz=πieπiz+eπizeπizeπiz=πi(1+21q)=πi2πin=1qn
q-展開できるので
1z+n0(1zn+1n)=πi2πin=1qn
がわかり、これをk1回微分することで主張を得る。

 これを用いるとE2k(z)は次のようなq-展開を持つことがわかります。

E2k(z)=14kB2kn=1n2k1qn1qn=14kB2kn=1σ2k1(n)qn
が成り立つ。ただしB2kはベルヌーイ数、σk(n)は約数関数
σk(n)=d|ndk
とした。

 リプシッツの公式からG2k(τ)
G2k(z)=n01(0z+n)2k+2m=1n=1(mz+n)2k=2ζ(2k)+(1)2k2(2πi)2k(2k1)!m=1n=1n2k1qmn=2ζ(2k)+2(2πi)2k(2k1)!n=1n2k1qn1qn
とランベルト級数展開できる。
 またゼータ関数の特殊値は
ζ(2k)=(2πi)2k2(2k)!B2k
と表せたので結局
G2k(z)=2ζ(2k)(14kB2kn=1n2k1qn1qn)
が成り立ち、あとはG2k(z)=2ζ(2k)E2k(z)であったこととq-展開の変換公式(定理1)に注意すると主張を得る。

 E2k(z)が"正規化"アイゼンシュタイン級数と言われているのは、このようにq-展開の定数項が1となることにちなんでいたわけです。

おまけ:ベルヌーイ数の具体値

B2=16,B4=130,B6=142,B8=130,B10=566,B12=69127304B2=24,8B4=240,12B6=504,16B8=480,20B10=13205,24B12=65520691

重さ2のアイゼンシュタイン級数

 ところで上で定義したアイゼンシュタイン級数では2k4としていました。しかし諸性質の証明を追ってみると2k=2のときにも同じ議論ができるように思います。でも実は2k=2のときはうまくいかないみたいです。具体的には2k=2のときは
(m,n)(0,0)1(mz+n)2
が条件収束になる(絶対収束しない)ことが関わっているのだと思います。(ちなみに後で見るように実は重さ2のモジュラー形式はどこを探しても存在しないのでこれは必然的な現象とも言えます。)
 ですがE2(z)q-展開から定義することで重さ2のモジュラー形式のようなものは構成することができます。

E2(z)=124n=1nqn1qn
とおくとE2(z+1)=E2(z)および
E(1z)=z2E(z)+6zπi
が成り立つ。

 E2(z+1)=E2(z)は定義から明らか。
 また以下で登場するラマヌジャンのデルタの対数微分を取ると
logΔ(z)=2πiz+24n=1log(1qn)ddzlogΔ(z)=2πi24n=12πinqn1qn=2πiE2(z)
が成り立つ。
 このときΔ(z)の保型性
Δ(1z)=z12Δ(z)
から、この両辺を対数微分することで
ddzlogΔ(1z)=1z2dlogΔdz(1z)=2πiz2E2(1z)=12z+ddzlogΔ(z)=12z+2πiE2(z)
すなわち
E(1z)=z2E(z)+6zπi
を得る。

 ちなみに一般に
Δ(az+bcz+d)=(cz+d)12Δ(z)
を対数微分することで
E2(az+bcz+d)=(cz+d)2E2(z)+6c(cz+d)πi
となることがわかります。

ラマヌジャンのデルタ

 ラマヌジャンのデルタとは次に定義されるような関数のことを言います。

ラマヌジャンのデルタ

 zHに対して
Δ(z)=qn=1(1qn)24(q=e2πiz)
と定められる関数Δ(z)のことをラマヌジャンのデルタと言い、そのq-展開
Δ(z)=n=1τ(n)qn
の係数として定まる数列τ(n)をラマヌジャンのτ関数と言う

 以下に示すようにラマヌジャンのデルタは重さ12のモジュラー形式となります。またカスプz=i(つまりq=0)において0になるカスプ形式でもあります。
 ここで出てくるラマヌジャンのτは数論的に興味深い性質を持つことで有名ですが、それはしばしばこのラマヌジャンのデルタそのものがそもそも良い性質を持っていることに起因します。ラマヌジャンのデルタが持つ良い性質の中で特に注目すべき点はzHにおいて零点を持たないことだと私は思います。
 この性質により逆数Δ(z)1zHにおいて正則であり、カスプにおいて一位の極を持つことを除けば形式的に重さ12のモジュラー形式として扱え、様々なモジュラー形式にΔ(z)1を掛けて重さ0のモジュラー形式とすることで 前回の記事 の命題5と合わせて様々な関数等式を生み出すことができます。

デデキントのイータ関数

 いまΔ(z)の保型性を確かめるためにデデキントのイータ関数
η(z)=q124n=1(1qn)(=Δ(z)124)
というものを考えましょう。イータ関数は次のフーリエ展開を持ちます。

オイラーの五角数定理

n=1(1qn)=n=(1)nqn(3n1)2
が成り立つ。特に
η(z)=n=(1)nq(6n1)224
と表せる。

  楕円関数の記事 のおまけとして示したヤコビの三重積
n=pn2wn=n=1(1p2n)(1+p2n1w)(1+p2n1w1)
においてp=q32,w=q12とすると
n=(1)nq3n2n2=n=1(1q3n)(1q3n2)(1q3n1)=n=1(1qn)
を得る。あとは
3n2n2+124=(6n1)224
に注意するとわかる。

 いま
η(z)=n=1(1)nq(6n1)224+n=0(1)nq(6n+1)224
なのでディリクレ指標χ(n)
χ(n)={1n±1(mod12)1n±5(mod12)0otherwise.
と定めると
η(z)=n=1χ(n)qn224
と表すことができます。このことからイータ関数は以下の関数等式を持ちます。

ψχ(t)=n=1χ(n)eπn2t12
とおくと
ψχ(t)=1tψχ(1t)
が成り立つ。特に
η(1z)=izη(z)
が成り立つ。

 ディリクレ指標χが法12において原始的であること、偶指標であること、実指標であることに注意すると この記事 の公式4から
ψχ(t)=12τ(χ)tψχ(1t)
が成り立つ。このときχのガウス和は
τ(χ)=n=112χ(n)e2πin12=eπi6e5πi6e5πi6+eπi6=2cosπ62cos5π6=23
と計算できるので
ψχ(t)=1tψχ(1t)
を得る。
 またψ(t)=η(it)に注意するとこれは
η(it)=1tη(1it)
と表せるのでt=izとおくことで
η(1z)=izη(z)
がわかる。

 以上によりη(z)は(擬)保型性
η(z+1)=eπi12η(z),η(1z)=izη(z)
を持つことがわかり、これを24乗することで
Δ(z+1)=Δ(z),Δ(1z)=z12Δ(z)
つまりΔ(z)は重さ12のモジュラー形式となることがわかります。

アイゼンシュタイン級数との関係

 上でも触れた通り重さk12のカスプ形式fに対しf/Δは重さk12の正則モジュラー形式となります。特にk=12のときは 前回の記事 の命題5からこれは定数関数となりf=AΔという等式が得られることとなります。
 更にE2kの正規性E2k(i)=1に注意するとアイゼンシュタイン級数とラマヌジャンのデルタは次のような関係を持つことがわかります。

Δ(z)=E4(z)3E6(z)21728
および
Δ(z)=69165520+1008691(E12(z)E6(z)2)
が成り立つ。

E4(z)3,E6(z)2,E12(z)
はそれぞれ重さ12のモジュラー形式であり、それぞれカスプz=iにおいて1となるので
E4(z)3E6(z)2,E12(z)E6(z)2
は重さ12のカスプ形式となり
E4(z)3E6(z)2Δ(z),E12(z)E6(z)2Δ(z)
は重さ0の正則モジュラー形式、つまり定数関数A,Bとなる。
 あとは
Δ(z)=q+τ(2)q2+E4(z)3=(1+240q+)3=1+3240q+E6(z)2=(1504q+)2=12504q+E12(z)=1+65520691q+
に注意すると
A=limziE4(z)3E6(z)2Δ(z)=3240+2504=1728B=limziE12(z)E6(z)2Δ(z)=65520691+2504=65520+1008691691
を得る。

モジュラー形式の基底

 重さkのモジュラー形式、カスプ形式全体の集合をそれぞれMk=Mk(Γ),Sk=Sk(Γ)とおくとこれらはC上の線形空間となります。さらにその次元は有限であり、その基底はアイゼンシュタイン級数で表現できることがわかります。以下でその次元や基底がどう表現されるのか見ていきましょう。

補題

 ω=e2πi3とおくと
E4(i)0,E6(i)=0
E4(ω)=0,E6(ω)0
が成り立つ。

E4(ω)=E6(i)=0
であることは 前回の記事 の命題8系として示した。
E4(i),E6(ω)0
であることは、任意のzHΔ(z)0であることと
E4(z)3E6(z)2=1728Δ(z)
であったことから、E4(ω)=E6(i)=0と合わせてわかる。

Mk=CEkSk(k4)Sk=ΔMk12(k12)
が成り立つ。

 任意のfMk(k4)に対しa0=f(i)とおくとfa0Ekはカスプにおいて0になるのでこれはSkの元となり、したがって
Mk=CEkSk(k4)
を得る。(直和であることは明らか)
 また任意のfSk(k12)に対しg=f/Δは重さk12の正則モジュラー形式となり、逆に任意のgMk12に対しf=Δgは重さkのカスプ形式となるので
Sk=ΔMk12(k12)
を得る。

 M0=C,M2=0および
Mk=CEk(4k10)Sk=0(0k10)
が成り立つ。

 M0=C 前回の記事 の命題5そのものである。
 いま任意のfSk(k<12)に対しf12/Δkは例のごとく定数関数となるが、これはカスプz=iを少なくとも12k位の零点に持つのでf12/Δk=0となることがわかる。したがって
Sk=0(0k10)
および
Mk=CEkSk=CEk(4k10)
を得る。
 また任意のfM2に対しfE4M6=CE6なのであるcCfE4=cE6が成り立つが、補題8より
c=f(i)E4(i)E6(i)=0
つまりf=0となることがわかる。したがってM2=0を得る。

Mkの次元と基底

dimMk={k12+1k2(mod12)k12k2(mod12)dimSk={0k<12dimMk12k12
が成り立つ。

 dimSkについてはk<12において補題10より、k12において補題9からわかる。
 dimMkについては補題13より0k10において
dimMk={1k2(mod12)0k2(mod12)
と求まり、補題12よりk12において
dimMk=dim(CEk)+dim(Sk)=1+dimMk12
という漸化式が成り立つことからわかる。

Mk=4a+6b=ka,b0CE4aE6b
が成り立つ。

Mk=4a+6b=ka,b0CE4aE6b
とおくと0k10において
M0=C,M2=0,M4=CE4,M6=CE6,M8=CE42,M10=CE4E6
であるので
(E8E42)S8=0
(E10E4E6)S10=0
つまりE8=E42,E10=E4E6に注意すると
Mk=CEk=Mk(0k10)
がわかる。
 いまMk12=Mk12が成り立っているとする。このとき任意に4a+6b=kなる非負整数a,bを取ると、補題9と同様にして
Mk=CE4aE6bSk=CE4aE6bΔMk12=CE4aE6b(E43E62)Mk12Mk
がわかるので、明らかにMkMkであることから
Mk=Mk
を得る。

直和であること

 上では触れていなかったが
4a+6b=ka,b0CE4aE6b
が直和であることは次にようにしてわかる。
 いまあるr個の複素数cl0と異なる非負整数の組al,bl(4al+6bl=k)があって
l=1rciE4alE6bl=0
が成り立つとする。このときblのなかで最小のものをbjとすると
l=1rclE4(i)alE6(i)blbj=cjE4(i)aj=0
となるがE4(i)0なのでcj=0であり、これはclの取り方に反する。
 よってE4aE6b(4a+6b=k,a,b0)C上線形独立である。

おまけ:モジュラー形式の微分

 上ではモジュラー形式のなす環
M=k=0Mk
E4,E6によって生成される、つまり
M=C[E4,E6]
となることを見ました。
 さて余談ですがE2,E4,E6は次のような微分関係式を持つことが知られています(証明については 便利さんの記事 などをご参照ください)。
12πidE2dz=E22E41212πidE4dz=E2E4E6312πidE6dz=E2E6E422
このことからME2を付加したもの
M~=M[E2]=C[E2,E4,E6]
は微分演算に対して閉じた環となったりします。
 ちなみにこの環M~のことはring of quasimodular forms(準モジュラー形式環)と言います。

ラマヌジャンのτ関数

 以上がモジュラー形式の基本的な理論の一端となりますが、折角なので発展的な話としてラマヌジャンのτ関数の持つ性質についても解説していこうと思います。

漸化式と乗法性

 素数pに対しMordell作用素Tp
Tpf(z)=1pl=0p1f(z+lp)+p11f(pz)
によて定めると
TpΔ(z)=τ(p)Δ(z)
が成り立つ。

 TpΔ(z)が重さ12のモジュラー形式であること、およびTpΔ(z)Δ(z)がカスプz=iにおいてτ(p)となることを示せばよい。

TpΔ(z)がモジュラー形式であること

 TpΔ(z+1)=TpΔ(z)であることは簡単にわかる。
 TpΔ(1/z)=z12TpΔ(z)を確かめるには
TpΔ(1z)=1pl=1p1Δ(1+lzpz)+1pΔ(1pz)+p11Δ(pz)=1pl=1p1Δ(lz1pz)+p11z12Δ(pz)+z12pΔ(zp)
より
l=1p1Δ(lz1pz)=z12l=1p1Δ(z+lp)
となることを示せばよい。
 そのことは1lp1に対してll1(modp)なる1lp1を取りk=(ll+1)/pとおくと
(lkpl)SL(2,Z)
かつ
(l1p0)=(lkpl)(1l0p)
が成り立つことから
l=1p1Δ((l1p0)z)=l=1p1Δ((lkpl)(1l0p)z)=l=1p1(pz+lpl)12Δ(z+lp)=z12l=1p1Δ(z+lp)
とわかる。

比がτ(p)であること

1pl=0p1Δ(z+lp)=1pl=0p1n=1τ(n)e2πinz+lp=n=1τ(n)(1pl=1p1e2πinlp)qnp=n=1τ(pn)qn
に注意すると
limziTpΔ(z)Δ(z)=limq0(τ(p)q+τ(2p)q2+)+p11(qp+τ(2)q2p+)q+τ(2)q2+=τ(p)
を得る。

 素数pと自然数nに対して漸化式
τ(pn)+p11τ(np)=τ(p)τ(n)
が成り立つ。ただし自然数ではない実数xに対してはτ(x)=0と定める。

 補題6とその証明で見たように
TpΔ(z)=n=1τ(pn)qn+p11n=1τ(n)qpn=τ(p)n=1τ(n)qn=τ(p)Δ(z)
が成り立ってるのでこの両辺のqnの係数に注意するとわかる。

 ラマヌジャンのτ関数は乗法性を持つ。つまり任意の互いに素な自然数m,nに対しτ(mn)=τ(m)τ(n)が成り立つ。

 任意の素数pと自然数k,n(pn)に対して
τ(pkn)=τ(pk)τ(n)
が成り立つことを示せばよい。kについての数学的帰納法で示す。
 k=0のときはτ(1)=1に注意すると
τ(p0n)=1τ(n)=τ(p0)τ(n)
と、k=1のときは定理14およびτ(np)=0に注意すると
τ(pn)=τ(p)τ(n)p11τ(np)=τ(p)τ(n)
とわかる。
 いまlkにおいて
τ(pln)=τ(pl)τ(n)
が成り立つとすると定理14においてnpkn,npk+1とすることで
τ(pk+1n)+p11τ(pk1n)=τ(p)τ(pkn)τ(pk+1)+p11τ(pk1)=τ(p)τ(pk)
がわかるので
τ(pk+1n)=τ(p)τ(pkn)p11τ(pk1n)=(τ(p)τ(pk)p11τ(pk1))τ(n)=τ(pk+1)τ(n)
l=k+1においても
τ(pln)=τ(pl)τ(n)
が成り立つことがわかる。

二次のオイラー積

 ラマヌジャンのL関数を
L(s,Δ)=n=1τ(n)ns
と定めるとこれはオイラー積表示
L(s,Δ)=p:prime11τ(p)ps+p11p2s
を持つ。

 τ(n)の乗法性より
L(s,Δ)=n=1τ(n)ns=p:primen=1τ(pn)pns
と分解できるのでx=psに対して
n=1τ(pn)xn=11τ(p)x+p11x2
が成り立つことを示せばよい。
 いま定理14においてn=pk1(k1)とした式
τ(pk)+p11τ(pk2)=τ(p)τ(pk1)
から
k=0(τ(pk)τ(p)τ(pk1)+p11τ(pk2))xk=(τ(p0)τ(p)τ(p1)+p11τ(p2))x0=1
であって、また
k=0(τ(pk)τ(p)τ(pk1)+p11τ(pk2))xk=k=0τ(pk)xkk=0τ(p)τ(pk)xk+1+k=0p11τ(pk)xk+2=k=0τ(pk)xk(1τ(p)x+p11x2)
なので
(1τ(p)x+p11x2)k=0τ(pk)xk=1
すなわち
n=1τ(pn)xn=11τ(p)x+p11x2
を得る。

 ちなみにここで現れるxについての二次式
1τ(p)x+p11x2
の判別式D=τ(p)24p11が常に負である、つまり
|τ(p)|<2p112
が成り立つことを主張するのがラマヌジャン予想と呼ばれています。ラマヌジャン予想は長年未解決でありましたが1974年に肯定的に解決されたそうです。

ラマヌジャンの合同式

ラマヌジャンの合同式

τ(n)σ11(n)(mod691)
が成り立つ。特に素数pに対して
τ(p)1+p11(mod691)
が成り立つ。

 定理7
(65520+1008691)Δ(z)=691E12(z)691E6(z)2
の両辺において
Δ(z)=n=1τ(n)qnE6(z)2=(1504n=1σ5(n)qn)2691E12(z)=691+65520n=1σ11(n)qn
の各係数が整数であることに注意して、法691で係数を比較すると
65520τ(n)65520σ11(n)(mod691)
がわかり、65520691と互いに素なので
τ(n)σ11(n)(mod691)
を得る。

参考文献

投稿日:2021330
更新日:2024113
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. ランベルト級数
  3. アイゼンシュタイン級数
  4. $q$-展開
  5. 重さ$2$のアイゼンシュタイン級数
  6. ラマヌジャンのデルタ
  7. デデキントのイータ関数
  8. アイゼンシュタイン級数との関係
  9. モジュラー形式の基底
  10. 補題
  11. $M_k$の次元と基底
  12. おまけ:モジュラー形式の微分
  13. ラマヌジャンの$\tau$関数
  14. 漸化式と乗法性
  15. 二次のオイラー積
  16. ラマヌジャンの合同式
  17. 参考文献