前回の記事 [
6
] では,関手や自然変換などの概念を導入して,モノイダル圏を定義した.
この記事では,集合の圏が対称モノイダル閉圏であることを証明する.
導入
素朴集合論の基礎 (集合と写像,空集合など) に親しみがあり,圏の定義を知っていることを仮定する.
第1回の記事 [
5
] からは,定義 1,命題 3,定義 4,命題 6 を用いており,これらを定義 1.1,命題 1.3,定義 1.4,命題 1.6 で表している.
第2回 (前半) の記事 [
6
] からは,定義 3,命題 1,命題 2,定義 6,命題 6,定義 11,定義 12 を用いており,これを定義 2.a.3,命題 2.a.1,命題 2.a.2,定義 2.a.6,命題 2.a.6,定義 2.a.11,定義 2.a.12 で表している.
集合の圏はモノイダル圏である
準備
まず,定義 1.1 で構成した集合の圏がモノイダル圏であることを示す.正確には,
- からへの関手,
- 集合,
- からへの自然同型,
- からへの自然同型,
- からへの自然同型,
であって,がモノイダル圏であるものが存在する,すなわち上のモノイダル構造が存在することを示す.
以下では,での同型射のことを全単射 (bijection) とよぶことにする.
第2回 (前半) の記事 [
6
] の §3.2 の冒頭での計算から,以下が成り立つ:
- 集合 () に対して,であり,である.
- 写像 () に対して,からへの写像はに等しく,からへの写像はに等しい.
一方で,集合に対して,以下が成り立つ:
- 集合に対して,定義 2.a.11, (1) よりであり,定義 2.a.11, (2) よりである.
- 写像に対して,定義 2.a.11, (1) よりからへの写像はに等しく,定義 2.a.11, (2) よりからへの写像はに等しい.
ゆえに,, , が自然同型であるということは,次のように換言される:
がからへの自然同型であるとは,命題 2.a.6 よりがからへの自然変換であり,各集合ととに対して,がからへの全単射であることであり,これは定義 2.a.3 よりがからへの全単射 () の族であり,任意の写像ととに対して,である,すなわちをみたすことである:
がからへの自然同型であるとは,定義 2.a.3 と命題 2.a.6 よりがからへの自然変換であり,各集合に対して,がからへの全単射であることであり,これは定義 2.a.3 と定義 2.a.6 よりがからへの全単射 () の族であり,任意の写像に対して,,すなわちをみたすことである:
がからへの自然同型であるとは,定義 2.a.3 と命題 2.a.6 よりがからへの自然変換であり,各集合に対して,がからへの全単射であることであり,これは定義 2.a.3 と定義 2.a.6 よりがからへの全単射 () の族であり,任意の写像に対して,,すなわちをみたすことである:
従って,である場合は,モノイダル圏の定義 (定義 2.a.12) は以下のように書き換えられる:
- からへの関手,
- 集合,
- 全単射 (),
- 全単射 (),
- 全単射 (),
が与えられているとする.写像の族ととをそれぞれととで定めるとき,組がモノイダル圏であることは,以下が成立することと同値である:
任意の写像ととに対して,である:
任意の写像に対して,である:
任意の写像に対して,である:
任意の集合とととに対して,次の等式が成り立つ:
すなわち,以下の図式は可換である:
任意の集合とに対して,である.
すなわち,以下の図式は可換である:
関手と集合の構成
第1回の記事 [
5
] で導入したように,集合とに対して,との積とよばれる集合と写像とが定まり,はでの (定義 1.4 の意味での) 積をなすのであった (命題 1.6).この積を用いて関手を定める.
からへの関手を以下で定義する:
(1) 集合とに対して,集合を
で定める.
(2) 写像とに対して,からへの写像を,各に対してで定める.
はからへの関手である.
実際,集合とを任意に取るとき,
が各に対して成り立つので,である.
また,写像とととを任意に取るとき,
が各に対して成り立つので,である.
以下では,集合とに対して,集合をで表し,写像とに対して,写像をで表す.
写像ととに対して,である.
また,が関手であることから,任意の集合とに対して,
であり,任意の写像とととに対して,
である.
命題 1.3 よりはの終対象である.
全単射ととの構成
集合ととに対して,からへの写像を,各に対して,で定めて,からへの写像を,各に対して,で定める.
集合ととを取るとき,はからへの全単射である.
実際,任意のに対して,
だから,であり,任意のに対して,
だから,である.ゆえに,はからへの全単射であり,をみたす.
を集合とする.定義 2 よりだから,
であり,
である.
(1) からへの写像を,各に対して,で定めて,からへの写像を,各に対して,で定める.
(2) からへの写像を,各に対して,で定めて,からへの写像を,各に対して,で定める.
集合を取るとき,はからへの全単射であり,はからへの全単射である.
実際,任意のに対して,
だから,であり,任意のに対して,
だから,である.ゆえに,はからへの全単射であり,をみたす.
また,任意のに対して,
だから,であり,任意のに対して,
だから,である.ゆえに,はからへの全単射であり,をみたす.
集合の圏はモノイダル圏をなす
この小節では,以下の命題を証明する:
組はモノイダル圏である.すなわち,組は上のモノイダル構造である.
が命題 1, (1) をみたすこと
写像ととを任意に取る.任意のに対して,
だから,である:
が命題 1, (2) をみたすこと
写像を任意に取る.任意のに対して,
だから,である:
が命題 1, (3) をみたすこと
写像を任意に取る.任意のに対して,
だから,である:
が命題 1, (4) をみたすこと
集合とととを任意に取る.任意のに対して,
だから,等式
が成立する.すなわち,以下の図式は可換である:
が命題 1, (5) をみたすこと
集合とを任意に取る.定義 2 よりだから,
である.任意のに対して,
だから,である:
従って,命題 1 よりがモノイダル圏であることが示された.以下では,このモノイダル圏をと略記する.
集合の圏は対称モノイダル圏である
第1回の記事で,積と終対象をもつ圏が自然なモノイダル構造をもつことについて言及したが,実は命題 2 で与えた上のモノイダル構造は,の積と終対象から自然に定まるモノイダル構造に一致している.
積と終対象をもつ圏に対して自然に定まるモノイダル構造は「対称性」をもつことが知られている.本節では,上のモノイダル構造が「対称性」をもつことを示す.
対称モノイダル圏の定義
対称性
をモノイダル圏とする.の対称性 (symmetry) とは,の射の族であって,以下をみたすもののことをいう:
(1) での任意の射とに対して,である:
任意のに対して,である:
任意のに対して,である:
任意のに対して,である:
対称モノイダル圏とは,対称を備えたモノイダル圏のことである:
モノイダル圏と上の対称性の組を対称モノイダル圏 (symmetric monoidal category) とよぶ.対称モノイダル圏をと略記して,を上の対称モノイダル構造 (symmetric monoidal structure) とよぶ.
集合の圏は対称モノイダル圏である
集合とに対して,からへの写像を,各に対して,で定めて,写像の族をで定める.
を命題 2 で定めたモノイダル圏とするとき,組は対称モノイダル圏である.すなわち,組は上の対称モノイダル構造である.
以下ではが上の対称性であることを示すことで,命題 3 を証明する.
が定義 6, (1) をみたすこと
写像とを任意に取る.任意のに対して,
だから,である:
が定義 6, (2) をみたすこと
集合とを任意に取る.任意のに対して,
だから,である:
が定義 6, (3) をみたすこと
集合ととを任意に取る.任意のに対して,
だから,である:
が定義 6, (4) をみたすこと
集合を任意に取る.任意のに対して,
だから,である:
従って,が上の対称性であり,が対称モノイダル圏であることが示された.以下では,この対称モノイダル圏をと略記する.
集合の圏は対称モノイダル閉圏である
ここでは,第2回の目標であった,集合の圏が「対称モノイダル閉圏」をなすことを証明する.対称モノイダル閉圏とは,対称モノイダル圏かつ「閉モノイダル圏」であるようなモノイダル圏のことを指す.
閉モノイダル圏を定義する前に,随伴について述べておく.
随伴
を関手として,を自然変換とする.
(1) を関手とする.からへの自然変換を,各に対して,からへのでの射をとすることで定める.
(2) を関手とする.からからへの自然変換を,各に対して,からへのでの射をとすることで定める.
を関手として,を自然変換として,とを関手とする.
このとき,はからへの自然変換であり,はからへの自然変換である.
実際,での射を任意に取るとき,が自然変換であることからであり,が関手であることからかつであり,
である:
また,での射を任意に取るとき,が自然変換であることからであり,
である:
随伴の定義
随伴
とを関手とする.自然変換との組がとの間の随伴 (adjunction) であるとは,かつであることをいう.
との間の随伴に対して,をの単位 (unit) とよび,をの余単位 (counit) とよぶ.このとき,はのに関する左随伴 (left adjoint) であり,はのに関する右随伴 (right adjoint) であるという.
とを関手とする.がを左随伴としてもつ,またはがを右随伴としてもつとは,との間の随伴が存在することをいう.
随伴の定義 (定義 10) の解説
とを関手とする.このとき,からへの関手とからへの関手が定まる.をからへのでの射 () の族として,をから へのでの射 () の族とする.
に対して,かつだから,はからへのでの射である.がからへの自然変換であるとは,での任意の射に対して,であることである.での射に対して,かつだから,これは,での任意の射に対して,であることと同値である:
に対して,かつだから,はからへのでの射である.がからへの自然変換であるとは,での任意の射に対して,であることである.での射に対して,かつだから,これは,での任意の射に対して,であることと同値である:
以下では,とを自然変換とする.
このとき,からへの自然変換が定まり,からへの自然変換が定まる.命題 2.a.1 よりかつであり,命題 2.a.2 よりだから,との垂直合成がからへの自然変換として定まる.
であるということは,以下の図式が可換であるということを意味している:
一方で,からへの自然変換が定まり,からへの自然変換が定まる.命題 2.a.1 よりかつであり,命題 2.a.2 よりだから,との垂直合成がからへの自然変換として定まる.
であるということは,以下の図式が可換であるということを意味している:
を関手とする.自然変換ととに対して,以下は同値である:
(1) である:
- 任意のに対して,である:
(1)(2): (1) が成り立つならば,任意のに対して,だから,(2) が成り立つ.
(2)(1): (2) が成り立つならば,任意のに対して,だから,(1) が成り立つ.
各に対して,定義 10 よりであり,だから,であるということは,補題 4 より任意のに対してが成り立つことと同値である:
また,各に対して,定義 10 よりであり,だから,であるということは,補題 4 より任意のに対してが成り立つことと同値である:
以上の議論から,随伴の定義 (定義 10) は以下のように書き換えられる:
とを関手とする.での射 () とでの射 () に対して,写像の族とをとで定めるとき,組がとの間の随伴であることは,以下が成立することと同値である:
での任意の射に対して,である:
での任意の射に対して,である:
任意のに対して,である:
任意のに対してである:
閉モノイダル圏の定義
閉モノイダル圏,対称モノイダル閉圏
をモノイダル圏とする.
(1) が閉モノイダル圏 (closed monoidal category) であるとは,任意のに対して,での射が存在して,がを右随伴としてもつことをいう.
(2) の対称性に対して,組が対称モノイダル閉圏 (symmetric monoidal closed category) であるとは,が閉モノイダル圏であることをいう.このとき,上の対称モノイダル構造を上の対称モノイダル閉構造 (symmetric monoidal closed structure) とよぶ.
集合の圏は対称モノイダル閉圏である
集合を任意に取る.
からへの関手を以下で定義する:
(1) 集合に対して,集合をで定める.
(2) 写像に対して,からへの写像を,各に対して,で定める.
はからへの関手である.
実際,集合を任意に取るとき,任意のに対して,だから,である.
また,写像とを任意に取るとき,任意のに対して,
だから,である.
とを集合とする.
であり,
である.
(1) からへの写像を,各とに対して,で定義する.
(2) からへの写像を,各に対して,で定義する.
が命題 5, (1) をみたすこと
写像を任意に取る.任意のとに対して,
だから,である:
が命題 5, (2) をみたすこと
写像を任意に取る.任意のに対して,
だから,である:
が命題 5, (3) をみたすこと
集合を任意に取る.任意のに対して,
だから,である:
が命題 5, (4) をみたすこと
集合を任意に取る.任意のとに対して,
だから,である:
従って,命題 5 より,がとの間の随伴であることが示されたので,補題 6 の証明が完了した.
を命題 3 で定めた対称モノイダル圏とするとき,は対称モノイダル閉圏である.
任意の集合に対して,補題 6 よりとの間の随伴が取れるので,定義 11 よりはを右随伴としてもち,定義 12, (1) よりは閉モノイダル圏であり,定義 12, (2) よりは対称モノイダル閉圏である.
まとめ
この記事では,がモノイダル圏であることを示して,対称モノイダル圏を定義して,が対称モノイダル圏であることを示して,随伴とそれに関連する概念を定義して,閉モノイダル圏及び対称モノイダル閉圏を定義して,が対称モノイダル圏であることを示した.
次の記事では,モノイダル圏に対して「-圏」や「-関手」などを定義する.豊穣圏の理論は非常に複雑だが,豊穣圏自体は通常の圏の自然な拡張であり,上の豊穣圏ともよばれる「-圏」は通常の圏と対等な概念である.
追記
- 2022/2/24 11:28 定義 9 と定義 10 が重複していたので,定義 10 を削除した.
- 2022/2/26 14:59 参考文献に第3回の記事 [
7
] を加えた.
- 2022/3/3 23:04 参考文献に第4回 (前半) の記事 [
8
] を加えた.
- 2022/3/3 23:04 参考文献に第4回 (後半) (1) の記事 [
9
] を加えた.
- 2022/3/3 23:37 参考文献に第4回 (後半) (2) の記事 [
10
] を加えた.
- 2022/3/3 23:37 §1 の一部を削除した.