前回の記事 [ 4 ] では,集合の圏$\set$を構成して,$\set$が終対象と積をもつことを確認した.この記事では,モノイダル圏を定義することを目標とする.
素朴集合論の基礎 (集合と写像,空集合など) に親しみがあり,圏の定義を知っていることを仮定する.
また,この記事を通して,以下の記法を用いる (主に [1] で扱われているものを採用している):
第1回の記事 [ 4 ] からは,定義 1 と命題 1 を用いており,これらを定義 1.1 及び命題 1.1 で表している.
モノイダル構造やモノイダル圏を定義するための準備として,ここでは関手や自然変換などの概念を導入して,それらの基本的な性質について述べる.
$n$を正の整数として,$\cat{C}_i$ ($1\le i\le n$) を圏とする.圏$\prod_i\cat{C}_i$を以下で定義する:
正の整数$n$に対して,$\prod_i\cat{C}_i$は圏をなす.実際,$\prod_i\cat{C}_i$の各対象$\{X_i\}_i$を取るとき,$X_i$の$\cat{C}_i$での恒等射$\id{X_i}$ ($1\le i\le n$) に対して,$\{\id{X_i}\}_i$は$\{X_i\}_i$から$\{X_i\}_i$への$\prod_i\cat{C}_i$での射である.$\prod_i\cat{C}_i$での任意の射$\func{\{f_i\}_i}{\{X_i\}_i}{\{Y_i\}_i}$に対して,
$$\{\id{Y_i}\}_i\{f_i\}_i=\{\id{Y_i}f_i\}_i=\{f_i\}_i=\{f_i\,\id{X_i}\}_i=\{f_i\}_i\{\id{X_i}\}_i,$$
である.
また,$\prod_i\cat{C}_i$での任意の射$\func{\{h_i\}_i}{\{Z_i\}_i}{\{W_i\}_i}$と$\func{\{g_i\}_i}{\{Y_i\}_i}{\{Z_i\}_i}$と$\func{\{f_i\}_i}{\{X_i\}_i}{\{Y_i\}_i}$に対して,
$$\{h_i\}_i(\{g_i\}_i\{f_i\}_i)=\{h_i\}_i\{g_if_i\}_i=\{h_i(g_if_i)\}_i=\{(h_ig_i)f_i\}_i=\{h_ig_i\}_i\{f_i\}_i=(\{h_i\}_i\{g_i\}_i)\{f_i\}_i,$$
である.
ゆえに,正の整数$n$に対して,$\prod_i{C}_i$は圏をなし,各$\{X_i\}_i\in\prod_i\cat{C}_i$に対して,$\{\id{X_i}\}_i$は$\{X_i\}_i$の$\prod_i\cat{C}_i$での恒等射である.
圏$\cat{C}$に対して$\cat{C}_i=\cat{C}$ ($1\le i\le n$) である場合は,$\prod_i\cat{C}_i$を$\cat{C}^n$で表す.
$\cat{C}$と$\cat{D}$を圏とする.
が与えられているとき,組$F=(\underline{F},\{F_{X,Y}\}_{X,Y\in\cat{C}})$が$\cat{C}$から$\cat{D}$への共変関手 (covariant functor) であるとは,以下が成り立つことをいう:
共変関手のことを,以下では関手 (functor) とよぶことにする.$F$が$\cat{C}$から$\cat{D}$への関手であることを,$\func{F}{\cat{C}}{\cat{D}}$が関手であるという.また,関手$\func{F=(\underline{F},\{F_{X,Y}\}_{X,Y\in\cat{C}})}{\cat{C}}{\cat{D}}$に対して,$\underline{F}$と$F_{X,Y}$ ($X,Y\in\cat{C}$) をいずれも$F$と略記する.
$\cat{C}$を圏とする.$\cat{C}$から$\cat{C}$への関手$\id{\cat{C}}$を以下で定める:
(1) 各$X\in\cat{C}$に対して,$\cat{C}$の対象$\id{\cat{C}}X$を$\id{\cat{C}}X:=X$と定める.
(2) $\cat{C}$での各射$\func{f}{X}{Y}$に対して,$\id{\cat{C}}X=X$から$\id{\cat{C}}Y=Y$への$\cat{C}$での射$\id{\cat{C}}(f)$を$\id{\cat{C}}(f):=f$で定める.
圏$\cat{C}$を取るとき,$\id{\cat{C}}$は$\cat{C}$から$\cat{C}$への関手である.実際,任意の$X\in\cat{C}$に対して,$\id{\cat{C}}(\id{X})=\id{X}=\id{\id{\cat{C}}X}$である.
また,$\cat{C}$での任意の射$\func{g}{Y}{Z}$と$\func{f}{X}{Y}$に対して,$\id{\cat{C}}(gf)=gf=\id{\cat{C}}(g)\,\id{\cat{C}}(f)$である.
関手$\func{\id{\cat{C}}}{\cat{C}}{\cat{C}}$を$\cat{C}$の恒等関手 (identity functor) という.
$\func{G}{\cat{D}}{\cat{E}}$と$\func{F}{\cat{C}}{\cat{D}}$を関手とする.$\cat{C}$から$\cat{E}$への関手$GF$を以下で定める:
(1) 各$X\in\cat{C}$に対して,$\cat{E}$の対象$(GF)X$を$(GF)X:=G(FX)$と定める.
(2) $\cat{C}$での各射$\func{f}{X}{Y}$に対して,$(GF)X=G(FX)$から$(GF)Y=G(FY)$への$\cat{E}$での射$(GF)(f)$を$(GF)(f):=G(F(f))$で定める.
関手$\func{G}{\cat{D}}{\cat{E}}$と$\func{F}{\cat{C}}{\cat{D}}$を取るとき,$GF$は$\cat{C}$から$\cat{E}$への関手である.実際,$\func{F}{\cat{C}}{\cat{D}}$と$\func{G}{\cat{D}}{\cat{E}}$が関手であることから,任意の$X\in\cat{C}$に対して,
$$(GF)(\id{X})=G(F(\id{X}))=G(\id{FX})=\id{G(FX)}=\id{(GF)X},$$
である.
また,$\func{F}{\cat{C}}{\cat{D}}$と$\func{G}{\cat{D}}{\cat{E}}$が関手であることから,$\cat{C}$での任意の射$\func{g}{Y}{Z}$と$\func{f}{X}{Y}$に対して,
$$(GF)(gf)=G(F(gf))=G(F(g)F(f))=G(F(g))G(F(f))=(GF)(g)(GF)(f),$$
である.
関手$\func{GF}{\cat{C}}{\cat{E}}$を$G$と$F$の合成 (composition) とよぶ.
関手$\func{F}{\cat{C}}{\cat{D}}$に対して,$\id{\cat{D}}F=F=F\,\id{\cat{C}}$が成り立つ.
任意の$X\in\cat{C}$に対して,$(\id{\cat{D}}F)X=\id{\cat{D}}(FX)=FX$及び$(F\,\id{\cat{C}})X=F(\id{\cat{C}}X)=FX$である.
また,$\cat{C}$での任意の射$\func{f}{X}{Y}$に対して,$(\id{\cat{D}}F)(f)=\id{\cat{D}}(F(f))=F(f)$及び$(F\,\id{\cat{C}})(f)=F(\id{\cat{C}}(f))=F(f)$である.
ゆえに,$\id{\cat{D}}F=F=F\,\id{\cat{C}}$が成り立つ.
関手$\func{H}{\cat{D}}{\cat{E}}$と$\func{G}{\cat{C}}{\cat{D}}$と$\func{F}{\cat{B}}{\cat{C}}$に対して,$H(GF)=(HG)F$が成り立つ.
任意の$X\in\cat{B}$に対して,
$$(H(GF))X=H((GF)X)=H(G(FX))=(HG)(FX)=((HG)F)X,$$
である.
また,$\cat{B}$での任意の射$\func{f}{X}{Y}$に対して,
$$(H(GF))(f)=H((GF)(f))=H(G(F(f)))=(HG)(F(f))=((HG)F)(f),$$
である.
ゆえに,$H(GF)=(HG)F$が成り立つ.
命題 2 の証明から,関手$\func{H}{\cat{D}}{\cat{E}}$と$\func{G}{\cat{C}}{\cat{D}}$と$\func{F}{\cat{B}}{\cat{C}}$に対して,$\cat{B}$から$\cat{E}$への関手$HGF$が,各$X\in\cat{B}$に対して$(HGF)X:=H(G(FX))$及び,$\cat{C}$の各射$\func{f}{X}{Y}$に対して$(HGF)(f):=H(G(F(f)))$で定まることがわかる.
$n$を正の整数として,$\func{F_i}{\cat{C}_i}{\cat{D}_i}$ ($1\le i\le n$) を関手とする.$\prod_i\cat{C}_i$から$\prod_i\cat{D}_i$への関手$\prod_iF_i$を以下で定める:
(1) 各$\{X_i\}_i\in\prod_i\cat{C}_i$に対して,$\prod_i\cat{D}_i$の対象$\bigl(\prod_iF_i\bigr)\{X_i\}_i$を$\bigl(\prod_iF_i\bigr)\{X_i\}:=\{F_iX_i\}_i$で定める.
(2) $\prod_i\cat{C}_i$での各射$\func{\{f_i\}_i}{\{X_i\}_i}{\{Y_i\}_i}$に対して,$\bigl(\prod_iF_i\bigr)\{X_i\}_i=\{F_iX_i\}_i$から$\bigl(\prod_iF_i\bigr)\{Y_i\}_i=\{F_iY_i\}_i$への$\prod_i\cat{D}_i$での射$\bigl(\prod_iF_i\bigr)(\{f_i\}_i)$を$\bigl(\prod_iF_i\bigr)(\{f_i\}_i):=\{F_i(f_i)\}_i$で定める.
関手$\func{F_i}{\cat{C}_i}{\cat{D}_i}$ ($1\le i\le n$) を取るとき,$\prod_iF_i$は$\prod_i\cat{C}_i$から$\prod_i\cat{D}_i$への関手である.実際,$\func{F_i}{\cat{C_i}}{\cat{D_i}}$ ($1\le i\le n$) が関手であることから,任意の$\{X_i\}_i\in\prod_i\cat{C}_i$に対して,
$$\textstyle\bigl(\prod_iF_i\bigr)\bigl(\id{\{X_i\}_i}\bigr)=\bigl(\prod_iF_i\bigr)(\{\id{X_i}\}_i)=\{F_i(\id{X_i})\}_i=\{\id{F_iX_i}\}_i=\id{\{F_iX_i\}_i}=\id{(\prod_iF_i)\{X_i\}_i},$$
である.
また,$\func{F_i}{\cat{C_i}}{\cat{D_i}}$ ($1\le i\le n$) が関手であることから,$\prod_i\cat{C}_i$での任意の射$\func{\{g_i\}_i}{\{Y_i\}_i}{\{Z_i\}_i}$と$\func{\{f_i\}_i}{\{X_i\}_i}{\{Y_i\}_i}$に対して,
\begin{align}
\textstyle\bigl(\prod_iF_i\bigr)\bigl(\{g_i\}_i\{f_i\}_i\bigr)
&\textstyle=\bigl(\prod_iF_i\bigr)(\{g_if_i\}_i)
=\{F_i(g_if_i)\}_i\\
&\textstyle=\{F_i(g_i)F_i(f_i)\}_i=\{F_i(g_i)\}_i\{F_i(f_i)\}_i=\bigl(\prod_iF_i\bigr)(\{g_i\})\bigl(\prod_iF_i\bigr)(\{f_i\}),
\end{align}
である.
$n=2$の場合は$\prod_iF_i$を$F_1\times F_2$で表す.
$\func{F,G}{\cat{C}}{\cat{D}}$を関手とする.$\cat{D}$での射の族$\alpha=\{\func{\alpha_X}{FX}{GX}\}_{X\in\cat{C}}$が$F$から$G$への自然変換 (natural transformation) であるとは,$\cat{C}$での任意の射$\func{f}{X}{Y}$に対して,$\alpha_YF(f)=G(f)\alpha_X$が成り立つことをいう:
$$\xymatrix{FX\ar[r]^{\alpha_X}\ar[d]_{F(f)}&GX\ar[d]^{G(f)}\\
FY\ar[r]_{\alpha_Y}&GY}$$
$\alpha$が$F$から$G$への自然変換であることを,$\func{\alpha}{F}{G}$が自然変換であるという.
関手$\func{F,G}{\prod_i\cat{C}_i}{\cat{D}}$と自然変換$\func{\alpha}{F}{G}$と$\{X_i\}_i\in\prod_i\cat{C}_i$に対して,$\alpha_{\{X_i\}_i}$を$\alpha_{X_1,\dots,X_n}$で表す.
$\func{F}{\cat{C}}{\cat{D}}$を関手とする.$F$から$F$への自然変換$\id{F}$を,各$X\in\cat{C}$に対して,$FX$から$FX$への$\cat{C}$での射$(\id{F})_X$を$FX$の$\cat{C}$での恒等射$\id{FX}$とすることで定める.
関手$\func{F}{\cat{C}}{\cat{D}}$に対して,$\id{F}$は$F$から$F$への自然変換である.実際,$\cat{C}$での任意の射$\func{f}{X}{Y}$に対して,
$$(\id{F})_YF(f)=\id{FY}F(f)=F(f)=F(f)\,\id{FX}=F(f)(\id{F})_X,$$
である:
$$\xymatrix{FX\ar[r]^{(\id{F})_X}\ar[d]_{F(f)}&FX\ar[d]^{F(f)}\\
FY\ar[r]_{(\id{F})_Y}&FY}$$
$\id{F}$を$F$の恒等変換 (identity transformation) とよぶ.
$\func{H,G,F}{\cat{C}}{\cat{D}}$を関手として,$\func{\beta}{G}{H}$と$\func{\alpha}{F}{G}$を自然変換とする.$F$から$H$への自然変換$\beta\cdot\alpha$を,各$X\in\cat{C}$に対して,$FX$から$HX$への$\cat{C}$での射$(\beta\cdot\alpha)_X$を$(\beta\cdot\alpha)_X:=\beta_X\alpha_X$とすることで定める:
$$\xymatrix{FX\ar[r]^{\alpha_X}\ar[rd]_{(\beta\cdot\alpha)_X}&GX\ar[d]^{\beta_X}\\
&HX}$$
関手$\func{H,G,F}{\cat{C}}{\cat{D}}$と自然変換$\func{\beta}{G}{H}$と$\func{\alpha}{F}{G}$を取るとき,$\beta\cdot\alpha$は$F$から$H$への自然変換である.実際,$\func{\alpha}{F}{G}$と$\func{\beta}{G}{H}$が自然変換であることから,$\cat{C}$での任意の射$\func{f}{X}{Y}$に対して,$\alpha_YF(f)=G(f)\alpha_X$かつ$\beta_YG(f)=H(f)\beta_X$であり,
$$(\beta\cdot\alpha)_YF(f)=\beta_Y\alpha_YF(f)=\beta_YG(f)\alpha_X=H(f)\beta_X\alpha_X=H(f)(\beta\cdot\alpha)_X,$$
である:
$$\xymatrix{FX\ar@/^1.5pc/[rr]^{(\beta\cdot\alpha)_X}\ar[r]^{\alpha_X}\ar[d]_{F(f)}&GX\ar[r]^{\beta_X}\ar[d]|{G(f)}&HX\ar[d]^{H(f)}\\
FY\ar[r]_{\alpha_Y}\ar@/_1.5pc/[rr]_{(\beta\cdot\alpha)_Y}&FY\ar[r]_{\beta_Y}&HY}$$
$\beta\cdot\alpha$を$\beta$と$\alpha$の垂直合成 (horizontal composition) とよぶ.
関手$\func{F,G}{\cat{C}}{\cat{D}}$と自然変換$\func{\alpha}{F}{G}$に対して,$\id{G}\cdot\alpha=\alpha=\alpha\cdot\id{F}$が成り立つ.
任意の$X\in\cat{C}$に対して,$(\id{G}\cdot\alpha)_X=(\id{G})_X\alpha_X=\id{GX}\alpha_X=\alpha_X$かつ$(\alpha\cdot\id{F})_X=\alpha_X\,(\id{F})_X=\alpha_X\,\id{FX}=\alpha_X$である.
関手$\func{K,H,G,F}{\cat{C}}{\cat{D}}$と自然変換$\func{\gamma}{H}{K}$と$\func{\beta}{G}{H}$と$\func{\alpha}{F}{G}$に対して,$\gamma\cdot(\beta\cdot\alpha)=(\gamma\cdot\beta)\cdot\alpha$が成り立つ.
任意の$X\in\cat{C}$に対して,
$$(\gamma\cdot(\beta\cdot\alpha))_X=\gamma_X(\beta\cdot\alpha)_X=\gamma_X\beta_X\alpha_X=(\gamma\cdot\beta)_X\alpha_X=((\gamma\cdot\beta)\cdot\alpha)_X,$$
である.
$\func{F,G}{\cat{C}}{\cat{D}}$を関手とする.$\alpha$が$F$から$G$への自然同型 (natural isomorphism) であるとは,$\alpha$が$F$から$G$への自然変換であり,$\beta\cdot\alpha=\id{F}$かつ$\alpha\cdot\beta=\id{G}$をみたす自然変換$\func{\beta}{G}{F}$が存在することをいう.$\alpha$が$F$から$G$への自然同型であることを,$\func{\alpha}{F}{G}$が自然同型であるという.
$\func{F,G}{\cat{C}}{\cat{D}}$を関手として,$\func{\alpha}{F}{G}$を自然変換とする.自然変換$\func{\beta,\beta'}{G}{F}$に対して,$\beta\cdot\alpha=\id{F}$かつ$\alpha\cdot\beta'=\id{G}$ならば,$\beta=\beta'$である.
$$\beta=\beta\cdot\id{G}=\beta\cdot(\alpha\cdot\beta')=(\beta\cdot\alpha)\cdot\beta'=\id{G}\cdot\beta'=\beta',$$
よりわかる.ただし,1 番目と 5 番目の等号には命題 3 を,3 番目の等号には命題 4 を用いた.
関手$\func{F,G}{\cat{C}}{\cat{D}}$と自然変換$\func{\alpha}{F}{G}$を取る.自然変換$\func{\beta,\beta'}{G}{H}$が$\beta\cdot\alpha=\id{F}$かつ$\alpha\cdot\beta=\id{G}$,及び$\beta'\cdot\alpha=\id{F}$かつ$\alpha\cdot\beta'=\id{G}$をみたすならば,特に$\beta\cdot\alpha=\id{F}$かつ$\alpha\cdot\beta'=\id{G}$であり,命題 5 より$\beta=\beta'$が成り立つ.ゆえに,$\func{\alpha}{F}{G}$が自然同型ならば,$\beta\cdot\alpha=\id{F}$かつ$\alpha\cdot\beta=\id{G}$をみたす自然変換$\func{\beta}{G}{F}$が一意に存在することがわかる.これを$\alpha$の逆 (inverse) とよび,$\alpha^{-1}$で表す.
$\func{F,G}{\cat{C}}{\cat{D}}$を関手とする.$\cat{D}$での射の族$\alpha=\{\func{\alpha_X}{FX}{GX}\}_{X\in\cat{C}}$に対して,以下は同値である:
(1) $\alpha$は$F$から$G$への自然同型である.
(2) $\alpha$は$F$から$G$への自然変換であり,各$X\in\cat{C}$に対して,$\alpha_X$は$FX$から$GX$への$\cat{D}$での同型射である.
(1)$\Rightarrow$(2): (1) が成り立つならば,$\alpha$は$F$から$G$への自然変換であり,$\beta\cdot\alpha=\id{F}$かつ$\alpha\cdot\beta=\id{G}$をみたす自然変換$\func{\beta}{G}{F}$が取れる.任意の$X\in\cat{C}$に対して,$\beta_X\alpha_X=(\beta\cdot\alpha)_X=(\id{F})_X=\id{FX}$かつ$\alpha_X\beta_X=(\alpha\cdot\beta)_X=(\id{G})_X=\id{GX}$だから,(2) が成り立つ.
(2)$\Rightarrow$(1): (2) が成り立つならば,各$X\in\cat{C}$に対して,$\beta'_X\alpha_X=\id{FX}$かつ$\alpha_X\beta'_X=\id{GX}$をみたす$\cat{D}$での射$\func{\beta'_X}{GX}{FX}$が取れて,$\cat{D}$での射の族$\beta':=\{\func{\beta'_X}{GX}{FX}\}_{X\in\cat{C}}$が定まる.$\func{\alpha}{F}{G}$が自然変換であることから,$\cat{C}$での任意の射$\func{f}{X}{Y}$に対して,$\alpha_YF(f)=G(f)\alpha_X$であり,
$$\beta'_YG(f)=\beta'_YG(f)\,\id{GX}=\beta'_YG(f)\alpha_X\beta'_X=\beta'_Y\alpha_YF(f)\beta'_X=\id{FY}F(f)\beta'_X=F(f)\beta'_X,$$
である:
$$\xymatrix{GX\ar@/^1.75pc/[rr]^{\id{GX}}\ar[r]^{\beta'_X}&FX\ar[r]^{\alpha_X}\ar[d]_{F(f)}&GX\ar[d]^{G(f)}\\
&FY\ar[r]_{\alpha_Y}\ar@/_1.75pc/[rr]_{\id{FY}}&GY\ar[r]_{\beta'_Y}&FY}$$
ゆえに,$\beta'$は$G$から$F$への自然変換である.任意の$X\in\cat{C}$に対して,$(\beta'\cdot\alpha)_X=\beta'_X\alpha_X=\id{FX}=(\id{F})_X$かつ$(\alpha\cdot\beta')_X=\alpha_X\beta'_X=\id{GX}=(\id{G})_X$だから,$\beta'\cdot\alpha=\id{F}$かつ$\alpha\cdot\beta'=\id{G}$であり,(1) が成り立つ.
関手$\func{F,G}{\cat{C}}{\cat{D}}$と自然変換$\func{\alpha}{F}{G}$を取る.$\alpha$が$F$から$G$への自然同型ならば,命題 5 の直後に述べたように,$\beta\cdot\alpha=\id{F}$かつ$\alpha\cdot\beta=\id{G}$をみたす自然変換$\func{\beta}{G}{F}$が一意に存在する.命題 6 を用いると,これは以下のように示すことも出来る:
$\alpha$は$F$から$G$への自然同型であるとする.$\beta\cdot\alpha=\id{F}$かつ$\alpha\cdot\beta=\id{G}$,及び$\beta'\cdot\alpha=\id{F}$かつ$\alpha\cdot\beta'=\id{G}$をみたす自然変換$\func{\beta,\beta'}{G}{F}$を取る.このとき,任意の$X\in\cat{C}$に対して,$\beta_X\cdot\alpha_X=(\beta\cdot\alpha)_X=(\id{F})_X=\id{FX}$かつ$\alpha_X\cdot\beta_X=(\alpha\cdot\beta)_X=(\id{G})_X=\id{GX}$,及び$\beta'_X\cdot\alpha_X=(\beta'\cdot\alpha)_X=(\id{F})_X=\id{FX}$かつ$\alpha_X\cdot\beta'_X=(\alpha\cdot\beta')_X=(\id{G})_X=\id{GX}$が成り立つ.また,命題 6, (1)$\Rightarrow$(2) より,各$X\in\cat{C}$に対して,$\alpha_X$は$FX$から$GX$への同型射である.命題 1.1 の直後の議論から,任意の$X\in\cat{C}$に対して$\beta_X=\beta'_X$であり,$\beta=\beta'$を得る.
$\cat{C}$を圏とする.$\cat{C}^3$から$\cat{C}^2\times\cat{C}$への関手$\btl{\cat{C}}$と$\cat{C}^3$から$\cat{C}\times\cat{C}^2$への関手$\btr{\cat{C}}$を以下で定める:
(1) 各$(X_1,X_2,X_3)\in\cat{C}^3$に対して,$\cat{C}^2\times\cat{C}$の対象$\btl{\cat{C}}(X_1,X_2,X_3)$を$\btl{\cat{C}}(X_1,X_2,X_3):=((X_1,X_2),X_3)$で定めて,$\cat{C}^3$での各射$\func{(f_1,f_2,f_3)}{(X_1,X_2,X_3)}{(Y_1,Y_2,Y_3)}$に対して,$\btl{\cat{C}}(X_1,X_2,X_3)=((X_1,X_2),X_3)$から$\btl{\cat{C}}(Y_1,Y_2,Y_3)=((Y_1,Y_2),Y_3)$への$\cat{C}^2\times\cat{C}$での射$\btl{\cat{C}}((f_1,f_2,f_3))$を$\btl{\cat{C}}((f_1,f_2,f_3)):=((f_1,f_2),f_3)$で定める.
(2) 各$(X_1,X_2,X_3)\in\cat{C}^3$に対して,$\cat{C}\times\cat{C}^2$の対象$\btr{\cat{C}}(X_1,X_2,X_3)$を$\btr{\cat{C}}(X_1,X_2,X_3):=(X_1,(X_2,X_3))$で定めて,$\cat{C}^3$での各射$\func{(f_1,f_2,f_3)}{(X_1,X_2,X_3)}{(Y_1,Y_2,Y_3)}$に対して,$\btr{\cat{C}}(X_1,X_2,X_3)=(X_1,(X_2,X_3))$から$\btr{\cat{C}}(Y_1,Y_2,Y_3)=(Y_1,(Y_2,Y_3))$への$\cat{C}\times\cat{C}^2$での射$\btr{\cat{C}}((f_1,f_2,f_3))$を$\btr{\cat{C}}((f_1,f_2,f_3)):=(f_1,(f_2,f_3))$で定める.
圏$\cat{C}$を取るとき,$\btl{\cat{C}}$は$\cat{C}^3$から$\cat{C}^2\times\cat{C}$への関手である.実際,任意の$(X_1,X_2,X_3)\in\cat{C}^3$に対して,
\begin{align}
\btl{\cat{C}}(\id{(X_1,X_2,X_3)})&=\btr{\cat{C}}((\id{X_1},\id{X_2},\id{X_3}))=((\id{X_1},\id{X_2}),\id{X_3})\\
&=(\id{(X_1,X_2)},\id{X_3})=\id{((X_1,X_2),X_3)}=\id{\btl{\cat{C}}(X_1,X_2,X_3)},
\end{align}
である.
また,$\cat{C}^3$での任意の射$\func{(g_1,g_2,g_3)}{(Y_1,Y_2,Y_3)}{(Z_1,Z_2,Z_3)}$と$\func{(f_1,f_2,f_3)}{(X_1,X_2,X_3)}{(Y_1,Y_2,Y_3)}$に対して,
\begin{align}
\btl{\cat{C}}((g_1,g_2,g_3)(f_1,f_2,f_3))
&=\btl{\cat{C}}((g_1f_1,g_2f_2,g_3f_3))
=((g_1f_1,g_2f_2),g_3f_3)
=((g_1,g_2)(f_1,f_2),g_3f_3)\\
&=((g_1,g_2),g_3)((f_1,f_2),f_3)
=\btl{\cat{C}}((g_1,g_2,g_3))\btl{\cat{C}}((f_1,f_2,f_3)),
\end{align}
である.
一方で,$\btr{\cat{C}}$は$\cat{C}^3$から$\cat{C}\times\cat{C}^2$への関手である.実際,任意の$(X_1,X_2,X_3)\in\cat{C}^3$に対して,
\begin{align}
\btr{\cat{C}}(\id{(X_1,X_2,X_3)})&=\btr{\cat{C}}((\id{X_1},\id{X_2},\id{X_3}))=(\id{X_1},(\id{X_2},\id{X_3}))\\
&=(\id{X_1},\id{(X_2,X_3)})=\id{(X_1,(X_2,X_3))}=\id{\btr{\cat{C}}(X_1,X_2,X_3)},
\end{align}
である.
また,$\cat{C}^3$での任意の射$\func{(g_1,g_2,g_3)}{(Y_1,Y_2,Y_3)}{(Z_1,Z_2,Z_3)}$と$\func{(f_1,f_2,f_3)}{(X_1,X_2,X_3)}{(Y_1,Y_2,Y_3)}$に対して,
\begin{align}
\btr{\cat{C}}((g_1,g_2,g_3)(f_1,f_2,f_3))
&=\btr{\cat{C}}((g_1f_1,g_2f_2,g_3f_3))
=(g_1f_1,(g_2f_2,g_3f_3))
=(g_1f_1,(g_2,g_3)(f_2,f_3))\\
&=(g_1,(g_2,g_3))(f_1,(f_2,f_3))
=\btr{\cat{C}}((g_1,g_2,g_3))\btr{\cat{C}}((f_1,f_2,f_3)),
\end{align}
である.
$\cat{C}$を圏として,$C\in\cat{C}$として,$\func{F}{\cat{C}^2}{\cat{C}}$を関手とする.
$\cat{C}$から$\cat{C}$への関手${}_CF$を以下で定める.各$X\in\cat{C}$に対して,$\cat{C}$の対象$({}_CF)X$を$({}_CF)X:=F(C,X)$で定めて,$\cat{C}$での各射$\func{f}{X}{Y}$に対して,$({}_CF)X=F(C,X)$から$({}_CF)Y=F(C,Y)$への$\cat{C}$での射$({}_CF)(f)$を$({}_CF(f)):=F((\id{C},f))$で定める.
$\cat{C}$から$\cat{C}$への関手$F_C$を以下で定める.各$X\in\cat{C}$に対して,$\cat{C}$の対象$(F_C)X$を$(F_C)X:=F(X,C)$で定めて,$\cat{C}$での各射$\func{f}{X}{Y}$に対して,$(F_C)X=F(X,C)$から$(F_C)Y=F(Y,C)$への$\cat{C}$での射$(F_C)(f)$を$(F_C)(f):=F((f,\id{C}))$で定める.
関手$\func{F\times\id{\cat{C}}}{\cat{C}^2\times\cat{C}}{\cat{C}\times\cat{C}=\cat{C}^2}$が定まり,$F$と$F\times\id{\cat{C}}$と$\btl{\cat{C}}$に対して,$\cat{C}^3$から$\cat{C}$への関手$F_l$を$F_l:=F(F\times\id{\cat{C}})\btl{\cat{C}}$で定める:
$$\xymatrix{{\cat{C}^2\times\cat{C}}\ar[r]^-{F\times\id{\cat{C}}}&{\cat{C}\times\cat{C}=\cat{C}^2}\ar[d]^F\\
\cat{C}^3\ar[u]^{\btl{\cat{C}}}\ar[r]_{F_l}&\cat{C}
}$$
関手$\func{\id{\cat{C}}\times F}{\cat{C}\times\cat{C}^2}{\cat{C}\times\cat{C}=\cat{C}^2}$が定まり,$F$と$\id{\cat{C}}\times F$と$\btr{\cat{C}}$に対して,$\cat{C}^3$から$\cat{C}$への関手$F_r$を$F_r:=F(\id{\cat{C}}\times F)\btr{\cat{C}}$で定める:
$$\xymatrix{{\cat{C}\times\cat{C}^2}\ar[r]^-{\id{\cat{C}}\times F}&{\cat{C}\times\cat{C}=\cat{C}^2}\ar[d]^F\\
\cat{C}^3\ar[u]^{\btr{\cat{C}}}\ar[r]_{F_r}&\cat{C}
}$$
$C\in\cat{C}$を取るとき,${}_CF$は$\cat{C}$から$\cat{C}$への関手である.実際,$\func{F}{\cat{C}^2}{\cat{C}}$が関手であることから,任意の$X\in\cat{C}$に対して,
$$({}_CF)(\id{X})=F((\id{C},\id{X}))=F(\id{(C,X)})=\id{F(C,X)}=\id{({}_CF)X},$$
である.また,$\func{F}{\cat{C}^2}{\cat{C}}$が関手であることから,$\cat{C}$での任意の射$\func{g}{Y}{Z}$と$\func{f}{X}{Y}$に対して,
\begin{align}
({}_CF)(gf)&=F((\id{C},gf))=F((\id{C}\,\id{C},gf))\\
&=F((\id{C},g)(\id{C},f))=F((\id{C},g))F((\id{C},f))=({}_CF)(g)({}_CF)(f),
\end{align}
である.
一方で,$F_C$は$\cat{C}$から$\cat{C}$への関手である.実際,$\func{F}{\cat{C}^2}{\cat{C}}$が関手であることから,任意の$X\in\cat{C}$に対して,
$$(F_C)(\id{X})=F((\id{X},\id{C}))=F(\id{(X,C)})=\id{F(X,C)}=\id{(F_C)X},$$
である.また,$\func{F}{\cat{C}^2}{\cat{C}}$が関手であることから,$\cat{C}$での任意の射$\func{g}{Y}{Z}$と$\func{f}{X}{Y}$に対して,
\begin{align}
(F_C)(gf)&=F((gf,\id{C}))=F((gf,\id{C}\,\id{C}))\\
&=F((g,\id{C})(f,\id{C}))=F((g,\id{C}))F((f,\id{C}))=(F_C)(g)(F_C)(f),
\end{align}
である.
が与えられているとき,組$(\cat{V},\otimes,I,a,l,r)$がモノイダル圏 (monoidal category) であるとは,以下をみたすことをいう:
任意の$X,Y,Z,W\in\cat{V}$に対して,次の等式が成り立つ:
$$\otimes((\id{W},a_{X,Y,Z}))a_{W,\otimes(X,Y),Z}\!\!\otimes\!((a_{W,X,Y},\id{Z}))=a_{W,X,\otimes(Y,Z)}a_{\otimes(W,X),Y,Z}.$$
任意の$X,Y\in\cat{V}$に対して,$\otimes((r_X,\id{Y}))=\otimes((\id{X},l_Y))a_{X,I,Y}$である.
モノイダル圏 $(\cat{V},\otimes,I,a,l,r)$を$\cat{V}$と略記して,$\otimes$を$\cat{V}$のテンソル積 (tensor product) とよび,$I$を$\cat{V}$の単位対象 (unit object) とよび,組$(\otimes,I,a,l,r)$を$\cat{V}$上のモノイダル構造 (monoidal structure) とよぶ.
モノイダル圏$\cat{V}$を取るとき,$(X_1,X_2)\in\cat{V}^2$に対して,$\otimes(X_1,X_2)$を$X_1\otimes X_2$で表し,$\cat{V}^2$での射$\func{(f_1,f_2)}{(X_1,X_2)}{(Y_1,Y_2)}$に対して,$\otimes((f_1,f_2))$を$f_1\otimes f_2$で表す.
ここでは [1, p.7] におけるモノイダル圏の定義を採用したが,モノイダル構造という用語は [ 3, Tag 00CC ] で与えられていたものを借用した.
$\cat{V}=(\cat{V},\otimes,I,a,l,r)$をモノイダル圏とする.
$(X_1,X_2,X_3)\in\cat{V}^3$に対して,
\begin{align}
\otimes_l(X_1,X_2,X_3)
&=(\otimes(\otimes\times\id{\cat{V}})\btl{\cat{V}})(X_1,X_2,X_3)&(\text{定義 11, (3)})\\
&=\otimes((\otimes\times\id{\cat{V}})(\btl{\cat{V}}(X_1,X_2,X_3)))&(\text{定義
4})\\
&=\otimes((\otimes\times\id{\cat{V}})((X_1,X_2),X_3))&(\text{定義 10, (1)})\\
&=\otimes(\otimes(X_1,X_2),\id{\cat{V}}X_3)&(\text{定義 5})\\
&=\otimes(\otimes(X_1,X_2),X_3)&(\text{定義 3})\\
&=\otimes(X_1\otimes X_2,X_3)\\
&=(X_1\otimes X_2)\otimes X_3,
\end{align}
及び
\begin{align}
\otimes_r(X_1,X_2,X_3)
&=(\otimes(\id{\cat{V}}\times\otimes)\btr{\cat{V}})(X_1,X_2,X_3)&(\text{定義 11, (4)})\\
&=\otimes((\id{\cat{V}}\times\otimes)(\btr{\cat{V}}(X_1,X_2,X_3)))&(\text{定義
4})\\
&=\otimes((\id{\cat{V}}\times\otimes)(X_1,(X_2,X_3)))&(\text{定義 10, (2)})\\
&=\otimes(\id{\cat{V}}X_1,\otimes(X_2,X_3))&(\text{定義 5})\\
&=\otimes(X_1,\otimes(X_2,X_3))&(\text{定義 3})\\
&=\otimes(X_1,X_2\otimes X_3)\\
&=X_1\otimes(X_2\otimes X_3),
\end{align}
である.
また,$\cat{V}^3$での射$\func{(f_1,f_2,f_3)}{(X_1,X_2,X_3)}{(Y_1,Y_2,Y_3)}$に対して,
\begin{align}
\otimes_l((f_1,f_2,f_3))
&=(\otimes(\otimes\times\id{\cat{V}})\btl{\cat{V}})((f_1,f_2,f_3))&(\text{定義 11, (3)})\\
&=\otimes((\otimes\times\id{\cat{V}})(\btl{\cat{V}}((f_1,f_2,f_3))))&(\text{定義
4})\\
&=\otimes((\otimes\times\id{\cat{V}})(((f_1,f_2),f_3)))&(\text{定義 10, (1)})\\
&=\otimes((\otimes((f_1,f_2)),\id{\cat{V}}(f_3)))&(\text{定義 5})\\
&=\otimes((\otimes((f_1,f_2)),f_3))&(\text{定義 3})\\
&=\otimes((f_1\otimes f_2,f_3))\\
&=(f_1\otimes f_2)\otimes f_3,
\end{align}
及び
\begin{align}
\otimes_r((f_1,f_2,f_3))
&=(\otimes(\id{\cat{V}}\times\otimes)\btr{\cat{V}})((f_1,f_2,f_3))&(\text{定義 11, (4)})\\
&=\otimes((\id{\cat{V}}\times\otimes)(\btr{\cat{V}}((f_1,f_2,f_3))))&(\text{定義
4})\\
&=\otimes((\id{\cat{V}}\times\otimes)((f_1,(f_2,f_3))))&(\text{定義 10, (2)})\\
&=\otimes((\id{\cat{V}}(f_1),\otimes((f_2,f_3))))&(\text{定義 5})\\
&=\otimes((f_1,\otimes((f_2,f_3))))&(\text{定義 3})\\
&=\otimes((f_1,f_2\otimes f_3))\\
&=f_1\otimes(f_2\otimes f_3),
\end{align}
である.
$X,Y,Z,W\in\cat{V}$を取る.
$\otimes((\id{W},a_{X,Y,Z}))=1_W\otimes a_{X,Y,Z}$は
$$\otimes(W,\otimes_l(X,Y,Z))=\otimes(W,(X\otimes Y)\otimes Z)=W\otimes((X\otimes Y)\otimes Z),$$
から
$$\otimes(W,\otimes_r(X,Y,Z))=\otimes(W,X\otimes(Y\otimes Z))=W\otimes(X\otimes(Y\otimes Z)),$$
への射であり,$a_{W,\otimes(X,Y),Z}=a_{W,X\otimes Y,Z}$は
$$\otimes_l(W,\otimes(X,Y),Z)=\otimes_l(W,X\otimes Y,Z)=(W\otimes(X\otimes Y))\otimes Z,$$
から
$$\otimes_r(W,\otimes(X,Y),Z)=\otimes_r(W,X\otimes Y,Z)=W\otimes((X\otimes Y)\otimes Z),$$
への射であり,$\otimes((a_{W,X,Y},\id{Z}))=a_{W,X,Y}\otimes\id{Z}$は
$$\otimes(\otimes_l(W,X,Y),Z)=\otimes((W\otimes X)\otimes Y,Z)=((W\otimes X)\otimes Y)\otimes Z,$$
から
$$\otimes(\otimes_r(W,X,Y),Z)=\otimes(W\otimes(X\otimes Y),Z)=(W\otimes(X\otimes Y))\otimes Z,$$
への射だから,$1_W\otimes a_{X,Y,Z}$と$a_{W,X\otimes Y,Z}$と$a_{W,X,Y}\otimes\id{Z}$の合成$(1_W\otimes a_{X,Y,Z})a_{W,X\otimes Y,Z}(a_{W,X,Y}\otimes\id{Z})$が$((W\otimes X)\otimes Y)\otimes Z$から$W\otimes(X\otimes(Y\otimes Z))$への射として定まる.
また,$a_{W,X,\otimes(Y,Z)}=a_{W,X,Y\otimes Z}$は
$$\otimes_l(W,X,\otimes(Y,Z))=\otimes_l(W,X,Y\otimes Z)=(W\otimes X)\otimes(Y\otimes Z),$$
から
$$\otimes_r(W,X,\otimes(Y,Z))=\otimes_r(W,X,Y\otimes Z)=W\otimes(X\otimes(Y\otimes Z)),$$
への射であり,$a_{\otimes(W,X),Y,Z}=a_{W\otimes X,Y,Z}$は
$$\otimes_l(\otimes(W,X),Y,Z)=\otimes_l(W\otimes X,Y,Z)=((W\otimes X)\otimes Y)\otimes Z,$$
から
$$\otimes_r(\otimes(W,X),Y,Z)=\otimes_r(W\otimes X,Y,Z)=(W\otimes X)\otimes(Y\otimes Z),$$
への射だから,$a_{W,X,Y\otimes Z}$と$a_{W\otimes X,Y,Z}$の合成$a_{W,X,Y\otimes Z}a_{W\otimes X,Y,Z}$が$((W\otimes X)\otimes Y)\otimes Z$から$W\otimes(X\otimes(Y\otimes Z))$への射として定まる.
$$\otimes((\id{W},a_{X,Y,Z}))a_{W,\otimes(X,Y),Z}\!\!\otimes\!((a_{W,X,Y},\id{Z}))=a_{W,X,\otimes(Y,Z)}a_{\otimes(W,X),Y,Z}$$
である,すなわち
$$(1_W\otimes a_{X,Y,Z})a_{W,X\otimes Y,Z}\!(a_{W,X,Y}\otimes\id{Z})=a_{W,X,Y\otimes Z}a_{W\otimes X,Y,Z}$$
であるということは,以下の図式が可換であるということを意味している:
$$\xymatrix{&{(W\otimes X)\otimes(Y\otimes Z)}\ar[rd]^{a_{W,X,Y\otimes Z}}\\
{((W\otimes X)\otimes Y)\otimes Z}\ar[d]_{a_{W,X,Y}\otimes\,\id{Z}}\ar[ru]^{a_{W\otimes X,Y,Z}}&&{W\otimes(X\otimes(Y\otimes Z))}\\
{(W\otimes(X\otimes Y))\otimes Z}\ar[rr]_-{a_{W,X\otimes Y,Z}}&&{W\otimes((X\otimes Y)\otimes Z)}\ar[u]_{1_W\otimes\,a_{X,Y,Z}}}$$
$X,Y\in\cat{V}$を取る.定義 11, (2) と定義 3 より,$\otimes((r_X,\id{Y}))=r_X\otimes\id{Y}$は
$$\otimes((\otimes_I)X,Y)=\otimes(\otimes(X,I),Y)=\otimes(X\otimes I,Y)=(X\otimes I)\otimes Y,$$
から$\otimes(\id{\cat{V}}X,Y)=\otimes(X,Y)=X\otimes Y$への射である.
また,定義 11, (1) と定義 3 より,$\otimes((\id{X},l_Y))=\id{X}\otimes l_Y$は
$$\otimes(X,({}_I\otimes)Y)=\otimes(X,\otimes(I,Y))=\otimes(X,I\otimes Y)=X\otimes(I\otimes Y),$$
から$\otimes(X,\id{\cat{V}}Y)=\otimes(X,Y)=X\otimes Y$への射であり,$a_{X,I,Y}$は$\otimes_l(X,I,Y)=(X\otimes I)\otimes Y$から$\otimes_r(X,I,Y)=X\otimes(I\otimes Y)$への$\cat{V}$での射だから,$\id{X}\otimes l_Y$と$a_{X,I,Y}$の合成$(\id{X}\otimes l_Y)a_{X,I,Y}$が$(X\otimes I)\otimes Y$から$X\otimes Y$への射として定まる.
$\otimes((r_X,\id{Y}))=\otimes((\id{X},l_Y))a_{X,I,Y}$である,すなわち$r_X\otimes\id{Y}=(\id{X}\otimes l_Y)a_{X,I,Y}$であるということは,以下の図式が可換であるということを意味している:
$$\xymatrix{{(X\otimes I)\otimes Y}\ar[rr]^{a_{X,I,Y}}\ar[rdd]_{r_X\otimes\,\id{Y}}&&{X\otimes(I\otimes Y)}\ar[ldd]^{\id{X}\otimes\,l_Y}\\\\
&{X\otimes Y}}$$
この記事では,関手$\func{F}{\cat{C}^2}{\cat{C}}$から${}_CF$と$F_C$ ($C\in\cat{C}$) 及び$F_l$と$F_r$という関手を構成して,それらを用いてモノイダル圏を定義した.$F$に対して$F_l$と$F_r$を関手として直接構成する方法もあると思うが,関手の合成などの操作を用いることにした.その結果,少し遠回りな説明になってしまったかもしれない.
次の記事,すなわち第2回の後半では,定義 1.1 で構成した圏$\set$上のモノイダル構造$(\otimes,I,a,l,r)$を与える.さらに,$(\set,\otimes,I,a,l,r)$が「対称モノイダル閉圏」であることを示す.