はじめに
この記事ではモジュラー方程式というものについて、その色々な形態とモジュラー方程式を考える意味について解説していきます。
モジュラー方程式
まずどういうものをモジュラー方程式と言うのかを提示しておきましょう。
レベルのモジュラー関数、つまり合同部分群
の作用に対して不変な上の有理型関数について、ととの関係を記述する方程式のことをについての次モジュラー方程式という(一般にはと互いに素な自然数とすることが多い)。
最も基本的なモジュラー方程式としてKleinの-不変量()についてのモジュラー方程式があります。それらは
前の記事
でちらっと紹介したようにが素数のとき、次のような表示を持ちます。
今回の記事ではではなく
モジュラー関数
()についてのモジュラー方程式
の派生形についてまとめていきます。自身については
前の記事
で詳しく解説しています。
楕円積分のモジュラー方程式
楕円積分
に対し
とおいたとき、母数についての方程式
を次モジュラー方程式と言うことがあります。
これはとおくと
前の記事
の定理10から
によってとの関係を決定する方程式となっています。
Jacobi-Sohnkeのモジュラー方程式
u-v形式のモジュラー形式
として紹介した
についてのモジュラー方程式
はJacobi-Sohnkeのモジュラー方程式と言います。
Jacobi-Sohnkeのモジュラー方程式はについての素朴なモジュラー方程式に比べて項の数や係数の大きさが小さいのでより扱いやすいものとなっています。
Russellのモジュラー方程式
u-v形式のモジュラー形式
でちらっと紹介したり、
楕円関数の代数的な解
を考えたときに出てきた楕円積分の母数についての方程式
や
をRussellのモジュラー方程式と言います。
これはの既約分数をとしたときについての整数係数方程式
の形や
についての無理方程式の形に表されます。
例えばの場合はすべて
がモジュラー方程式となっており、それぞれ展開すると
のように書けます。
Russellのモジュラー方程式は場合によってはJacobi-Sohnkeのモジュラー方程式よりも簡単な形に書ける他、下で紹介するsingular moduliを計算するのにも便利な方程式となっています。
Schläfliのモジュラー方程式
Schläfliのモジュラー方程式はWeberのモジュラー関数
についてのモジュラー方程式として定められます。
例えばとおいたとき、のモジュラー方程式は以下のようになります。
このように
の組み合わせによって表せるのがSchläfliのモジュラー方程式の特徴となります。これもまたsingular moduliを計算するのに便利な方程式となっています。
ちなみに
前の記事
の定理3から
つまり
が成り立つのでSchläfliのモジュラー方程式はについてのモジュラー方程式の派生形となっていることがわかります。
のモジュラー方程式
またSchläfliのモジュラー方程式はRamanujanの不変量
についてのモジュラー方程式としても表されます。これについて
とおくと
が成り立つのでについての次モジュラー方程式は以下のようになります。
のモジュラー方程式の相互関係について
前の記事
で紹介したようにWeberのモジュラー関数はデデキントのイータ関数を用いて
と表せるのでイータ関数の性質
に注意すると
が成り立ちます。したがってについてのモジュラー方程式
がわかればとすることでのモジュラー方程式
が得られ、さらにとすることでのモジュラー方程式
が得られます。
実際にの場合を考えてみると
とおいたときにおいて
つまり
が成り立つのでのモジュラー方程式は以下のようになります。
さらににおいて
が成り立つのでのモジュラー方程式は以下のようになります。
singular moduli
さて、冒頭でも言及したようにモジュラー方程式とは(擬)モジュラー関数に対してとの関係を記述する方程式のことを言うのでした。
そして(擬)モジュラー関数の持つ性質
を利用すると
つまり
におけるの値を計算することができます。
このように(擬)モジュラー関数のにおける特殊値のことをsingular moduliと言います。一般にはが虚二次体となるようなにおける特殊値のことも指します。
の計算
いまのにおける値をとおくと
なのでは次のモジュラー方程式を満たします。
Russelのモジュラー方程式はについての方程式として表されたので、つまりとした方程式をについて解くことでの値が計算できます。
またとおくとより
となるのではについて単調減少となることから
と計算できます。
の計算
なので
と計算できます。
の計算
次のモジュラー方程式は
であったのでとすると
つまり
と計算できます。
の計算
のRussellのモジュラー方程式は
であったので
つまり
と計算できます。
の計算(おまけ)
次のモジュラー方程式
においてとすると
つまり
が得られます。
の計算
のRussellのモジュラー方程式は
であったので
つまり
となります。したがって
と計算できます。
の計算
のRussellのモジュラー方程式は
であったので
と計算できます。
ちなみにいくつかのに対するの値は
モジュラー関数のWikipedia
にとして列記されています。
の計算
のにおける値をとおくと
なのではについての次モジュラー方程式を、はについての次モジュラー方程式を満たします。
また
であったことから
と求めることもできます。
逆にこの関係式からを
と求めることもできます。
の計算
であったことから
が成り立ちます。
ちなみにの-展開を思い出すとこの値から
が得られます。
の計算
であったことから
が成り立ちます(からもがわかります)。
の計算
のSchläfliのモジュラー方程式は
であったのでとすることで
が成り立ちます。
これを解くことで
と計算できます。
またこのことから
が得られます。
の計算
のSchläfliのモジュラー方程式は
であったので
つまり
と計算できます。
の計算
のSchläfliのモジュラー方程式は
であったので
つまり
と計算できます。
おまけ:Russellのモジュラー方程式の一覧
を上で定めた通りとします。明示的には以下のようになります。
のとき、なので
のとき、なので
のとき、なので
のとき、なので
このときいくつかの奇素数に対するRussellのモジュラー方程式は以下のようになることが知られています。
おまけ:Schläfliのモジュラー方程式の一覧
とします。
このときいくつかの奇素数に対するSchläfliのモジュラー方程式は以下のようになることが知られています。
それ以上のについては
こちらの文献
で紹介されています。ただしこの文献におけるは上で定めたとはそれぞれ逆数の関係にあることに注意しましょう。
おわりに
はい。
ということで
ラマヌジャンの円周率公式を導出する際
に出て来る定数
を計算するためにモジュラー方程式とsingular moduliについてまとめてみましたが、が大きくなるごとにモジュラー方程式は煩雑化していくので中々一筋縄ではいかないようです(そもそもモジュラー方程式を導出すること自体も容易ではありません)。何か他にsingular moduliを計算するいい手法があるのでしょうか。
ただが十分小さいときは比較的簡単にsingular moduliを計算できるので、そこから種々の面白い公式が得られていくことになります。興味があれば自身の手で色々遊んでみてください。
とりあえず今回はこんなところで。
では。