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応用数学解説
文献あり

回転の向きと積の順序の規約

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クリフォード代数と四元数で回転を書くときの向きと積の順序について、本シリーズで採る規約とその整合性をまとめます。

概要

クリフォード代数で回転を書く方法は、文献によって見かけが異なります。多くの文献では、回転子を$R=\exp(-\frac\theta2p)$として、ベクトルに$x\mapsto Rx\tilde R$と作用させます。$\tilde R$は$R$の反転で、ベクトルの積の順序を逆にしたものです。一方、指数の負号を嫌って$r=\exp(\frac\theta2p)$とし、$x\mapsto r^{-1}xr$と書くこともできます。四元数との対応でも、2ベクトルの基底と$i,j,k$を負号付きで対応させる書き方と、負号なしで対応させる書き方があります。

これらは見かけが違うだけで、表している回転は同じです。ただし、どちらを採るかで、式の読み方(積の順序が何を意味するか)が変わります。本シリーズでは、四元数の回転子をクリフォード代数にそのまま移すという方針で規約を定めます。出発点は次の原則です。

  • 原則:複素数の積にならい、反時計回りを正とする。反時計回りを与える元を、負号を付けずに指数の肩に乗せる。

この原則で複素数と四元数の回転を書き、四元数を双四元数を経てパウリ行列、すなわち$\operatorname{Cl}_{3,0}(\mathbb R)$へと移します。四元数の回転子をそのまま移すと、ベクトルを左から挟む$Rx\tilde R$の形になり、文献の規約と一致します。指数に現れる負号は、回転面の向きを表す2ベクトルと、左から作用して反時計回りに回す2ベクトルが、互いに反転の関係にあることから来ます。

本記事は規約の整理を目的とし、前提事項を基礎から説明することはしません。前提として、次を仮定します。

  • クリフォード代数$\operatorname{Cl}_{n,0}(\mathbb R)$の幾何積・反転$\tilde{\phantom R}$と、ベクトルによる鏡映。7shi-mir7shi-clrt
  • 2本のベクトルの幾何積の指数関数表示$ab=|a||b|\exp(\theta p)$。7shi-vge
  • 四元数の基本的な演算と、双四元数を介したパウリ行列との対応。7shi-bq

本記事は次のように進めます。

  1. 複素数:反時計回りを正とし、それを与える元を負号なしで指数に乗せます。
  2. 四元数:複素数の拡張として、軸の単位を左から掛けると反時計回りになり、回転が$qvq^{-1}$になることを見ます。
  3. 双四元数とクリフォード代数:双四元数を介して四元数を$\operatorname{Cl}_{3,0}(\mathbb R)$に移し、2ベクトルとの対応に負号が付くことを見ます。
  4. 回転子:四元数の回転子をそのまま移すと$Rx\tilde R$になり、指数の負号が回転面の向きとの関係から現れることを見ます。
  5. 外積との整合:ウェッジ積・ベクトルの積・鏡映・合成の順序が、この規約とそろうことを確かめます。
  6. 2次元と複素数:ベクトルを複素数に移す2通りの対応を比べ、四元数に拡張するときは$i\cong e_2e_1$を選ぶことを見ます。
  7. 別の書き方との関係:指数の負号を避けた$r^{-1}xr$との違いを整理します。

本記事ではユークリッド計量の場合だけを扱い、時空代数などの不定計量への適用には立ち入りません。

複素数

規約の出発点は複素数です。複素平面で$e^{i\theta}$を掛けると、$z$は原点まわりに反時計回りに角$\theta$だけ回ります。$i$を掛けると$1\mapsto i$、つまり実軸から虚軸へ向かう向きが正です。

複素数の積による回転

$$ z' = e^{i\theta}z $$

反時計回りを与える$i$を、負号を付けずにそのまま指数の肩に乗せています。複素数は可換なので、$e^{i\theta}$を左右どちらから掛けても同じです。

四元数

左からの積

四元数を複素数の拡張とみなし、$e^{i\theta}z$と同じく左から掛けます。純虚四元数をベクトルとみなすと$i,j,k$は右手系をなし、軸の単位を左から掛けると、軸に垂直な面が反時計回りに回ります。反時計回りは、軸の正方向側から原点を見たときの向きとします。

$$ \begin{aligned} ki &= j, & kj &= -i \\ ik &= -j, & jk &= i \end{aligned} $$

$k$を左から掛けると$i\mapsto j$で、$k$軸まわりに反時計回り(ベクトル積の$k\times i=j$と同じ向き)です。右から掛けると時計回りになります。

共役作用

反時計回りを与える$k$を負号なしで指数の肩に乗せ、$q=e^{\frac\theta2k}$とします。$k$と反交換する面内の成分$v_\parallel$と、可換な軸方向の成分$v_\perp$に分けると、次のようになります。

$$ qv_\parallel q^{-1}=e^{\theta k}v_\parallel, \qquad qv_\perp q^{-1}=v_\perp $$

面内の成分は左から$e^{\theta k}$を掛けたものになり、$k$軸まわりに反時計回りに角$\theta$だけ回ります。一般の単位純虚四元数$u$についても同じで、四元数の回転は$q$を左に置いた形になります。

四元数による回転

$$ v'=qvq^{-1}, \qquad q=\exp\left(\frac\theta2u\right) $$

双四元数とクリフォード代数

ベクトルの対応

四元数をクリフォード代数に移すには、双四元数$\mathbb C\otimes\mathbb H$を介します。双四元数で複素数の虚数単位を$h$と書くと、$h$は四元数と可換で、$(hi)^2=(hj)^2=(hk)^2=1$です。2乗が$1$になるこれらの元はパウリ行列に対応し、パウリ行列は$\operatorname{Cl}_{3,0}(\mathbb R)$のベクトルの基底を表します。

ベクトルの対応

$$ e_1\cong\sigma_1\cong hi, \qquad e_2\cong\sigma_2\cong hj, \qquad e_3\cong\sigma_3\cong hk $$

ベクトル$x=x_1e_1+x_2e_2+x_3e_3$は、純虚四元数$v=x_1i+x_2j+x_3k$に$h$を付けた$hv$に移ります。

2ベクトルの対応

2ベクトルと擬スカラーは次のように移ります。

$$ e_3e_2\cong(hk)(hj)=h^2kj=i, \qquad \omega=e_1e_2e_3\cong(hi)(hj)(hk)=h^3ijk=h $$

$e_1e_3\cong j$、$e_2e_1\cong k$も同様です。2ベクトルは$h^2=-1$の負号を伴って四元数に移るため、四元数との対応は添字の順が逆になります。

四元数との対応

$$ i\cong e_3e_2, \qquad j\cong e_1e_3, \qquad k\cong e_2e_1 $$

$(e_2e_3,e_3e_1,e_1e_2)$を対応させると$ij=-k$となり、左手系の三つ組になってしまいます。

パウリ行列による表示

擬スカラー$\omega=\sigma_1\sigma_2\sigma_3=iI$が$h$にあたります。$i=-h(hi)\cong-i\sigma_1$などより、上の対応は次の形になります。
$$ i\cong-i\sigma_1, \qquad j\cong-i\sigma_2, \qquad k\cong-i\sigma_3 $$
四元数の行列表現として、この負号付きの形を用います。7shi-bq7shi-qp

回転子

四元数の回転子の移し替え

四元数の回転$qvq^{-1}$を$\operatorname{Cl}_{3,0}(\mathbb R)$に移します。ベクトル$x$は$hv$に移り、$h$は可換なので$q(hv)q^{-1}=h\,(qvq^{-1})$です。したがって、回転子そのものを移せば十分です。

$k$軸まわりの回転子$q=e^{\frac\theta2k}$は、$k\cong e_2e_1$より、指数の肩をそのまま移した$e^{\frac\theta2e_2e_1}$に対応します。これを$R$とおきます。

反転$\tilde{\phantom R}$は、ベクトルの積の順序を逆にする操作です。$\widetilde{e_2e_1}=e_1e_2=-e_2e_1$のように2ベクトルの符号が変わり、スカラーは変わらないので、$\tilde R=e^{-\frac\theta2e_2e_1}=R^{-1}$です。同型は積を保つので、$q^{-1}$は$\tilde R$に移り、挟み方もそのまま移ります。

$$ qvq^{-1} \quad\longleftrightarrow\quad Rx\tilde R, \qquad q=e^{\frac\theta2k}\cong e^{\frac\theta2e_2e_1}=R $$

四元数の側で回転子を左に置いた形が、クリフォード代数でも回転子を左に置いた形として現れます。

回転面の向きと位相の符号

$e_2e_1$は$e_1e_2$の反転で、$e_2e_1=-e_1e_2$です。回転面を$e_1$から$e_2$へ向かう向きを正として$e_1e_2$で表すと、同じ回転子は位相に負号が付いた形になります。

$$ R=e^{\frac\theta2e_2e_1}=e^{-\frac\theta2e_1e_2} $$

回転面の向きを表す2ベクトルと、指数の肩に乗る2ベクトルが一致しないのは、作用する側によって回る向きが変わるためです。$e_1e_2$と$e_2e_1$を$e_1$に掛けると、次のようになります。

$$ \begin{aligned} e_1(e_1e_2) &= e_2, & (e_1e_2)e_1 &= -e_2 \\ e_1(e_2e_1) &= -e_2, & (e_2e_1)e_1 &= e_2 \end{aligned} $$

左から掛けて$e_1\mapsto e_2$と反時計回りに回すのは$e_2e_1$で、これは$k$を左から掛けて$i\mapsto j$とするのと同じ振る舞いです。面の向き$e_1e_2$は、右から掛けたときに反時計回りを与えます。四元数の回転子は左から作用するので、左から反時計回りを与える$e_2e_1$が負号なしで指数の肩に乗り、面の向き$e_1e_2$で書き直したときに位相の負号が現れます。

単純回転

一般の回転面について、回転面とその向きを単純2ベクトル$p$($p^2=-1$)で表します。左から反時計回りを与えるのはその反転$\tilde p=-p$なので、回転子は次のようになります。

回転子

$$ R=\exp\left(\frac\theta2\tilde p\right)=\exp\left(-\frac\theta2p\right)=\cos\frac\theta2-\sin\frac\theta2\,p $$

クリフォード代数における回転

$$ x'=Rx\tilde R $$

$x$の成分のうち、$p$の面内にある成分$x_\parallel$は$p$と反交換し、面に垂直な成分$x_\perp$は$p$と可換です。そのため次のようになります。

$$ Rx_\parallel\tilde R=R^2x_\parallel=e^{-\theta p}x_\parallel=x_\parallel\,e^{\theta p}, \qquad Rx_\perp\tilde R=x_\perp $$

面内の成分は、左から$e^{\theta\tilde p}$を掛けたもの、あるいは右から$e^{\theta p}$を掛けたものになり、垂直な成分は動きません。任意の次元では、反時計回りは$p$が定める正の向きを指します。この形は次元によらないため、$Rx\tilde R$は任意の次元で$p$の面での単純回転を表します。4次元以上の一般の回転は単純回転の回転子の積で表され、作用の形は同じです。

外積との整合

符号付き面積としての外積

2ベクトルを2本のベクトルのウェッジ積から作るときは、回転面の向きを表す側の読みを使います。2次元では次のようになります。

$$ a\wedge b=(a_1b_2-a_2b_1)\,e_1e_2=|a||b|\sin\theta\,e_1e_2 $$

係数$a_1b_2-a_2b_1$は、$a$と$b$が張る平行四辺形の符号付き面積です。$\theta$は$a$から$b$へ反時計回りに測った角度で、$-\pi<\theta\le\pi$の範囲を動きます。$a$から$b$へ反時計回りに回るとき($0<\theta<\pi$)に正となるのは、擬スカラー$e_1e_2$($e_1$から$e_2$への向き)を正に選んでいるためです。つまり$a\wedge b$は「$a$から$b$へ」の向きを持つ面で、ウェッジ積の左右の順序がそのまま回る向きを表します。この読みでは、$ab=a\cdot b+a\wedge b=|a||b|e^{\theta e_1e_2}$が$\sin\theta\ge0$という制限を設けずに成り立ちます。

順序を入れ替えた$ba$は$ab$の反転で、$b\wedge a=-a\wedge b$より、同じ符号付き面積が$e_2e_1$の係数として現れます。

$$ ba=a\cdot b+(a_1b_2-a_2b_1)\,e_2e_1=|a||b|e^{\theta e_2e_1} $$

$ab$が面の向きを$e_1e_2$でそのまま表すのに対し、$ba$はその向きに回す作用を$e_2e_1$で表しています。実際、$(ba)a=|a|^2b$であり、$ba$は$a$に左から掛けると$b$の向きへ移す元です。

3次元以上では、2本のベクトルが張る面が組ごとに異なり、すべての面に共通する向きの基準がありません。そこで、大きさと向きを分けて書きます。以下では$a,b\ne0$とし、まず$a,b$が平行でない場合を考えます。

$$ a\wedge b=|a\wedge b|\,p, \qquad p=\frac{a\wedge b}{|a\wedge b|} \quad(p^2=-1) $$

大きさを$|a\wedge b|=|a||b|\sin\theta\ge0$として$0\le\theta\le\pi$とし、向きは単位2ベクトル$p$が担います。これは極座標表示で大きさを非負とし、向きを単位ベクトルに担わせるのと同じ考え方で、向きの情報を$p$に持たせるため、平行でない配置はすべて表せます。$p\mapsto-p$が、2次元での$\theta\mapsto-\theta$にあたります。平行($\theta=0$)・反平行($\theta=\pi$)の場合は$a\wedge b=0$で、幾何積はスカラーになり、$p$の規格化は不要です。指数表示を使うときは、両ベクトルを含む平面の単位2ベクトルを別に選びます。

ベクトルの積としての回転子

回転子は2本の単位ベクトル$m,n$の積としても得られます。$m$から$n$への角を$\alpha$とし、回転角を$\theta=2\alpha$とします。$m,n$が平行でないとき、$p=m\wedge n/|m\wedge n|$を「$m$から$n$へ」の向きの面とすると、$n\wedge m=-m\wedge n$より次のようになります。

$$ R=nm=n\cdot m+n\wedge m=\exp\left(-\frac\theta2p\right) $$

位相の負号は、ウェッジ積の順序が$n\wedge m$と逆になることに現れています。2次元では、$R=nm$は前節の$ba$と同じ並びです。$R$は$m$から$n$へ向かう回転を、その角$\alpha$の2倍で表します。$m,n$が平行($\alpha=0,\pi$)の場合は$R=\pm1$で、$m\wedge n=0$から回転面は復元できません。また$m^2=1$より次が成り立ち、$R$は$m$に左から掛けると$n$に移す元です。

$$ (nm)\,m=n $$

鏡映との関係

単位ベクトル$n$を法線とする超平面に関する鏡映は$v\mapsto-nvn$です。$m$による鏡映のあとに$n$による鏡映を施すと、符号は打ち消し合い、次のようになります。

$$ -n(-mvm)n=(nm)\,v\,(mn)=Rv\tilde R $$

先に施す$m$が回転子$R=nm$の右側に来ます。回転子の作用$Rv\tilde R$の左側を見れば、鏡映を施す順に右から左へ並んでいます。

合成の順序

$R_1$による回転のあとに$R_2$による回転を施すと、次のようになります。

$$ R_2\left(R_1x\tilde R_1\right)\tilde R_2=(R_2R_1)\,x\,\widetilde{(R_2R_1)} $$

合成した回転子は$R_2R_1$で、後から施すものが左に来ます。群作用としては左作用で、写像の合成$\rho_2\circ\rho_1$や行列の積と同じ並びです。四元数でも$p(qvq^{-1})p^{-1}=(pq)v(pq)^{-1}$で、同じ並びになります。

ここまでをまとめると、本シリーズの規約では次のようになります。

  • ウェッジ積:$m\wedge n$は$m$から$n$への向きで、回転面の向き$p$を与える
  • 左乗算:$(nm)\,m=n$
  • 鏡映:$R=nm$は$m$のあとに$n$
  • 合成:$R_2R_1$は$R_1$のあとに$R_2$

作用に関わる積(左乗算・鏡映・合成)は、写像の合成と同じく右から左へ読みます。ウェッジ積だけが面の向きとして左から右へ読み、その食い違いが位相の負号として現れます。

擬スカラーと向き

ここでは3次元に戻ります。四元数では純虚四元数がベクトルを表しますが、クリフォード代数でそれに対応するのは2ベクトルで、$e_3e_2=-\omega e_1$のように擬スカラー$\omega$を介してベクトルと結び付きます。$\omega$はすべての元と可換なので、次が成り立ちます。
$$ R(\omega x)\tilde R=\omega\,(Rx\tilde R) $$
ベクトルと2ベクトルは同じ作用で同じ向きに回り、$\omega$を掛けることは回転の向きにも挟み方にも影響しません。対応の負号は、グレードの違いではなく、2ベクトルの並び順($h^2=-1$)から来ています。

2次元と複素数

2通りの対応

2次元に限ると、回転は出発点の複素数に戻ります。ベクトル$v=xe_1+ye_2$を偶部分に移すには、$e_1$を左右どちらから掛けてもかまいません。

$$ e_1v=x+y\,e_1e_2, \qquad ve_1=x+y\,e_2e_1 $$

$e_1e_2$と$e_2e_1$はどちらも2乗が$-1$なので、どちらを$i$と対応させても$z=x+iy$が得られます。左から掛ければ$i\cong e_1e_2$、右から掛ければ$i\cong e_2e_1$です。$ve_1$は$e_1v$の反転で、反転は2ベクトルの符号を変えるので、偶部分と複素数の同一視を一方に固定すれば、両者は複素共役に対応します。一方、それぞれ$e_1e_2$、$e_2e_1$を$i$と同一視すれば、どちらも$x+iy$に移ります。

ベクトルの積

ベクトル$a,b$に対応する複素数も同じ文字で表します。間に$e_1e_1=1$を挟むと、2本のベクトルの積が複素数の積に移ります。$ae_1$は$e_1a$の反転なので、一方の因子は複素共役に移ります。

$$ \begin{aligned} ab&=(ae_1)(e_1b)\;\longleftrightarrow\;a^*b &&(i\cong e_1e_2) \\ ba&=(be_1)(e_1a)\;\longleftrightarrow\;a^*b &&(i\cong e_2e_1) \end{aligned} $$

$a^*b=|a||b|e^{i\theta}$は、実部が内積、虚部が$a$から$b$への符号付き面積です。左から掛ける対応では、幾何積$ab=|a||b|e^{\theta e_1e_2}$がそのままの並びで$a^*b$に移ります。右から掛ける対応では、順序を入れ替えた$ba=|a||b|e^{\theta e_2e_1}$が$a^*b$に移ります。2次元だけを見れば、幾何積の並びがそのまま移る$i\cong e_1e_2$の方が素直です。

回転

回転子$R=e^{-\frac\theta2e_1e_2}$による回転は、どちらの対応でも$z\mapsto e^{i\theta}z$に移ります。$e_1$は$e_1e_2$と反交換するので$e_1R=\tilde Re_1$であり、偶部分どうしは可換なので、次のようになります。

$$ e_1(Rv\tilde R)=\tilde R(e_1v)\tilde R=\tilde R^2(e_1v), \qquad (Rv\tilde R)e_1=R(ve_1)R=R^2(ve_1) $$

$\tilde R^2=e^{\theta e_1e_2}$と$R^2=e^{\theta e_2e_1}$は、それぞれの対応で$e^{i\theta}$に移ります。回転そのものは同じですが、回転子$R$が移る先は異なり、左から掛ける対応では$e^{-\frac\theta2i}$、右から掛ける対応では$e^{\frac\theta2i}$です。

四元数への拡張

このセクションでは複素数と四元数の両方を扱います。区別のため、複素数は$i$、四元数は$\mathbf i,\mathbf j,\mathbf k$で表します。

本記事のベクトルの対応$e_1\cong h\mathbf i,\ e_2\cong h\mathbf j,\ e_3\cong h\mathbf k$のもとでは、右手系の三つ組にするために$\mathbf k\cong e_2e_1$となります。複素数を四元数の$1,\mathbf k$が張る平面として埋め込むと、複素数の虚数単位$i$は四元数の$\mathbf k$に対応します。

$\mathbf k\cong e_2e_1$は$e_1,e_2$で張られる平面に作用します。前節までは複素数をこの2次元平面で扱ってきたので、複素数の$i$に対応させる四元数としては$\mathbf k$を選ぶのは自然です。

この埋め込みとクリフォード代数への対応をそろえるには、複素数の$i$について$i\cong e_2e_1$、すなわち右から$e_1$を掛ける対応($ve_1=x+y\,e_2e_1$)を選びます。

この対応では、クリフォード代数の回転子$R$は四元数の回転子$q=e^{\frac\theta2\mathbf k}$と同じく$e^{\frac\theta2i}$の像になります。2本の単位ベクトルの積として表した回転子$R=nm$は、$ba\leftrightarrow a^*b$と同じ並びなので、この対応では$m^*n$に移ります。

$$ nm=(ne_1)(e_1m)\;\longleftrightarrow\;m^*n=e^{\frac\theta2i} \quad (i\cong e_2e_1) $$

もし$i\cong e_1e_2$を選べば、複素数の$i$は$-\mathbf k$にあたり、回転子$R$は$q$ではなく$q^{-1}$に対応する$e^{-\frac\theta2i}$の像になります。本シリーズでは、四元数の回転子をそのまま移すという方針に合わせて、回転を扱うときは$i\cong e_2e_1$を用います。

別の書き方との関係

本シリーズの規約は、ヘステネスやドーラン=ラゼンビーをはじめとする多くの文献の書き方と一致します。一方、指数の負号を避けて、面の向き$p$をそのまま指数の肩に乗せる書き方もあります。

指数の負号を避けた書き方

$$ x'=r^{-1}xr, \qquad r=\exp\left(\frac\theta2p\right) $$

参照記事の四元数の回転子$r$は本記事の$q$に相当し、以下の$r$は別の規約のクリフォード代数の回転子を表します。

$r=\tilde R=R^{-1}$なので、$r^{-1}xr=Rx\tilde R$で、表す回転は同じです。ただし$r$は、四元数の回転子$q$ではなく、その逆元$q^{-1}$の像です。

$$ q=e^{\frac\theta2k}\cong e^{-\frac\theta2e_1e_2}=r^{-1} $$

逆元に取り替えたため、四元数の$qvq^{-1}$とは挟み方が左右逆になります。回転子の作用に関わる積の読み方も逆になります。

  • 合成:$r_1$のあとに$r_2$を施すと$r_1r_2$で、施す順に右へ積み上がります(右作用)。
  • ベクトルの積:$r=mn$で、$m\,(mn)=n$と右から掛けて$m$を$n$に移します。
  • 鏡映:$-n(-mvm)n=r^{-1}vr$で、$r=mn$は$m$のあとに$n$と左から右へ読みます。

この書き方では、ウェッジ積・ベクトルの積・鏡映・合成の読みが左から右にそろい、指数に負号が現れません。その代わり、四元数の回転子との対応に逆元が入り、四元数とは合成の並びが逆になります。

式を読み替えるには、$r$を$\tilde R$に置き換えます。$\widetilde{R_2R_1}=\tilde R_1\tilde R_2$より、$r_1r_2$は$R_2R_1$に対応します。

まとめ

本記事では、反時計回りを正とし、反時計回りを与える元を負号なしで指数の肩に乗せるという原則で、複素数と四元数の回転を書き、四元数の回転子を双四元数を経てクリフォード代数にそのまま移しました。2ベクトルは負号付きで四元数に移り、$k\cong e_2e_1$です。四元数の回転子はそのまま$R=e^{\frac\theta2e_2e_1}$に移り、回転は$qvq^{-1}$と同じく回転子を左に置いた$Rx\tilde R$になります。回転面の向きを$e_1e_2$で表すと、左から反時計回りを与えるのはその反転なので、位相に負号が付きます。2次元でベクトルを複素数に移す対応には$i\cong e_1e_2$と$i\cong e_2e_1$の2通りがあり、四元数に拡張するときは$k\cong e_2e_1$とそろう$i\cong e_2e_1$を選びます。

四元数での回転

$$ v'=qvq^{-1}, \qquad q=\exp\left(\frac\theta2u\right) $$

四元数との対応

$$ e_1\cong\sigma_1\cong hi, \qquad e_2\cong\sigma_2\cong hj, \qquad e_3\cong\sigma_3\cong hk $$
$$ e_3e_2\cong-i\sigma_1\cong i, \qquad e_1e_3\cong-i\sigma_2\cong j, \qquad e_2e_1\cong-i\sigma_3\cong k $$

クリフォード代数での回転

$$ x'=Rx\tilde R, \qquad R=nm=\exp\left(-\frac\theta2p\right) $$
$R$は四元数の回転子$q$の像である。$m$に左から掛けると$n$に移し($(nm)\,m=n$)、合成は$R_2R_1$で後から施すものが左に来る。

外積の向き

$m\wedge n$は「$m$から$n$へ」の向きを持つ面である。2次元では、$m$から$n$への符号付き角を$\alpha$($-\pi<\alpha\le\pi$)とすると、次の係数が符号付き面積である。$nm$による回転角は$2\alpha$である。
$$ m\wedge n=|m||n|\sin\alpha\,e_1e_2 $$
3次元以上では大きさを非負とし、平行でなければ向きは単位2ベクトル$p$が担う。回転子の位相の負号は、左から反時計回りを与える2ベクトルが$p$の反転であることから来る。

2次元と複素数

$e_1$を左から掛ける対応$e_1v$では$i\cong e_1e_2$で、$ab$が$a^*b$に移る。右から掛ける対応$ve_1$では$i\cong e_2e_1$で、$ba$が$a^*b$に移る。四元数に拡張するときは$k\cong e_2e_1$とそろえて$i\cong e_2e_1$を選び、回転子$R=nm$は$m^*n=e^{\frac\theta2i}$に移る。

指数の負号を避けた書き方との関係

$$ r^{-1}xr=Rx\tilde R, \qquad r=\tilde R=\exp\left(\frac\theta2p\right) $$
$r$は$q^{-1}$の像で、挟み方と合成の並びが四元数と逆になる。

参考文献

投稿日:3日前
更新日:1日前
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