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大学数学基礎解説
文献あり

楕円積分の特殊値を求める(その2)

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はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続き楕円積分の特殊値K(kn)を求めていきます。
 前回までの記事では
m,n1(m2+Nn2)s
という級数を考えることで ラマヌジャンの不変量 楕円積分の特殊値 を求めてきましたが、今回は
m,n1(m2+mn+N+14n2)s
という級数を考えていきます。

二平方和定理のとある一般化(その2)

  前の記事 では「指標と表現可能性」の項から判別式がD0(mod4)の場合に限って二次形式の代数を展開していましたが、D1(mod4)の場合でも全く同じ論理が展開できます。ちなみにD0のときはかなり場合分けが必要であったのに対し、D1のときは場合分けが生じず、かなり議論が簡単になります。

 判別式D1(mod4)の二次形式f=[a,b,c]に対しDの素因数pに対しn=f(x,y)Dと互いに素ならば(n|p)nに依らず同じ値を取る。

  二次形式の記事 の定理4よりn=f(x,y),m=f(z,w)に対してあるX,Yが存在して
nm=X2+XY+1D4Y2
が成り立つ。このときDの素因数pに対し
nmX2+XY+14Y2=(X+12Y)2(modp)
が成り立つので
(nmp)=1
つまり
(np)=(mp)
を得る。

 rDの素因数の個数とすると判別式Dの二次形式が定める指標の個数はμ=rとなります。

 HI=x2+xy+1D4y2が定める(Z/DZ)×の像とし
G={n(Z/DZ)×(D|n)=1}
とおく。このときn(Z/DZ)×に対しその指標の値を返す準同型
ψ:(Z/DZ)×{±1}μ
を考えるとψは同型
(Z/DZ)×/H{±1}μ
を誘導する。特に|G/H|=2μ1が成り立つ。

 I(1,0)=1よりHKerψがわかる。
 またnKerψについて、Dの素因数分解におけるpの指数をeとおくと(n|p)=1よりある整数xpが存在して
I(xp,0)=xp2n(modpe)
が成り立つ。よって中国剰余定理よりあるx,yが存在して
I(x,y)n(modD)
が成り立つ、つまりKerψHが成り立つのでψの全射性と合わせて主張を得る。

 以上より 前の記事 と同様にして
C(D)/C(D)2G/H(Z/2Z)μ1
がわかります。そしてこのことから次の命題が得られます。

 h(N)=2r1を満たすようなN3(mod4)を第二種便利数(仮)と呼ぶことにする。
 そのようなD=Nに対して指標の値、あるいは(Z/DZ)×における値によって二次形式は完全に区別できる。

 これの最たる例はNが素数のときであり、そのような第二種便利数はN=3,7,11,19,43,67,1637個に限ります(これらの数はヘーグナー数とも呼ばれます)。第二種便利数(仮)に決まった名称がついているのかはよく知りません( OEIS でも特に決まった呼ばれ方をしている様子はない)。
 (追記)第二種便利数は現在
N=3,7,11,15,19,27,35,43,51,67,75,91,99,115,123,147,163,187,195,235,267,315,403,427,435,483,555,595,627,715,795,1155,1435,1995,3003,3315
36個が知られており、またこれ以上は存在しないと予想されているようです。

 第二種便利数Nが平方因子を持たないとき、
n=x2+xy+N+14y2
となるような整数(x,y)の個数は
wD2rd|Nd|n(±dn/d)(N/dd)
となる。ただし符号は±d1(mod4)となるように取るものとした。

 N1(mod4)より
{x2+xy+N+14y2=n}{X2+NY2=4n}(x,y)(2x+y,y)(XY2,Y)(X,Y)
という一対一対応があることに注意すると 前の記事 の定理11と同様にして、Nのどの素因数pに対してもnp2で割り切れないとき、g=gcd(n,N),n=n/g,h=N/gとおくと
r(n)=wD2rp|h(1+(gp))p|g(1+(hp))d|n(Nd)=wD2rd|Nd|n(ga)(ha)(nd)(Nd)(a=gcd(g,d),a=d/a)=wD2rd|Nd|n(±dn/d)(N/dd)
を得る。

 ちなみに上で挙げた第二種便利数のうち平方因子を持つものはN=27,75,99,3154つだけとなります。実際そのことは こちらの記事 にまとめた素因数分解によって確かめられます。

イータ関数の特殊値

 上での議論より冒頭で挙げた級数は次のように分解できます。

 定理4の条件下で
m,n1(m2+mn+N+14n2)s=wD2rd|NL±dLN/d
が成り立つ。ただし
Ld(s)=n=1(dn)1ns
とした。

 また上の分解はdN/dにおける対称性を持つので
m,n1(m2+mn+N+14n2)s=wD2r1d|Nd<NL±dLN/d
と簡約化することができます。
 特にN=3,7,11,19,43,67,163(r=1)のときは
m,n1(m2+mn+N+14n2)s=wDζ(s)LN(s)
が成り立ちます。
 いま 前回の記事 での議論より
m,n1(m2+mn+N+14n2)s=m,n1|mτ+n|s(τ=1+N2)
と表せるのでクロネッカーの極限公式を考えることにより以下の公式が得られます。

lims1(N2πm,n1(m2+mn+N+14n2)s1s1)=2(γ12logNlog|η(τN)|2)(τN=1+N2)

 クロネッカーの極限公式より
lims1(m,n(N/2)s(m2+mn+N+14n2)sπs1)=lims1(m,nN/2(m2+mn+N+14n2)sπs1)+πlogN2=2π(γlog212logN2log|η(τN)|2)
とわかる。

 そして類数公式より
LN(1)=2πN2r1wD
特に
lims1(NwD2rπζ(s)LN(s)1s1)=γ+LN(1)LN(1)=2γ+log2πwD2rn=1N(Nn)logΓ(nN)
が成り立つので次のように|η(τN)|が計算できます。

 定理4の条件下で
log|η(τN)|2=wD2r+1n=1N(Nn)logΓ(nN)wDN2r+1πd|N1<d<NL±d(1)LN/d(1)12log2πN
が成り立つ。

 これはクロネッカー記号の相互法則( この記事 の定理12)より
(Nn)(nN)=(1)N12n12=1
が成り立つことや類数公式から
MD={hDlogεDD>02hD/wDD<0
とおくことで以下のように書き直せます。

log|η(τN)|2=wD2r+1n=1N(nN)logΓ(nN)wD2rd|N1<d<NM±dMN/d12log2πN

 さらにN=3,7,11,19,43,67,163(r=1)のときは
log|η(τN)|2=wD4n=1N(nN)logΓ(nN)12log2πN
となり、またガンマ関数の倍数公式より
0=n=1NlogΓ(nN)+12logNN12log2π=n=1N1logΓ(nN)+12log2πNN2log2π
が成り立つので以下のように整理できます。

 N=3,7,11,19,43,67,163に対して
log|η(τN)|2=wD2n=1N11+(n|N)2logΓ(nN)12(1wD4)log2πNwDN8log2π={3logΓ(13)+14log32log2πN=3n=1N11+(n|N)2logΓ(nN)14logNN+14log2πN3

 例えばN=3,7,11の場合を考えると
|η(1+32)|2=314Γ(13)34π2|η(1+72)|2=Γ(17)Γ(27)Γ(47)7144π2|η(1+132)|2=Γ(111)Γ(311)Γ(411)Γ(511)Γ(911)11148π3
と計算できます。

楕円積分の特殊値

 いま楕円積分の特殊値K(kN)
K(kN)=π2η(N)2f(N)4
と表せましたが、さらに この記事 の定理2
f(τ)=eπi24η(τ+12)η(τ)
を使うと
K(kN)=π2eπi12η(τN)2f(N)2=π2|η(τN)|2GN2
と楕円積分の特殊値を求めることができます。
 例えばG3=2112,G7=214を使うと
K(k3)=314Γ(13)3273πK(k7)=Γ(17)Γ(27)Γ(47)7144π
と計算できます。痛快。

参考文献

[1]
J. M. Borwein, P. B. Borwein, Pi and the AGM: A Study in Analytic Number Theory and Computational Complexity, Wiley-Interscience, 1987, pp. 296-298
投稿日:2023216
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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