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大学数学基礎解説
文献あり

色々なモジュラー方程式とsingular moduli

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0
$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{f}[0]{\mathfrak{f}} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{I}[0]{(\mathrm{I})} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{II}[0]{(\mathrm{II})} \newcommand{III}[0]{(\mathrm{III})} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{IV}[0]{(\mathrm{IV})} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事ではモジュラー方程式というものについて、その色々な形態とモジュラー方程式を考える意味について解説していきます。

モジュラー方程式

 まずどういうものをモジュラー方程式と言うのかを提示しておきましょう。

 レベル$N$のモジュラー関数$f$、つまり合同部分群
$$\G(N)=\l\{\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\in\G\mid a,d\equiv1\pmod N,\;b,c\equiv0\pmod N\r\}$$
の作用に対して不変な$\mathbb{H}\cup\{i\infty\}$上の有理型関数$f$について、$f(\tau)$$f(p\tau)$との関係を記述する方程式のことを$f$についての$p$モジュラー方程式という(一般に$p$$N$と互いに素な自然数とすることが多い)。

 最も基本的なモジュラー方程式としてKleinの$j$-不変量($N=1$)についてのモジュラー方程式があります。それらは 前の記事 でちらっと紹介したように$p$が素数のとき、次のような表示を持ちます。
$$F_p(x,j)=(x-j(p\tau))\prod^{p-1}_{k=0}(x-j\l(\frac{\tau+k}p\r))=0$$
 今回の記事では$j$ではなく モジュラー$\la$関数 ($N=2$)についてのモジュラー方程式
$$W_p(x,\la)=(x-\la(p\tau))\prod^{p-1}_{j=0}(x-\la\l(\frac{\tau+2j}p\r))=0$$
の派生形についてまとめていきます。$W_p$自身については 前の記事 で詳しく解説しています。

楕円積分のモジュラー方程式

 楕円積分
$$K(k)=\int^1_0\frac{dx}{\sqrt{(1-x^2)(1-k^2x^2)}}$$
に対し
$k'=\sqrt{1-k^2},l'=\sqrt{1-l^2}$
$K'=K(k'),L=K(l),L'=K(l')$
とおいたとき、母数$k,l$についての方程式
$$\frac{L'}{L}=p\frac{K'}{K}$$
$p$次モジュラー方程式と言うことがあります。
 これは$k=\la(\tau)^\frac12,l=\la(\tau')^\frac12$とおくと 前の記事 の定理10から
$$\tau'=\frac{iL'}L=p\frac{iK'}{K}=p\tau$$
によって$k$$l$の関係を決定する方程式となっています。 

Jacobi-Sohnkeのモジュラー方程式

  u-v形式のモジュラー形式 として紹介した
$$u(\tau)=\la(\tau)^{\frac18} =\sqrt2q\prod^\infty_{n=1}\frac{1+q^{2n}}{1+q^{2n-1}}\quad(q=e^{\pi i\tau})$$
についてのモジュラー方程式
$$\Omega(v,u)=(v-(-1)^{\frac{p^2-1}8}u(p\tau))\prod^{p-1}_{j=0}(v-u\l(\frac{\tau+16j}p\r))=0$$
Jacobi-Sohnkeのモジュラー方程式と言います。
 Jacobi-Sohnkeのモジュラー方程式は$\la$についての素朴なモジュラー方程式に比べて項の数や係数の大きさが小さいのでより扱いやすいものとなっています。

Russellのモジュラー方程式

  u-v形式のモジュラー形式 でちらっと紹介したり、 楕円関数の代数的な解 を考えたときに出てきた楕円積分の母数$k,l$についての方程式
$\sqrt{kl}+\sqrt{k'l'}=1\quad(p=3)$

$\sqrt[4]{kl}+\sqrt[4]{k'l'}=1\quad(p=7)$
Russellのモジュラー方程式と言います。
 これは$(p+1)/8$の既約分数を$m/n\;(n=1,2,4)$としたとき$x=\sqrt[4]{kl}^n,y=\sqrt[4]{k'l'}^n$についての整数係数方程式
$$\sum_{0\leq i+j\leq m}a_{i,j}x^iy^j=0$$
の形や
\begin{eqnarray} P&=&1+(-1)^m(x+y) \\Q&=&4n^2(x+y+(-1)^mxy) \\R&=&xy\times\l\{\begin{array}{ll} \phantom{0}4&(n=1) \\16&(n=2) \\32&(n=4)\end{array}\r. \end{eqnarray}
についての無理方程式の形に表されます。
 例えば$p=5,11,23$の場合はすべて
$$P-R^\frac13=0$$
がモジュラー方程式となっており、それぞれ展開すると
\begin{eqnarray} kl+k'l'+(32klk'l')^\frac13&=&1\quad(p=5) \\\sqrt{kl}+\sqrt{k'l'}+(256klk'l')^\frac16&=&1\quad(p=11) \\\sqrt[4]{kl}+\sqrt[4]{k'l'}+(256klk'l')^\frac1{12}&=&1\quad(p=23) \end{eqnarray}
のように書けます。
 Russellのモジュラー方程式は場合によってはJacobi-Sohnkeのモジュラー方程式よりも簡単な形に書ける他、下で紹介するsingular moduliを計算するのにも便利な方程式となっています。

Schläfliのモジュラー方程式

 Schläfliのモジュラー方程式はWeberのモジュラー関数
\begin{eqnarray} \f(\tau)&=&q^{-\frac1{24}}\prod^\infty_{n=1}(1+q^{2n-1}) \\\f_1(\tau)&=&q^{-\frac1{24}}\prod^\infty_{n=1}(1-q^{2n-1}) \\\f_2(\tau)&=&\sqrt 2q^{\frac1{12}}\prod^\infty_{n=1}(1+q^{2n}) \end{eqnarray}
についてのモジュラー方程式として定められます。
 例えば$P=\f(\tau)\f(p\tau),\;Q=\f(\tau)/\f(p\tau)$とおいたとき、$p=3,5,7$のモジュラー方程式は以下のようになります。
\begin{eqnarray} Q^6+\frac1{Q^6}&=&P^3-\frac8{P^3}\phantom{{}-7}\quad(p=3) \\Q^3+\frac1{Q^3}&=&P^2-\frac4{P^2}\phantom{{}-7}\quad(p=5) \\Q^4+\frac1{Q^4}&=&P^3+\frac8{P^3}-7\quad(p=7) \end{eqnarray}
このように
$$P^k\pm\l(\frac2P\r)^k,\;Q^k\pm\frac1{Q^k}$$
の組み合わせによって表せるのがSchläfliのモジュラー方程式の特徴となります。これもまたsingular moduliを計算するのに便利な方程式となっています。
 ちなみに 前の記事 の定理3から
$$\f(\tau)^6=\frac{2\t_3(\tau)^2}{\t_2(\tau)\t_4(\tau)} =\frac2{\sqrt[4]{\la(\tau)(1-\la(\tau))}}=\sqrt{\frac4{kk'}}$$
つまり
$$P=\sqrt[12]{\frac{16}{kk'll'}},Q=\sqrt[12]{\frac{kk'}{ll'}}$$
が成り立つのでSchläfliのモジュラー方程式は$\la$についてのモジュラー方程式の派生形となっていることがわかります。

$G,g$のモジュラー方程式

 またSchläfliのモジュラー方程式はRamanujanの不変量
\begin{eqnarray} G(\tau)&=&2^{-\frac14}\f(\tau) \\g(\tau)&=&2^{-\frac14}\f_1(\tau) \end{eqnarray}
についてのモジュラー方程式としても表されます。これについて
$$P_G=G(\tau)G(p\tau),Q_G=G(\tau)/G(p\tau)$$
とおくと
$$P^k\pm\l(\frac2P\r)^k=2^{\frac k2}\l(P_G^k\pm\frac1{P_G^k}\r),Q=Q_G$$
が成り立つので$G$についての$p=3,5,7$次モジュラー方程式は以下のようになります。
\begin{eqnarray} Q_G^6+\frac1{Q_G^6}&=&2\sqrt2\l(P_G^3-\frac1{P_G^3}\r)\phantom{{}-7}\quad(p=3) \\Q_G^3+\frac1{Q_G^3}&=&\phantom{\sqrt2}2\l(P_G^2-\frac1{P_G^2}\r)\phantom{{}-7}\quad(p=5) \\Q_G^4+\frac1{Q_G^4}&=&2\sqrt2\l(P_G^3+\frac1{P_G^3}\r)-7\quad(p=7) \end{eqnarray}

$\f,\f_1,\f_2$のモジュラー方程式の相互関係について

  前の記事 で紹介したようにWeberのモジュラー関数はデデキントのイータ関数$\eta$を用いて
$$\f(\tau)=e^{-\frac{\pi i}{24}}\frac{\eta((\tau+1)/2)}{\eta(\tau)},\quad \f_1(\tau)=\frac{\eta(\tau/2)}{\eta(\tau)},\quad \f_2(\tau)=\sqrt2\frac{\eta(2\tau)}{\eta(\tau)}$$
と表せるのでイータ関数の性質
$$\eta(\tau+1)=e^{\frac{\pi i}{12}}\eta(\tau),\; \eta\l(-\frac1\tau\r)=\sqrt{-i\tau}\eta(\tau)$$
に注意すると
$$\f(\tau+1)=e^{-\frac{\pi i}{24}}\f_1(\tau),\;\f_1\l(-\frac1\tau\r)=\f_2(\tau)$$
が成り立ちます。したがって$\f$についてのモジュラー方程式
$D(\f(p\tau),\f(\tau))=0$
がわかれば$\tau\mapsto\tau+1$とすることで$\f_1$のモジュラー方程式
$$D(e^{-\frac{p\pi i}{24}}\f_1(p\tau),e^{-\frac{\pi i}{24}}\f_1(\tau))=0$$
が得られ、さらに$\tau\mapsto-1/p\tau$とすることで$\f_2$のモジュラー方程式
$$D(e^{-\frac{p\pi i}{24}}\f_2(\tau),e^{-\frac{\pi i}{24}}\f_2(p\tau))=0$$
が得られます。
 実際に$p=3,5,7$の場合を考えてみると
$$P_j=\f_j(\tau)\f_j(p\tau),\;Q_j=\f_j(\tau)/\f_j(p\tau)\quad(j=1,2)$$
とおいたとき$\tau\mapsto\tau+1$において
$$P,Q\mapsto e^{-\frac{p+1}{24}\pi i}P_1,e^{\frac{p-1}{24}\pi i}Q_1$$
つまり
\begin{eqnarray} P^3,Q^6&\mapsto&-iP_1^3,iQ_1^6\quad(p=3) \\P^2,Q^3&\mapsto&-iP_1^2,iQ_1^3\quad(p=5) \\P^3,Q^4&\mapsto&-P_1^3,-Q_1^4\quad(p=7) \end{eqnarray}
が成り立つので$\f_1$のモジュラー方程式は以下のようになります。
\begin{eqnarray} Q_1^6-\frac1{Q_1^6}&=&-\l(P_1^3+\frac8{P_1^3}\r)\quad(p=3) \\Q_1^3-\frac1{Q_1^3}&=&-\l(P_1^2+\frac4{P_1^2}\r)\quad(p=5) \\Q_1^4+\frac1{Q_1^4}&=&P_1^3+\frac8{P_1^3}+7\qquad(p=7) \end{eqnarray}
さらに$\tau\mapsto-1/p\tau$において
$$P_1,Q_1\mapsto P_2,1/Q_2$$
が成り立つので$\f_2$のモジュラー方程式は以下のようになります。
\begin{eqnarray} Q_2^6-\frac1{Q_2^6}&=&P_2^3+\frac8{P_2^3}\phantom{{}-7}\quad(p=3) \\Q_2^3-\frac1{Q_2^3}&=&P_2^2+\frac4{P_2^2}\phantom{{}-7}\quad(p=5) \\Q_2^4+\frac1{Q_2^4}&=&P_2^3+\frac8{P_2^3}+7\quad(p=7) \end{eqnarray}

singular moduli

 さて、冒頭でも言及したようにモジュラー方程式とは(擬)モジュラー関数$f$に対して$f(\tau)$$f(p\tau)$の関係を記述する方程式のことを言うのでした。
 そして(擬)モジュラー関数の持つ性質
$$j\l(-\frac1\tau\r)=j(\tau),\quad \la\l(-\frac1\tau\r)=1-\la(\tau),\quad \f\l(-\frac1\tau\r)=\f(\tau),\quad \f_1\l(-\frac2{\tau}\r)=\frac{\sqrt2}{\f_1(\tau)},\quad \f_2\l(-\frac1{2\tau}\r)=\frac{\sqrt2}{\f_2(\tau)}$$
を利用すると
$$p\tau=-\frac1{\tau}\quad\l(p\tau=-\frac2\tau,-\frac1{2\tau}\r)$$
つまり
$$p\tau=\sqrt{-p}\quad(p\tau=\sqrt{-2p},\sqrt{-p/2})$$
における$j,\la,\f,\f_1,\f_2$の値を計算することができます。
 このように(擬)モジュラー関数の$\tau=\sqrt{-p}$における特殊値のことをsingular moduliと言います。一般には$\Q(\tau)$が虚二次体となるような$\tau$における特殊値のことも指します。

$k_p$の計算

 いま$k=\la(\tau)^\frac12$$\tau=\sqrt{-p}$における値を$k_p$とおくと
$$k_{1/p}=k'_p$$
なので$k=k'_p,l=k_p$$p$次のモジュラー方程式を満たします。
 Russelのモジュラー方程式は$x=\sqrt[4]{kl}^n,y=\sqrt[4]{k'l'}^n$についての方程式として表されたので、$k=l'$つまり$x=y$とした方程式を$x$について解くことで$x=\sqrt[4]{k_pk'_p}^n$の値が計算できます。
 また$t=2kk'$とおくと$t^2=4k^2(1-k^2)$より
$$k^2=\frac{1\pm\sqrt{1-t^2}}2=\l(\frac{\sqrt{1+t}\pm\sqrt{1-t}}2\r)^2$$
となるので$\la(is)$$s$について単調減少となることから
$$k_p=\frac{\sqrt{1+t_p}-\sqrt{1-t_p}}2,\;k'_p=\frac{\sqrt{1+t_p}+\sqrt{1-t_p}}2$$
と計算できます。
${}$  

$k_1$の計算$$\la(i)=\la(-1/i)=1-\la(i)$$
なので
$$k_1=\la(i)^\frac12=\frac1{\sqrt2}$$
と計算できます。

$k_2$の計算 $2$次のモジュラー方程式は
$$(1+l)^2k^2-4l=0$$
であったので$k=l'$とすると
$$(1+l)^2(1-l^2)-4l=1-2l-2l^3-l^4=(1+l^2)(1-2l-l^2)=0$$
つまり
$$k_2=\sqrt2-1$$
と計算できます。

$k_3$の計算 $p=3$のRussellのモジュラー方程式は
$$\sqrt{kl}+\sqrt{k'l'}=1$$
であったので
$$2\sqrt{k_3k'_3}=1$$
つまり
$$t_3=\frac12,k_3=\farc{\sqrt6-\sqrt2}4$$
と計算できます。

$k_4$の計算(おまけ) $2$次のモジュラー方程式
$$(1+l)^2k^2-4l=0$$
において$k=k_1$とすると
$$(1+l)^2-8l=1-6l+l^2=0$$
つまり
$$k_4=3-2\sqrt2$$
が得られます。

$k_5$の計算 $p=5$のRussellのモジュラー方程式は
$$kl+k'l'+(32klk'l')^\frac13=1$$
であったので
$$t_5+2t_5^\frac23=1$$
つまり
$$(t_5-1)^3+8t_5^2=t_5^3+5t_5^3+3t_5-1=(t_5+1)(t_5^2+4t_5-1)=0$$
となります。したがって
$$t_5=\sqrt5-2,k_5=\frac{\sqrt{\sqrt5-1}-\sqrt{3-\sqrt5}}2$$
と計算できます。

$k_7$の計算 $p=7$のRussellのモジュラー方程式は
$$\sqrt[4]{kl}+\sqrt[4]{k'l'}=1$$
であったので
$$t_7=\frac18,k_7=\frac{3\sqrt2-\sqrt{14}}8$$
と計算できます。

 ちなみにいくつかの$p$に対する$k_p$の値は モジュラー$\la$関数のWikipedia $\la^*(p)$として列記されています。

$G_p,g_{2p}$の計算

 $G=2^{-\frac14}\f(\tau),g=2^{-\frac14}\f_1(\tau)$$\tau=\sqrt{-p}$における値を$G_p,g_p$とおくと
$$G_{1/p}=G_p,\;g_{2/p}=1/g_{2p}$$
なので$P_G=G_p^2,Q_G=1$$G$についての$p$次モジュラー方程式を、$P_g=1,Q_g=1/g_{2p}^2$$g$についての$p$次モジュラー方程式を満たします。
 また
$$\f(\tau)^6=\frac{2\t_3(\tau)^2}{\t_2(\tau)\t_4(\tau)}=\frac2{\sqrt{kk'}},\; \f_1(\tau)^6=\frac{2\t_4(\tau)^2}{\t_2(\tau)\t_3(\tau)}=\frac{2k'}{\sqrt k}$$
であったことから
$$G_p=\frac1{(2k_pk'_p)^{\frac1{12}}},\;g_p=\l(\frac{k_p'^2}{2k_p}\r)^{\frac1{12}}$$
と求めることもできます。
 逆にこの関係式から$k_p$
$$k_p=\frac{\sqrt{1+G_p^{-12}}-\sqrt{1-G_p^{-12}}}2=g_p^6(\sqrt{g_p^{12}+g_p^{-12}}-g_p^6)$$
と求めることもできます。
${}$

$G_1,g_1$の計算 $k_1=k'_1=1/\sqrt2$であったことから
$$G_1=1,\;g_1=\frac1{2^\frac18}$$
が成り立ちます。
 ちなみに$\f,\f_1$$q$-展開を思い出すとこの値から
\begin{eqnarray} \prod^\infty_{n=1}(1+e^{-(2n-1)\pi})&=&2^\frac14e^{-\pi/24} \\\prod^\infty_{n=1}(1-e^{-(2n-1)\pi})&=&2^\frac18e^{-\pi/24} \end{eqnarray}
が得られます。

$G_2,g_2$の計算 $k_2=\sqrt2-1,k'_2=(2(\sqrt2-1))^\frac12$であったことから
$$G_2=\frac1{(2\sqrt2-2)^\frac18},\;g_2=1$$
が成り立ちます($g_2=1/g_2$からも$g_2=1$がわかります)。

$G_3,g_6$の計算 $p=3$のSchläfliのモジュラー方程式は
\begin{eqnarray} Q_G^6+\frac1{Q_G^6}&=&2\sqrt2\l(P_G^3-\frac1{P_G^3}\r) \\Q_g^6-\frac1{Q_g^6}&=&-2\sqrt2\l(P_g^3+\frac1{P_g^3}\r) \end{eqnarray}
であったので$P_G=G_3^2,Q_G=1,\;P_g=1,Q_g=1/g_6^2$とすることで
\begin{eqnarray} 2&=&2\sqrt2(G_3^6-G_2^{-6}) \\g_6^{12}-g_6^{-12}&=&2\sqrt2\cdot2 \end{eqnarray}
が成り立ちます。
 これを解くことで
$$G_3=2^{\frac1{12}},\;g_6=(\sqrt2+1)^\frac16$$
と計算できます。
 またこのことから
$$k_6=(\sqrt2+1)(\sqrt6-\sqrt2-1)=(2-\sqrt3)(\sqrt3-\sqrt2)$$
が得られます。

$G_5,g_{10}$の計算 $p=5$のSchläfliのモジュラー方程式は
\begin{eqnarray} Q_G^3+\frac1{Q_G^3}&=&2\l(P_G^2-\frac1{P_G^2}\r) \\Q_g^3-\frac1{Q_g^3}&=&-2\l(P_g^2+\frac1{P_g^2}\r) \end{eqnarray}
であったので
\begin{eqnarray} 2&=&2(G_5^4-G_5^{-4}) \\g_{10}^6-g_{10}^{-6}&=&4 \end{eqnarray}
つまり
$$G_5=\sqrt[4]{\frac{\sqrt5+1}2},\;g_{10}=\sqrt{\frac{\sqrt5+1}2}$$
と計算できます。

$G_7,g_{14}$の計算 $p=7$のSchläfliのモジュラー方程式は
\begin{eqnarray} Q_G^4+\frac1{Q_G^4}&=&2\sqrt2\l(P_G^3+\frac1{P_G^3}\r)-7 \\Q_g^4+\frac1{Q_g^4}&=&2\sqrt2\l(P_g^3+\frac1{P_g^3}\r)+7 \end{eqnarray}
であったので
\begin{eqnarray} 2&=&2\sqrt2(G_7^3+G_7^{-3})-7 \\g_{14}^8+g_{14}^{-8}&=&4\sqrt2+7 \end{eqnarray}
つまり
$$G_7=2^\frac14,\;g_{14}=\l(\frac{2\sqrt2+1+\sqrt{4\sqrt2+5}}2\r)^\frac14$$
と計算できます。

おまけ:Russellのモジュラー方程式の一覧

 $P,Q,R$を上で定めた通りとします。明示的には以下のようになります。

  • $\I$ $p\equiv15\pmod{16}$のとき、$n=1,\;m\equiv0\pmod2$なので
    \begin{eqnarray} P&=&1+\sqrt[4]{kl}+\sqrt[4]{k'l'} \\Q&=&4(\sqrt[4]{kl}+\sqrt[4]{k'l'}+\sqrt[4]{klk'l'}) \\R&=&4\sqrt[4]{klk'l'} \end{eqnarray}

  • $\II$ $p\equiv7\pmod{16}$のとき、$n=1,\;m\equiv1\pmod2$なので
    \begin{eqnarray} P&=&1-(\sqrt[4]{kl}+\sqrt[4]{k'l'}) \\Q&=&4(\sqrt[4]{kl}+\sqrt[4]{k'l'}-\sqrt[4]{klk'l'}) \\R&=&4\sqrt[4]{klk'l'} \end{eqnarray}

  • $\III$ $p\equiv3\pmod8$のとき、$n=2,\;m\equiv1\pmod2$なので
    \begin{eqnarray} P&=&1-(\sqrt{kl}+\sqrt{k'l'}) \\Q&=&16(\sqrt{kl}+\sqrt{k'l'}-\sqrt{klk'l'}) \\R&=&16\sqrt{klk'l'} \end{eqnarray}

  • $\IV$ $p\equiv1\pmod4$のとき、$n=4,\;m\equiv1\pmod2$なので
    \begin{eqnarray} P&=&1-(kl+k'l') \\Q&=&64(kl+k'l'-klk'l') \\R&=&32klk'l' \end{eqnarray}

 このときいくつかの奇素数$p$に対するRussellのモジュラー方程式は以下のようになることが知られています。

$\begin{array}{rll} \III&p=3&P=0 \\\IV&p=5&P-R^\frac13=0 \\\II&p=7&P=0 \\\III&p=11&P-R^\frac13=0 \\\IV&p=13&P^\frac12(P^2+8R)-R^\frac12(11P^2+Q)=0 \\\IV&p=17&P^3-R^\frac13(10P^2+Q)+13R^\frac23P+12R=0 \\\III&p=19&P^5-7P^2R-QR=0 \\\II&p=23&P-R^\frac13=0 \\\IV&p=29&P^\frac12(P^2+17PR^\frac13-9R^\frac23)-R^\frac16(9P^2+Q-13PR^\frac13+15R^\frac23)=0 \\\I&p=31&P^2-Q-(PR)^\frac12=0 \\\I&p=47&P^2-QPR^\frac13-2R^\frac23=0 \\\II&p=71&P^3-R^\frac13(4P^2+Q)+2PR^\frac23-R=0 \end{array}$

おまけ:Schläfliのモジュラー方程式の一覧

$$P=G(\tau)G(p\tau),Q=G(\tau)/G(p\tau)$$
$$A_k^\pm=2^\frac k2\l(P^k\pm\frac1{P^k}\r),\;B_k=Q^k+\frac1{Q^k}$$
とします。
 このときいくつかの奇素数$p$に対するSchläfliのモジュラー方程式は以下のようになることが知られています。
\begin{eqnarray} p=3&\quad&B_4=A_3^- \\p=5&\quad&B_3=A_2^- \\p=7&\quad&B_4=A_3^+-7 \\p=11&\quad&B_6=A_5^--11A_3^-+44A_1^- \\p=13&\quad&B_7+13B_5+52B_3+78B_1=-A_6^- \\p=17&\quad&B_9-34B_6+119B_3+17A_4^+B_3-A_8^++34A_4^++340=0 \\p=19&\quad&B_{10}+114B_6-95B_2-95A_3^-B_4+19A_6^+B_2-A_9^--38A_3^-=0 \end{eqnarray}
それ以上の$p$については こちらの文献 で紹介されています。ただしこの文献における$P,Q$は上で定めた$P,Q$とはそれぞれ逆数の関係にあることに注意しましょう。

おわりに

 はい。
 ということで ラマヌジャンの円周率公式を導出する際 に出て来る定数
$$g_{58}=\sqrt{\frac{\sqrt{29}+5}2}$$
を計算するためにモジュラー方程式とsingular moduliについてまとめてみましたが、$p$が大きくなるごとにモジュラー方程式は煩雑化していくので中々一筋縄ではいかないようです(そもそもモジュラー方程式を導出すること自体も容易ではありません)。何か他にsingular moduliを計算するいい手法があるのでしょうか。
 ただ$p$が十分小さいときは比較的簡単にsingular moduliを計算できるので、そこから種々の面白い公式が得られていくことになります。興味があれば自身の手で色々遊んでみてください。
 とりあえず今回はこんなところで。
 では。

参考文献

投稿日:20221229
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投稿者

子葉
子葉
984
222100
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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