前回の記事 [
8
] では,モノイダル圏に対して-圏や-関手を定義して,基本的な-関手を構成して,-関手の性質を述べた.
この記事では,モノイダル圏とに対して,からへの lax モノイダル関手が "-圏を-圏に写す" ことを示す.
導入
素朴集合論の基礎 (集合と写像,空集合など) に親しみがあり,圏の定義を知っていることを仮定する.
第2回 (前半) の記事 [
6
] からは,定義 5 を用いており,これを定義 2.a.5 で表している.
第3回の記事 [
8
] からは,定義 2 を用いており,これを定義 3.2 で表している.
-圏の underlying category について
をモノイダル圏とする.第3回の記事 [
8
] では,圏を自然に拡張した概念として-圏が定義された.
一方で,-圏に対して,の underlying category とよばれる圏がある意味で自然に構成される.ここでは,[
3
,
Tag 00BL
] を参考に underlying category の構成について述べる.
Lax モノイダル関手
Lax モノイダル関手の定義
Lax モノイダル関手
とをモノイダル圏とする.
の組がからへのlax モノイダル関手 (lax monoidal functor) であるとは,以下が成り立つことをいう:
任意のに対して,以下の等式が成り立つ:
任意のに対して,である:
任意のに対して,である:
がからへの lax モノイダル関手であることを,が lax モノイダル関手であるという.また,lax モノイダル関手に対して,をと略記する.
定義 7 の解説
とをモノイダル圏として,を関手とする.
はからへの関手であり,はからへの関手だから,はからへの関手であり,との合成がからへの関手として定まる.
また,はからへの関手であり,はからへの関手であり,との合成がからへの関手として定まる.
に対して,
かつであり,での射とに対して,
かつだから,がからへの自然変換であるということは,がからへのでの射 () の族であり,での任意の射とに対して,が成立するということである:
従って,以下が成り立つ:
とをモノイダル圏とする.
が与えられているとする.での射の族をで定めるとき,組がからへの lax モノイダル関手であることは,以下が成立することと同値である:
での任意の射とに対して,である:
任意のに対して,以下の等式が成り立つ:
任意のに対して,である:
任意のに対して,である:
-圏の構成
を lax モノイダル関手として,を-圏とする.-圏を以下で定める:
(1) 集合の "集まり"をで定める.
(2) 各に対して,の対象をで定める.
(3) 各に対して,からへのでの射をで定める:
- 各に対して,からへのでの射をで定める:
以下では,Lax モノイダル関手と-圏を固定して,が-圏をなすことを証明する.
簡単のために,をで表し,に対してをで表し,に対してをで表す.及びと表す.
このとき,であり, () であり, () であり:
() である:
が定義 3.2, (1) をみたすこと
を任意に取る.
まず,であることを示す.
は関手だから,第2回 (後半) の記事 [
7
] の §2.2 で述べたように,である.
は lax モノイダル関手だから,以下が成り立つ:
定義 1 よりは関手であり,
かつである.
命題 2, (1) よりである:
命題 2, (3) よりである:
また,は-圏だから,定義 3.2, (1) よりである:
従って,
が成り立つので,
である:
次に,であることを示す.
は関手だから,第2回 (後半) の記事 [
7
] の §2.2 で述べたように,である.
は lax モノイダル関手だから,以下が成り立つ:
定義 1 よりは関手であり,かつである.
命題 2, (1) よりである:
命題 2, (4) よりである:
また,は-圏だから,定義 3.2, (1) よりである:
従って,
が成り立つので,
である:
が定義 3.2, (2) をみたすこと
を任意に取る.
は関手だから,第2回 (後半) の記事 [
7
] の §2.2 で述べたように,
かつ
である.
は lax モノイダル関手だから,以下が成り立つ:
また,は-圏だから,定義 3.2, (2) より
である:
従って,
が成り立つので,
である:
従って,定義 3.2 よりが-圏であることが示された.
まとめ
この記事では,モノイダル圏の間の構造を保つ関手である lax モノイダル関手を定義して,lax モノイダル関手と-圏を用いて-圏を自然に構成した.
次の記事では,この構成を元にして,モノイダル圏に対して,-圏の「underlying category」とよばれる圏を定義する.
追記
- 2022/3/3 13:53 定義 1, (3) の誤植を修正した.
- 2022/3/3 22:49 間違えて削除してしまったので,改めて投稿した.
- 2022/3/3 23:48 参考文献に第4回 (後半) (2) の記事 [
10
] を加えた.
- 2022/3/3 23:48 §1 を修正した.