1
大学数学基礎解説
文献あり

豊穣圏の導入 第1回: 集合の圏は有限積をもつ

656
0
$$\newcommand{cat}[1]{\mathcal{#1}} \newcommand{es}[0]{\emptyset} \newcommand{func}[3]{{#1}\,\colon{#2}\to{#3}} \newcommand{id}[1]{1_{#1}} \newcommand{mor}[3]{{#1}({#2},{#3})} \newcommand{set}[0]{\textbf{Set}} $$

導入

素朴集合論の基礎 (集合と写像,空集合など) に親しみがあり,圏の定義を知っていることを仮定する.また,この記事を通して,以下の記法を用いる (主に [1] で扱われているものを採用している):

  • 空集合 (empty set) を$\es$で表す.
  • $x,y$に対して,$x$$y$ (pair) $(x,y)$$(x,y):=\{\{x\},\{x,y\}\}$で定める.$x,x',y,y'$に対して,$(x,y)=(x',y')$ならば,$x=x'$かつ$y=y'$が成り立つことが知られている.
  • (category) $\cat{C}$に対して,$X$$\cat{C}$対象 (object) であることを,記号$\in$を用いて$X\in\cat{C}$で表す.
  • $\cat{C}$$X,Y\in\cat{C}$に対して,$X$から$Y$への$\cat{C}$での (morphism) の全体は集合であることを仮定して,この集合を$\mor{\cat{C}}{X}{Y}$で表す.すなわち,以下で扱う圏は全て 局所小圏 (locally small category) である.
  • $\cat{C}$に対して,$X,Y\in\cat{C}$であり,$f$$X$から$Y$への射であるとき,「($\cat{C}$の) 射$\func{f}{X}{Y}$に対して...」などの略記を用いることがある.
  • 通常の定義とは異なるが,圏$\cat{C}$$Z,Y,X\in\cat{C}$に対して,$\cat{C}$での合成 (composition) $\circ$$\mor{\cat{C}}{Y}{Z}\times\mor{\cat{C}}{X}{Y}$から$\mor{\cat{C}}{X}{Z}$への写像として定義する.
  • $\cat{C}$$\cat{C}$での射$\func{g}{Y}{Z}$$\func{f}{X}{Y}$に対して,$\cat{C}$での射$\func{\mathop{\circ}(g,f)}{X}{Z}$$g$$f$$\cat{C}$での合成 (composition) とよび,$g\circ f$$gf$で表す.
  • $\cal{C}$$X\in\cat{C}$に対して,$X$$\cat{C}$での恒等射 (identity) を$\id{X}$で表す.

集合の圏

集合の圏の構成

集合の圏

$\set$を以下で定める:

  1. $\set$の対象とは,集合のことである.
  2. $\set$の対象$X$$Y$に対して,$X$から$Y$への$\set$での射とは,$X$から$Y$への写像のことである.すなわち,集合$\mor{\set}{X}{Y}$を,$X$から$Y$への写像の全体と定める.
  3. $\set$での射$\func{g}{Y}{Z}$$\func{f}{X}{Y}$に対して,$g$$f$の合成$\func{gf}{X}{Z}$を,各$x\in X$に対して$(gf)(x):=g(f(x))$で定める.すなわち,$\set$の対象$Z$$Y$$X$に対して,写像$$\func{\circ}{\mor{\set}{Y}{Z}\times\mor{\set}{X}{Y}}{\mor{\set}{X}{Z}},(g,f)\mapsto\mathop{\circ}(g,f)$$を,各$g\in\mor{\set}{Y}{Z}$$f\in\mor{\set}{X}{Y}$$x\in X$に対して$(\mathop{\circ}(g,f))(x):=g(f(x))$で定める.

$\set$は圏をなす.
実際,$\set$の各対象$X$に対して,$\set$での射$\func{\id{X}}{X}{X}$が,各$x\in X$に対して$\id{X}(x):=x$で定まる.$\set$での任意の射$\func{f}{X}{Y}$に対して,$(\id{Y}f)(x)=\id{Y}(f(x))=f(x)$及び$(f\,\id{X})(x)=f(\id{X}(x))=f(x)$が各$x\in X$に対して成り立つので,$\id{Y}f=f=f\,\id{X}$である.
また,$\set$での任意の射$\func{h}{Z}{W}$$\func{g}{Y}{Z}$$\func{f}{X}{Y}$に対して,
$$(h(gf))(x)=h((gf)(x))=h(g(f(x)))=(hg)(f(x))=((hg)f)(x),$$
が各$x\in X$に対して成り立つので,$h(gf)=(hg)f$である.
ゆえに,$\set$は圏をなし,各$X\in\set$に対して,$\id{X}$$X$$\set$での恒等射である.
$\set$集合の圏 (category of sets)とよぶ.

集合の全体は"集合としては定義出来ない"ことが知られている.そのため,上で定めた圏$\set$ 小圏 (small category) ではない.しかし,ここでは グロタンディーク宇宙 (Grothendieck universe) や 強到達不能基数 (strongly inaccessible cardinal) などの道具を用いて圏の大きさに制限を設けることはせずに,集合全体の"集まり"なども集合のように扱うことにする.詳しくは [2, §1.2.15] や [2, §A.1] の冒頭を参照されたい.

集合の圏$\set$は良い性質をたくさんもつことが知られているが,ここでは以下の二つのみを紹介する:

  1. $\set$が終対象をもつこと (命題 3).
  2. $\set$が積をもつこと (命題 6).

ここでは,[ 3 , Tag 002I ] にある product ではなく,[ 3 , Tag 001S ] にある product of pairs のことを積 (product) とよんでいることに注意されたい.

準備

終対象と積を導入する前に,同型射について述べておこう.
$\cat{C}$を圏とする.

$X,Y\in\cat{C}$とする.$f$$X$から$Y$への同型射 (isomorphism) であるとは,$f$$X$から$Y$への射であり,$gf=\id{X}$かつ$fg=\id{Y}$をみたす射$\func{g}{Y}{X}$が存在することをいう.$f$$X$から$Y$への同型射であることを,$\func{f}{X}{Y}$が同型射であるという.

$\func{f}{X}{Y}$$\func{g}{Y}{X}$に対して,$gf=\id{X}$であることは,
$$\xymatrix{X\ar[r]^f\ar[rd]_{\id{X}}&Y\ar[d]^g\\ &X}$$
という図式 (diagram) が可換 (commutative)であると表される.同様に,$fg=\id{Y}$であることは,図式
$$\xymatrix{Y\ar[r]^g\ar[rd]_{\id{Y}}&X\ar[d]^f\\ &Y}$$
が可換であると表される.図式及びその可換性の正確な定義は述べないが,以下ではしばしば図式の可換性という形式で,条件を記述することがある.

$\func{f}{X}{Y}$を射とする.射$\func{g,g'}{Y}{X}$に対して,$gf=\id{X}$かつ$fg'=\id{Y}$ならば,$g=g'$である.

$$g=g\,\id{Y}=gfg'=\id{X}g'=g',$$
よりわかる.

$\func{f}{X}{Y}$を取る.射$\func{g,g'}{Y}{X}$$gf=\id{X}$かつ$fg=\id{Y}$,及び$g'f=\id{X}$かつ$fg'=\id{Y}$をみたすならば,特に$gf=\id{X}$かつ$fg'=\id{Y}$であり,命題 1 より$g=g'$が成り立つ.ゆえに,$\func{f}{X}{Y}$が同型射ならば,$gf=\id{X}$かつ$fg=\id{Y}$をみたす射$\func{g}{Y}{X}$が一意に存在することがわかる.これを$f$ (inverse) とよび,$f^{-1}$で表す.

集合の圏は終対象をもつ

終対象

$\cat{C}$を圏として,$X\in\cat{C}$とする.$X$終対象 (terminal object) であるとは,任意の$Y\in\cat{C}$に対して,$Y$から$X$への射が一意に存在することをいう.

$\cat{C}$を圏として,$X,X'\in\cat{C}$とする.$X$$X'$が終対象ならば,$X$から$X'$への同型射が一意に存在する.

  1. $X$から$X'$への同型射が存在すること: $X'$$\cat{C}$の終対象だから,射$\func{f}{X}{X'}$が取れる.また,$X$$\cat{C}$の終対象だから,射$\func{g}{X'}{X}$が取れる.
    $gf$$\id{X}$$X$から$X$への射であり,$X$が終対象であることから,$gf=\id{X}$を得る.また,$fg$$\id{X'}$$X'$から$X'$への射であり,$X'$が終対象であることから,$fg=\id{X'}$を得る.
    ゆえに,$f$$X$から$X'$への同型射である.
  2. $X$から$X'$への同型射が一意であること: $X'$が終対象であり,$X$から$X'$への同型射は$X$から$X'$への射であることから,任意の同型射$\func{f'}{X}{X'}$に対して,$f'=f$である.

$\{\es\}$$\set$の終対象である.

集合$Y$を任意に取る.
(1) $Y$から$\{\es\}$への写像が存在すること: 写像$\func{f}{Y}{\{\es\}}$が,各$y\in Y$に対して$f(y):=\es$で定まる.
(2) $Y$から$\{\es\}$への写像が一意であること: 写像$\func{f'}{Y}{\{\es\}}$を任意に取る.各$y\in Y$に対して,$f'(y)\in\{\es\}$だから,$f'(y)=\es=f(y)$であり,$f'=f$である.

ゆえに,$\set$は終対象をもつ.

集合の圏は積をもつ

$\cat{C}$を圏として,$X,Y\in\cat{C}$とする.$Z\in\cat{C}$と射$\func{p_{X,Y}}{Z}{X}$$\func{q_{X,Y}}{Z}{Y}$に対して,組$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$$X$$Y$ (product) であるとは,任意の$W\in\cat{C}$と任意の射$\func{f}{W}{X}$$\func{g}{W}{Y}$に対して,$p_{X,Y}h=f$かつ$q_{X,Y}h=g$をみたす射$\func{h}{W}{Z}$が一意に存在することをいう:
$$\xymatrix{&W\ar[ld]_f\ar[rd]^g\ar@{-->}[dd]^h\\ X&&Y\\ &Z\ar[lu]^{p_{X,Y}}\ar[ru]_{q_{X,Y}}}$$

$\cat{C}$を圏として,$X,Y,Z\in\cat{C}$として,$\func{p_{X,Y}}{Z}{X}$$\func{q_{X,Y}}{Z}{Y}$を射として,$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$$X$$Y$の積であるとする.射$\func{f}{Z}{Z}$$p_{X,Y}f=p_{X,Y}$かつ$q_{X,Y}f=q_{X,Y}$をみたすならば,$f=\id{Z}$である.

$p_{X,Y}\id{Z}=p_{X,Y}$かつ$q_{X,Y}\id{Z}=q_{X,Y}$であり,$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$$X$$Y$の積であることから,$f=\id{Z}$を得る.

$\cat{C}$を圏として,$X,Y,Z,Z'\in\cat{C}$として,$\func{p_{X,Y}}{Z}{X}$$\func{q_{X,Y}}{Z}{Y}$$\func{p'_{X,Y}}{Z'}{X}$$\func{q'_{X,Y}}{Z'}{Y}$を射とする.$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$$(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})$$X$$Y$の積ならば,$p'_{X,Y}h=p_{X,Y}$かつ$q'_{X,Y}h=q_{X,Y}$をみたす$Z$から$Z'$への同型射$h$が一意に存在する:
$$\xymatrix{&Z\ar[ld]_{p_{X,Y}}\ar[rd]^{q_{X,Y}}\ar@{-->}[dd]^h\\ X&&Y\\ &Z'\ar[lu]^{p'_{X,Y}}\ar[ru]_{q'_{X,Y}}}$$

  1. $p'_{X,Y}h=p_{X,Y}$かつ$q'_{X,Y}h=q_{X,Y}$をみたす$Z$から$Z'$への同型射$h$が存在すること: $(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})$$X$$Y$の積だから,$p'_{X,Y}h=p_{X,Y}$かつ$q'_{X,Y}h=q_{X,Y}$をみたす射$\func{h}{Z}{Z'}$が取れる:
    $$\xymatrix{&Z\ar[ld]_{p_{X,Y}}\ar[rd]^{q_{X,Y}}\ar@{-->}[dd]^h\\ X&&Y\\ &Z'\ar[lu]^{p'_{X,Y}}\ar[ru]_{q'_{X,Y}}}$$
    また,$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$$X$$Y$の積だから,$p_{X,Y}i=p'_{X,Y}$かつ$q_{X,Y}i=q'_{X,Y}$をみたす射$\func{i}{Z'}{Z}$が取れる:
    $$\xymatrix{&Z'\ar[ld]_{p'_{X,Y}}\ar[rd]^{q'_{X,Y}}\ar@{-->}[dd]^i\\ X&&Y\\ &Z\ar[lu]^{p_{X,Y}}\ar[ru]_{q_{X,Y}}}$$
    このとき,$p_{X,Y}ih=p'_{X,Y}h=p_{X,Y}$及び$q_{X,Y}ih=q'_{X,Y}h=q_{X,Y}$であり,$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$$X$$Y$の積であることから,補題 4 より$ih=\id{Z}$を得る.また,$p_{X,Y}'hi=p_{X,Y}i=p'_{X,Y}$及び$q_{X,Y}'hi=q_{X,Y}i=q'_{X,Y}$であり,$(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})$$X$$Y$の積であることから,補題 4 より$hi=\id{Z'}$を得る.ゆえに,$h$$Z$から$Z'$への同型射である.
    $h$の定め方から,$p'_{X,Y}h=p_{X,Y}$かつ$q'_{X,Y}h=q_{X,Y}$が成り立つ.
  2. $p'_{X,Y}h=p_{X,Y}$かつ$q'_{X,Y}h=q_{X,Y}$をみたす$Z$から$Z'$への同型射$h$が一意であること: $(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})$$X$$Y$の積であり,$Z$から$Z'$への同型射は$Z$から$Z'$への射であることから,$p'_{X,Y}h'=p_{X,Y}$かつ$q'_{X,Y}h'=q_{X,Y}$をみたす任意の同型射$\func{h'}{Z}{Z'}$に対して,$h'=h$である.

定義 1 にも現れたが,集合$X$$Y$に対して,$X$$Y$ (product) とは,$X\times Y:=\{(x,y):x\in X,y\in Y\}$で定まる集合$X\times Y$のことである.ただし,$\{(x,y):x\in X,y\in Y\}$とは$\{z:z=(x,y)\,\text{をみたす}\,x\in X\,\text{と}\,y\in Y\,\text{が存在する}\}$の略記である.集合$X$$Y$に対して,写像$\func{p_{X,Y}}{X\times Y}{X}$$\func{q_{X,Y}}{X\times Y}{Y}$が,各$(x,y)\in X\times Y$に対して$p_{X,Y}((x,y)):=x$$q_{X,Y}((x,y)):=y$で定まる.

集合$X$$Y$に対して,$(X\times Y,p_{X,Y},q_{X,Y})$$X$$Y$$\set$での積である.

集合$W$と写像$\func{f}{W}{X}$$\func{g}{W}{Y}$を任意に取る.

  1. $p_{X,Y}h=f$かつ$q_{X,Y}h=g$をみたす写像$\func{h}{W}{X\times Y}$が存在すること: 写像$\func{h}{W}{X\times Y}$が,各$w\in W$に対して$h(w):=(f(w),g(w))$で定まる.$(p_{X,Y}h)(w)=p_{X,Y}(h(w))=p_{X,Y}((f(w),g(w)))=f(w)$及び$(q_{X,Y}h)(w)=q_{X,Y}(h(w))=q_{X,Y}((f(w),g(w)))=g(w)$が各$w\in W$に対して成り立つので,$p_{X,Y}h=f$かつ$q_{X,Y}h=g$である.
  2. $p_{X,Y}h=f$かつ$q_{X,Y}h=g$をみたす写像$\func{h}{W}{X\times Y}$が一意であること: $p_{X,Y}h'=f$かつ$q_{X,Y}h'=g$をみたす写像$\func{h'}{W}{X\times Y}$を任意に取る.各$w\in W$に対して,$h'(w)\in X\times Y$だから,$h'(w)=(x_w,y_w)$をみたす$x_w\in X$$y_w\in Y$が存在して,
    $$\begin{align} h'(w)&=(x_w,y_w)=(p_{X,Y}((x_w,y_w)),q_{X,Y}((x_w,y_w)))\\ &=(p_{X,Y}(h'(w)),q_{X,Y}(h'(w)))=((p_{X,Y}h')(w),(q_{X,Y}h')(w))=(f(w),g(w))=h(w), \end{align}$$
    であり,$h'=h$である.

ゆえに,$\set$は積をもつ.

まとめ

この記事では,集合の圏$\set$を構成して,$\set$が終対象と積をもつことを確認した.一般に,圏$\cat{C}$が終対象と積をもつとき,$\cat{C}$有限積をもつ (have finite products) ということがある([ 3 , Tag 001R ]).
有限積をもつ圏は自然な「モノイダル構造」をもつことが知られている.次の記事では,モノイダル構造や「モノイダル圏」を定義して,$\set$上のモノイダル構造を構成する.また,$\set$上のモノイダル構造が「対称モノイダル閉構造」であることを示す.

付録: 命題 5 の別証明

以下では,命題 5 の別証明を与える.この証明は,準備は少し大変かもしれないが,見通しがよいと思う.

命題 5,再掲

$\cat{C}$を圏として,$X,Y,Z,Z'\in\cat{C}$として,$\func{p_{X,Y}}{Z}{X}$$\func{q_{X,Y}}{Z}{Y}$$\func{p'_{X,Y}}{Z'}{X}$$\func{q'_{X,Y}}{Z'}{Y}$を射とする.$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$$(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})$$X$$Y$の積ならば,$p'_{X,Y}h=p_{X,Y}$かつ$q'_{X,Y}h=q_{X,Y}$をみたす$Z$から$Z'$への同型射$h$が一意に存在する:
$$\xymatrix{&Z\ar[ld]_{p_{X,Y}}\ar[rd]^{q_{X,Y}}\ar@{-->}[dd]^h\\ X&&Y\\ &Z'\ar[lu]^{p'_{X,Y}}\ar[ru]_{q'_{X,Y}}}$$

$\cat{C}$を圏として,$X,Y\in\cal{C}$とする.

$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$を以下で定める:
(1) $\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$の対象とは,$Z\in\cat{C}$$\cat{C}$での射$\func{p}{Z}{X}$$\func{q}{Z}{Y}$の組$(Z,p,q)$のことである.
(2) $\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$の対象$(Z,p,q)$$(Z',p',q')$に対して,$(Z,p,q)$から$(Z',p',q')$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射とは,$p'f=p$かつ$q'f=q$をみたす$\cat{C}$での射$\func{f}{Z}{Z'}$のことである:
$$\xymatrix{&Z\ar[ld]_p\ar[rd]^q\ar[dd]^f\\ X&&Y\\ &Z'\ar[lu]^{p'}\ar[ru]_{q'}}$$
すなわち,集合$\mor{\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}}{(Z,p,q)}{(Z',p',q')}$を,
$$\mor{\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}}{(Z,p,q)}{(Z',p',q')}:=\{f\in\mor{\cat{C}}{Z}{Z'}:p'f=p,q'f=q\}.$$
で定める.
(3) $\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射$\func{g}{(Z,p,q)}{(Z',p',q')}$$\func{f}{(Z'',p'',q'')}{(Z,p,q)}$に対して,$g$$f$$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での合成$g\circ f$を,$g$$f$$\cat{C}$での合成$gf$として定める.すなわち,$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$の対象$(Z'',p'',q'')$$(Z',p',q')$$(Z,p,q)$に対して,写像
$$\begin{align} \circ\colon\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}((Z,p,q),(Z',&p',q'))\times\mor{\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}}{(Z'',p'',q'')}{(Z,p,q)}\\ &\to\mor{\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}}{(Z'',p'',q'')}{(Z',p',q')},(g,f)\mapsto g\circ f \end{align}$$
を,各$g\in\mor{\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}}{(Z,p,q)}{(Z',p',q')}$$f\in\mor{\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}}{(Z'',p'',q'')}{(Z,p,q)}$に対して$\mathop{\circ}((g,f)):=gf$で定める.

$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射$\func{g}{(Z,p,q)}{(Z',p',q')}$$\func{f}{(Z'',p'',q'')}{(Z,p,q)}$を取る.このとき,$g\circ f$$(Z'',p'',q'')$から$(Z',p',q')$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射であることは,以下のように示される.
まず,$g$$(Z,p,q)$から$(Z',p',q')$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射だから,$g$$Z$から$Z'$への$\cat{C}$での射であり,$p'g=p$かつ$q'g=q$をみたす:
$$\xymatrix{&Z\ar[ld]_p\ar[rd]^q\ar[dd]^g\\ X&&Y\\ &Z'\ar[lu]^{p'}\ar[ru]_{q'}}$$
また,$f$$(Z'',p'',q'')$から$(Z,p,q)$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射だから,$f$$Z''$から$Z$への$\cat{C}$での射であり,$pf=p''$かつ$qf=q''$をみたす:
$$\xymatrix{&Z''\ar[ld]_{p''}\ar[rd]^{q''}\ar[dd]^f\\ X&&Y\\ &Z\ar[lu]^p\ar[ru]_q}$$
このとき,$g$$f$$\cat{C}$での合成$gf$$Z''$から$Z'$への$\cat{C}$での射として定まり,$p'gf=pf=p''$及び$q'gf=qf=q''$をみたす:
$$\xymatrix{&&Z''\ar[dd]^f\ar@/_1.2pc/[lldd]_{p''}\ar@/^1.2pc/[rrdd]^{q''}\\\\ X&&Z\ar[ll]_p\ar[rr]^q\ar[dd]^g&&Y\\\\\ &&Z'\ar@/^1.2pc/[lluu]^{p'}\ar@/_1.2pc/[rruu]_{q'}}$$
これは,$g\circ f=gf$$(Z'',p'',q'')$から$(Z',p',q')$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射であることを示している.

$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$は圏をなす.実際,$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$の各対象$(Z,p,q)$に対して,$Z$$\cat{C}$での恒等射$\id{Z}$は,$Z$から$Z$への$\cat{C}$での射であり,$p\,\id{Z}=p$かつ$q\,\id{Z}=q$をみたす:
$$\xymatrix{&Z\ar[ld]_p\ar[rd]^q\ar[dd]^{\id{Z}}\\ X&&Y\\ &Z\ar[lu]^p\ar[ru]_q}$$
ゆえに,$\id{Z}$$(Z,p,q)$から$(Z,p,q)$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射である.$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での任意の射$\func{f}{(Z,p,q)}{(Z',p',q')}$に対して,$\id{Z'}\circ f=\id{Z'}f=f=f\,\id{Z}=f\circ\id{Z}$である.
また,$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での任意の射$\func{h}{(Z'',p'',q'')}{(Z''',p''',q''')}$$\func{g}{(Z',p',q')}{(Z'',p'',q'')}$$\func{f}{(Z,p,q)}{(Z',p',q')}$に対して,
$$h\circ(g\circ f)=h(g\circ f)=h(gf)=(hg)f=(h\circ g)f=(h\circ g)\circ f,$$
である.
ゆえに,$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$は圏をなし,各$(Z,p,q)\in\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$に対して,$\id{Z}$$(Z,p,q)$$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での恒等射である.

$(Z,p,q),(Z',p',q')\in\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$として,$\func{h}{Z}{Z'}$$\cat{C}$での射とする.このとき,以下は同値である:
(i) $h$$(Z,p,q)$から$(Z',p',q')$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での同型射である.
(ii) $h$$Z$から$Z'$への$\cat{C}$での同型射であり,$p'h=p$かつ$q'h=q$をみたす:
$$\xymatrix{&Z\ar[ld]_p\ar[rd]^q\ar[dd]^h\\ X&&Y\\ &Z'\ar[lu]^{p'}\ar[ru]_{q'}}$$

(i)$\Rightarrow$(ii): (i) が成り立つならば,$i\circ h=\id{(Z,p,q)}$かつ$h\circ i=\id{(Z',p',q')}$をみたす$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射$\func{i}{(Z',p',q')}{(Z,p,q)}$が取れる.定義 5, (2) より$i$$Z$から$Z'$への$\cat{C}$での射である.また,定義 5, (3) と$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$が圏をなすことの議論から,$ih=i\circ h=\id{(Z,p,q)}=\id{Z}$及び$hi=h\circ i=\id{(Z',p',q')}=\id{Z'}$が成り立つ.ゆえに,(ii) が成り立つ.
(ii)$\Rightarrow$(i): (ii) が成り立つならば,$jh=\id{Z}$かつ$hj=\id{Z'}$をみたす$\cat{C}$での射$\func{j}{Z'}{Z}$が取れる.$pj=p'hj=p'\id{Z'}=p'$及び$qj=,q'hj=q'\id{Z'}=q'$だから,定義 5, (2) より$j$$(Z',p',q')$から$(Z,p,q)$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射である:
$$\xymatrix{&&Z'\ar[dd]^j\ar@/_1.2pc/[lldd]_{p'}\ar@/^3pc/[dddd]^{\,\,\id{Z'}}&&&Z'\ar@/_3pc/[dddd]\ar[dd]_j\ar@/^1.2pc/[rrdd]^{q'}\\\\ X&&Z\ar[ll]_p\ar[dd]^h&&&Z\ar[dd]_h\ar[rr]^q&&Y\\\\ &&Z'\ar@/^1.2pc/[lluu]^{p'}&&&Z'\ar@/_1.2pc/[rruu]_{q'}}$$
また,定義 5, (3) と$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$が圏をなすことの議論から,$j\circ h=jh=\id{Z}=\id{(Z,p,q)}$及び$h\circ j=hj=\id{Z'}=\id{(Z',p',q')}$が成り立つ.ゆえに,(i) が成り立つ.

我々が示したいのは,以下の主張であった:

$Z,Z'\in\cat{C}$として,$\func{p_{X,Y}}{Z}{X}$$\func{q_{X,Y}}{Z}{Y}$$\func{p'_{X,Y}}{Z'}{X}$$\func{q'_{X,Y}}{Z'}{Y}$$\cat{C}$での射とする.$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$$(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})$$X$$Y$$\cat{C}$での積ならば,$p'_{X,Y}h=p_{X,Y}$かつ$q'_{X,Y}h=q_{X,Y}$をみたす$Z$から$Z'$への$\cat{C}$での同型射$h$が一意に存在する:
$$\xymatrix{&Z\ar[ld]_{p_{X,Y}}\ar[rd]^{q_{X,Y}}\ar@{-->}[dd]^h\\ X&&Y\\ &Z'\ar[lu]^{p'_{X,Y}}\ar[ru]_{q'_{X,Y}}}$$

$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y}),(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})\in\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$である.$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$$(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})$$X$$Y$$\cat{C}$での積ならば,定義 5, (2) よりこれらは$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$の終対象であり,命題 2 より$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$から$(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での同型射が一意に存在して,補題 8 より主張が成立する.

追記

  • 2022/2/19 21:40 命題 1 の証明を修正した.
  • 2022/2/20 15:36 参考文献に第2回 (前半) の記事 [ 5 ] を加えた.
  • 2022/2/23 22:28 参考文献に第2回 (後半) の記事 [ 6 ] を加えた.
  • 2022/2/26 14:55 参考文献に第3回の記事 [ 7 ] を加えた.
  • 2022/3/3 22:56 参考文献に第4回 (前半) の記事 [ 8 ] を加えた.
  • 2022/3/3 22:56 参考文献に第4回 (後半) (1) の記事 [ 9 ] を加えた.
  • 2022/3/3 23:32 参考文献に第4回 (後半) (2) の記事 [ 10 ] を加えた.

参考文献

投稿日:2022219

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

sh
sh
13
4758
数学科に所属しています.修士一年生です.

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中