【更新履歴】
20Nov.2023: 「量子アノマリーの消失」の章において、Nielsen-Ninomiyaの定理の前提が満たされるときにアノマリーがキャンセルする理由の説明が適切ではなかったので修正しました。
※本記事は Nielsen-Ninomiyaの定理1/2: Poincaré-Hopfの定理 の続きです。
本記事では、fermionの格子正則化に伴う邪魔なモード(=doubler)の出現、その出現が物理的に自然な条件下で不可避であることを示した「Nielsene-Ninomiyaの定理」に関して述べます。
場の量子論は発散を伴う理論なので、何らの方法で正則化(=一時的な有限化)し、発散を取り除く必要があります。そのなかでも格子正則化は有用です(Refs.AokinoteMathlog-2参照)。格子正則化とは、図1のように時空を離散化することで紫外領域の発散を有限化する正則化であり、摂動論に依存しない正則化です。
格子正則化の概念図。時空を格子に区切り、その格子間隔を$a$とする。
特に非可換ゲージ理論は低エネルギーで強結合になるため、非摂動的な正則化は重要になります。格子正則化により、解析的な計算はもちろんモンテカルロ法による数値計算も活発になされています。また、格子正則化ではくりこみ群の描像が大変わかりやすく(Ref.Mathlog-2)、教育的な意味でも良い正則化かと思います。
fermionの格子正則化に関しひとつ大きな問題があります。ナイーブに格子化してしまうと、連続極限(=格子間隔をゼロにした極限)において物理的でないモードが出現してしまうのです。このようなモードはdoublerと呼ばれます。doublerは邪魔な存在なのですが、それを取り除くことは、ある物理的に自然な条件下で不可能です。この不可能性定理(no-go theorem)は「Nielsen-Ninomiyaの定理」として知られています(Ref.Nielsen)。そしてこの定理は、 前回の記事 で示した「Poincaré-Hopfの定理」により導くことができます。
以下、doublerの出現を説明したのち、Nielsen-Ninomiyaの定理を導きます。
まずはdoublerの出現を確認します。以下の議論はEuclid化された理論で行います。
Euclid連続極限における自由なfermionの作用は
\begin{align} S_F=\int d^4x \bar\psi(x)(\gamma^\mu\partial_\mu+m)\psi(x) \end{align}
です。$\gamma^\mu$はガンマ行列です。その性質に関してはAppendixをご参照ください。微分を差分化して離散化し
\begin{align} \bar\psi(x)\partial_\mu\psi(x)\xrightarrow{\text{離散化}}\bar\psi_n\frac{\psi_{n+\hat\mu}-\psi_{n-\hat\mu}}{2a} \end{align}
とします。ここで$a$は格子間隔、$n$は$n_\mu \in {\mathbb Z}\ (\mu=1,2,3,4)$のインデックスを省略した記号であり、$\psi$の4次元時空における格子上の位置をこれで指定します。$\hat\mu$は$\mu$方向の単位ベクトルです。このような離散化を施せば、作用$S_F$は以下のように書けます:
\begin{align}
S_F^{\rm lat}&=a^4 \sum_{n,n'}\bar\psi_n D_F{}_{n,n'}\psi_{n'},\\
D_F{}_{n,n'}&=\frac{1}{2}\sum_\mu
\left\{\gamma_\mu(\delta_{n,n'-\hat\mu}-\delta_{n,n'+\mu})+\frac{1}{4} m\delta_{n,n'}\right\}
\end{align}
latは格子(lattice)のこと、また離散化された作用では$\bar\psi,\psi,m$は自然単位系で単位なしになるように、連続極限のそれに$a$を適切にかけたものとして定義していますので注意してください。
場の量子論において漸近場とは$D_F\psi=0$を満たすモードのことです。これが実際に観測される物理的な粒子に対応します。連続極限における運動量表示では、$D_F$の運動量表示である$D_F(p)$のゼロモード$\psi(p)$に対応し、その運動量は$p^2=m^2 $を満たします。ここで$p^2:=p^\mu p_\mu$であり、$p^\mu$は4元運動量$(E,p_x,p_y,p_z)$のことです。これはon-shell条件と呼ばれます。
格子上におけるon-shell条件がどうなるか考えます。そのため上記の$D_F{}_{n,n'}$をフーリエ変換し運動量表示します。格子上の$\bar\psi(n),\psi(n')$の運動量をそれぞれ$p,p'$とすると
\begin{align} D_F{}_{p,p'}&:=\sum_{n,n'}e^{ip_\mu an_\mu}e^{ip'_\mu an'_\mu}D_F{}_{n,n'}\\ &=\frac{1}{2}\sum_\mu\sum_n\left[\gamma_\mu \left\{e^{ia(p_\mu+p_\mu')n_\mu}(e^{iap'_\mu\hat\mu}-e^{-iap'_\mu\hat\mu})\right\}+\frac{m}{4}e^{ia(p_\mu+p_\mu')n_\mu}\right]\\ &=\frac{1}{2}\sum_\mu\sum_n\left[\gamma_\mu \left\{e^{ia(p_\mu+p_\mu')n_\mu}2i\sin(ap'_\mu \hat\mu)\right\}+\frac{m}{4}e^{ia(p_\mu+p_\mu')n_\mu}\right] \end{align}
ここで$\sum_n$の和をとれば$e^{ia(p_\mu+p'_\mu)n_\nu}$のファクターより$ \delta^{(4)}(p+p')$を得ます。よって運動量空間では$D_F$は対角化されます。結局、$D_F(p)$を$D_F{}_{p,p'}$からデルタ関数を除いたものとすれば
\begin{align} D_F(p)=a^4\left(-i\sum_\mu \sin(p_\mu a)\gamma_\mu+\frac{m}{8}\right) \tag{1}\label{DF} \end{align}
になります。簡単のため$m=0$としてon-shell条件を考えます。格子上では$p_\mu a=0$だけではなく、$p_\mu a=\pi$でも$\sin(p_\mu a)=0$となります。よって、このようなナイーブな格子上のfermion作用は
\begin{align} p_\mu=0 \ \text{ or } \ \pi/a \ \ \ (\mu=1,2,3,4) \end{align}
の組み合わせすべてがon-shell条件を満たします。すなわち、連続極限では1つしかなかった物理的モードが、格子上では$2^4=16$コのモードを生み出してしまいます。これがdoublerです。
「doublerが出現したっていいのでは?」と思うかもしれませんが、問題があります。例えば非可換ゲージ理論は漸近的自由性を持つと言われます。これはすなわち、観測するスケールが小さくなると非可換ゲージ理論の相互作用は小さくなるという性質です。しかしそれはfermionの数に依存します。ゲージ群がSU(3)の場合の摂動論の計算では、17コのfermionのモード(いわゆるflavor)を境に、漸近自由か否かが入れ替わります(Ref.Mathlog)。物理がfermionのモードの数に大きく依存する典型例です。解析的な計算によりfermionのモードの数と物理量のスケーリング関係が厳密に分かればいいですが、特に非摂動論的領域ではそのようなスケーリングを求めることは絶望的です。また後に述べますが、doublerが存在すると、連続極限における量子アノマリーが消えてしまうという大問題もあります。
ということでdoublerを除去したいのですが、実はそう簡単には消せないことが知られています。doublerの除去にはある種のno-go theoremが存在します。すなわち、物理的に自然な条件下でdoublerが不可避であることが証明できてしまうのです。そしてこれはtopologicalな理由によることが知られています。このno-go theoremはH.NielsenとM.Ninomiyaにより示されたため(Refs.Nielsen)「Nielsen-Ninomiyaの定理(以下NN定理と呼ぶ)」と呼ばれます。
Ref.Karstenでは、NN定理の証明にトポロジーの分野で有名な定理「Poincaré-Hopfの定理」を用いています。この定理は前回の記事で示しました。以下Poincaré-Hopfの定理を用いてNN定理を示します。証明ではRefs.KarstenAokiを参考にしています。
NN定理は以下です:
格子上のfermion作用が次の条件を満たすとする
このときchiralityが$L$(left-handed)と$R$(right-handed)のモードは同数存在する。
fermion$\psi$が$\gamma_5$の固有状態であり、その固有値が$+1$のとき$R$、$-1$のとき$L$と言います。$\gamma_5^2=1$($1$は$4\times 4$行列の単位行列)なので、固有値は$\pm 1$になることに注意してください。また$L$と$R$へのfermionの射影演算子は
\begin{align}
P_R:=(1+\gamma_5)/2, \ P_L:=(1-\gamma_5)/2
\end{align}
です。ガンマ行列に関してはAppendixをご参照ください。
chiral対称性とは、以下の変換:
\begin{align}
\psi\to e^{i\gamma_5 Q}\psi \ \ \ \ (Q\text{は定数})
\end{align}
に対して作用が不変であることを言います。$Q$は本来flavor空間に作用する行列ですが、ここではone flavorの場合を考え定数とします。$\bar\psi:=\psi^\dagger\gamma_0$はこの変換に対し$\bar\psi\to\bar\psi e^{i\gamma_5 Q}$と変換し、また$e^{i\gamma_5Q}\gamma_\mu=\gamma_\mu e^{-i\gamma_5Q}$であるので、fermionの以下の形の作用
\begin{align}
i\bar\psi \gamma_\mu \tilde F^\mu \psi, \ \ \ \ \tilde F^\mu\text{は}\gamma_5\text{と可換な量}
\end{align}
はchiral対称性を保ちます。
前回の記事では向き付け可能な2次元閉曲面に関するPoincaré-Hopfの定理を示しましたが、以下では証明なしに4次元における同定理を使用します。他にも2次元からの類推を用いる部分がありますが、ご容赦ください。
以下定理の証明です。
chiral対称性を保つ作用$S$を次のような一般形で書き下しておきます:
\begin{align}
S=\sum_{x,y}\sum_{\mu=1}^4
\bar\psi(x)\gamma_\mu\tilde F_\mu(x,y)\psi(y)
\end{align}
まず並進不変性があることから、$\tilde F_\mu(x,y)$は$x,y$の差のみに依存するので$\tilde F_\mu(x-y)$と書けます。これはすなわち、系は1つの運動量で表せることを意味します。またHermite性より
\begin{align}
\tilde F^*_\mu(z)=\tilde F_\mu(-z)
\end{align}
と書けます($z:=x-y$)。局所性に関しては、4次元のフーリエ変換が収束するように
\begin{align}
|z|^4\tilde F_\mu(z)\to 0 \ \ \text{for} \ \ |z|\to \infty
\end{align}
を課しておきます。以上からfermion作用は運動量表示で
\begin{align}
\int d^4p \ \bar\psi(-p)\gamma_\mu F^\mu(p)\psi(p)
\end{align}
となります。格子上では格子間隔$a$に関する並進対称性があるため、$F^\mu(p)$は$p\to p+2\pi/a$に対して周期的です。つまり$p$は4次元トーラス$T^4$上の連続的なパラメータであり、$F^\mu(p)$は$T^4$上で定義されたベクトル場になります。
物理的な粒子はon-shell条件$F^\mu(p)=0$を満たし(※脚注1)、この$p$は$F^{\mu}$のゼロ点です。前回の記事のではゼロ点を特異点と呼んだので、以下でもそう呼ぶことにします。前回の記事で示した「Poincaré-Hopfの定理」より、$F^\mu(p)$の特異点の指数の和は$T^4$のEuler標数と等しく、ゼロです。
次にchiralityと特異点の指数との関係を述べます。$F^\mu(p)$を特異点$p_0$のまわりで展開します:
\begin{align}
F^\mu = \sum_\nu A_{\mu\nu}(p-p_0)_\nu+{\cal O}((p-p_0)^2) \ \ \ \ (\text{※Euclid空間なので、indexの上下は適当です})
\end{align}
2次元の場合、特異点$p_0$の指数(
前回の記事
参照)は、$(p_1,p_2)$が$p_0$の周りの円上の軌道に沿って左回りするとき$(F^1,F^2)$の方向が左回りすれば$+1$、右回りすれば$-1$でした。この値は
\begin{align}
{\rm sign}\det [A_{\mu\nu}]
\end{align}
によって定まります。これは行列式による右手系・左手系の判別と本質的に同様です。また、特異点をとりかこむ経路上の$p$から$F$への写像に対する写像度($\rm deg$)が指数であり、$\rm deg$は
この記事
の「トポロジカルな側面」の章にあるように写像の引き戻しで定義されます。そこに行列式が現れることからも、上記の量が指数を定めることがわかります。
ここで$A_{\mu\nu}$を対角化するfermionの基底をとり、対角の行列要素を$A_\mu$で表します。このとき$F^\mu$は
\begin{align}
F^\mu=A_\mu (p-p_0)_\mu \ \ \ \ \ (\mu\text{の和は取らない})
\end{align}
であり、このときfermionの作用は運動量表示で
\begin{align}
\bar\psi(-p)\gamma_\mu A_\mu (p-p_0)_\mu\psi(p)
\end{align}
となります。
ここで例えば$A_\mu=(1,1,1,1)$とします。このとき指数は${\rm sign}\det(A_{\mu\nu})=+1$です ($\because A_\mu$の要素は$A_{\mu\nu}$の4つの固有値に対応する)。このとき作用は
\begin{align}
\bar\psi(-p)\gamma_\mu (p-p_0)_\mu\psi(p)
\end{align}
となります。
一方例えば$A_\mu=(-1,1,1,1)$とします。このとき指数は${\rm sign}\det(A_{\mu\nu})=-1$であって、このとき作用は
\begin{align}
\bar\psi(-p)\gamma_\mu (-1)^{\delta_{\mu 1}}(p-p_0)_\mu\psi(p)
\end{align}
です。$s:=\gamma_5\gamma_1$とすると、この式は
\begin{align}
(\bar\psi(-p)s^{-1})\gamma_\mu (p-p_0)_\mu (s\psi(p))
\end{align}
と書けます(Appendixに示したガンマ行列の反交換関係を用いれば示せます)。ここで$\psi$に対するchiral変換を$\psi\to e^{iQ\gamma_5}\psi$とするなら、$s\psi$は$s\psi\to e^{-iQ\gamma_5}s\psi$と変換します。これは$A_\mu=(1,1,1,1)$となるような特異点のon-shellのモードと、$A_\mu=(-1,1,1,1)$となるような特異点のon-shellのモードのchiralityは逆になることを示します。一般に
このことから、$\det[A_{ij}]$が正なら$\psi$と$s\psi$のchiralityは同じ、負ならchiralityは逆です。以上から、特異点$p_0^{(i)} \ \ (i=1,\cdots,n \ \ \ n\text{は特異点の数})$におけるon-shellモードは、その指数が正のものと負のものでchiralityが逆であることが言えます。上記したように指数の和はゼロだから、$L$と$R$のモードの数は等しくなります。${}_\blacksquare$
このように、定理の前提を満たすとき、たとえ連続極限では$L$のみのfermionの作用であったとしても、格子化するとどうしても$R$の粒子が"等量"現れてしまいます。定理の前提は基本的にはどれも物理的に重要であるため、ふつうの作用ではdoulberは避けられません。最初に書いたようにこれは困った状況です。さらに$L$と$R$のモードの数が等しいということは問題です。なぜなら、弱い相互作用のように、現実では$L$と$R$の対称性が破れている理論が存在するからです。例えばニュートリノは$L$のみが存在し、$R$は存在しません(※脚注2)。
doublerが存在すると他にも困ることがあります。それは量子アノマリーが消えてしまうことです。
以下の記事で量子アノマリーとDirac作用素のゼロモードの関係を議論しています:
この記事の結論は、$n_-$をDirac作用素の$L$のゼロモードの数、$n_+$を$R$のゼロモードの数、$F_{\mu\nu}$を非可換ゲージ場のfield strength、$g$は理論の結合定数とすると
\begin{align}
n_+-n_-=\nu, \ \ \ \nu:=
\int d^4x \frac{g^2}{32\pi^2}{\rm tr}
\ \epsilon^{\mu\nu\alpha\beta}
F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}
\end{align}
が成立するというものです。この量子アノマリーをABJアノマリーとかchiralアノマリーと呼びます。これは現象論的にも非常に重要で、中性パイオンが2つの光子に崩壊する現象、また$\eta'$と呼ばれる擬スカラー中間子が他の8重項の中間子よりかなり重いため擬 南部・ゴールドストン粒子 (pseudo Nambu-Goldstone particle)とは見做せないという事実等と関わっています。
ところが格子上では理論は適切に正則化されています。そのうえでNN定理の前提であるchiral対称性をもつなら、chiral対称性を破るような量子アノマリーは起こりようがありません。実際そのようなfermionに対し、格子上において摂動論により1ループのアノマリーへの寄与を計算すると、doubler間の寄与のキャンセルが起こり消えます(Ref.Karsten-2)。これは大変困った状況です。
前回・今回の記事でNielsen-Ninomiyaの定理(NN定理)に関して説明しました。前回の記事ではNN定理の証明に必要なPoincaré-Hopfの定理を証明し、今回の記事でNN定理の証明を行いました。
Euclid空間での格子正則化において、定理の前提を満たす場合、fermionの物理的なモード(on-shellモード)は格子上の運動量における関数$F^\mu(p)$の特異点(=ゼロ点)として特徴づけられます。ところが格子上では運動量は4次元トーラス$T^4$上に存在するため、Poincaré-Hopfの定理より、特異点の指数の和は$T^4$のEuler標数ゼロと等しくなります。本文で示したように、特異点の指数はfermionのLとRに対応し、どちらかを$+1$とすればもう一方は$-1$になります。よって指数の和がゼロになるということは、$L$と$R$のon-shellモードの数が等しいことになります。ゆえに、たとえ連続極限で$L$の粒子のみの作用を作ったとしても、格子上では$L$と$R$のon-shellモードが同じ数だけ生じてしまいます。
bosonではdoublerの問題は起こりません。それは以下の理由によります。質量ゼロのboson場$\phi$の自由場の運動項は$\partial^2\phi$ですが、これを格子化すると、Eq.\eqref{DF}の$\sin(p_\mu a)$にあたるものはbosonの場合$\sin^2(p_\mu a/2)$になります。$0\le p_\mu a<2\pi$において$\sin^2(p_\mu a/2)=0$を満たす$p_\mu$は$p_\mu=0$のみであるので、doublerは存在しません。この違いは作用における運動項の微分の階数の違いに由来します。
doublerを消す方法はいくつか知られています。例えばWilson fermionという構成法では、chiral対称性を犠牲にしてdoublerを消します。しかしchiral対称性は強い相互作用において大変重要な対称性であり、また格子正則化が最も威力を発揮するのは強い相互作用の基礎理論であるSU(3)の非可換ゲージ理論なので、この対称性はなるべく保ちたいです。chiral対称性を尊重しながらdoublerを消す方法は1990年代に盛んに研究され、domain-wall fermionやoverlap fermionという格子上のchiral fermionの構成法ができました。これに関してはまた記事にするかもしれません。
おしまい。${}_\blacksquare$
(脚注1) $F^\mu(p)=0$はon-shellであることの十分条件です。実際には$\sum_\mu (F^\mu(p))^2=0$を満たせばon-shellです。$F^\mu(p)$は一般には複素数であることに注意してください。
(脚注2) 弱い相互作用の標準理論ではニュートリノには$L$しかないのですが、ニュートリノ振動が観測された現在、この理論は何らかの修正が必要とされています。これに関してはシーソー機構と呼ばれるとても魅力的な理論があるのですが、実験的証拠の不足のため、残念ながら今のところどう修正すればよいかはわかっていません。
ガンマ行列とはClifford代数を満たす行列です。4次元Euclid空間の場合、ガンマ行列$\gamma_\mu \ (\mu=1,2,3,4)$は以下の反交換関係を満たします:
\begin{align}
\{\gamma_\mu,\gamma_\nu\}=2\delta_{\mu\nu}
\end{align}
さらに$\gamma_5$を
\begin{align}
\gamma_5:=\gamma_1\gamma_2\gamma_3\gamma_4 \ \ (=\gamma_5^\dagger)
\end{align}
で定義します。$\gamma_5$は$\gamma_\mu$と反交換します:
\begin{align}
\{\gamma_5,\gamma_\mu\}=0 \ \ \ (\mu=1,2,3,4)
\end{align}
具体的な表示として、chiral表示(=$\gamma_5$を対角化する表示)では例えば
\begin{align}
\gamma_{1,2,3}:=
\begin{pmatrix}
0 & -i\sigma_{1,2,3}\\
i\sigma_{1,2,3} & 0
\end{pmatrix}
, \ \ \
\gamma_4:=
\begin{pmatrix}
0 & 1\\
1 & 0
\end{pmatrix}
, \ \ \
\gamma_5:=
\begin{pmatrix}
1 & 0\\
0 & -1
\end{pmatrix}
\end{align}
が採用できます(Ref.Montvay Appendices)。ここでこれらは$4\times 4$行列であり、各要素は$2\times 2$行列です。$\sigma_i$はパウリ行列であり
\begin{align}
\sigma_1:=
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
1 & 0
\end{pmatrix}
, \ \ \
\sigma_2:=
\begin{pmatrix}
0 & -i \\
i & 0
\end{pmatrix}
, \ \ \
\sigma_3:=
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & -1
\end{pmatrix}
\end{align}
です。${}_\blacksquare$