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大学数学基礎解説
文献あり

豊穣圏の導入 第2回: 集合の圏は対称モノイダル閉圏をなす (前半)

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前回の記事 [ 4 ] では,集合の圏Setを構成して,Setが終対象と積をもつことを確認した.この記事では,モノイダル圏を定義することを目標とする.

導入

素朴集合論の基礎 (集合と写像,空集合など) に親しみがあり,圏の定義を知っていることを仮定する.
また,この記事を通して,以下の記法を用いる (主に [1] で扱われているものを採用している):

  • 正の整数nxi (1in) に対して,{xi}1inを以下で定義する:
    (a) n=1である場合は,{xi}1i1:=x1と定める.
    (b) 正の整数Nに対して,{xi}1iN+1:=({xi}1iN,xN+1)と定める.
    x1x2に対して,{xi}1i2=({xi}1i1,x2)=(x1,x2)が成り立つ.
    x1x2x3に対して,{xi}1i3(x1,x2,x3)で表す.また,正の整数nxi (1in) に対して,{xi}1in{xi}iと略記することがある.
    正の整数nxiyi (1in) に対して,{xi}i={yi}iならば,1inをみたす各iに対してxi=yiであることが知られている.

第1回の記事 [ 4 ] からは,定義 1 と命題 1 を用いており,これらを定義 1.1 及び命題 1.1 で表している.

準備

モノイダル構造やモノイダル圏を定義するための準備として,ここでは関手や自然変換などの概念を導入して,それらの基本的な性質について述べる.

圏の積

nを正の整数として,Ci (1in) を圏とする.圏iCiを以下で定義する:

  1. iCiの対象とは,Ciの対象Xi (1in) の組{Xi}iのことである.
  2. iCiの対象{Xi}i{Yi}iに対して,{Xi}iから{Yi}iへのiCiでの射とは,Ciでの射fi:XiYi (1in) の組{fi}iのことである.
  3. iCiでの射{gi}i:{Yi}i{Zi}i{fi}i:{Xi}i{Yi}iに対して,{gi}i{fi}iiCiでの合成{gi}i{fi}iを,gifiCiでの合成gifi (1in) に対して,{gi}i{fi}i={gifi}iで定める.

正の整数nに対して,iCiは圏をなす.実際,iCiの各対象{Xi}iを取るとき,XiCiでの恒等射1Xi (1in) に対して,{1Xi}i{Xi}iから{Xi}iへのiCiでの射である.iCiでの任意の射{fi}i:{Xi}i{Yi}iに対して,
{1Yi}i{fi}i={1Yifi}i={fi}i={fi1Xi}i={fi}i{1Xi}i,
である.
また,iCiでの任意の射{hi}i:{Zi}i{Wi}i{gi}i:{Yi}i{Zi}i{fi}i:{Xi}i{Yi}iに対して,
{hi}i({gi}i{fi}i)={hi}i{gifi}i={hi(gifi)}i={(higi)fi}i={higi}i{fi}i=({hi}i{gi}i){fi}i,
である.
ゆえに,正の整数nに対して,iCiは圏をなし,各{Xi}iiCiに対して,{1Xi}i{Xi}iiCiでの恒等射である.

Cに対してCi=C (1in) である場合は,iCiCnで表す.

関手

共変関手

CDを圏とする.

  • XCに対して,F(X)FXで表されるDの対象が一意に定まるような対応F
  • X,YCに対して,C(X,Y)からD(FX,FY)への写像FX,Y

が与えられているとき,組F=(F,{FX,Y}X,YC)CからDへの共変関手 (covariant functor) であるとは,以下が成り立つことをいう:

  1. 任意のXCに対して,FX,X(1X)=1FXである.
  2. Cでの任意の射g:YZf:XYに対して,FX,Z(gf)=FY,Z(g)FX,Y(f)である:
    XfgfYgFXFX,Y(f)FX,Z(gf)FYFY,Z(g)ZFZ
    ここで,左辺のgfgfCでの合成を,右辺のFY,Z(g)FX,Y(f)FY,Z(g)FX,Y(f)Dでの合成を表している.

共変関手のことを,以下では関手 (functor) とよぶことにする.FCからDへの関手であることを,F:CDが関手であるという.また,関手F=(F,{FX,Y}X,YC):CDに対して,FFX,Y (X,YC) をいずれもFと略記する.

恒等関手

Cを圏とする.CからCへの関手1Cを以下で定める:
(1) 各XCに対して,Cの対象1CX1CX:=Xと定める.
(2) Cでの各射f:XYに対して,1CX=Xから1CY=YへのCでの射1C(f)1C(f):=fで定める.

Cを取るとき,1CCからCへの関手である.実際,任意のXCに対して,1C(1X)=1X=11CXである.
また,Cでの任意の射g:YZf:XYに対して,1C(gf)=gf=1C(g)1C(f)である.
関手1C:CCC恒等関手 (identity functor) という.

関手の合成

G:DEF:CDを関手とする.CからEへの関手GFを以下で定める:
(1) 各XCに対して,Eの対象(GF)X(GF)X:=G(FX)と定める.
(2) Cでの各射f:XYに対して,(GF)X=G(FX)から(GF)Y=G(FY)へのEでの射(GF)(f)(GF)(f):=G(F(f))で定める.

関手G:DEF:CDを取るとき,GFCからEへの関手である.実際,F:CDG:DEが関手であることから,任意のXCに対して,
(GF)(1X)=G(F(1X))=G(1FX)=1G(FX)=1(GF)X,
である.
また,F:CDG:DEが関手であることから,Cでの任意の射g:YZf:XYに対して,
(GF)(gf)=G(F(gf))=G(F(g)F(f))=G(F(g))G(F(f))=(GF)(g)(GF)(f),
である.
関手GF:CEGF合成 (composition) とよぶ.

関手F:CDに対して,1DF=F=F1Cが成り立つ.

任意のXCに対して,(1DF)X=1D(FX)=FX及び(F1C)X=F(1CX)=FXである.
また,Cでの任意の射f:XYに対して,(1DF)(f)=1D(F(f))=F(f)及び(F1C)(f)=F(1C(f))=F(f)である.
ゆえに,1DF=F=F1Cが成り立つ.

関手H:DEG:CDF:BCに対して,H(GF)=(HG)Fが成り立つ.

任意のXBに対して,
(H(GF))X=H((GF)X)=H(G(FX))=(HG)(FX)=((HG)F)X,
である.
また,Bでの任意の射f:XYに対して,
(H(GF))(f)=H((GF)(f))=H(G(F(f)))=(HG)(F(f))=((HG)F)(f),
である.
ゆえに,H(GF)=(HG)Fが成り立つ.

命題 2 の証明から,関手H:DEG:CDF:BCに対して,BからEへの関手HGFが,各XBに対して(HGF)X:=H(G(FX))及び,Cの各射f:XYに対して(HGF)(f):=H(G(F(f)))で定まることがわかる.

関手の積

nを正の整数として,Fi:CiDi (1in) を関手とする.iCiからiDiへの関手iFiを以下で定める:
(1) 各{Xi}iiCiに対して,iDiの対象(iFi){Xi}i(iFi){Xi}:={FiXi}iで定める.
(2) iCiでの各射{fi}i:{Xi}i{Yi}iに対して,(iFi){Xi}i={FiXi}iから(iFi){Yi}i={FiYi}iへのiDiでの射(iFi)({fi}i)(iFi)({fi}i):={Fi(fi)}iで定める.

関手Fi:CiDi (1in) を取るとき,iFiiCiからiDiへの関手である.実際,Fi:CiDi (1in) が関手であることから,任意の{Xi}iiCiに対して,
(iFi)(1{Xi}i)=(iFi)({1Xi}i)={Fi(1Xi)}i={1FiXi}i=1{FiXi}i=1(iFi){Xi}i,
である.
また,Fi:CiDi (1in) が関手であることから,iCiでの任意の射{gi}i:{Yi}i{Zi}i{fi}i:{Xi}i{Yi}iに対して,
(iFi)({gi}i{fi}i)=(iFi)({gifi}i)={Fi(gifi)}i={Fi(gi)Fi(fi)}i={Fi(gi)}i{Fi(fi)}i=(iFi)({gi})(iFi)({fi}),
である.

n=2の場合はiFiF1×F2で表す.

自然変換

自然変換

F,G:CDを関手とする.Dでの射の族α={αX:FXGX}XCFからGへの自然変換 (natural transformation) であるとは,Cでの任意の射f:XYに対して,αYF(f)=G(f)αXが成り立つことをいう:
FXαXF(f)GXG(f)FYαYGY
αFからGへの自然変換であることを,α:FGが自然変換であるという.
関手F,G:iCiDと自然変換α:FG{Xi}iiCiに対して,α{Xi}iαX1,,Xnで表す.

恒等変換

F:CDを関手とする.FからFへの自然変換1Fを,各XCに対して,FXからFXへのCでの射(1F)XFXCでの恒等射1FXとすることで定める.

関手F:CDに対して,1FFからFへの自然変換である.実際,Cでの任意の射f:XYに対して,
(1F)YF(f)=1FYF(f)=F(f)=F(f)1FX=F(f)(1F)X,
である:
FX(1F)XF(f)FXF(f)FY(1F)YFY
1FF恒等変換 (identity transformation) とよぶ.

自然変換の垂直合成

H,G,F:CDを関手として,β:GHα:FGを自然変換とする.FからHへの自然変換βαを,各XCに対して,FXからHXへのCでの射(βα)X(βα)X:=βXαXとすることで定める:
FXαX(βα)XGXβXHX

関手H,G,F:CDと自然変換β:GHα:FGを取るとき,βαFからHへの自然変換である.実際,α:FGβ:GHが自然変換であることから,Cでの任意の射f:XYに対して,αYF(f)=G(f)αXかつβYG(f)=H(f)βXであり,
(βα)YF(f)=βYαYF(f)=βYG(f)αX=H(f)βXαX=H(f)(βα)X,
である:
FX(βα)XαXF(f)GXβXG(f)HXH(f)FYαY(βα)YFYβYHY
βαβα垂直合成 (horizontal composition) とよぶ.

関手F,G:CDと自然変換α:FGに対して,1Gα=α=α1Fが成り立つ.

任意のXCに対して,(1Gα)X=(1G)XαX=1GXαX=αXかつ(α1F)X=αX(1F)X=αX1FX=αXである.

関手K,H,G,F:CDと自然変換γ:HKβ:GHα:FGに対して,γ(βα)=(γβ)αが成り立つ.

任意のXCに対して,
(γ(βα))X=γX(βα)X=γXβXαX=(γβ)XαX=((γβ)α)X,
である.

自然同型

F,G:CDを関手とする.αFからGへの自然同型 (natural isomorphism) であるとは,αFからGへの自然変換であり,βα=1Fかつαβ=1Gをみたす自然変換β:GFが存在することをいう.αFからGへの自然同型であることを,α:FGが自然同型であるという.

F,G:CDを関手として,α:FGを自然変換とする.自然変換β,β:GFに対して,βα=1Fかつαβ=1Gならば,β=βである.

β=β1G=β(αβ)=(βα)β=1Gβ=β,
よりわかる.ただし,1 番目と 5 番目の等号には命題 3 を,3 番目の等号には命題 4 を用いた.

関手F,G:CDと自然変換α:FGを取る.自然変換β,β:GHβα=1Fかつαβ=1G,及びβα=1Fかつαβ=1Gをみたすならば,特にβα=1Fかつαβ=1Gであり,命題 5 よりβ=βが成り立つ.ゆえに,α:FGが自然同型ならば,βα=1Fかつαβ=1Gをみたす自然変換β:GFが一意に存在することがわかる.これをα (inverse) とよび,α1で表す.

F,G:CDを関手とする.Dでの射の族α={αX:FXGX}XCに対して,以下は同値である:
(1) αFからGへの自然同型である.
(2) αFからGへの自然変換であり,各XCに対して,αXFXからGXへのDでの同型射である.

(1)(2): (1) が成り立つならば,αFからGへの自然変換であり,βα=1Fかつαβ=1Gをみたす自然変換β:GFが取れる.任意のXCに対して,βXαX=(βα)X=(1F)X=1FXかつαXβX=(αβ)X=(1G)X=1GXだから,(2) が成り立つ.
(2)(1): (2) が成り立つならば,各XCに対して,βXαX=1FXかつαXβX=1GXをみたすDでの射βX:GXFXが取れて,Dでの射の族β:={βX:GXFX}XCが定まる.α:FGが自然変換であることから,Cでの任意の射f:XYに対して,αYF(f)=G(f)αXであり,
βYG(f)=βYG(f)1GX=βYG(f)αXβX=βYαYF(f)βX=1FYF(f)βX=F(f)βX,
である:
GX1GXβXFXαXF(f)GXG(f)FYαY1FYGYβYFY
ゆえに,βGからFへの自然変換である.任意のXCに対して,(βα)X=βXαX=1FX=(1F)Xかつ(αβ)X=αXβX=1GX=(1G)Xだから,βα=1Fかつαβ=1Gであり,(1) が成り立つ.

関手F,G:CDと自然変換α:FGを取る.αFからGへの自然同型ならば,命題 5 の直後に述べたように,βα=1Fかつαβ=1Gをみたす自然変換β:GFが一意に存在する.命題 6 を用いると,これは以下のように示すことも出来る:

αFからGへの自然同型であるとする.βα=1Fかつαβ=1G,及びβα=1Fかつαβ=1Gをみたす自然変換β,β:GFを取る.このとき,任意のXCに対して,βXαX=(βα)X=(1F)X=1FXかつαXβX=(αβ)X=(1G)X=1GX,及びβXαX=(βα)X=(1F)X=1FXかつαXβX=(αβ)X=(1G)X=1GXが成り立つ.また,命題 6, (1)(2) より,各XCに対して,αXFXからGXへの同型射である.命題 1.1 の直後の議論から,任意のXCに対してβX=βXであり,β=βを得る.

モノイダル圏

モノイダル構造とモノイダル圏の定義

Cを圏とする.C3からC2×Cへの関手lCC3からC×C2への関手rCを以下で定める:
(1) 各(X1,X2,X3)C3に対して,C2×Cの対象lC(X1,X2,X3)lC(X1,X2,X3):=((X1,X2),X3)で定めて,C3での各射(f1,f2,f3):(X1,X2,X3)(Y1,Y2,Y3)に対して,lC(X1,X2,X3)=((X1,X2),X3)からlC(Y1,Y2,Y3)=((Y1,Y2),Y3)へのC2×Cでの射lC((f1,f2,f3))lC((f1,f2,f3)):=((f1,f2),f3)で定める.
(2) 各(X1,X2,X3)C3に対して,C×C2の対象rC(X1,X2,X3)rC(X1,X2,X3):=(X1,(X2,X3))で定めて,C3での各射(f1,f2,f3):(X1,X2,X3)(Y1,Y2,Y3)に対して,rC(X1,X2,X3)=(X1,(X2,X3))からrC(Y1,Y2,Y3)=(Y1,(Y2,Y3))へのC×C2での射rC((f1,f2,f3))rC((f1,f2,f3)):=(f1,(f2,f3))で定める.

Cを取るとき,lCC3からC2×Cへの関手である.実際,任意の(X1,X2,X3)C3に対して,
lC(1(X1,X2,X3))=rC((1X1,1X2,1X3))=((1X1,1X2),1X3)=(1(X1,X2),1X3)=1((X1,X2),X3)=1lC(X1,X2,X3),
である.
また,C3での任意の射(g1,g2,g3):(Y1,Y2,Y3)(Z1,Z2,Z3)(f1,f2,f3):(X1,X2,X3)(Y1,Y2,Y3)に対して,
lC((g1,g2,g3)(f1,f2,f3))=lC((g1f1,g2f2,g3f3))=((g1f1,g2f2),g3f3)=((g1,g2)(f1,f2),g3f3)=((g1,g2),g3)((f1,f2),f3)=lC((g1,g2,g3))lC((f1,f2,f3)),
である.
一方で,rCC3からC×C2への関手である.実際,任意の(X1,X2,X3)C3に対して,
rC(1(X1,X2,X3))=rC((1X1,1X2,1X3))=(1X1,(1X2,1X3))=(1X1,1(X2,X3))=1(X1,(X2,X3))=1rC(X1,X2,X3),
である.
また,C3での任意の射(g1,g2,g3):(Y1,Y2,Y3)(Z1,Z2,Z3)(f1,f2,f3):(X1,X2,X3)(Y1,Y2,Y3)に対して,
rC((g1,g2,g3)(f1,f2,f3))=rC((g1f1,g2f2,g3f3))=(g1f1,(g2f2,g3f3))=(g1f1,(g2,g3)(f2,f3))=(g1,(g2,g3))(f1,(f2,f3))=rC((g1,g2,g3))rC((f1,f2,f3)),
である.

Cを圏として,CCとして,F:C2Cを関手とする.

  1. CからCへの関手CFを以下で定める.各XCに対して,Cの対象(CF)X(CF)X:=F(C,X)で定めて,Cでの各射f:XYに対して,(CF)X=F(C,X)から(CF)Y=F(C,Y)へのCでの射(CF)(f)(CF(f)):=F((1C,f))で定める.

  2. CからCへの関手FCを以下で定める.各XCに対して,Cの対象(FC)X(FC)X:=F(X,C)で定めて,Cでの各射f:XYに対して,(FC)X=F(X,C)から(FC)Y=F(Y,C)へのCでの射(FC)(f)(FC)(f):=F((f,1C))で定める.

  3. 関手F×1C:C2×CC×C=C2が定まり,FF×1ClCに対して,C3からCへの関手FlFl:=F(F×1C)lCで定める:
    C2×CF×1CC×C=C2FC3lCFlC

  4. 関手1C×F:C×C2C×C=C2が定まり,F1C×FrCに対して,C3からCへの関手FrFr:=F(1C×F)rCで定める:
    C×C21C×FC×C=C2FC3rCFrC

CCを取るとき,CFCからCへの関手である.実際,F:C2Cが関手であることから,任意のXCに対して,
(CF)(1X)=F((1C,1X))=F(1(C,X))=1F(C,X)=1(CF)X,
である.また,F:C2Cが関手であることから,Cでの任意の射g:YZf:XYに対して,
(CF)(gf)=F((1C,gf))=F((1C1C,gf))=F((1C,g)(1C,f))=F((1C,g))F((1C,f))=(CF)(g)(CF)(f),
である.
一方で,FCCからCへの関手である.実際,F:C2Cが関手であることから,任意のXCに対して,
(FC)(1X)=F((1X,1C))=F(1(X,C))=1F(X,C)=1(FC)X,
である.また,F:C2Cが関手であることから,Cでの任意の射g:YZf:XYに対して,
(FC)(gf)=F((gf,1C))=F((gf,1C1C))=F((g,1C)(f,1C))=F((g,1C))F((f,1C))=(FC)(g)(FC)(f),
である.

モノイダル圏
  • V
  • V2からVへの関手
  • Vの対象I
  • lからrへの自然同型a
  • Iから1Cへの自然同型l
  • Iから1Cへの自然同型r

が与えられているとき,組(V,,I,a,l,r)モノイダル圏 (monoidal category) であるとは,以下をみたすことをいう:

  1. 任意のX,Y,Z,WVに対して,次の等式が成り立つ:
    ((1W,aX,Y,Z))aW,(X,Y),Z((aW,X,Y,1Z))=aW,X,(Y,Z)a(W,X),Y,Z.

  2. 任意のX,YVに対して,((rX,1Y))=((1X,lY))aX,I,Yである.

モノイダル圏 (V,,I,a,l,r)Vと略記して,Vテンソル積 (tensor product) とよび,IV単位対象 (unit object) とよび,組(,I,a,l,r)V上のモノイダル構造 (monoidal structure) とよぶ.
モノイダル圏Vを取るとき,(X1,X2)V2に対して,(X1,X2)X1X2で表し,V2での射(f1,f2):(X1,X2)(Y1,Y2)に対して,((f1,f2))f1f2で表す.

ここでは [1, p.7] におけるモノイダル圏の定義を採用したが,モノイダル構造という用語は [ 3, Tag 00CC ] で与えられていたものを借用した.

モノイダル圏の定義 (定義 12) の解説

V=(V,,I,a,l,r)をモノイダル圏とする.
(X1,X2,X3)V3に対して,
l(X1,X2,X3)=((×1V)lV)(X1,X2,X3)(定義 11, (3))=((×1V)(lV(X1,X2,X3)))(定義 4)=((×1V)((X1,X2),X3))(定義 10, (1))=((X1,X2),1VX3)(定義 5)=((X1,X2),X3)(定義 3)=(X1X2,X3)=(X1X2)X3,
及び
r(X1,X2,X3)=((1V×)rV)(X1,X2,X3)(定義 11, (4))=((1V×)(rV(X1,X2,X3)))(定義 4)=((1V×)(X1,(X2,X3)))(定義 10, (2))=(1VX1,(X2,X3))(定義 5)=(X1,(X2,X3))(定義 3)=(X1,X2X3)=X1(X2X3),
である.
また,V3での射(f1,f2,f3):(X1,X2,X3)(Y1,Y2,Y3)に対して,
l((f1,f2,f3))=((×1V)lV)((f1,f2,f3))(定義 11, (3))=((×1V)(lV((f1,f2,f3))))(定義 4)=((×1V)(((f1,f2),f3)))(定義 10, (1))=((((f1,f2)),1V(f3)))(定義 5)=((((f1,f2)),f3))(定義 3)=((f1f2,f3))=(f1f2)f3,
及び
r((f1,f2,f3))=((1V×)rV)((f1,f2,f3))(定義 11, (4))=((1V×)(rV((f1,f2,f3))))(定義 4)=((1V×)((f1,(f2,f3))))(定義 10, (2))=((1V(f1),((f2,f3))))(定義 5)=((f1,((f2,f3))))(定義 3)=((f1,f2f3))=f1(f2f3),
である.

定義 12, (1) について

X,Y,Z,WVを取る.
((1W,aX,Y,Z))=1WaX,Y,Z
(W,l(X,Y,Z))=(W,(XY)Z)=W((XY)Z),
から
(W,r(X,Y,Z))=(W,X(YZ))=W(X(YZ)),
への射であり,aW,(X,Y),Z=aW,XY,Z
l(W,(X,Y),Z)=l(W,XY,Z)=(W(XY))Z,
から
r(W,(X,Y),Z)=r(W,XY,Z)=W((XY)Z),
への射であり,((aW,X,Y,1Z))=aW,X,Y1Z
(l(W,X,Y),Z)=((WX)Y,Z)=((WX)Y)Z,
から
(r(W,X,Y),Z)=(W(XY),Z)=(W(XY))Z,
への射だから,1WaX,Y,ZaW,XY,ZaW,X,Y1Zの合成(1WaX,Y,Z)aW,XY,Z(aW,X,Y1Z)((WX)Y)ZからW(X(YZ))への射として定まる.
また,aW,X,(Y,Z)=aW,X,YZ
l(W,X,(Y,Z))=l(W,X,YZ)=(WX)(YZ),
から
r(W,X,(Y,Z))=r(W,X,YZ)=W(X(YZ)),
への射であり,a(W,X),Y,Z=aWX,Y,Z
l((W,X),Y,Z)=l(WX,Y,Z)=((WX)Y)Z,
から
r((W,X),Y,Z)=r(WX,Y,Z)=(WX)(YZ),
への射だから,aW,X,YZaWX,Y,Zの合成aW,X,YZaWX,Y,Z((WX)Y)ZからW(X(YZ))への射として定まる.
((1W,aX,Y,Z))aW,(X,Y),Z((aW,X,Y,1Z))=aW,X,(Y,Z)a(W,X),Y,Z
である,すなわち
(1WaX,Y,Z)aW,XY,Z(aW,X,Y1Z)=aW,X,YZaWX,Y,Z
であるということは,以下の図式が可換であるということを意味している:
(WX)(YZ)aW,X,YZ((WX)Y)ZaW,X,Y1ZaWX,Y,ZW(X(YZ))(W(XY))ZaW,XY,ZW((XY)Z)1WaX,Y,Z

定義 12, (2) について

X,YVを取る.定義 11, (2) と定義 3 より,((rX,1Y))=rX1Y
((I)X,Y)=((X,I),Y)=(XI,Y)=(XI)Y,
から(1VX,Y)=(X,Y)=XYへの射である.
また,定義 11, (1) と定義 3 より,((1X,lY))=1XlY
(X,(I)Y)=(X,(I,Y))=(X,IY)=X(IY),
から(X,1VY)=(X,Y)=XYへの射であり,aX,I,Yl(X,I,Y)=(XI)Yからr(X,I,Y)=X(IY)へのVでの射だから,1XlYaX,I,Yの合成(1XlY)aX,I,Y(XI)YからXYへの射として定まる.
((rX,1Y))=((1X,lY))aX,I,Yである,すなわちrX1Y=(1XlY)aX,I,Yであるということは,以下の図式が可換であるということを意味している:
(XI)YaX,I,YrX1YX(IY)1XlYXY

まとめ

この記事では,関手F:C2CからCFFC (CC) 及びFlFrという関手を構成して,それらを用いてモノイダル圏を定義した.Fに対してFlFrを関手として直接構成する方法もあると思うが,関手の合成などの操作を用いることにした.その結果,少し遠回りな説明になってしまったかもしれない.
次の記事,すなわち第2回の後半では,定義 1.1 で構成した圏Set上のモノイダル構造(,I,a,l,r)を与える.さらに,(Set,,I,a,l,r)が「対称モノイダル閉圏」であることを示す.

追記

  • 2022/2/22 23:45 定義 12 を修正した.それに伴い,§3.2 とまとめを修正した.
  • 2022/2/23 22:30 参考文献に第2回 (後半) の記事 [ 5 ] を加えた.
  • 2022/2/26 14:58 参考文献に第3回の記事 [ 6 ] を加えた.
  • 2022/3/3 22:58 参考文献に第4回 (前半) の記事 [ 7 ] を加えた.
  • 2022/3/3 22:58 参考文献に第4回 (後半) (1) の記事 [ 8 ] を加えた.
  • 2022/3/3 23:34 参考文献に第4回 (後半) (2) の記事 [ 9 ] を加えた.
  • 2022/3/3 23:35 §1 の一部を削除した.

参考文献

[1]
G. M. Kelly, Basic concepts of enriched category theory, Reprints in Theory and Applications of Categories, no.10, Cambridge University Press, Cambridge, 2005
[2]
J. Lurie, Higher Topos Theory, Annals of Mathematical Studies, Volume 170, Princeton University Press, Princeton, 2009
投稿日:2022220
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  1. 導入
  2. 準備
  3. 圏の積
  4. 関手
  5. 自然変換
  6. モノイダル圏
  7. モノイダル構造とモノイダル圏の定義
  8. モノイダル圏の定義 (定義 12) の解説
  9. まとめ
  10. 追記
  11. 参考文献