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大学数学基礎解説
文献あり

リーマン予想による素数定理の精密化

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はじめに

 この記事では リーマン予想の記事 において紹介した
『リーマン予想が真|π(x)Li(x)|<Cxlogx(x0)
という関係において、この右側の主張を具体的に
|π(x)Li(x)|<18πxlogx(x2657)
と評価できることを示します。ついでにこの不等式は
|ψ(x)x|<18πxlog2x(x73.2)

|ϑ(x)x|<18πxlog2x(x599)
という不等式に置き換えられることも(暗に)示されます。

用語について

 この記事では前の記事で使っていない記法やここでしか使われない表記がいくつかあるのでそれらについてまず触れておきます。

ρ,β,γ
 特筆がなければ基本的にρ=β+iγはそれぞれリーマンゼータ関数の非自明な零点とその実部、虚部を表わすものとします。特に総和記号の下にγについての条件が現れるときはγが条件を満たすようにρが動くものとします(これは一般的な記法です)。

N(T),F(T),R(T)
 N(T) 前の記事 と同じく
N(T)=0<γT1
とし、F(T),R(T)については
F(T)=T2πlogT2πT2π+78R(T)=0.137logT+0.443loglogT+1.588
と定めます(これはここだけの表記となります(多分))。
  前の記事 では
N(T)=F(T)+O(logT)
が成り立つことを示しましたが、より精密には
|N(T)F(T)|R(T)(T2)
が成り立つことが知られています(この記事では証明しません)。
 またこれは今回参考にした文献(1975,1976)が参照している文献(1941)の結果であって、2014年の論文では
|N(T)F(T)|0.112logT+0.278loglogT+2.51+0.2T(Te)
とあるようにR(T)の各係数はもっと精密化され続けています。ただ、そこら辺を突き詰めだすとキリがないのでこの記事では元論文に倣って先の不等式を採用するものとします。

証明のあらすじ

 まず不等式|N(T)F(T)|R(T)とリーマン予想を使ってチェビシェフ関数ψ(x)の素数公式
ψ(x)=xρxρρ12log(1x2)log2π
における振動項ρxρρの大きさを推定します。そしてその評価から
|ψ(x)x|<18πx(logx2)logx(x23108)
および
|ϑ(x)x|<18πx(logx2)logx(x23108)|ϑ(x)x|<18πxlog2x(x599)
を示します。あとはπ(x)ϑ(x)間の関係式
π(x)Li(x)=ϑ(x)xlogx+2xϑ(t)ttlog2tdt+2log2Li(2)
を使ってx23108において
|π(x)Li(x)|<18πxlogx
が成り立つことを示し、2657x<23108については数値計算で埋め合わせればいい。といった具合になります。

ψ1(x)の素数公式

 リーマンゼータ関数を起点とした素数論ではπ(x),ψ(x)の素数公式よりψ1(x)の素数公式を考察する方が好まれます。その素数公式というのは

ψ1(x)=0xψ(t)dt
とおいたとき
ψ1(x)=x22ρxρ+1ρ(ρ+1)xlog2πn=1x2n+12n(2n1)+ζ(1)ζ(1)
が成り立つ。

というものになっています。どうしてこっちの方が都合がいいのかというとそれは振動項ρxρ+1ρ(ρ+1)が絶対収束することにあります。ψ(x)の素数公式では振動項ρxρρが条件収束となっているので安易に三角不等式すら使えません。これは振動項の挙動を考察する素数論においては大きなデメリットとなってしまいます。そういうわけで振動項に三角不等式を使ったり積分や極限の順序交換をしたりできるψ1(x)が重宝されるわけなのです。

  素数公式の記事 で示した式
ψ(x)=12πiσiσ+iζ(s)ζ(s)xssds
を積分することで
ψ1(x)=12πiσiσ+iζ(s)ζ(s)xs+1s(s+1)ds
が成り立つ。
 また同記事で示した部分分数展開公式
ζ(s)ζ(s)1s=1s1log2πsρ1ρ(sρ)+n=112n(s+2n)
s+1で割り、ヘヴィサイドの展開公式を思い出すことで
ζ(s)ζ(s)1s(s+1)=12(s1)log2πsρ1ρ(ρ+1)(sρ)n=112n(2n1)(s+2n)+ζ(1)ζ(1)1s+1
がわかるのでこれを
1xaxs1dx=1sa12πiσiσ+ixssads=xa
に注意して逆メリン変換することで
ψ1(x)=x22ρxρ+1ρ(ρ+1)xlog2πn=1x2n+12n(2n1)+ζ(1)ζ(1)
を得る。

 ちなみに
n=1x2n+12n(2n1)=n=1x2nx2n+n=11(2n1)x2n1=12xlog(1x2)+12log1+x11x1
と表せます。

振動項ϕ(x)の評価

ϕ(x)=ψ(x)x+12log(1x2)+log2π=ρxρρKm(x,h)=0h0h0hϕ(x+t1+t2++tm)dt1dt2dtmfm,n,a(x,h,t)=Km(x,h)hn+12nhatha1
と定める。このとき
0hfm,n,a(x,h,t+t0)dt0=(Km(x,h)hn+12nha)h12(2th+h2)ha1=fm,n1,a+1(x,h,t)
およびfm,0,a(x,h,0)=Km(x,h)より
Km(x,h)=0h0h0hfm,n,a(x,h,t1+t2++tn)dt1dt2dtn
が成り立つことに注意する。

 fm(x,h,t)=fm,m,1(x,h,t)とおいたとき

  • h>0ならば、ある0tmhが存在してϕ(x+t)fm(x,h,t)が成り立ち、
  • h<0ならば、あるmht0が存在してϕ(x+t)fm(x,h,t)が成り立つ。

 h>0のとき、任意の0tmhに対してϕ(x+t)>fm(x,h,t)が成り立つとすると
Km(x,h)=0h0h0hϕ(x+t1+t2++tm)dt1dt2dtm>0h0h0hfm(x,h,t1+t2++tm)dt1dt2dtm=Km(x,h)
となって矛盾。
 h<0のときも同様に、任意のmht0に対してϕ(x+t)<fm(x,h,t)が成り立つとすると
(1)mKm(x,h)=h0h0h0ϕ(x+t1+t2++tm)dt1dt2dtm<h0h0h0fm(x,h,t1+t2++tm)dt1dt2dtm=(1)mKm(x,h)
となって矛盾。よって主張を得る。

 任意の0<δ<(x1)/xm(x>1)に対し
ε±1=Km(x,±δx)(±x)m+1δm+mδ2
とおくと
ε1ϕ(x)xε1
が成り立つ。

 右側の不等号についてはh=δxに対して補題2を考えると、ある0tmδxがあって
ψ(x+t)(x+t)+12log(1(x+t)2)+log2πKm(x,δx)xmδm+mδx2t
つまり
ψ(x+t)x+12log(1(x+t)2)+log2πε1x
が成り立つ。またそれぞれの単調性から
ψ(x)ψ(x+t)log(1x2)log(1(x+t)2)
であることに注意すると
ψ(x)x+12log(1x2)+log2π=ϕ(x)ε1x
を得る。
 左側の不等号も同様にあるmδxt0があって
ψ(x+t)x+12log(1(x+t)2)+log2πε1x
が成り立ち、単調性から
ψ(x)ψ(x+t)log(1x2)log(1(x+t)2)
なので結局ϕ(x)ε1xを得る。

Km(x,±δx)の評価

Km(x,h)=ρ1ρ0h0h0h(x+t1+t2++tm)ρdt1dt2dtm

 まずψ(x)ψ1(x)の素数公式
ψ=xlog2πn=0x2n2n+ϕ(x)0xψ(x)dx=x22xlog2π+n=0x2n+12n(2n+1)ρxρ+1ρ(ρ+1)
を見比べることで
0hϕ(x+t1)dt1=ρ(x+h)ρxρρ(ρ+1)=ρ1ρ0h(x+t1)ρdt1
が成り立つことがわかる。
 またこの右辺は絶対収束していたので級数と積分が交換でき、
Km(x,h)=0h0h(0hϕ(x+t1+t2++tm)dt1)dt2dtm=ρ1ρ0h0h0h(x+t1+t2++tm)ρdt1dt2dtm
を得る。

 h=±δxに対し
|0h0h0h(x+t1+t2++tm)ρdt1dt2dtm|xβ+mδm2+mδ2
が成り立つ。

|0h0h0h(x+t1+t2++tm)ρdt1dt2dtm||0h0h0h(x+|t1|+|t2|++|tm|)βdt1dt2dtm|=0|h|0|h|0|h|(x+t1+t2++tm)βdt1dt2dtm=0δ0δ0δxβ(1+u1+u2++um)β(xdu1)(xdu2)(xdum)(tk=xuk)xβ+m0δ0δ0δ(1+t1+t2++tm)dt1dt2dtm=xβ+mδm2+mδ2
のようにしてわかる。(積分の値については漸化式Im+1=δIm+12δm+2からわかる。)

 h=±δxに対して
|0h0h0h(x+t1+t2++tm)ρdt1dt2dtm|xβ+m((1+δ)m+1+1)m|γ|m
が成り立つ。

 左辺の積分を計算すると
1(ρ+1)(ρ+2)(ρ+m)j=0m(1)mj(mj)(x+jh)ρ+m=xρ+m(ρ+1)(ρ+2)(ρ+m)j=0m(1)mj(mj)(1±jδ)ρ+m
となり、0<δ<(x1)/mx<1/mおよびβ<1より
|(1±jδ)ρ+m|=(1±jδ)β+m<(1+jδ)m+1<((1+δ)j)m+1
に注意すると
|j=0m(1)mj(mj)(1±jδ)ρ+m|j=0m(mj)((1+δ)m+1)j=((1+δ)m+1+1)m
なのであとは|z||Im(z)|に注意すればわかる。

 リーマン予想が真であるとき、任意のT>0に対し
1x|ϕ(x)|1x(0<γT2+mδ|ρ|+2γ>T((1+δ)m+1+1)mδmγm+1)+mδ2
が成り立つ。

 上で示した種々の結果から
1x|ϕ(x)|max±|Km(x,±δx)|xm+1δm+mδ21xm+1δm(|γ|Txβ+mδm2+mδ2|ρ|+|γ|>Txβ+m((1+δ)m+1+1)m|ρ||γ|m)+mδ21x(20<γTxβ2+mδ2|ρ|+2γ>Txβ((1+δ)m+1+1)mδmγm+1)+mδ2
と評価できるので、あとはリーマン予想β=12からわかる。

零点についての和の評価

 (a,b)(a>1)で微分可能な非負値関数f(t)f(t)0(t(a,b))を満たすとき
a<γbf(γ)12πabf(t)logt2πdt+(0.137+0.433loga)abf(t)tdt+E(a,b)
が成り立つ。ただし
E(a,b)=(N(b)F(b)R(b))f(b)(N(a)F(a)R(a))f(a)
とした。

  アーベルの総和公式 と同様にして
a<γbf(γ)=N(b)f(b)N(a)f(a)abN(t)f(t)dt
が成り立つので
F(t)=12πlogt2πtR(t)=0.137+0.433logt0.137+0.433loga(a<t)
に注意するとN(t)<F(t)+R(t)より
a<γbf(γ)N(b)f(b)N(a)f(a)ab(F(t)+R(t))f(t)dt=E(a,b)+abF(t)f(t)dt+abtR(t)tf(t)dt12πabf(t)logt2πdt+(0.137+0.433loga)abf(t)tdt+E(a,b)
を得る。

T=(1+δ)m+1+1δ(22+mδ)1m
としたとき、T>D=158.84998であれば
0<γT2+mδ|ρ|+2γ>T((1+δ)m+1+1)mδmγm+1<2+mδ4π((logT2π+1m)2+0.038207+1m22.82m(m+1)T)
が成り立つ。

 D=158.84998について、N(D)=57および
0<γD1|ρ|<0.8113925
が知られていることを使う。これは具体的な非自明な零点の(近似)値を求めることでわかるので特に証明はしない。
 まずf(t)=1/t, a=D, b=Tについて補題8を使うことで
0<γT1|ρ|<0.8113925+D<γT1γ0.8113925+14π(log2T2πlog2D2π)+(0.137+0.433logD)(1D1T)+E<14πlog2T2π+0.0030404(0.137+0.433logD)1T+(N(T)F(T)R(T))1T
が成り立つ。ただし
0.811392514πlog2D2π+(F(D)+R(D)N(D)+0.137+0.433logD)1D<0.0030404
とした。

>>> from numpy import log,pi
>>> d=158.84998
>>> c=d/(2*pi)
>>> N=57
>>> F=c*log(c)-c+7/8
>>> R=0.137*log(d)+0.443*log(log(d))+1.588
>>> 0.8113925-(log(c))**2/(4*pi)+(F+R-N+0.137+0.443/log(d))/d
0.003040395970144244

 また
1tm+1logt2πdt=1+mlog(t/2π)m2tm+C
に注意してf(t)=1/tm+1,a=T,b=について補題7を使うことで
γ>T1γm+11Tm(12πmlogT2π+12πm2+(0.137+0.433logT)1(m+1)T(N(T)F(T)R(T))1T)<δm(2+mδ)2((1+δ)m+1+1)m(14π(2mlogT2π+2m2)+(0.137+0.433logD)1(m+1)T(N(T)F(T)R(T))1T)
が成り立つので、さっきの不等式と合わせて
0<γT2+mδ|ρ|+2γ>T((1+δ)m+1+1)mδmγm+1<2+mδ4π((logT2π+1m)2+4π0.0030404+1m2(0.137+0.433logD)(11m+1)4πT)<2+mδ4π((logT2π+1m)2+0.038207+1m22.82m(m+1)T)
を得る。ただし
4π0.0030404<0.038207
4π(0.137+0.433logD)>2.82
とした。

>>> from numpy import log,pi
>>> 4*pi*0.0030404
0.03820679321589763
>>> 4*pi*(0.137+0.443/log(d))
2.8200430232286395

ψ(x),ϑ(x)の評価

 リーマン予想が真であるとき
|ψ(x)x|<18πx(logx2)logx(x23108)|ϑ(x)x|<18πx(logx2)logx(x23108)
が成り立つ。

 まず任意にξ82800を取ってxξにおいて
m=1,δ=logxπx
として定理7,9を適用する。
 このとき
δ=1logxlog2xπxα1logxα2
ただし
α1=log2ξπξ,α2=logξπξ<0.0126
と評価でき、また
T=(1+δ)m+1+1δ(22+mδ)1m=2(2+2δ+δ2)δ(2+δ)=2(1δ+112+δ)2(10.0126+112)>158.84998=DlogT2π+1m=log1πδ+log(1+δ(1+δ)2+δ)+1logxlogx+(log(1+δ1)+1)12(logx2loglogx+2(1+δ1))12(logxα3)
ただし
δ1=α2(1+α2)2+α2<0.00634,α3=2loglogξ2(1+δ1)>2.841
と評価できることに注意する。

>>> from numpy import log,pi,sqrt
>>> xi=82800
>>> a2=log(xi)/(pi*sqrt(xi))
>>> a2
0.012526849246324731
>>> 2*(1/0.0126+1-1/2)
159.73015873015873
>>> d1=a2*(1+a2)/(2+a2)
>>> d1
0.006302410923419406
>>> a3=2*log(log(xi))-2*(1+d1)
>>> a3
2.841276293240455

 いま定理7,9から
1x|ψ(x)x|=1x|ϕ(x)12log(1x2)log2π|<2+δ4πx((logT2π+1m)2+0.038207+12.822T)+δ2+1x|12log(1x2)+log2π|<18πx(1+α12logx)((logxα3)2+41.038207)+logx2πx+1xlog2π18πx(1+α12logx)(log2xα4logx)+logx8πx(4+8πlog2πxlogx)18πx(log2xα5logx)18πxα1α42
ただし
α4=2α3α32+4.152828logξ,α5=a4α1248πlog2πξlogξ
と評価できる。
 ここで2xx2/a0xaで単調増加であり、またα3<2loglogξ<logξであることに注意すると
α4>22.8412.8412+4.152828logξ>0
となるので、結局
|ψ(x)x|<18πx(logxα5)logx
と評価できることになる。

>>> from numpy import log
>>> xi=82800
>>> 2*2.841-(2.841**2+4.152828)/log(xi)
4.602530634962593

 そして
0ψ(x)ϑ(x)<ϑ(x)+3x13(x>0)
および
ϑ(x)<1.02x(x>0)
が成り立つことが知られているので
|ϑ(x)x|<|ψ(x)x|+1.02x+3x13<18πx(logxα6)logx
ただし
α6=α58.16πlogξ24πξ16logξ
と評価でき、ξ82800は任意であったのでξ=23108とおくことでα5>α6>2となり主張を得る。

>>> from numpy import sqrt,power,log,pi
>>> xi=23*10**8
>>> a2=log(xi)/(pi*sqrt(xi))
>>> d1=a2*(1+a2)/(2+a2)
>>> a3=2*log(log(xi))-2*(1+d1)
>>> a4=2*a3-(a3**2+4.152828)/log(xi)
>>> a5=a4-a2*log(xi)/2-4-8*pi*log(2*pi)/(sqrt(xi)*log(xi))
>>> a6=a5-8.16*pi/log(xi)-24*pi/(power(xi,1/6)*log(xi))
>>> a6
2.00704868502812

 リーマン予想が真であるとき
|ψ(x)x|<18πxlog2x(x73.2)|ϑ(x)x|<18πxlog2x(x599)
が成り立つ。

 定理9と同様に評価し、ξ=e16<107とおくことでα5>α6>0がわかるのでxe16においては所望の不等式が成り立つ。

>>> from numpy import sqrt,power,log,pi,e
>>> xi=e**16
>>> a2=log(xi)/(pi*sqrt(xi))
>>> d1=a2*(1+a2)/(2+a2)
>>> a3=2*log(log(xi))-2*(1+d1)
>>> a4=2*a3-(a3**2+4.152828)/log(xi)
>>> a5=a4-a2*log(xi)/2-4-8*pi*log(2*pi)/(sqrt(xi)*log(xi))
>>> a6=a5-8.16*pi/log(xi)-24*pi/(power(xi,1/6)*log(xi))
>>> a6
0.09834137524507225

 x<e16においては数値計算で示すのも現実的だが、元論文に倣ってもう少し不等式評価しておく。
 いま0<x108において
0<xϑ(x)<2.05282x
が成り立つことが知られているので1400x<e16においては
|ϑ(x)x|<2.05282log21400xlog2x<18πxlog2x
と評価できる。
 また
0ψ(x)ϑ(x)<ϑ(x)+3x13(x>0)
が知られていたことを思い出すと1400x<e16において
ψ(x)xϑ(x)x>18πxlog2xψ(x)x<ψ(x)ϑ(x)<x+3x131log21075(1+3107516)xlog2x<18πxlog2x
と評価できる。

>>> from numpy import log,pi
>>> 2.05282/(log(1400)**2)
0.03911710512821552
>>> (1+3/power(1075,1/6))/log(1075)**2
0.039763115286937885
>>> 1/(8*pi)
0.039788735772973836

 x<1400については数値計算で示せばよい。実際にxψ(x)を緑、xϑ(x)を橙、±xlog2x/8πを黄色としてグラフで見てみると次のようになっている。
x≤1500での様子 x≤1500での様子
x≤650での様子 x≤650での様子
x≤100での様子 x≤100での様子
(これを見る限り|ψ(x)x|<xlog2x/8πx59で成り立っていそうだが...?)

π(x)の評価

 リーマン予想が真であるとき
|π(x)Li(x)|<18πxlogx(x2657)
が成り立つ。

  この記事 で示したように
π(x)Li(x)=ϑ(x)xlogx+2xϑ(t)ttlog2tdt+2log2Li(2)
が成り立つので、ξ599において
ξ=ϑ(ξ)ξlogξ(π(ξ)Li(ξ))=2ξϑ(t)ttlog2tdt(2log2Li(2))
とおくとx23108において
|π(x)Li(x)|<|ϑ(x)xlogx+ξxϑ(t)ttlog2tdtξ|18πx(logx2)+18πξxdtt+|ξ|=18πxlogx+|ξ|ξ4π
と評価できる。いまξ=108とおくとξ89.71<7853.98ξ/4πとなるので所望の不等式が成り立つ。
 x<23108においては数値計算で示すのも現実的ではあるが、元論文に倣ってもう少し不等式評価しておく。(本来li(x)のところをLi(x)=li(x)+1.04516に置き換えているのでところどころ主張を書き換えてある。)
 まずp50108なる任意の素数pについてLi(p)π(p)4613が成り立つことが知られているので5107x49108においてxより大きい素数の中で最小のものをpとおくと
|π(x)Li(x)|=Li(p)(π(p)1)4614<18πxlogx
と評価できる。(現時点でLi(x)π(x)<0となるようなxは知られていないことに注意する。)

>>> from numpy import sqrt,log,pi
>>> sqrt(x)*log(x)/(8*pi)
4987.621160107788

 4000x5107においては
0<Li(x)π(x)<2.661xlogx
が成り立つことが知られている(結局数値計算?)ことから
Li(x)π(x)<2.661log2(4000)xlogx<18πxlogx
を得る。あとは数値計算で示せばよい。
x≤4500での様子 x≤4500での様子
ちなみにli(x)π(x)をグラフにすると次のようになる。
x≤4500での様子 x≤4500での様子
これを見る限り|π(x)li(x)|<xlogx/8πx1447で成り立ちそうであるが、元論文ではあくまでx2657となっている。

おわりに

 とりあえず目的の不等式を示すことはできましたが、途中で証明なしに
|N(T)T2πlogT2πT2π+78|0.137logT+0.443loglogT+1.588(T>2)
であることと
0ψ(x)ϑ(x)<ϑ(x)+3x13(x>0)
および
ϑ(x)<1.02x(x>0)
が成り立つことを使いました。これらについてはいつか記事を書くかもしれませんし書かないかもしれません。詳しく知りたい人は こちら とか そちら を参照してください。
 ちなみにこれら以外に未証明で使った不等式は単純な数値計算で省略できますが、この証明が書かれた年代(1976)を考えるとまだ計算機器が充実していない(と思われる)以上そういうわけにはいかなかったのだと思います。個人のパソコンでもこの程度の計算はできる(多分)ことに感謝するのと同時に、パソコンの無い時代にこれだけの結果に辿り着いた先人たちの逞しさに感服する限りですね。

参考文献

[1]
Barkley Rosser, Explicit Bounds for Some Functions of Prime Numbers, American Journal of Mathematics, 1941, pp. 211-232
[2]
J. Barkley Rosser, Lowell Schoenfeld, Sharper Bounds for the Chebyshev Functions θ(x) and ψ(x), Mathematics of Computation, 1975, pp. 243-269
[3]
Lowell Schoenfeld, Sharper Bounds for the Chebyshev Functions θ(x) and ψ(x). II, Mathematics of Computation, 1976, pp. 337-360
投稿日:20211029
更新日:2024124
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子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. 用語について
  3. 証明のあらすじ
  4. $\psi_1(x)$の素数公式
  5. 振動項$\phi(x)$の評価
  6. $K_m(x,\pm\d x)$の評価
  7. 零点についての和の評価
  8. $\psi(x),\vt(x)$の評価
  9. $\pi(x)$の評価
  10. おわりに
  11. 参考文献