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応用数学解説
文献あり

Ginsparg-Wilson関係式と指数定理

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格子上のchiral対称性

最近いくつか物理学と指数定理の関係に関して記事を書きました[1][2][3][4][5][6]。本記事でも指数定理の話をしたいと思います。

Nielsen-Ninomiyaの定理2/2: fermion doublingに関する不可能性定理 では、格子正則化においてfermionのdoublerを取り除くことは、いくつかの物理的に尤もな条件の下では不可能なこと、またそれを取り除けなければ量子アノマリーが再現できないことを述べました(Ref.[7][8])。

それでもdoublerを取り除く方法はいくつかあります。最も古くから知られているのはWilson fermionと呼ばれる定式化です(Ref.[9])。Nielsen-Ninomiyaの定理(NN定理)の前提にchiral対称性を満たすことがありましたが、Wilson fermionではこれをある程度犠牲にしてdoublerを消します。しかしながら、chiral対称性は強い相互作用の基礎理論であるSU(3)の非可換ゲージ理論 ‐量子色力学と呼ばれる‐ において大変重要であり、格子正則化は量子色力学の低エネルギー現象のような非摂動領域で最も威力を発揮するので、格子上のfermionはchiral対称性を尊重することが望ましいです。

1990年代に格子上でchiral対称性を尊重しながらdoublerを消す方法が盛んに研究されました。そこで得られたひとつの答えは

Ginsparg-Wilson関係式を満たすDirac演算子によりfermionを構成する

でした。Ginsparg-Wilson関係式(GW関係式)とは、Dirac演算子をDとすると
{γ5,D}=aDγ5D
で表されます(Ref.[10])。aは格子間隔です。一般には右辺はaDRγ5Dのように、γ5と可換な局所的演算子Rが入っていてもいいですが、ここではこれを1としておきます。

chiral対称性は{γ5,D}=0で表されます。一方でGW関係式の右辺はノンゼロであり、またaに比例しています。ということは結局のところchiral対称性は破れており、上記したWilson fermionと状況は同じなのでは?と思うかもしれません。ところがGW関係式は単にchiral対称性が破れているのとは違い、「格子上のchiral対称性」とでも言うべき性質を持っています。Dがこれを満たしていると、例えばWard-Takahashi恒等式等による解析からa0において連続極限のchiral対称性と関わる物理量が適切に再現できることがわかります。つまりa0で連続極限のchiral対称性にちゃんとつながるようになります。

chiral対称性を尊重しながらdoublingを消去するには、chiral対称性の定義を格子上に適切に拡張することが必要だったのです。Wilson fermionのようなchiral対称性の破り方(具体的には示してないですが)は望ましくないのです。

一方でNielsen-Ninomiyaの定理の前提であるchiral対称性{γ5,D}=0はGW関係式とは異なるため定理の適用外であり、doublerを消すことができます。

量子アノマリーに関しては例えばRef.[1]をご参照ください。以下Dirac行列γ5の性質を用います。これに関してはRef.[6]のAppendix等をご参照ください。

Ginsparg-Wilson関係式から導かれる指数定理

GW関係式が「格子上のchiral対称性」として適切であり、これを満たすfermionがdoublerを持たないのなら、量子アノマリーも適切に再現できるのではないかと思えます。そして実際それは正しいです。以下ではGW関係式を満たすDが指数定理を適切に再現することをRef.[11]に従い示します。

いま格子上のfermion作用が以下のようにfermionの双一次形式で書けているとします。
SF=ψ¯Dψ
GW関係式が成立するとき、この作用は以下の変換に対して不変です:
{ψψ=ψ+ϵδψ,   δψ=γ5(1aD/2)ψψ¯ψ¯=ψ¯+ϵδψ¯,   δψ¯=ψ¯(1aD/2)γ5

次に、この変換に対する経路積分の測度のJacobianを求めます。これは以下の記事
ABJ anomaly:経路積分における藤川の方法
の計算と基本的に同じです。これに習えば
J=exp[2n=1xφn(x)(1aD/2)γ5φn(x)]
を得ます。ここでφnDの固有関数であり、nはそれにつけたラベルです。上記記事の計算と今回の計算で少し違うのは、上記記事でα(x)と書いている量はγ5と可換であるのに対し、こちらの計算では(1aD/2)γ5が可換ではないことです。しかし計算を追うとわかるように、trの巡回置換性より結局(1aD/2)γ5の順番は関係なくなります。

n=1xφn(x)(1aD/2)γ5φn(x)をここでは
tr[(1aD/2)γ5]
と書いておきます。このtraceは、時空、状態、スピノルのindexのすべてに関してとることにします。いま格子正則化がなされているのでtr(γ5)はゼロにしてよいです(逆に言えば正則化がなされてなくて収束しない和が現れるような場合はゼロにしてはダメです)。よって

(1)J=exp(tr(aDγ5))
になります。以下tr(aDγ5)を計算します。

DがGW関係式を満たせば以下が成立します:
(2)a(zD)γ5(zD)=z(2az)γ5(1az){(zD)γ5+γ5(zD)}
ここでzCは変数であり、Dの固有値ではないとします。Eq.(2)の両辺に右から(zD)1をかけてtrをとると
tr(aDγ5)=tr(z(2az)γ5(zD)1)
が成立します。これをz(2az)で割り、原点を囲む経路をCとしてこの経路上で積分します。ただしCDのゼロ以外の固有値を囲まないようにとります(系は有限体積であるとします):
tr(aDγ5)Cdz2πi1z(2az)=tr(γ5Cdz2πi(zD)1)(3)tr(aDγ5)=2tr(γ5Cdz2πi(zD)1)
ここで次の演算子を考えます:
P^0:=Cdz2πi(zD)1=φ,φCdz2πi|φφ|(zD)1|φφ|
|φDの固有状態であり、φ|φφ||φによる完全系なので単位演算子です。|φは正規直交関係を満たすとします。すると上の式は以下のように書き換えられます:
φ,φCdz2πi|φφ|(zD)1|φφ|=v,vCdz2πi|vv|vv|1zv
ここで|vDの固有値vの状態を表します。和は固有値の縮退(重複)も含んでいます。積分を実行すればvがゼロの状態のみが残るので
=v|vv|δ(v)     (δはデルタ関数)
になります。すなわちP^0Dのゼロ固有値状態への射影演算子です。Eq.(3)の右辺は
2tr(γ5P^0)=2v,vv|γ5|vv|vδ(v)
となります。ここでγ5の固有値が+1であるR1であるLへの射影演算子をそれぞれ
PR:=(1+γ5)/2,  PL:=(1γ5)/2,PR+PL=1,PR2=PR,PL2=PL
とすれば(Ref.[6]のAppendix等参照のこと)
=2v,vv|(PRPL)|vv|vδ(v)=2vRvR=0|vR=0vLvL=0|vL=0=2(nR0nL0)
となります。ここで|vR=0,|vL=0はそれぞれRおよびLのゼロモード、nR0|vR=0の数、nL0|vL=0の数です。改めて、GW関係式を満たすDに関し、Eq.(3)より
atr(γ5D)=2(nR0nL0)
が成立します。この式とEq.(1)より、Jacobianはノンゼロであり、RLのゼロモードの差で書けることを意味します。これは この記事 の公式5に対応します。

こうしてGW関係式を満たすfermionは、Dの具体的な構成法に関わらず、量子アノマリーのひとつであるABJアノマリーを正しく再現することがわかりました。GW関係式が「格子上のchiral対称性」としての資格を持つことのひとつの証左かと思います。

まとめ

本記事ではGinsparg-Wilson関係式(GW関係式)を満たすDirac演算子が、適切に量子アノマリーを再現することを述べました。

Nielsen-Ninomiyaの定理から不可能に思われる、chiral対称性を尊重しつつdoublerがないようなfermionは、「格子上のchiral対称性」たるGW関係式を満たすDirac演算子によって実現されます。そしてGW関係式を満たす演算子は、その構成の詳細に依らず正しくABJアノマリーを再現します。

おしまい。

参考文献

[7]
Nielsen, H.B., Ninomiya, M., Absence of neutrino on a lattice (I). Proof by homotopy theory, Nucl. Phys. B, 1981, 20-40
[8]
Karsten, Luuk H., Smit, J., Lattice Fermions: species doubling, chiral invariance and the triangle anomaly, Nucl. Phys. B, 1981, 103-140
[9]
青木慎也, 格子上の場の理論, Springer-Verlag Tokyo Modern Theoretical Physics Series, Springer-Verlag, 2005
[10]
Ginsparg, Paul H., Wilson, Kenneth G., A remnant of chiral symmetry on the lattice, Phys. Rev. D, 1982, 2649-2657
[11]
Lüscher, M., Exact chiral symmetry on the lattice and the Ginsparg-Wilson relation, Phys. Lett. B, 1998, 342-345
投稿日:20231122
更新日:2024718
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  1. 格子上のchiral対称性
  2. Ginsparg-Wilson関係式から導かれる指数定理
  3. まとめ
  4. 参考文献