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現代数学解説
文献あり

【超局所層理論第6回】構成可能層とマイクロ台

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$$\newcommand{bbC}[0]{\mathbb C} \newcommand{bbN}[0]{\mathbb N} \newcommand{bbR}[0]{\mathbb R} \newcommand{bbZ}[0]{\mathbb Z} \newcommand{bfk}[0]{\mathbb{k}} \newcommand{C}[0]{\mathsf{C}} \newcommand{cA}[0]{\mathcal{A}} \newcommand{cB}[0]{\mathcal{B}} \newcommand{Cb}[0]{\mathsf{C}^\mathrm{b}} \newcommand{cC}[0]{\mathcal{C}} \newcommand{cD}[0]{\mathcal{D}} \newcommand{char}[0]{\mathrm{char}} \newcommand{cHom}[0]{\mathcal{H}om} \newcommand{cI}[0]{\mathcal{I}} \newcommand{cJ}[0]{\mathcal{J}} \newcommand{cM}[0]{\mathcal{M}} \newcommand{Cm}[0]{\mathsf{C}^-} \newcommand{cO}[0]{\mathcal O} \newcommand{Coker}[0]{\operatorname{Coker}} \newcommand{Cp}[0]{\mathsf{C}^+} \newcommand{cRHom}[0]{R\mathcal{H}om} \newcommand{cT}[0]{\mathcal{T}} \newcommand{D}[0]{\mathsf{D}} \newcommand{Db}[0]{\mathsf{D}^\mathrm{b}} \newcommand{DbRc}[0]{\mathsf{D}^\mathrm{b}_{\text{$\mathbb{R}$-c}}} \newcommand{DbwRc}[0]{\mathsf{D}^\mathrm{b}_{\text{w-$\mathbb{R}$-c}}} \newcommand{dim}[0]{\operatorname{dim}} \newcommand{Dm}[0]{\mathsf{D}^-} \newcommand{Dp}[0]{\mathsf{D}^+} \newcommand{End}[0]{\operatorname{End}} \newcommand{Ext}[0]{\operatorname{Ext}} \newcommand{Hom}[0]{\operatorname{Hom}} \newcommand{id}[0]{\mathrm{id}} \newcommand{Image}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Int}[0]{\mathrm{Int}} \newcommand{K}[0]{\mathsf{K}} \newcommand{Kb}[0]{\mathsf{K}^\mathrm{b}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{Km}[0]{\mathsf{K}^-} \newcommand{Kp}[0]{\mathsf{K}^+} \newcommand{lten}[0]{\overset{L}{\otimes}} \newcommand{lto}[0]{\longrightarrow} \newcommand{Mc}[0]{\mathrm{Mc}} \newcommand{Mod}[0]{\operatorname{Mod}} \newcommand{MS}[0]{\operatorname{SS}} \newcommand{MS}[0]{\mathrm{SS}} \newcommand{op}[0]{\mathrm{op}} \newcommand{or}[0]{\mathrm{or}} \newcommand{plushat}[0]{\; \widehat{+} \;} \newcommand{PSh}[0]{\mathrm{PSh}} \newcommand{pt}[0]{\mathrm{pt}} \newcommand{RG}[0]{R\Gamma} \newcommand{RHom}[0]{R\mathrm{Hom}} \newcommand{Sh}[0]{\mathrm{Sh}} \newcommand{simto}[0]{\overset{\sim}{\to}} \newcommand{supp}[0]{\operatorname{supp}} \newcommand{Supp}[0]{\operatorname{Supp}} \newcommand{tl}[0]{\widetilde} \newcommand{toone}[0]{\overset{+1}{\to}} $$

はじめに

こんにちは!超局所層理論の第6回です.今回は構成可能層について超局所的な観点から説明していきます.構成可能層は特異点論やD加群とのつながりでも現れる重要な対象で,様々な分野との懸け橋ともなっています.実は層が構成可能であるかはマイクロ台で調べることができるというのが今回お話ししたいことです.

前回までの高速おさらい

$\bfk$を有限な大域次元を持つ環,$X$$d$次元多様体とします.
第1回 $X$上の$\bfk$加群の層の複体$F \in \Db(\bfk_X)$に対して,そのコホモロジーが伝播しない余方向として層のマイクロ台$\MS(F)$という$X$の余接束$T^*X$の錐状閉部分集合を定義しました.そして様々な層のマイクロ台がどうなっているのかを調べて,良い状況ではマイクロ台が層の形を強く制限することがあることも見ました.
第2回 :層に対する様々な演算を施した後のマイクロ台を評価する方法について説明しました.またそれらを使って超局所切り落としという操作を定義しました.
第3回 :マイクロ台は常に包合的であるという定理の主張を述べました.さらに,余接束$T^*X$の中のある部分集合上だけに注目する超局所的な見方を実現するために超局所圏を導入して,そこではマイクロ台が層の形を制限するという主張がより広く成り立つことも見ました.また超局所圏のHomを茎に持つような層$\mu hom$があったらうれしそうだという気持ちを説明しました.
第4回 $X$上の層$F$から法束$T_MX$上の層$\nu_M(F)$を作り出す特殊化という操作$\nu_M \colon \Db(\bfk_X) \to \Db_{\bbR_{>0}}(\bfk_{T_MX})$を法変形を使って定義して,切断が$M$の近傍で法方向に指定された開きがある開部分集合上の$F$切断の帰納極限だということを見ました.さらにベクトル束上の錐状層の圏とその双対ベクトル束上の錐状層の圏の圏同値を与えるFourier-Sato変換について説明して,特殊化のFourier-Sato変換として超局所化$\mu_M(F)$という余法束$T^*_MX$上の層を定義しました.これは超局所化函手$\mu_M \colon \Db(\bfk_X) \to \Db_{\bbR_{>0}}(\bfk_{T^*_MX})$を定めました.
第5回 :超局所化に基づいて函手$\mu hom \colon \Db(\bfk_X)^{\op} \times \Db(\bfk_X) \to \Db_{\bbR_{>0}}(\bfk_{T^*X})$を定義しました.$\mu hom$は超局所化函手の一般化になっていて,$\mu hom$の台はマイクロ台で評価ができるので超局所圏からの函手を誘導することも見ました.$\mu hom$の最も重要な性質は,その茎が一点$p$での超局所圏$\Db(\bfk_X;p)$におけるHom集合を与えることでした.

今回もずっと$\pi$で余接束$T^*X \to X$をあらわして$0_X$または単に$X$でそのゼロ切断をあらわします.

構成可能層

ここでは構成可能層を超局所的な視点から説明します.局所定数層あるいは局所系というものはトポロジーとも密接に関わっていて空間を調べる際に重要な対象です.構成可能層とは全体では局所系ではないかもしれないけれども,空間をうまく分割するとそれぞれのパートでは局所系になっているような層のことをいいます.このように局所系から構成可能層へと枠組みを広げておくと,(ある条件下で)Grothendieckの六演算で閉じるようになるという利点があります.この事実は特異点論的な観点から調べられていましたが,ここではマイクロ台を使って構成可能層を特徴づけて超局所的な観点から調べてみましょう.

Stratification

上で述べた「空間をうまく分割する」というのをちゃんと述べるためにはstratificationという概念が必要になります.この条件を完全に正確に述べるには非常に大変なので,まあまあ正確な定義は補足に回してここではいい加減な定義だけを説明します.

さて,空間の分割に使うクラスは様々な演算で閉じていて,しかも良い条件の細分が取れるようにしたいという要望があります.これを実現するのが実解析的多様体($C^\omega$級多様体)$X$の部分集合として定まる劣解析的部分集合 (subanalytic subset) のクラスです.劣解析的集合の族とは,準解析的部分集合(局所的に$C^\omega$級写像$f \colon X \to \bbR$の等式または不等式で定まる集合$\{x \in X \mid f(x)=0\}, \{ x \in X \mid f(x)>0\}$たちの有限個の和集合と共通部分であらわされる集合)をすべて含んでおり,
(1) 局所有限の族の和集合・共通部分,
(2) 補集合,
(3) 固有写像による像

で閉じている最小の族のことです.劣解析的であることは局所的な条件であって,内部・閉包・逆像を取る操作で閉じていることもチェックできます.

上で述べたような性質を持つものはo-極小構造と呼ばれるものであって,特異点論やモデル理論で重要な概念である.

Stratification

$X$を実解析的多様体とする.このとき,分割$X=\bigsqcup_{\alpha \in A}X_\alpha$劣解析的stratificationであるとは,各$X_\alpha$$X$の劣解析的な部分多様体である局所有限な分割で$\overline{X_\alpha} \cap X_\beta \neq \emptyset$ならば$X_\beta \subset \overline{X_\alpha}$を満たすことをいう.各$X_\alpha$stratumと呼ぶ.

以降は常に劣解析的stratificationだけを考えるので,単にstratificationと呼ぶことにします.stratificationには滑層分割という訳語もあるが,「層」の漢字が被るのが良くないので英語のまま使うことにする.

構成可能層の定義と例

ここでは上で定義したstratificationに基づいて構成可能層の定義を与えます.記述を簡単にするために以降は$\bfk$は体であるとします.よって,$\lten$は導来しなくてよいので単に$\otimes$と書きます.

(弱)構成可能層

$F \in \Db(\bfk_X)$とする.
(i) $F$$\bbR$-構成可能であるとは,$X$のstratification $X=\bigsqcup_{\alpha \in A}X_\alpha$が存在して任意の$n \in \bbZ$$\alpha \in A$に対して$H^n(F)|_{X_\alpha}$が局所定数層となることをいう.弱$\bbR$-構成可能層からなる$\Db(\bfk_X)$の充満部分圏を$\DbwRc(\bfk_X)$であらわす.
(ii) $F$が弱$\bbR$-構成可能であり,さらに任意の$x \in X$$n \in \bbZ$に対して$H^n(F)_x$が有限次元ベクトル空間となるとき,$F$$\bbR$-構成可能であるという.$\bbR$-構成可能層からなる$\Db(\bfk_X)$の充満部分圏を$\DbRc(\bfk_X)$であらわす.

$\bbC$-構成可能性

複素多様体上で複素部分多様体による分割を考えることによって$\bbC$-構成可能層を定義することができる.

以降は$\bbR$-構成可能性だけを考えるので,単に構成可能と書きます.

劣解析的なstratified部分空間上の定数層

$S$$X$の劣解析的部分集合とすると,$\bfk_S \in \Db(\bfk_X)$$X$上の構成可能層である.より一般に$S$$X$の劣解析的部分集合として実現されているstratified空間とすると,$\bfk_S$は構成可能層である.

$X$の劣解析的なstratified部分空間$S$に対して$\RG(X;\bfk_S) \simeq \RG(S;\bfk_S)$なので,$S$のコホモロジーを調べるには$X$上の構成可能層$\bfk_S$を調べればよいことになります.このような観点から構成可能層は特異空間の研究にも非常に有用なのです.

二重被覆による順像

$f \colon \bbC \to \bbC, z \mapsto z^2$という二重被覆による$\bbC$上の定数層$\bfk_\bbC$の順像$F=f_*\bfk_\bbC$を考える. 層理論第4回 の例6で見たように$F|_{\bbC \setminus \{0\}}$は階数2の局所定数層である.また$F_0 \simeq \bfk$であることも分かる.よって,$F$$\bbC$全体では局所定数層ではないが,$\bbC=(\bbC \setminus \{0\}) \sqcup \{0\}$というstratificationを取れば各stratumに制限すると局所定数層となるから,このstratificationに関して構成可能層である.

上の例で見たように局所定数層に層の演算を施すと局所定数層の枠組みをはみ出してしまうことがあります.下で見るようにGrothendieckの六演算で閉じていて局所定数層を含むクラスが構成可能層なのです.

さて,上付きびっくり(Poincaré-Verdier双対性)の補足を述べた 層理論第8回 でVerdier双対という演算を導入しましたが,ここでもう一度定義しておきましょう.

Verdier双対

$\omega_X \in \Db(\bfk_X)$$X$の双対化複体( 層理論第8回 を参照)をあらわす.$F \in \Db(\bfk_X)$に対して
$$ D_XF:= \cRHom(F,\omega_X) \in \Db(\bfk_X) $$
と定めて,$D_XF$$F$Verdier双対と呼ぶ.

ベクトル空間$V$が有限次元のとき,二重双対との自然な同形$V \simto V^{\vee \vee}$がありました.層についての双対はVerdier双対であって,双対をVerdier双対に置き換えることで構成可能層に関して上の有限次元ベクトル空間の場合のアナロジーが成立します.線形代数で有限次元ベクトル空間が扱いやすかったように構成可能層も層理論において扱いやすい部類のクラスなのです.

構成可能層の双対性

$F \in \DbRc(\bfk_X)$に対して$D_XF \in \DbRc(\bfk_X)$であり,射$F \to D_X D_X F$は自然な同形である.さらに,$F,G \in \DbRc(\bfk_X)$に対して,同形
$$ \cRHom(F,G) \simeq D_X (F \otimes D_X G), \quad \cRHom(q_2^{-1}F, q_1^!G) \simeq G \boxtimes D_XF $$
が成り立つ.ここで$q_i \colon X \times X \to X$は第$i$射影である.

後半一つ目の同形は有限次元ベクトル空間$V,W$に対する同形$V^\vee \otimes W \simeq \Hom(V,W)$に対応するもので
\begin{align} D_X (F \otimes D_X G) & = \cRHom(F \otimes D_X G,\omega_X) \\ & \simeq \cRHom(F, \cRHom(D_X G, \omega_X)) \\ & = \cRHom(F, D_X D_X G) \\ & \simeq \cRHom(F,G) \end{align}
と機械的にできます.

コホモロジー的構成可能層

Sheaves on Manifoldsではコホモロジー的構成可能層という層とホモロジー代数的な性質で定まる対象が定義されており,その範疇で$F \simeq D_X D_X F$が成り立つことが示されている.$F \in \DbwRc(\bfk_X)$がコホモロジー的構成可能層であることと$F \in \DbRc(\bfk_X)$であることは同値である.

構成可能層の超局所的な特徴づけ

ここでは上で定義した構成可能層をそのマイクロ台で特徴づける定理について説明します.まず,$X$上の層$F \in \Db(\bfk_X)$のコホモロジー層$H^n(F)$が全て局所定数層になることとマイクロ台について$\MS(F) \subset 0_X$となることは同値であったことを思い出しましょう( 第1回 の命題2).よって,$F \in \Db(\bfk_X)$$X$のstratification $X=\bigsqcup_{\alpha \in A}X_\alpha$について,各$\alpha \in A$に対して$\MS(F|_{X_\alpha}) \subset 0_{X_\alpha}$となれば$F$は構成可能層であることが分かるわけです.ここで問題になるのは$\MS(F)$の形が分かっていても各$X_\alpha$がそれに対して非特性的であるかは分からないので,$\MS(F|_{X_\alpha})$ 第2回 の命題3を使ってはすぐには評価できないということです.しかし,stratificationがあとの補足で説明する「良い条件」を満たしていれば,あとで補足でもう少し詳しく説明するように$\MS(F|_{X_\alpha})$の評価が可能になって問題が回避されます.実はどんなstratificationも細分を取ることで「良い条件」を満たすようにすることができます.この雑な考えで次の特徴づけが得られます.

弱構成可能層のマイクロ台による特徴づけ

$F \in \Db(\bfk_X)$とする.このとき,$F$が弱構成可能であることと$\MS(F)$$T^*X$の劣解析的ラグランジュ錐状閉部分集合であることは同値である.

概略

まず$F$が弱構成可能であるとする.このとき,あるstratification $X=\bigsqcup_{\alpha \in A} X_\alpha$が存在して任意の$n \in \bbZ$$\alpha \in A$に対して$H^n(F)|_{X_\alpha}$が局所定数層となる.細分をとって初めからstratificationが「良い条件」を満たすとしてよい.この「良い条件」から
$$ \MS(F) \subset \bigsqcup_{\alpha \in A} T^*_{X_\alpha}X $$
となることがチェックできる.マイクロ台の包合性定理( 第3回 の定理1)から$\MS(F)$は包合的であって「良い条件」から$\bigsqcup_{\alpha \in A} T^*_{X_\alpha}X$$T^*X$の劣解析的isotropic錐状閉部分集合なので,$\MS(F)$も劣解析的ラグランジュ錐状閉部分集合であることが分かる.

逆に$\MS(F)$が劣解析的ラグランジュ錐状部分集合であるとする.このときは「良い条件」を満たすあるstratification $X=\bigsqcup_{\alpha \in A} X_\alpha$が存在して,$\MS(F) \subset \bigsqcup_{\alpha \in A} T^*_{X_\alpha}X$を満たす.すると,上で述べたことから任意の$\alpha \in A$に対して
$$ \MS(F|_{X_\alpha}) \subset 0_{X_\alpha} $$
なる評価が得られる.よって,各$F|_{X_\alpha}$のコホモロジー層は局所定数層である.

マイクロ台による特徴づけが得られると層に対する演算に関するマイクロ台評価から弱構成可能層が層の演算で閉じていることが分かります.ただし,非特性的でない射に対する逆像などのマイクロ台の評価は述べていないので,これまでに説明したことだけからは示せません.(i)の後半は 第2回 の命題1から従います.

弱構成可能層は層の演算で閉じる

(i) $f \colon X \to Y$を多様体の射とする.
$G \in \DbwRc(\bfk_Y)$に対して$f^{-1}G,f^!G \in \DbwRc(\bfk_X)$である.
$F \in \DbwRc(\bfk_X)$として$f$$\Supp(F)$上固有であるとすると,$Rf_*F \in \DbwRc(\bfk_Y)$である.
(ii) $F,G \in \DbwRc(\bfk_X)$とする.このとき,$F \otimes G, \cRHom(F,G) \in \DbwRc(\bfk_X)$であり$\mu hom(F,G) \in \DbwRc(\bfk_{T^*X})$である.

実は構成可能層の圏も上の演算で閉じています.(i)における同形の一部には固有の条件は必要ないことを注意しておきます.

構成可能層は層の演算で閉じる

(i) $f \colon X \to Y$を多様体の射とする.
$G \in \DbRc(\bfk_Y)$とすると,$f^{-1}G,f^!G \in \DbRc(\bfk_X)$であり,同形
$$ f^!D_Y G \simeq D_X f^{-1} G, \quad f^{-1} D_Y G \simeq D_X f^! G $$
が成立する.
$F \in \DbRc(\bfk_X)$として$f$$\Supp(F)$上固有であるとすると,$Rf_*F \in \DbRc(\bfk_Y)$であり,同形
$$ Rf_* D_X F \simeq D_Y Rf_!F, \quad Rf_! D_X F \simeq D_Y Rf_* F $$
が成立する.
(ii) $F,G \in \DbRc(\bfk_X)$とする.このとき,$F \otimes G, \cRHom(F,G) \in \DbRc(\bfk_X)$であり$\mu hom(F,G) \in \DbRc(\bfk_{T^*X})$である.

概略

上の命題から弱構成可能性は分かっているので茎の有限次元性を示せばよい.

(i):$(f^{-1}G)_x \simeq G_{f(x)}$から$f^{-1}G$についてはよい.上付きびっくりの性質( 層理論第8回 の命題1)から
$$ f^! G \simeq f^! D_Y D_Y G \simeq f^! \cRHom(D_Y G,\omega_Y) \simeq \cRHom(f^{-1} D_Y G, \omega_X) \simeq D_X f^{-1} D_Y G $$
が成り立つ.上の命題1と逆像の構成可能性から最後の層は構成可能である.同形の一つ目は上でも使った上付きびっくりの性質で,二つ目は上の同形と構成可能層の圏において$D \circ D \simeq \id$であることから従う.

実は順像の方が議論がずっと難しい.$\RG(f^{-1}(y);F)$について見ればよいが,$f$を閉埋め込みと射影に分解して考えることではじめから射影であるとしてよい.しかも,ユークリッド空間への埋め込みと帰納法によって$f$$\bbR \to \pt$のときに帰着できる.すると,$F \in \DbRc(\bfk_\bbR)$について$\MS(F)$$T^*\bbR$の劣解析的ラグランジュ部分集合なので有限個の列$t_1 < \dots < t_N$であって$\Supp(F) \subset [t_1,t_N]$かつ$F|_{(t_i,t_{i+1})}$が定数層になるものが存在することが示せる.よって,完全三角を考えると$\RG(\bbR;F)$$0$から始めて有限次元の変化を有限回して出来るものなのでコホモロジーは有限次元である.同形は上付きびっくりの随伴( 層理論第7回 の定理5)と二重双対の性質から従う.

(ii)の有限性はこれまでの組合せと特殊化が構成可能性を保つことから従う.

このようにして(弱)構成可能層の超局所的特徴づけを得ておくとマイクロ台に関する一般論で構成可能層を体系的に扱うことができることが分かったと思います.実は超局所理論の構成可能層への応用はこれだけではなく,特性サイクルを使った柏原の指数定理という形でさらに本質的に現れます.これは何回か後で説明したいと思います.

ホロノミック$\cD$加群の解複体

$X$を複素多様体とする.連接$\cD_X$-加群$\cM$がホロノミックであるとは,その特性多様体$\char(\cM)$$T^*X$の解析的ラグランジュ部分多様体となることをいう. 第1回 の例6で見たように$\MS(\cRHom_{\cD_X}(\cM,\cO_X))=\char(\cM)$なので,($\bbR$-構成可能であるか$\bbC$-構成可能であるかをごまかすと)上の定理2から$\cRHom_{\cD_X}(\cM,\cO_X)$は構成可能層である.

構成可能層と深谷圏

構成可能層と余接束のラグランジュ部分多様体にはミラー対称性の文脈からも理解が進んでいる.シンプレクティック幾何ではシンプレクティック多様体$M$のラグランジュ部分多様体が対象でHom集合がラグランジュ交叉フレアーホモロジーである深谷圏$\mathrm{Fuk}(M)$が重要な研究対象である.Nadler-Zaslowは実解析的多様体$X$の余接束$T^*X$の深谷圏$\mathrm{Fuk}(T^*X)$を適切に定義して,$X$上の構成可能層の圏$\DbRc(X)$との圏同値を示した.このような観点からシンプレクティック幾何やミラー対称性の文脈でも構成可能層はますます重要な対象であると認知されつつある.

まとめ

今回は

  • stratificationの定義
  • 構成可能層と有限次元ベクトル空間とのアナロジー
  • 弱構成可能層のマイクロ台による超局所的な特徴づけと演算に関する性質

について説明しました.次回はやり残したstratifiedモース理論との関係と近接・消滅サイクルについてお話ししたいと思います.それではまた!

補足:$\mu$-stratification

ここでは上で「良い条件」と言ってごまかしたものについてもう少し詳しく説明します.正確に述べるためには余接束内の二つの錐状閉部分集合に対する新たな演算を導入する必要があります.

$A,B$$T^*X$の錐状閉部分集合とする.このとき,$T^*X$の錐状閉部分集合$A \plushat B$
$$ A \plushat B := \left\{ (z_0;\zeta_0) \in T^*X \;\middle|\; \begin{split} & \text{ある$A$内の点列$\{(x_n;\xi_n)\}_n$と$B$内の点列$\{(y_n;\eta_n) \}_n$が存在して} \\ & \text{$x_n \xrightarrow[n]{} z_0, y_n \xrightarrow[n]{} z_0, \xi_n+\eta_n \xrightarrow[n]{} \zeta_0, |x_n-y_n||\xi_n| \xrightarrow[n]{} 0$を満たす} \end{split} \right\} $$
により定める.ここで点列は$T^*X$の共通の局所斉次座標$(x;\xi)$を使ってあらわしたものである.

この演算は非特性的に関わる条件がない場合のテンソル積・sheaf Homのマイクロ台の評価に使えます.すなわち,$F,G \in \Db(\bfk_X)$に対して
$$ \MS(F \lten G) \subset \MS(F) \plushat \MS(G), \quad \MS(\cRHom(F,G)) \subset (-\MS(F)) \plushat \MS(G) $$
が成り立ちます.さらに$A \cap (-B) \subset 0_X$ならば$A \plushat B =A+B$なので,上の評価は 第2回 の命題5の一般化になっていることも分かります.また,この新たな演算を使うと$F \in \Db(\bfk_X)$$X$の部分多様体$Y$について
$$ \MS(F_Y) \subset \MS(F) \plushat T^*_YX $$
という評価をチェックできます.

さて,それではこの新たな演算$\plushat$を使って「良い条件」を満たすstratificationを定義しましょう.

$\mu$-stratification

$X=\bigsqcup_{\alpha \in A} X_\alpha$を(劣解析的)stratificationとする.$X_\beta \subset \overline{X_\alpha} \setminus X_\alpha$のとき
$$ (T^*_{X_\alpha}X \plushat T^*_{X_\beta}X) \cap \pi^{-1}(X_\beta) \subset T^*_{X_\beta}X $$
を満たすとき,このstratificationは$\mu$-stratificationであるという.

$\mu$-stratification $X=\bigsqcup_{\alpha \in A} X_\alpha$に対して$\bigsqcup_{\alpha \in A}T^*_{X_\alpha}X$$T^*X$の劣解析的isotropic錐状閉部分集合となります.実際,$X_\beta \subset \overline{X_\alpha}$ならば,条件から$\overline{T^*_{X_\alpha}X} \cap \pi^{-1}(X_\beta) \subset T^*_{X_\beta}X$となるからです.

さて,$X=\bigsqcup_{\alpha \in A} X_\alpha$$\mu$-stratification,$F \in \Db(\bfk_X)$とします.このとき,上で述べたことから$\MS(F_{X_\alpha}) \subset \MS(F) \plushat T^*_{X_\alpha}X$なので,$\mu$-stratificationの条件から
$$ \MS(F_{X_\alpha}) \cap \pi^{-1}(X_\alpha) \subset T^*_{X_\alpha}X $$
となることが分かります.もし$F$$\MS(F) \subset \bigsqcup_{\alpha \in A} T^*_{X_\alpha}X$を満たすならば 第2回 の命題1の閉埋め込みの場合を使うことで$\MS(F|_{X_\alpha}) \subset 0_{X_\alpha}$が得られます.これが上で使ったことなのでした.逆に任意の$n \in \bbZ$$\alpha \in A$に対して$H^n(F)|_{X_\alpha}$が局所定数層のときに$\MS(F) \subset \bigsqcup_{\alpha \in A} T^*_{X_\alpha}X$であることも$\mu$-stratificationの条件を使うことで示せます.

参考文献

[8]
Masaki Kashiwara and Pierre Schapira, Sheaves on Manifolds, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften, Springer, 1990
[9]
David Nadler and Eric Zaslow, Constructible sheaves and the Fukaya category, J. Amer. Math. Soc., 2009, pp. 233-286
[10]
David Nadler, Microlocal branes are constructible sheaves, Sel. Math. New Ser., 2009, pp. 563–619
投稿日:2021522

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