素朴集合論の基礎 (集合と写像,空集合など) に親しみがあり,圏の定義を知っていることを仮定する.また,この記事を通して,以下の記法を用いる (主に [1] で扱われているものを採用している):
圏$\set$を以下で定める:
$\set$は圏をなす.
実際,$\set$の各対象$X$に対して,$\set$での射$\func{\id{X}}{X}{X}$が,各$x\in X$に対して$\id{X}(x):=x$で定まる.$\set$での任意の射$\func{f}{X}{Y}$に対して,$(\id{Y}f)(x)=\id{Y}(f(x))=f(x)$及び$(f\,\id{X})(x)=f(\id{X}(x))=f(x)$が各$x\in X$に対して成り立つので,$\id{Y}f=f=f\,\id{X}$である.
また,$\set$での任意の射$\func{h}{Z}{W}$と$\func{g}{Y}{Z}$と$\func{f}{X}{Y}$に対して,
$$(h(gf))(x)=h((gf)(x))=h(g(f(x)))=(hg)(f(x))=((hg)f)(x),$$
が各$x\in X$に対して成り立つので,$h(gf)=(hg)f$である.
ゆえに,$\set$は圏をなし,各$X\in\set$に対して,$\id{X}$は$X$の$\set$での恒等射である.
圏$\set$を集合の圏 (category of sets)とよぶ.
集合の全体は"集合としては定義出来ない"ことが知られている.そのため,上で定めた圏$\set$は 小圏 (small category) ではない.しかし,ここでは グロタンディーク宇宙 (Grothendieck universe) や 強到達不能基数 (strongly inaccessible cardinal) などの道具を用いて圏の大きさに制限を設けることはせずに,集合全体の"集まり"なども集合のように扱うことにする.詳しくは [2, §1.2.15] や [2, §A.1] の冒頭を参照されたい.
集合の圏$\set$は良い性質をたくさんもつことが知られているが,ここでは以下の二つのみを紹介する:
終対象と積を導入する前に,同型射について述べておこう.
$\cat{C}$を圏とする.
$X,Y\in\cat{C}$とする.$f$が$X$から$Y$への同型射 (isomorphism) であるとは,$f$が$X$から$Y$への射であり,$gf=\id{X}$かつ$fg=\id{Y}$をみたす射$\func{g}{Y}{X}$が存在することをいう.$f$が$X$から$Y$への同型射であることを,$\func{f}{X}{Y}$が同型射であるという.
射$\func{f}{X}{Y}$と$\func{g}{Y}{X}$に対して,$gf=\id{X}$であることは,
$$\xymatrix{X\ar[r]^f\ar[rd]_{\id{X}}&Y\ar[d]^g\\
&X}$$
という図式 (diagram) が可換 (commutative)であると表される.同様に,$fg=\id{Y}$であることは,図式
$$\xymatrix{Y\ar[r]^g\ar[rd]_{\id{Y}}&X\ar[d]^f\\
&Y}$$
が可換であると表される.図式及びその可換性の正確な定義は述べないが,以下ではしばしば図式の可換性という形式で,条件を記述することがある.
$\func{f}{X}{Y}$を射とする.射$\func{g,g'}{Y}{X}$に対して,$gf=\id{X}$かつ$fg'=\id{Y}$ならば,$g=g'$である.
$$g=g\,\id{Y}=gfg'=\id{X}g'=g',$$
よりわかる.
射$\func{f}{X}{Y}$を取る.射$\func{g,g'}{Y}{X}$が$gf=\id{X}$かつ$fg=\id{Y}$,及び$g'f=\id{X}$かつ$fg'=\id{Y}$をみたすならば,特に$gf=\id{X}$かつ$fg'=\id{Y}$であり,命題 1 より$g=g'$が成り立つ.ゆえに,$\func{f}{X}{Y}$が同型射ならば,$gf=\id{X}$かつ$fg=\id{Y}$をみたす射$\func{g}{Y}{X}$が一意に存在することがわかる.これを$f$の逆 (inverse) とよび,$f^{-1}$で表す.
$\cat{C}$を圏として,$X\in\cat{C}$とする.$X$が終対象 (terminal object) であるとは,任意の$Y\in\cat{C}$に対して,$Y$から$X$への射が一意に存在することをいう.
$\cat{C}$を圏として,$X,X'\in\cat{C}$とする.$X$と$X'$が終対象ならば,$X$から$X'$への同型射が一意に存在する.
$\{\es\}$は$\set$の終対象である.
集合$Y$を任意に取る.
(1) $Y$から$\{\es\}$への写像が存在すること: 写像$\func{f}{Y}{\{\es\}}$が,各$y\in Y$に対して$f(y):=\es$で定まる.
(2) $Y$から$\{\es\}$への写像が一意であること: 写像$\func{f'}{Y}{\{\es\}}$を任意に取る.各$y\in Y$に対して,$f'(y)\in\{\es\}$だから,$f'(y)=\es=f(y)$であり,$f'=f$である.
ゆえに,$\set$は終対象をもつ.
$\cat{C}$を圏として,$X,Y\in\cat{C}$とする.$Z\in\cat{C}$と射$\func{p_{X,Y}}{Z}{X}$と$\func{q_{X,Y}}{Z}{Y}$に対して,組$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$が$X$と$Y$の積 (product) であるとは,任意の$W\in\cat{C}$と任意の射$\func{f}{W}{X}$と$\func{g}{W}{Y}$に対して,$p_{X,Y}h=f$かつ$q_{X,Y}h=g$をみたす射$\func{h}{W}{Z}$が一意に存在することをいう:
$$\xymatrix{&W\ar[ld]_f\ar[rd]^g\ar@{-->}[dd]^h\\
X&&Y\\
&Z\ar[lu]^{p_{X,Y}}\ar[ru]_{q_{X,Y}}}$$
$\cat{C}$を圏として,$X,Y,Z\in\cat{C}$として,$\func{p_{X,Y}}{Z}{X}$と$\func{q_{X,Y}}{Z}{Y}$を射として,$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$は$X$と$Y$の積であるとする.射$\func{f}{Z}{Z}$が$p_{X,Y}f=p_{X,Y}$かつ$q_{X,Y}f=q_{X,Y}$をみたすならば,$f=\id{Z}$である.
$p_{X,Y}\id{Z}=p_{X,Y}$かつ$q_{X,Y}\id{Z}=q_{X,Y}$であり,$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$が$X$と$Y$の積であることから,$f=\id{Z}$を得る.
$\cat{C}$を圏として,$X,Y,Z,Z'\in\cat{C}$として,$\func{p_{X,Y}}{Z}{X}$と$\func{q_{X,Y}}{Z}{Y}$と$\func{p'_{X,Y}}{Z'}{X}$と$\func{q'_{X,Y}}{Z'}{Y}$を射とする.$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$と$(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})$が$X$と$Y$の積ならば,$p'_{X,Y}h=p_{X,Y}$かつ$q'_{X,Y}h=q_{X,Y}$をみたす$Z$から$Z'$への同型射$h$が一意に存在する:
$$\xymatrix{&Z\ar[ld]_{p_{X,Y}}\ar[rd]^{q_{X,Y}}\ar@{-->}[dd]^h\\
X&&Y\\
&Z'\ar[lu]^{p'_{X,Y}}\ar[ru]_{q'_{X,Y}}}$$
定義 1 にも現れたが,集合$X$と$Y$に対して,$X$と$Y$の積 (product) とは,$X\times Y:=\{(x,y):x\in X,y\in Y\}$で定まる集合$X\times Y$のことである.ただし,$\{(x,y):x\in X,y\in Y\}$とは$\{z:z=(x,y)\,\text{をみたす}\,x\in X\,\text{と}\,y\in Y\,\text{が存在する}\}$の略記である.集合$X$と$Y$に対して,写像$\func{p_{X,Y}}{X\times Y}{X}$と$\func{q_{X,Y}}{X\times Y}{Y}$が,各$(x,y)\in X\times Y$に対して$p_{X,Y}((x,y)):=x$と$q_{X,Y}((x,y)):=y$で定まる.
集合$X$と$Y$に対して,$(X\times Y,p_{X,Y},q_{X,Y})$は$X$と$Y$の$\set$での積である.
集合$W$と写像$\func{f}{W}{X}$と$\func{g}{W}{Y}$を任意に取る.
ゆえに,$\set$は積をもつ.
この記事では,集合の圏$\set$を構成して,$\set$が終対象と積をもつことを確認した.一般に,圏$\cat{C}$が終対象と積をもつとき,$\cat{C}$は有限積をもつ (have finite products) ということがある([
3
,
Tag 001R
]).
有限積をもつ圏は自然な「モノイダル構造」をもつことが知られている.次の記事では,モノイダル構造や「モノイダル圏」を定義して,$\set$上のモノイダル構造を構成する.また,$\set$上のモノイダル構造が「対称モノイダル閉構造」であることを示す.
以下では,命題 5 の別証明を与える.この証明は,準備は少し大変かもしれないが,見通しがよいと思う.
$\cat{C}$を圏として,$X,Y,Z,Z'\in\cat{C}$として,$\func{p_{X,Y}}{Z}{X}$と$\func{q_{X,Y}}{Z}{Y}$と$\func{p'_{X,Y}}{Z'}{X}$と$\func{q'_{X,Y}}{Z'}{Y}$を射とする.$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$と$(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})$が$X$と$Y$の積ならば,$p'_{X,Y}h=p_{X,Y}$かつ$q'_{X,Y}h=q_{X,Y}$をみたす$Z$から$Z'$への同型射$h$が一意に存在する:
$$\xymatrix{&Z\ar[ld]_{p_{X,Y}}\ar[rd]^{q_{X,Y}}\ar@{-->}[dd]^h\\
X&&Y\\
&Z'\ar[lu]^{p'_{X,Y}}\ar[ru]_{q'_{X,Y}}}$$
$\cat{C}$を圏として,$X,Y\in\cal{C}$とする.
圏$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$を以下で定める:
(1) $\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$の対象とは,$Z\in\cat{C}$と$\cat{C}$での射$\func{p}{Z}{X}$と$\func{q}{Z}{Y}$の組$(Z,p,q)$のことである.
(2) $\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$の対象$(Z,p,q)$と$(Z',p',q')$に対して,$(Z,p,q)$から$(Z',p',q')$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射とは,$p'f=p$かつ$q'f=q$をみたす$\cat{C}$での射$\func{f}{Z}{Z'}$のことである:
$$\xymatrix{&Z\ar[ld]_p\ar[rd]^q\ar[dd]^f\\
X&&Y\\
&Z'\ar[lu]^{p'}\ar[ru]_{q'}}$$
すなわち,集合$\mor{\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}}{(Z,p,q)}{(Z',p',q')}$を,
$$\mor{\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}}{(Z,p,q)}{(Z',p',q')}:=\{f\in\mor{\cat{C}}{Z}{Z'}:p'f=p,q'f=q\}.$$
で定める.
(3) $\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射$\func{g}{(Z,p,q)}{(Z',p',q')}$と$\func{f}{(Z'',p'',q'')}{(Z,p,q)}$に対して,$g$と$f$の$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での合成$g\circ f$を,$g$と$f$の$\cat{C}$での合成$gf$として定める.すなわち,$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$の対象$(Z'',p'',q'')$と$(Z',p',q')$と$(Z,p,q)$に対して,写像
$$\begin{align}
\circ\colon\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}((Z,p,q),(Z',&p',q'))\times\mor{\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}}{(Z'',p'',q'')}{(Z,p,q)}\\
&\to\mor{\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}}{(Z'',p'',q'')}{(Z',p',q')},(g,f)\mapsto g\circ f
\end{align}$$
を,各$g\in\mor{\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}}{(Z,p,q)}{(Z',p',q')}$と$f\in\mor{\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}}{(Z'',p'',q'')}{(Z,p,q)}$に対して$\mathop{\circ}((g,f)):=gf$で定める.
$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射$\func{g}{(Z,p,q)}{(Z',p',q')}$と$\func{f}{(Z'',p'',q'')}{(Z,p,q)}$を取る.このとき,$g\circ f$が$(Z'',p'',q'')$から$(Z',p',q')$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射であることは,以下のように示される.
まず,$g$は$(Z,p,q)$から$(Z',p',q')$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射だから,$g$は$Z$から$Z'$への$\cat{C}$での射であり,$p'g=p$かつ$q'g=q$をみたす:
$$\xymatrix{&Z\ar[ld]_p\ar[rd]^q\ar[dd]^g\\
X&&Y\\
&Z'\ar[lu]^{p'}\ar[ru]_{q'}}$$
また,$f$は$(Z'',p'',q'')$から$(Z,p,q)$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射だから,$f$は$Z''$から$Z$への$\cat{C}$での射であり,$pf=p''$かつ$qf=q''$をみたす:
$$\xymatrix{&Z''\ar[ld]_{p''}\ar[rd]^{q''}\ar[dd]^f\\
X&&Y\\
&Z\ar[lu]^p\ar[ru]_q}$$
このとき,$g$と$f$の$\cat{C}$での合成$gf$が$Z''$から$Z'$への$\cat{C}$での射として定まり,$p'gf=pf=p''$及び$q'gf=qf=q''$をみたす:
$$\xymatrix{&&Z''\ar[dd]^f\ar@/_1.2pc/[lldd]_{p''}\ar@/^1.2pc/[rrdd]^{q''}\\\\
X&&Z\ar[ll]_p\ar[rr]^q\ar[dd]^g&&Y\\\\\
&&Z'\ar@/^1.2pc/[lluu]^{p'}\ar@/_1.2pc/[rruu]_{q'}}$$
これは,$g\circ f=gf$が$(Z'',p'',q'')$から$(Z',p',q')$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射であることを示している.
$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$は圏をなす.実際,$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$の各対象$(Z,p,q)$に対して,$Z$の$\cat{C}$での恒等射$\id{Z}$は,$Z$から$Z$への$\cat{C}$での射であり,$p\,\id{Z}=p$かつ$q\,\id{Z}=q$をみたす:
$$\xymatrix{&Z\ar[ld]_p\ar[rd]^q\ar[dd]^{\id{Z}}\\
X&&Y\\
&Z\ar[lu]^p\ar[ru]_q}$$
ゆえに,$\id{Z}$は$(Z,p,q)$から$(Z,p,q)$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射である.$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での任意の射$\func{f}{(Z,p,q)}{(Z',p',q')}$に対して,$\id{Z'}\circ f=\id{Z'}f=f=f\,\id{Z}=f\circ\id{Z}$である.
また,$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での任意の射$\func{h}{(Z'',p'',q'')}{(Z''',p''',q''')}$と$\func{g}{(Z',p',q')}{(Z'',p'',q'')}$と$\func{f}{(Z,p,q)}{(Z',p',q')}$に対して,
$$h\circ(g\circ f)=h(g\circ f)=h(gf)=(hg)f=(h\circ g)f=(h\circ g)\circ f,$$
である.
ゆえに,$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$は圏をなし,各$(Z,p,q)\in\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$に対して,$\id{Z}$は$(Z,p,q)$の$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での恒等射である.
$(Z,p,q),(Z',p',q')\in\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$として,$\func{h}{Z}{Z'}$を$\cat{C}$での射とする.このとき,以下は同値である:
(i) $h$は$(Z,p,q)$から$(Z',p',q')$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での同型射である.
(ii) $h$は$Z$から$Z'$への$\cat{C}$での同型射であり,$p'h=p$かつ$q'h=q$をみたす:
$$\xymatrix{&Z\ar[ld]_p\ar[rd]^q\ar[dd]^h\\
X&&Y\\
&Z'\ar[lu]^{p'}\ar[ru]_{q'}}$$
(i)$\Rightarrow$(ii): (i) が成り立つならば,$i\circ h=\id{(Z,p,q)}$かつ$h\circ i=\id{(Z',p',q')}$をみたす$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射$\func{i}{(Z',p',q')}{(Z,p,q)}$が取れる.定義 5, (2) より$i$は$Z$から$Z'$への$\cat{C}$での射である.また,定義 5, (3) と$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$が圏をなすことの議論から,$ih=i\circ h=\id{(Z,p,q)}=\id{Z}$及び$hi=h\circ i=\id{(Z',p',q')}=\id{Z'}$が成り立つ.ゆえに,(ii) が成り立つ.
(ii)$\Rightarrow$(i): (ii) が成り立つならば,$jh=\id{Z}$かつ$hj=\id{Z'}$をみたす$\cat{C}$での射$\func{j}{Z'}{Z}$が取れる.$pj=p'hj=p'\id{Z'}=p'$及び$qj=,q'hj=q'\id{Z'}=q'$だから,定義 5, (2) より$j$は$(Z',p',q')$から$(Z,p,q)$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での射である:
$$\xymatrix{&&Z'\ar[dd]^j\ar@/_1.2pc/[lldd]_{p'}\ar@/^3pc/[dddd]^{\,\,\id{Z'}}&&&Z'\ar@/_3pc/[dddd]\ar[dd]_j\ar@/^1.2pc/[rrdd]^{q'}\\\\
X&&Z\ar[ll]_p\ar[dd]^h&&&Z\ar[dd]_h\ar[rr]^q&&Y\\\\
&&Z'\ar@/^1.2pc/[lluu]^{p'}&&&Z'\ar@/_1.2pc/[rruu]_{q'}}$$
また,定義 5, (3) と$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$が圏をなすことの議論から,$j\circ h=jh=\id{Z}=\id{(Z,p,q)}$及び$h\circ j=hj=\id{Z'}=\id{(Z',p',q')}$が成り立つ.ゆえに,(i) が成り立つ.
我々が示したいのは,以下の主張であった:
$Z,Z'\in\cat{C}$として,$\func{p_{X,Y}}{Z}{X}$と$\func{q_{X,Y}}{Z}{Y}$と$\func{p'_{X,Y}}{Z'}{X}$と$\func{q'_{X,Y}}{Z'}{Y}$を$\cat{C}$での射とする.$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$と$(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})$が$X$と$Y$の$\cat{C}$での積ならば,$p'_{X,Y}h=p_{X,Y}$かつ$q'_{X,Y}h=q_{X,Y}$をみたす$Z$から$Z'$への$\cat{C}$での同型射$h$が一意に存在する:
$$\xymatrix{&Z\ar[ld]_{p_{X,Y}}\ar[rd]^{q_{X,Y}}\ar@{-->}[dd]^h\\
X&&Y\\
&Z'\ar[lu]^{p'_{X,Y}}\ar[ru]_{q'_{X,Y}}}$$
$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y}),(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})\in\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$である.$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$と$(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})$が$X$と$Y$の$\cat{C}$での積ならば,定義 5, (2) よりこれらは$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$の終対象であり,命題 2 より$(Z,p_{X,Y},q_{X,Y})$から$(Z',p'_{X,Y},q'_{X,Y})$への$\cat{C}_{X\leftarrow\,\bullet\,\to Y}$での同型射が一意に存在して,補題 8 より主張が成立する.