位数100までの群を, 同型を除き全て求めます. この記事では位数$60,90,84$の群を求めます.($p^2qr$型) 使う定理は
準備記事
に乗ってるので、分からない場所があれば参照してください.
この章の内容は
https://kazu-fgf.hatenablog.com/entry/20080706/1215360176
を参考にしている. (命題3までほぼ同じです)
$G$を位数$60$の群とする.
次の命題は良く知られた事実である.
$n\geq 5$なら, $A_n$の正規部分群は$A_n,\{1\}$のみ.
$S_n$の正規部分群は$S_n,A_n,\{1\}$のみ.
$G$が単純群なら, $G\iso A_5$.
このとき, シローの定理より$n_5(G)=6$. よって, $G$のシロー$5$群を$P$, $H:=N_R(G)$とすると, $\#H=10$.
ゆえに,
準備記事命題3
より, 準同型$\phi:G\to S_6$で,$\ker(\phi)=\mathrm{Core}_G(H)$を満たすものが取れる. $G$が単純なことから, $\ker(\phi)=\{1\}$. とくに$G\iso \phi(G)$.
もし, $\phi(G)\not\subset A_6$なら, $\phi(G)\rnormal (\phi(G)\cap A_6)$で, $G\iso\phi(G)$の単純性に矛盾. したがって, $\phi(G)\subset A_6$.
$\phi(G)$と$A_6$に対して, 再び
準備記事命題3
とその下の注意を用いると, $\psi:A_6\to S_6$で, $\psi(A_6)$が可移かつ$\psi(\phi(G))\subset S_5$となるものがとれる. $A_6$の単純性(Ansimp)より, 上と同様にして, $\psi$は単射.
よって, $S_5\supset \psi(\phi(G)) \iso \phi(G) \iso G$.
指数$2$の部分群は正規であることを思い出すと, $S_5\rnormal \psi(\phi(G))$. ゆえに, Ansimpより$\psi(\phi(G))=A_5$. ゆえに, $G\iso A_5$.
以下, $G$が単純群でないときを考える.
$G$が単純群でないなら, $n_5(G)=1$.
これまで得られた群の分類の結果より, 位数$30,20,15,10,5$の群$H$に対して, $n_5(H)=1$となることに注意せよ. (シローの定理からすぐに従わないのは, $\#H=30$のときのみ.
位数30の群の分類
をみると, このときも大丈夫なことが分かる.)
仮定より, $G\rnormal N, G\neq N\neq \{1\}$となる$N$がとれる. $\#N$で場合分けを行う.
$N$のシロー$5$群を$P$と置く. 上の注意より, $G\rnormal N\char P$. よって, 準備記事命題2 より, $G\rnormal P$.
まず, $\#N<12$の場合を示す. 上の注意より,$n_5(G/N)=1$. よって, $G/N$のシロー$5$部分群を$P/N$とすると, $G/N\rnormal P/N$となり, $G\rnormal P$. ゆえに, 上の場合に帰着できた.
$\#N=12$の場合を処理する. このとき
位数p^2qの分類命題1
より, 位数$3$か$4$の群$K$が存在して, $N\char K$. よって, $G\rnormal K$となり, 上の場合に帰着できる.
$G$のシロー$5$群(上の定理から正規)を$P$と置く. $n_2(G/P)$で場合分けを行う.
$G/P$のシロー$3$群が$N/P$となるように$G\geq N$をとる.
$G/P\char N/P$なので, $G\char N$.
$G$のシロー$4$群(のうち一つ)を, $Q$とする.
$\#N=15$で$\#Q=4$なので, $G\iso \semiprod{Q}{\phi}{N}$となる.(ここで, $\phi$は$Q$から$K$への群準同型[1])
位数15の群の分類
より, $N\iso C_{15}$である.
よって,
準備記事命題9
より, 位数$4$の群$Q$,および群準同型$\phi:Q\to \Aut(C_{15})\iso C_2\times C_4$を(上の命題zの意味で)共役を除いて求めればよい.
$\#\Im(\phi)=4$のものとして,
$\#\Im(\phi)=2$のものとして,
$\#\Im(\phi)=1$のものとして,
の$5$つがある.
上からそれぞれ, $D_3\times D_5$,$D_3\times C_5\times C_2,D_5\times C_3\times C_2, D_{15}\times C_2,C_3\times C_5\times C_2\times C_2$に対応する.
$\#\Im(\phi)=4$のものとして,
$\#\Im(\phi)=2$のものとして,
$\#\Im(\phi)=1$のものとして,
の$6$つがある.
このとき,
位数12の群の分類
より, $G/P\iso A_4$がわかる.
よって, $G/P$の$2$シロー部分群$N/P$をとると, $G/P \char N/P$となり, $G \char N$. また, $N/P\iso V_4=C_2\times C_2$となる.
$G$のシロー$3$群を$Q$とすると, $\#N=20, \#Q=3$より, $G\iso \semiprod{C_3}{\phi}{N}$となる. ($\phi$は$C_3$から$\Aut(N)$への群準同型. )
$G\rnormal P$より, $\phi$は$\overline{\phi}:G\to \Aut(N/P)$を誘導する. $G/P\iso A_4$より, $\overline{\phi}\neq 1$である必要がある.
逆に, 位数$20$の群$N'$とそのシロー$5$群$P'$が$N'/P'\iso C_2\times C_2$を満たしたとする[2]. そして, 準同型 $\phi':C_3\to \Aut(N')$が, $\overline{\phi'}\neq 1$を満たすとする. すると, $G'=\semiprod{C_3}{\phi}{N'}$と置くと, $G'/P'\iso A_4$が成立する.
よって, 位数$20$の群$N$で,シロー$2$群が$C_2\times C_2$と同型なもの, および$\phi: C_3\to \Aut(N)$で$\overline{\phi}\neq 1$を満たすものを(共役を除いて)列挙すればよい.
$N$は
位数20の群の分類
より, $N=C_2\times C_2\times C_5$, もしくは$C_2\times D_5$のいずれかと同型. 以下$N$で場合分けを行う.
$\Aut(K)\iso \GL_2(\field 2)\times C_4\iso S_3\times C_4$となる.
よって, $\Aut(K)$の大きさ$3$の部分群は$\gen{(1,2,3)}\times \{1\}$という形をしたもののみ. このとき$\overline{\phi}\neq 1$も成立する.
この群は$A_4\times C_5$と同型.
$\phi(\overline{1})$は同型なので, $\phi(\overline{1})(Z(N))=Z(N)$を満たす必要がある.
$Z(N)=C_2\times \{1\}$なので, $\overline{\phi}(\overline{1})(\overline{1},\overline{0})=(\overline{1},\overline{0})$が成立する.
これと$\overline{\phi}(\overline{1})\neq 1$を合わせ, $\overline{\phi}(\overline{1})=((\overline{a},\overline{b})\mapsto (\overline{a+b},\overline{b}))$となる. しかし, これは$\phi(\overline{1})^3=\phi(\overline{3})=\phi(\overline{0})=\mathrm{id}$に矛盾.
よって, このような群はない.
以上をまとめ, 位数$60$の群は同型をのぞき$1+(5+6)+1=13$個ある.
$G$を位数$90$の群とする. $60$とほぼ同様に議論を行う.
$G$は単純群でない.
$G$が単純群であると仮定して, 矛盾を導く. このとき, $n_5(G)=6$.
よって, 位数$60$の場合と同様にして, 単射準同型$\phi:G\to S_6$が存在する.
$\phi(G)\rnormal (\phi(G)\cap A_6)$より, $\phi(G)\iso G$が非自明な正規部分群を持つこととなり, 矛盾.
$N=\mathrm{Core}_{A_6}(\phi(G))$と置くと, 準備記事命題3 より, $N$は$A_6$の正規部分群で, $\frac{360}{4!}\leq \#N\leq \frac{360}{4}$. これは$A_6$の単純性に矛盾.
$n_5(G)=1$.
これまで得られた群の分類の結果より, 位数$45,30,15,10,5$の群$H$に対して, $n_5(H)=1$となることに注意せよ. (シローの定理からすぐに従わないのは, $\#H=30$のときのみ.
位数30の群の分類
をみると, このときも大丈夫なことが分かる.)
仮定より, $G\rnormal N$となる非自明な$N$がとれる. $\#N$で場合分けを行う.
$N$のシロー$5$群を$P$と置く. 上の注意より, $G\rnormal N\char P$. よって, 準備記事命題1 より, $G\rnormal P$.
まず, $\#N<18$の場合を示す. 上の注意より,$n_5(G/N)=1$. よって, $G/N$のシロー$5$部分群を$P/N$とすると, $G/N\rnormal P/N$となり, $G\rnormal P$. ゆえに, 上の場合に帰着できた.
$\#N=18$の場合を処理する. このときシローの定理より, 位数$9$の部分群$K$が存在して, $N\char K$となる. よって,
準備記事命題1
より, $G\rnormal K$となり, 上の場合に帰着できる.
$G$のシロー$5$部分群を$P$と置く. シローの定理より, $n_3(G/P)=1$. よって, $G/P$のシロー$3$部分群を$N/P$と置くと, $G\char N$.
$G$のシロー$2$部分群(のひとつ)を$Q$と置くと, $\#N=45,\#Q=2$. ゆえに, $N\cap Q=\{1\},G=NQ$. よって, $G\iso \semiprod{C_2}{\phi}{N}$となる. ($\phi$は$C_2$から$\Aut(N)$への準同型. )
準備記事命題9
より, 位数$45$の群$N$,および群準同型$\phi:C_2\to \Aut(N)$を(上の命題の意味で)共役を除いて求めればよい.
$\Aut(N)=\GL_2(\field 3)\times C_4$となる.
よって, $\phi(\overline{1})$としてありうるものは, (共役を除いて)以下の$6$つ.
下$4$個はそれぞれ$C_3\times D_{15},C_{3}\times D_3\times C_5,C_3\times C_3\times D_{5}, C_3\times C_3\times C_5\times C_2 $に対応する.
$\Aut(N)\iso C_6\times C_4$となる.
よって, $\phi(\overline{1})$としてありうるものは, 以下の通り.
それぞれ,$D_{45},D_{9}\times C_5,C_9\times D_5,C_9\times C_5\times C_2$に対応する.
以上をまとめ, 位数$90$の群は同型をのぞき$6+4=10$個ある.
$G$を位数$84$の群とする. シローの定理より, $n_7(G)=1$.
$G$のシロー$7$群を$P$と置く. $n_3(G/P)$で場合分けを行う.
$G/P$のシロー$3$群が$K/P$となるように$G\geq N$をとる.
$G/P\char N/P$なので, $G\char N$.
$G$のシロー$4$群(のうち一つ)を, $Q$とする.
$\#N=21$で$\#Q=4$なので, $G\iso \semiprod{Q}{\phi}{K}$となる.(ここで, $\phi$は$Q$から$K$への群準同型)
位数21の群
より, $N\iso C_{21}$である.
よって,
準備記事命題9
より, 位数$4$の群$Q$,および群準同型$\phi:Q\to \Aut(N)$を(上の命題zの意味で)共役を除いて求めればよい.
$Q,N$で場合分けを行う.
$\Aut(N)\iso C_2\times C_6$. よって,
$\#\Im(\phi)=4$のものとして,
$\#\Im(\phi)=2$のものとして,
$\#\Im(\phi)=1$のものとして,
の$5$つがある. 上からそれぞれ, $D_3\times D_7$,$D_3\times C_7\times C_2,D_7\times C_3\times C_2, D_{21}\times C_2,C_3\times C_7 \times C_2\times C_2$に対応する.
$\Aut(N)\iso C_2\times C_6$. よって,
$\#\Im(\phi)=2$のものとして,
$\#\Im(\phi)=1$のものとして,
の$4$つがある.
ここで, $\psi(\bar{1})=(x\mapsto 2x)$とする.
位数21の群の自己同型
より, $\Aut(N)\iso \gen{\sigma,\tau| \sigma^7=1,\tau^6=1,\tau^{-1}\sigma\tau =\sigma^3}$となる. とくに$\#\Aut(N)=42$より, $\#\Im(\psi)\neq 4$に注意せよ.
位数pqrの群の分類
で求めた通り, $\Aut(N)$の位数$2$の元は共役を除き, $\tau^3$のみ.
よって, (共役を除いて)ありうる準同型は
上と同様な記号のもと, (共役を除いて)ありうる準同型は
このとき,
位数12の群の分類
より, $G/P\iso A_4$がわかる.
よって, $G/P$の$2$シロー部分群$N/P$をとると, $G/P \char N/P$となり, $G \char N$. また, $N/P\iso V_4=C_2\times C_2$となる.
$G$のシロー$3$群を$Q$とすると, $\#N=28, \#Q=3$より, $G\iso \semiprod{C_3}{\phi}{N}$となる. ($\phi$は$C_3$から$\Aut(N)$への群準同型)
$G\rnormal P$より, $\phi$は$\overline{\phi}:G\to \Aut(N/P)$を誘導する. $G/P\iso A_4$より, $\overline{\phi}\neq 1$である必要がある.
逆に, 位数$28$の群$N'$とそのシロー$7$群$P'$が$N'/P'\iso C_2\times C_2$を満たしたとする[3]. そして, 準同型 $\phi':C_3\to \Aut(N')$が, $\overline{\phi'}\neq 1$を満たすとする. すると, $G'=\semiprod{C_3}{\phi}{N'}$と置くと, $G'/P'\iso A_4$が成立する.
よって, 位数$28$の群$N$で,シロー$2$群が$C_2\times C_2$と同型なもの, および$\phi: C_3\to \Aut(N)$で$\overline{\phi}\neq 1$を満たすものを(共役を除いて)列挙すればよい.
$N$は
位数28の群の分類
より, $N=C_2\times C_2\times C_7$, もしくは$C_2\times D_7$のいずれかと同型. 以下$N$で場合分けを行う.
$\Aut(K)\iso \GL_2(\field 2)\times C_6\iso S_3\times C_6$となる.
よって, $\Aut(K)$の大きさ$3$の部分群で, $\{1\}\times C_6 $に含まれないものは[4], (共役を除いて) $ \gen{((1,2,3),\overline{0})}, \gen{((1,2,3),\overline{1})}$の$2$つ.
$\phi(\overline{1})$は同型なので, $\phi(\overline{1})(Z(N))=Z(N)$を満たす必要がある.
$Z(N)=C_2\times \{1\}$なので, $\overline{\phi}(\overline{1})(\overline{1},\overline{0})=(\overline{1},\overline{0})$が成立する.
これと$\overline{\phi}(\overline{1})\neq 1$を合わせ, $\overline{\phi}(\overline{1})=((\overline{a},\overline{b})\mapsto (\overline{a+b},\overline{b}))$となる. しかし, これは$\phi(\overline{1})^3=\phi(\overline{3})=\phi(\overline{0})=\mathrm{id}$に矛盾.
よって, このような群はない.
以上をまとめ, 位数$84$の群は同型をのぞき$((5+4)+(2+2))+2=15$個ある.