$A,B$ を集合とし、$f:A\to B$ を写像とする。
対偶による特徴づけより、
単射とは、始域 $A$ の異なる $2$ つの元が、終域 $B$ の同じ元に写らないという性質である。
単射は、一対一写像、または $1$ 対 $1$ 写像と呼ばれることがある。
これは、始域 $A$ の異なる $2$ つの元が、終域 $B$ の同じ元に写らないことを表す言い方である。
$f:A\to B$ が単射であるためには、終域 $B$ のすべての元が値として現れる必要はない(※)。
すなわち、単射性は一般に
$$
f(A)=B
$$
を要求しない。
※ 終域 $B$ のすべての元が値として現れるという性質は、全射性と呼ばれる(後述)。
$A=\varnothing$ の場合、任意の $x_1,x_2\in A$ に関する条件
$$
f(x_1)=f(x_2)\Rightarrow x_1=x_2
$$
は空虚に真である(
詳しくはコチラ
)。
したがって、空集合から任意の集合 $B$ への写像
$$
f:\varnothing\to B
$$
は単射である(詳しくは空写像で扱う予定)
$f:A\to B$ が単射でないとは、単射の定義
$$
\forall x_1,x_2\in A\ (f(x_1)=f(x_2)\Rightarrow x_1=x_2)
$$
が成り立たないことである。
したがって、命題の否定をとると、$f$ が単射でないことは、ある $x_1,x_2\in A$ が存在して
$$
f(x_1)=f(x_2)
$$
かつ
$$
x_1\neq x_2
$$
が成り立つことである(
証明はコチラ
)。
すなわち、
$$
\exists x_1,x_2\in A\ (x_1\neq x_2\land f(x_1)=f(x_2))
$$
が成り立つことである。
これは、始域 $A$ の異なる $2$ つの元が、終域 $B$ の同じ元に写ることを意味する。
単射な写像の基本例として、包含写像を紹介する。
$A,B$ を集合とし、$f:A\to B$ を写像とする。
$f:A\to B$ が全射であることは、$f$ の像が終域 $B$ に等しいことと同値である。
すなわち、
$$
f(A)=B
$$
が成り立つことと同値である。
$f:A\to B$ が全射であるとは、
任意の $b\in B$ に対して、少なくとも $1$ つの $a\in A$ が存在して $f(a)=b$ となることである。
$ $
この $a$ は一意である必要はない。
すなわち、全射性は、終域の各元に少なくとも $1$ つの(原)像が存在することを要求する性質である。
全射は、『上への写像』と呼ばれることがある。
これは、写像の値が終域 $B$ 全体を覆っていることを表す言い方である。
全射性は終域 $B$ に依存する性質である。
同じ式で定められる写像でも、終域を変えると全射であるかどうかが変わることがある。
たとえば、写像 $f:\mathbb R\to\mathbb R$ を
$$
f(x)=x^2
$$
で定めると、$f$ は全射ではない。
実際、$-1\in\mathbb R$ であるが、任意の $x\in\mathbb R$ に対して $x^2\neq -1$ である。
一方、写像 $g:\mathbb R\to[0,\infty)$ を
$$
g(x)=x^2
$$
で定めると、$g$ は全射である。
実際、任意の $y\in[0,\infty)$ に対して、$a=\sqrt y\in\mathbb R$ とおけば、
$$
g(a)=a^2=(\sqrt y)^2=y
$$
である。
$f(A)$ は、実際に $f$ の値として現れる元全体からなる集合である。
一方、$B$ は写像 $f:A\to B$ の終域である。
そのため、任意の写像 $f:A\to B$ に対して
$$
f(A)\subseteq B
$$
は常に成り立つ(
詳しくはコチラ
)。
したがって、$f$ が全射であることは、逆向きの包含
$$
B\subseteq f(A)
$$
が成り立つことと同値である。
$f:A\to B$ が全射でないとは、全射の定義
$$
\forall b\in B\ \exists a\in A\ (f(a)=b)
$$
が成り立たないことである。
したがって、命題の否定をとると、$f$ が全射でないことは、ある $b\in B$ が存在して、任意の $a\in A$ に対して
$$
f(a)\neq b
$$
が成り立つことである(
証明はコチラ
)。
すなわち、
$$
\exists b\in B\ \forall a\in A\ (f(a)\neq b)
$$
が成り立つことである。
これは、終域 $B$ の中に、始域 $A$ のどの元からも写ってこない元が存在することを意味する。
$f:A\to B$ が全射でないことは、
$$
f(A)\neq B
$$
が成り立つことと同値である。
任意の写像 $f:A\to B$ に対して
$$
f(A)\subseteq B
$$
は常に成り立つため、$f(A)\neq B$ は
$$
B\not\subseteq f(A)
$$
と同値である。
したがって、$f$ が全射でないことは、ある $b\in B$ が存在して
$$
b\notin f(A)
$$
が成り立つことと同値である。
$A,B$ を集合とし、$f:A\to B$ を写像とする。
全単射であるためには、始域 $A$ の異なる元が終域 $B$ の同じ元に写らないことと、
終域 $B$ のすべての元が値として現れることの両方が必要である。
前者が単射性であり、後者が全射性である。
定義の $3.$ による表記
$$
\forall b\in B\ \exists! a\in A\ (f(a)=b)
$$
は、次の $2$ つの条件を同時に表している。
$1$ つ目は、任意の $b\in B$ に対して、ある $a\in A$ が存在して $f(a)=b$ が成り立つことである。これは全射性に対応する。
$2$ つ目は、任意の $b\in B$ に対して、$f(a)=b$ となる $a\in A$ が高々 $1$ つであることである。これは単射性に対応する。
定義の $3.$ による表記
$$
\forall b\in B\ \exists! a\in A\ (f(a)=b)
$$
と写像の定義を混同してはならない。
写像の定義は、ある関係 $R\subseteq A\times B$ について、
$$
\forall a\in A\ \exists! b\in B\ ((a,b)\in R)
$$
が成り立つことをいう。
ここで重要なのは、写像の定義では、始域 $A$ の各元 $a$ に対して、終域 $B$ の元 $b$ がただ $1$ つ定まる、という向きである。
一方、
$$
\forall b\in B\ \exists! a\in A\ (f(a)=b)
$$
は、終域 $B$ の各元 $b$ に対して、それに写る始域 $A$ の元 $a$ がただ $1$ つ存在する、という向きである。
-したがって、
$$
\forall b\in B\ \exists! a\in A\ (f(a)=b)
$$
は、$f:A\to B$ が写像であることの定義ではなく、$f$ が全射性と単射性を同時にもつことを表す条件である。
$ $
繰り返しだが、$f$ が写像であることは、各 $a\in A$ に対して値 $f(a)\in B$ がただ $1$ つ定まることを意味する。
一方、$f$ が全単射であることは、各 $b\in B$ に対して $f(a)=b$ となる $a\in A$ がただ $1$ つ定まることを意味する。
$f:A\to B$ が全単射であるとき、各 $b\in B$ に対して $f(a)=b$ となる $a\in A$ がただ $1$ つ定まる。
したがって、各 $b\in B$ に対して、その唯一の元 $a\in A$ を対応させることで、写像
$$
f^{-1}:B\to A
$$
を定義できる。
この写像を $f$ の逆写像という(近い将来やる(/・ω・)/)。
$A,B$ を集合とし、$f:A\to B$ を写像とする。
このとき、
$$
f\text{ は単射}
\Longrightarrow
\forall S,T\subseteq A\
(f(S)=f(T)\Longrightarrow S=T)
$$
が成り立つ。
逆向き $\forall S,T\subseteq A\ (S=T\Longrightarrow f(S)=f(T)) $は自明( 証明はコチラ )
$f$ は単射であると仮定する。任意に $S,T\subseteq A$ をとり、
$$
f(S)=f(T)
$$
と仮定する。
$S=T$ を示すために、$S\subseteq T$ かつ $T\subseteq S$ を示す。
-以上より、$S\subseteq T$ かつ $T\subseteq S$ であるから、
$$
S=T
$$
である。ゆえに、
$$
\forall S,T\subseteq A\
(f(S)=f(T)\Longrightarrow S=T)
$$
が成り立つ。
$$ \Box$$
$f(S)=f(T)$ から $S=T$ を導くには、同じ値を持つ元が同じ元であることを使う必要がある。
これは単射性そのものである。
一般の写像では、異なる部分集合が同じ像を持つことがある。
したがって、$f(S)=f(T)$ から $S=T$ を結論するには、単射性が重要である。
$A,B$ を集合とし、$f:A\to B$ を写像とする。
このとき、
$$
f\text{ は単射}
\Longrightarrow
\forall S,T\subseteq A\ (S\subseteq T\Longleftrightarrow f(S)\subseteq f(T))
$$
が成り立つ。
$S\subseteq T\Rightarrow f(S)\subseteq f(T)$ は、任意の写像で成り立つ(
証明はコチラ
)。
単射性が必要になるのは、$f(S)\subseteq f(T)$ から $S\subseteq T$ を導く方向である。
$f$ は単射であると仮定する。任意に $S,T\subseteq A$ をとる。
-以上より、
$$
S\subseteq T\Longleftrightarrow f(S)\subseteq f(T)
$$
である。ゆえに、
$$
\forall S,T\subseteq A\ (S\subseteq T\Longleftrightarrow f(S)\subseteq f(T))
$$
が成り立つ。
$$ \Box$$
この命題は、$f$ が単射であれば、始域 $A$ の部分集合の包含関係が、像の包含関係に正確に反映されることを意味する。
すなわち、単射な写像のもとでは、部分集合 $S,T\subseteq A$ の包含関係を、それぞれの像 $f(S),f(T)$ の包含関係から判定できる。
$A,B$ を集合とし、$f:A\to B$ を写像とする。
このとき、
$$
f\text{ は単射}
\Longrightarrow
\forall S,T\subseteq A\
(f(S\cap T)=f(S)\cap f(T))
$$
が成り立つ。
$f(S\cap T)\subseteq f(S)\cap f(T)$ は、任意の写像で成り立つ(
証明はコチラ
)。
単射性が必要になるのは、
$$
f(S)\cap f(T)\subseteq f(S\cap T)
$$
を示す方向である。
$f$ は単射であると仮定する。任意に $S,T\subseteq A$ をとる。
$f(S\cap T)=f(S)\cap f(T)$ を示すために、両側の包含を示す。
-以上より、
$$
f(S\cap T)=f(S)\cap f(T)
$$
である。ゆえに、
$$
\forall S,T\subseteq A\
(f(S\cap T)=f(S)\cap f(T))
$$
が成り立つ。
$$ \Box$$
$y\in f(S)\cap f(T)$ であるとき、ある $s\in S$ とある $t\in T$ が存在して
$$
y=f(s)=f(t)
$$
が成り立つ。
単射性により $s=t$ と言えるため、その元が $S\cap T$ に属することがわかる。
この点が、共通部分の像と像の共通部分が一致する理由である。
$A,B$ を集合とし、$f:A\to B$ を写像とする。
このとき、
$$
f\text{ は単射}
\Longrightarrow
\forall S,T\subseteq A \ (f(S\setminus T)=f(S)\setminus f(T))
$$
が成り立つ。
$f(S)\setminus f(T)\subseteq f(S\setminus T)$ は、任意の写像で成り立つ(
証明はコチラ
)。
単射性が必要になるのは、
$$
f(S\setminus T)\subseteq f(S)\setminus f(T)
$$
を示す方向である。
$f$ は単射であると仮定する。任意に $S,T\subseteq A$ をとる。
$f(S\setminus T)=f(S)\setminus f(T)$ を示すために、両側の包含を示す。
-以上より、
$$
f(S\setminus T)=f(S)\setminus f(T)
$$
である。ゆえに、
$$
\forall S,T\subseteq A \ (f(S\setminus T)=f(S)\setminus f(T))
$$
が成り立つ。
$$ \Box$$
$x\notin T$ であっても、単射でない写像では、ある $t\in T$ に対して
$$
f(x)=f(t)
$$
となることがある。
この場合、$f(x)$ は $f(T)$ に入ってしまうため、差集合の像と像の差集合は一致しないことがある。
したがって、差集合の像について等号を得るには、像の衝突を防ぐ単射性が必要である。
$A,B$ を集合とし、$f:A\to B$ を写像とする。
このとき、
$$
f\text{ は単射}
\Longrightarrow
\forall X\subseteq A\ (f^{-1}(f(X))=X)
$$
が成り立つ。
$X\subseteq f^{-1}(f(X))$ は、任意の写像で成り立つ(
証明はコチラ
)。
単射性が必要になるのは、
$$
f^{-1}(f(X))\subseteq X
$$
を示す方向である。
$f$ は単射であると仮定する。任意に $X\subseteq A$ をとる。
$f^{-1}(f(X))=X$ を示すために、両側の包含を示す。
-以上より、
$$
f^{-1}(f(X))=X
$$
である。ゆえに、
$$
\forall X\subseteq A\ (f^{-1}(f(X))=X)
$$
が成り立つ。
$$ \Box$$
逆写像は現段階では未定義なので、以下の記述は基本無視してよい(´・ω・`)
$ $
ここでの
$$
f^{-1}(f(X))
$$
は、逆写像による像ではなく、部分集合 $f(X)\subseteq B$ の逆像である。
したがって、$f$ が全単射でなくても、この記号は定義される。より明示的に書けば、
$$
f^{-1}(f(X))
=
\{a\in A\mid f(a)\in f(X)\}
$$
である。
$ $
一方、逆写像としての $f^{-1}:B\to A$ は、一般には定義されない。
逆写像は、$f$ が全単射である場合に定義される写像である。