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大学数学基礎解説
文献あり

楕円積分の特殊値を求める(その2)

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{f}[0]{\mathfrak{f}} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{psum}[0]{\sideset{}'\sum} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続き楕円積分の特殊値$K(k_n)$を求めていきます。
 前回までの記事では
$$\psum_{m,n}\frac1{(m^2+Nn^2)^s}$$
という級数を考えることで ラマヌジャンの不変量 楕円積分の特殊値 を求めてきましたが、今回は
$$\psum_{m,n}\frac1{(m^2+mn+\frac{N+1}4n^2)^s}$$
という級数を考えていきます。

二平方和定理のとある一般化(その2)

  前の記事 では「指標と表現可能性」の項から判別式が$D\equiv0\pmod4$の場合に限って二次形式の代数を展開していましたが、$D\equiv1\pmod4$の場合でも全く同じ論理が展開できます。ちなみに$D\equiv0$のときはかなり場合分けが必要であったのに対し、$D\equiv1$のときは場合分けが生じず、かなり議論が簡単になります。

 判別式$D\equiv1\pmod4$の二次形式$f=[a,b,c]$に対し$D$の素因数$p$に対し$n=f(x,y)$$D$と互いに素ならば$(n|p)$$n$に依らず同じ値を取る。

  二次形式の記事 の定理4より$n=f(x,y),m=f(z,w)$に対してある$X,Y$が存在して
$$nm=X^2+XY+\frac{1-D}4Y^2$$
が成り立つ。このとき$D$の素因数$p$に対し
$$nm\equiv X^2+XY+\frac14Y^2=\l(X+\frac12Y\r)^2\pmod p$$
が成り立つので
$$\l(\frac{nm}p\r)=1$$
つまり
$$\l(\frac np\r)=\l(\frac mp\r)$$
を得る。

 $r$$D$の素因数の個数とすると判別式$D$の二次形式が定める指標の個数は$\mu=r$となります。

 $H$$I=x^2+xy+\frac{1-D}4y^2$が定める$\ZZt D$の像とし
$$G=\{n\in\ZZt D\mid(D|n)=1\}$$
とおく。このとき$n\in\ZZt D$に対しその指標の値を返す準同型
$$\psi:\ZZt D\to\{\pm1\}^\mu$$
を考えると$\psi$は同型
$$\ZZt D/H\simeq\{\pm1\}^\mu$$
を誘導する。特に$|G/H|=2^{\mu-1}$が成り立つ。

 $I(1,0)=1$より$H\subset\Ker\psi$がわかる。
 また$n\in\Ker\psi$について、$D$の素因数分解における$p$の指数を$e$とおくと$(n|p)=1$よりある整数$x_p$が存在して
$$I(x_p,0)=x_p^2\equiv n\pmod{p^e}$$
が成り立つ。よって中国剰余定理よりある$x,y$が存在して
$$I(x,y)\equiv n\pmod D$$
が成り立つ、つまり$\Ker\psi\subset H$が成り立つので$\psi$の全射性と合わせて主張を得る。

 以上より 前の記事 と同様にして
$$C(D)/C(D)^2\simeq G/H\simeq(\Z/2\Z)^{\mu-1}$$
がわかります。そしてこのことから次の命題が得られます。

 $h(-N)=2^{r-1}$を満たすような$N\equiv3\pmod4$を第二種便利数(仮)と呼ぶことにする。
 そのような$D=-N$に対して指標の値、あるいは$\ZZt D$における値によって二次形式は完全に区別できる。

 これの最たる例は$N$が素数のときであり、そのような第二種便利数は$N=3,7,11,19,43,67,163$$7$個に限ります(これらの数はヘーグナー数とも呼ばれます)。第二種便利数(仮)に決まった名称がついているのかはよく知りません( OEIS でも特に決まった呼ばれ方をしている様子はない)。
 (追記)第二種便利数は現在
\begin{align*} N={}& 3,7,11,15,19,27,35,43,51,67,75,91,99,115,123,\\&\quad 147,163,187,195,235,267,315,403,427,435,483,\\&\quad 555,595,627,715,795,1155,1435,1995,3003,3315 \end{align*}
$36$個が知られており、またこれ以上は存在しないと予想されているようです。

 第二種便利数$N$が平方因子を持たないとき、
$$n=x^2+xy+\frac{N+1}4y^2$$
となるような整数$(x,y)$の個数は
$$\frac{w_D}{2^r}\sum_{d'|N}\sum_{d|n}\l(\frac{\pm d'}{n/d}\r)\l(\frac{\mp N/d'}{d}\r)$$
となる。ただし符号は$\pm d'\equiv1\pmod4$となるように取るものとした。

 $N\equiv-1\pmod4$より
\begin{eqnarray} \l\{x^2+xy+\frac{N+1}4y^2=n\r\}&\leftrightarrow&\{X^2+NY^2=4n\} \\(x,y)&\to&(2x+y,y) \\\l(\frac{X-Y}2,Y\r)&\leftarrow&(X,Y) \end{eqnarray}
という一対一対応があることに注意すると 前の記事 の定理11と同様にして、$N$のどの素因数$p$に対しても$n$$p^2$で割り切れないとき、$g=\gcd(n,N),n'=n/g,h=N/g$とおくと
\begin{eqnarray} r(n) &=&\frac{w_D}{2^r}\prod_{p|h}(1+\l(\frac gp\r))\prod_{p|g}(1+\l(\frac hp\r))\sum_{d|n'}\l(\frac{-N}d\r) \\&=&\frac{w_D}{2^r}\sum_{d'|N}\sum_{d|n'}\l(\frac g{a'}\r)\l(\frac ha\r)\l(\frac{n'}{d'}\r)\l(\frac{-N}d\r)\quad(a=\gcd(g,d'),a'=d'/a) \\&=&\frac{w_D}{2^r}\sum_{d'|N}\sum_{d|n}\l(\frac{\pm d'}{n/d}\r)\l(\frac{\mp N/d'}{d}\r) \end{eqnarray}
を得る。

 ちなみに上で挙げた第二種便利数のうち平方因子を持つものは$N=27,75,99,315$$4$つだけとなります。実際そのことは こちらの記事 にまとめた素因数分解によって確かめられます。

イータ関数の特殊値

 上での議論より冒頭で挙げた級数は次のように分解できます。

 定理4の条件下で
$$\psum_{m,n}\frac1{(m^2+mn+\frac{N+1}4n^2)^s} =\frac{w_D}{2^r}\sum_{d|N}L_{\pm d}L_{\mp N/d}$$
が成り立つ。ただし
$$L_d(s)=\sum^\infty_{n=1}\l(\frac dn\r)\frac1{n^s}$$
とした。

 また上の分解は$d\mapsto N/d$における対称性を持つので
$$\psum_{m,n}\frac1{(m^2+mn+\frac{N+1}4n^2)^s} =\frac{w_D}{2^{r-1}}\sum_{\substack{d|N\\d<\sqrt N}}L_{\pm d}L_{\mp N/d}$$
と簡約化することができます。
 特に$N=3,7,11,19,43,67,163\;(r=1)$のときは
$$\psum_{m,n}\frac1{(m^2+mn+\frac{N+1}4n^2)^s} =w_D\z(s)L_{-N}(s)$$
が成り立ちます。
 いま 前回の記事 での議論より
$$\psum_{m,n}\frac1{(m^2+mn+\frac{N+1}4n^2)^s} =\psum_{m,n}\frac1{|m\tau+n|^s}\quad\l(\tau=\frac{1+\sqrt{-N}}2\r)$$
と表せるのでクロネッカーの極限公式を考えることにより以下の公式が得られます。

$$\lim_{s\to1} \l(\frac{\sqrt N}{2\pi}\psum_{m,n}\frac1{(m^2+mn+\frac{N+1}4n^2)^s}-\farc1{s-1}\r) =2(\g-\frac12\log N-\log|\eta(\tau_N)|^2)\quad\l(\tau_N=\frac{1+\sqrt{-N}}2\r)$$

 クロネッカーの極限公式より
\begin{eqnarray} &&\lim_{s\to1}\l(\psum_{m,n}\frac{(\sqrt N/2)^s}{(m^2+mn+\frac{N+1}4n^2)^s}-\farc\pi{s-1}\r) \\&=&\lim_{s\to1}\l(\psum_{m,n}\frac{\sqrt N/2}{(m^2+mn+\frac{N+1}4n^2)^s}-\farc\pi{s-1}\r)+\pi\log\frac{\sqrt N}2 \\&=&2\pi(\g-\log2-\farc12\log\frac{\sqrt N}2-\log|\eta(\tau_N)|^2) \end{eqnarray}
とわかる。

 そして類数公式より
$$L_{-N}(1)=\frac{2\pi}{\sqrt N}\frac{2^{r-1}}{w_D}$$
特に
\begin{eqnarray} \lim_{s\to1}\l(\frac{\sqrt N w_D}{2^r\pi}\z(s)L_{-N}(s)-\frac1{s-1}\r) &=&\g+\frac{L'_{-N}(1)}{L_{-N}(1)} \\&=&2\g+\log2\pi-\frac{w_D}{2^r}\sum^N_{n=1}\l(\frac{-N}n\r)\log\G\bigg(\frac nN\bigg) \end{eqnarray}
が成り立つので次のように$|\eta(\tau_N)|$が計算できます。

 定理4の条件下で
$$\log|\eta(\tau_N)|^2 =\frac{w_D}{2^{r+1}}\sum^N_{n=1}\l(\frac{-N}n\r)\log\G\bigg(\frac nN\bigg) -\frac{w_D\sqrt N}{2^{r+1}\pi}\sum_{\substack{d|N\\1< d<\sqrt N}}L_{\pm d}(1)L_{\mp N/d}(1) -\frac12\log2\pi N$$
が成り立つ。

 これはクロネッカー記号の相互法則( この記事 の定理12)より
$$\l(\frac{-N}n\r)\l(\frac nN\r)=(-1)^{\frac{-N-1}2\farc{n'-1}2}=1$$
が成り立つことや類数公式から
$$M_D=\l\{\begin{array}{cl} h_D\log\e_D&D>0 \\2h_D/w_D&D<0 \end{array}\r.$$
とおくことで以下のように書き直せます。

$$\log|\eta(\tau_N)|^2 =\frac{w_D}{2^{r+1}}\sum^N_{n=1}\l(\frac nN\r)\log\G\l(\frac nN\r) -\frac{w_D}{2^r}\sum_{\substack{d|N\\1< d<\sqrt N}}M_{\pm d}M_{\mp N/d} -\frac12\log2\pi N$$

 さらに$N=3,7,11,19,43,67,163\;(r=1)$のときは
$$\log|\eta(\tau_N)|^2 =\frac{w_D}4\sum^N_{n=1}\l(\frac nN\r)\log\G\l(\frac nN\r)-\frac12\log2\pi N$$
となり、またガンマ関数の倍数公式より
\begin{eqnarray} 0&=&\sum^N_{n=1}\log\G\l(\frac nN\r)+\frac12\log N-\frac{N-1}2\log2\pi \\&=&\sum^{N-1}_{n=1}\log\G\l(\frac nN\r)+\frac12\log2\pi N-\frac N2\log2\pi \end{eqnarray}
が成り立つので以下のように整理できます。

 $N=3,7,11,19,43,67,163$に対して
\begin{eqnarray} \log|\eta(\tau_N)|^2 &=&\frac{w_D}2\sum^{N-1}_{n=1}\farc{1+(n|N)}2\log\G\l(\frac nN\r) -\frac12\l(1-\frac{w_D}4\r)\log2\pi N-\frac{w_DN}8\log2\pi \\&=&\l\{\begin{array}{cl} \dis3\log\G\l(\frac13\r)+\frac14\log3-2\log2\pi&N=3 \\\dis\sum^{N-1}_{n=1}\farc{1+(n|N)}2\log\G\l(\frac nN\r)-\frac14\log N-\frac{N+1}4\log2\pi&N\neq3 \end{array}\r.\end{eqnarray}

 例えば$N=3,7,11$の場合を考えると
\begin{eqnarray} \l|\eta\l(\frac{1+\sqrt{-3}}2\r)\r|^2 &=&\frac{3^\frac14\G(\frac13)^3}{4\pi^2} \\\l|\eta\l(\frac{1+\sqrt{-7}}2\r)\r|^2 &=&\frac{\G(\frac17)\G(\frac27)\G(\frac47)}{7^\frac144\pi^2} \\\l|\eta\l(\frac{1+\sqrt{-13}}2\r)\r|^2 &=&\frac{\G(\frac1{11})\G(\frac3{11})\G(\frac4{11})\G(\frac5{11})\G(\frac9{11})}{11^\frac148\pi^3} \end{eqnarray}
と計算できます。

楕円積分の特殊値

 いま楕円積分の特殊値$K(k_N)$
$$K(k_N)=\frac\pi2\eta(\sqrt{-N})^2\f(\sqrt{-N})^4$$
と表せましたが、さらに この記事 の定理2
$$\f(\tau)=e^{-\frac{\pi i}{24}}\frac{\eta(\frac{\tau+1}2)}{\eta(\tau)}$$
を使うと
\begin{eqnarray} K(k_N)&=&\frac\pi2e^{-\frac{\pi i}{12}}\eta(\tau_N)^2\f(\sqrt{-N})^2 \\&=&\frac\pi{\sqrt2}|\eta(\tau_N)|^2G_N^2 \end{eqnarray}
と楕円積分の特殊値を求めることができます。
 例えば$G_3=2^{\frac1{12}},G_7=2^\frac14$を使うと
\begin{eqnarray} K(k_3)&=&\frac{3^\frac14\G(\frac13)^3}{2^\frac73\pi} \\K(k_7)&=&\frac{\G(\frac17)\G(\frac27)\G(\frac47)}{7^\frac144\pi} \end{eqnarray}
と計算できます。痛快。

参考文献

[1]
J. M. Borwein, P. B. Borwein, Pi and the AGM: A Study in Analytic Number Theory and Computational Complexity, Wiley-Interscience, 1987, pp. 296-298
投稿日:2023216
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投稿者

子葉
子葉
991
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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