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現代数学解説
文献あり

【超局所層理論第9回】量子化接触変換と単純層,偏屈層の超局所的特徴づけ

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はじめに

こんにちは!超局所層理論の第9回(最終回)です.今回はやり残していて説明がしづらい量子化接触変換・単純層・偏屈層の超局所的特徴づけについて説明したいと思います.今回も証明はほとんど説明せずにお気持ちだけ述べますのでご了承ください.

前回までの高速おさらい

kを体,Xd次元多様体とします.
第1回 X上のk加群の層の複体FDb(kX)に対して,そのコホモロジーが伝播しない余方向として層のマイクロ台SS(F)というXの余接束TXの錐状閉部分集合を定義しました.そして様々な層のマイクロ台がどうなっているのかを調べて,良い状況ではマイクロ台が層の形を強く制限することがあることも見ました.
第2回 :層に対する様々な演算を施した後のマイクロ台を評価する方法について説明しました.またそれらを使って超局所切り落としという操作を定義しました.
第3回 :マイクロ台は常に包合的であるという定理の主張を述べました.さらに,余接束TXの中のある部分集合上だけに注目する超局所的な見方を実現するために超局所圏を導入して,そこではマイクロ台が層の形を制限するという主張がより広く成り立つことも見ました.また超局所圏のHomを茎に持つような層μhomがあったらうれしそうだという気持ちを説明しました.
第4回 X上の層Fから法束TMX上の層νM(F)を作り出す特殊化という操作νM:Db(kX)DR>0b(kTMX)を法変形を使って定義して,切断がMの近傍で法方向に指定された開きがある開部分集合上のF切断の帰納極限だということを見ました.さらにベクトル束上の錐状層の圏とその双対ベクトル束上の錐状層の圏の圏同値を与えるFourier-Sato変換について説明して,特殊化のFourier-Sato変換として超局所化μM(F)という余法束TMX上の層を定義しました.これは超局所化函手μM:Db(kX)DR>0b(kTMX)を定めました.
第5回 :超局所化に基づいて函手μhom:Db(kX)op×Db(kX)DR>0b(kTX)を定義しました.μhomは超局所化函手の一般化になっていて,μhomの台はマイクロ台で評価ができるので超局所圏からの函手を誘導することも見ました.μhomの最も重要な性質は,その茎が一点pでの超局所圏Db(kX;p)におけるHom集合を与えることでした.
第6回 μ-stratificationという「良い条件を満たすstratification」という概念を使って実解析的多様体上の(弱)構成可能層の定義を与えて,それらの性質を見ました.また,層が弱構成可能であることとマイクロ台が劣解析的ラグランジュ錐状閉部分集合であることが同値であることを説明しました.これを使うと(弱)構成可能層が層の演算で閉じていることも分かりました.
第7回 :超局所的にマイクロ台が余接束に含まれている場合の超局所圏における同形を用いると,超局所層理論でstratifiedモース理論(の一部)を解釈できることを説明しました.また,複素多様体の超曲面の場合には,特殊化・超局所化函手の類似物が近接・消滅サイクル函手という別の形で構成できることを述べました.特に複素多様体上の弱C-構成可能層のマイクロ台は消滅サイクルから回復することができます.
第8回 :構成可能層Fのマイクロ台SS(F)を分解して重複度をかけた形式和で特性サイクルCC(F)が定まり,任意のTXの連続切断との交点数がFのオイラー・ポアンカレ標数χ(X;F)を計算するという柏原の指数定理を説明しました.特性サイクルの構成はμhomを使ったものもあること,構成可能層のGrothendieck群・構成可能函数のアーベル群・TX上のラグランジュサイクルのアーベル群は同形であり三つを互いに行き来できることも見ました.

今回の話はXは途中までC級多様体として,あとから複素多様体に話を限ります.また,πで余接束TXXをあらわして0Xまたは単にXでそのゼロ切断をあらわします.

量子化接触変換と純層・単純層

ここではマイクロ台を定義する際に現れた超局所的な障害RΓ{φφ(x0)}(F)x0がある次数に集中している層について調べます.これが純層と呼ばれるもので,さらに次元が1の場合は単純層と呼ばれます.ところでpTXの近傍で,ある部分多様体Mに対してSS(F)TMXとなっていれば,VDb(k)が存在して超局所圏Db(kX;p)FVMとなるのでした( 第3回 の命題3).この状況だと超局所的な障害RΓ{φφ(x0)}(F)x0は簡単に計算できてうれしいわけです.一般の場合もこの状況に帰着できればありがたいのですが,それはできるでしょうか?実はTXの変換χSS(F)をうつして,χ(SS(F))が点χ(p)の近傍でTMXに含まれるようにできます.このとき,変換χを層の圏の間の圏同値に持ち上げたΦ:Db(kX;p)Db(kX;χ(p))であってpの近傍でSS(Φ(F))=χ(SS(F))となるものが作れれば,上で見た状況に帰着ができます.このχの層の圏への持ち上げは量子化接触変換と呼ばれ非常に有用なので,それから説明していきましょう.

量子化接触変換

X,Yを二つの多様体として,それぞれの余接束TX,TYを考えます.(x;ξ)TXの局所斉次座標,(y;η)TYの局所斉次座標をあらわすと,それぞれの上には局所的に
αTX=ξ,dx,αTY=η,dy
で定義される標準的な1-形式(Liouville形式)が定まります.シンプレクティック形式とはωTX=dαTXの関係にあることにも注意しましょう.ΩXTX,ΩYTYをそれぞれ開部分集合とします.このとき,R>0の作用と可換な微分同相写像χ:ΩXΩY接触変換 (contact transform) または斉次シンプレクティック同相写像 (homogeneous symplectomorphism) であるとは,χαTY=αTXを満たすことをいいます.このとき,aX:TXTX,(x;ξ)(x;ξ)を対蹠写像すると,χのグラフΓχΩX×ΩYの像
Λχ:=(aX×id)(Γχ)(ΩX)×ΩY
は錐状ラグランジュ部分多様体となります.ここでpX:TX×TYTX,pY:TX×TYTYをそれぞれ射影として,aX(TX)×TY上のシンプレクティック形式はpXωTX+pYωTYと考えます.

さて,接触変換χ:ΩXΩYが与えられたときに,それを層の超局所圏の間の圏同値Db(kX;ΩX)Db(kY;ΩY)に持ち上げることができるかに我々は興味があるのでした.これはどのように実現できるでしょうか?実は良い層を核とした積分変換(層の合成)を使うとこれが可能です. 層理論第6回 の定義5で,KDb(kY×X)FDb(kX)に対して
KF:=RqY!(KqX1F)
と定めたのでした.ここでqX:X×YX,qY:X×YYはそれぞれ射影です(前の記事とXYの役割が若干異なっています).記号を簡単にして変換の気持ちを出すために,ΦK(F):=KFと書くことにします. 第2回 の層の演算に対するマイクロ台のふるまいでは詳しく説明しませんでしたが,合成操作は引き戻し・テンソル積・固有順像の組合せで出来ているのでKFのマイクロ台からΦK(F)のマイクロ台を評価できます.特に,SS(K)ΛχならばSS(ΦK(F))χ(SS(F))となることがチェックできます.したがって,あとは接触変換に対して良い核の層Kが存在するかという問題になるのですが,一般には大域的に良いKは作れません.しかし,各点の近傍で開集合を縮めるとそれが可能になるというのが次の定理です.

量子化接触変換の存在

χ:ΩXΩYを接触変換とする.このとき,任意のpΩXに対して,あるpの近傍UXKDb(kY×X)が存在して,UY:=χ(UX)とおくと次を満たす:
(1) SS(K)(pY1(UY)pX1(UX))Λχである.特にFDb(kX;UX)に対してSS(ΦK(F))UYχ(SS(F)UX)である.
(2) ΦKは圏同値ΦK:Db(kX;UX)Db(kY;UY)を引き起こす.

さらに,ΦKμhomに関してχによる作用と両立する.すなわち,F,FDb(kX;UX)に対して,同形
χμhom(F,F)|UXμhom(ΦK(F),ΦK(F))|UY
が成り立つ.

上の定理の条件を満たすKまたはそれに付随する変換ΦK量子化接触変換 (quantized contact transform) と呼びます.定理は超局所的に見ると接触変換を持ち上げる良い変換が存在するということを述べていて,超局所圏が有効に活用されていることが分かります.上でごまかしたKに関する「良い条件」は,マイクロ台の条件(1)の他に局所的に次元1の定数層のゼロ拡張kSになっていることです.量子化接触変換を使うと,層に関する主張を証明したい場合も接触変換を使ってマイクロ台が簡単な状況に帰着して調べることができます.例えばΛTXのラグランジュ部分多様体としてpΛ0Xとすると,pの近傍で定義された接触変換χXの部分多様体Mが存在してχ(p)の近傍でχ(Λ)TMXに一致します.こうしてこれまで見てきた超局所層理論の手法が使える状況に持っていけるわけです.

「量子化」接触変換の名称について

量子化接触変換はもともとはマイクロ微分作用素 (microdifferential operator) に対する変換として導入された.この場合は接触変換を(広い意味の)微分作用素環に持ち上げる変換を意味していたので「量子化」と名づけられたと思われる.上で見た量子化接触変換は層に対する対応物であり,これも量子化接触変換と呼ばれるようになった.

大域的な核の層の存在

上の定理では各点の近傍を小さくとれば良い層Kが存在することを述べているが,大域的にそのような層が存在する条件もしられている.例えば,R>0の作用と可換なハミルトニアン微分同相写像に対しては大域的に量子化接触変換Kが構成できることがGuillermou-Kashiwara-Schapiraによって示されている.論文では,より強く時間成分を含んだハミルトニアンアイソトピーに対して対応する層が構成されており,これはハミルトニアンアイソトピーの層量子化 (sheaf quantization) と呼ばれ,2021年現在ではシンプレクティック幾何への応用における主要な研究対象となっている.

純層・単純層

ここでは,マイクロ台の定義にも 第7回 第8回 にも頻繁に現れた超局所的な障害RΓ{φφ(x0)}(F)x0がどこかの次数に集中している場合を考えます.このとき,次数と函数φの関係は何でしょうか?もし部分多様体MVMod(k)に対してDb(kX;p)において同形FVMが成り立つならば,dφ(x0)=pかつMx0の近傍でモース的な函数に対しては
RΓ{φφ(x0)}(VM)x0V[ind(x0;φ|M)]
となっていました( 第3回 の定義4の直後).一般の場合にはシフト部分のモース指数がどうなるかを調べてみたいと思います.

まず,モース的であるという条件を超局所的に書き直して一般化することを考えましょう.φ:MRC級函数,MXの閉部分多様体としたとき,φ|Mがモース函数であるとはdφのグラフΓdφ:={(x;dφ(x))xX}TMXが横断的に交わることと同値です.これをもとにTXの錐状ラグランジュ部分多様体に対しても横断的な条件を考えます.用語を準備した方が便利なので,ここで用意します.

ラグランジュ部分多様体と横断的に交わる函数

ΛTXの錐状ラグランジュ部分多様体,pΛとする.C級函数φ:XRpにおいてΛ横断的であるとは次の2条件を満たすことをいう:
(1) φ(π(p))=0,
(2) ΛΓdφpにおいて横断的に交わる.

(1)の条件は本質的ではなくて,{φφ(x0)}を単に{φ0}と書きたいためだけのものです.上でも言ったようにX閉部分多様体MについてΛ=TMXのときは,(2)の条件はπ(p)φ|Mの非退化な臨界点であることと同値です.

さて,ΛTXの錐状ラグランジュ部分多様体,pΛFDb(kX)として,pの近傍でSS(F)Λであると仮定します.φ:XRpにおいてΛに横断的な場合にRΓ{φ0}(F)π(p)に我々は興味があります.この超局所的な障害のφの依存性について述べるためにシンプレクティックベクトル空間の三つのラグランジュ部分空間に関する慣性指数というものを導入します.(E,σ)を(有限次元)シンプレクティックベクトル空間としてλ1,λ2,λ3を三つのラグランジュ線形部分空間とします.このとき,線形空間の抽象的な直和λ1λ2λ3上の二次形式q
q(x1,x2,x3):=σ(x1,x2)+σ(x2,x3)+σ(x3,x1)
と定めて,その正の固有値の個数から負の固有値の個数を引いた符号sgn(q)τE(λ1,λ2,λ3)と定義して慣性指数 (inertia index) と呼びます.これはシンプレクティック幾何におけるMaslov指数と関係があり,Hörmanderがフーリエ積分作用素を調べる際に導入した指数と本質的に同じであることが知られています.さて,φ:XRpにおいてΛに横断的なC級函数とするとき,シンプレクティックベクトル空間Tp(TX)の三つのラグランジュ線形部分空間が次のように得られます:
λ0(p):=Tp(Tπ(p)X),λΛ:=TpΛ,λφ:=TpΓdφ.
これらを使って
τφ(p):=τTp(TX)(λ0(p),λΛ,λφ)
と定めます.この慣性指数はモース指数と次のように関係しています.Xの閉部分多様体Mに対してΛ=TMXのとき,モースの補題によりM上の局所座標(x1,,xl)を取ってφ|M=j=1lajxj2 (ajR{0})と書くと
τφ(p)=#{jaj<0}#{jaj>0}
となることがチェックできます.すなわち,
τφ(p)=ind(π(p);φ|M)(dimMind(π(p);φ|M))=2ind(π(p);φ|M)dimM
となります.この慣性指数の分だけ超局所的な障害をシフトしておくとφの取り方によらないというのが次の命題です.

超局所的な障害の函数依存性

ΛTXの錐状ラグランジュ部分多様体,pΛとする.FDb(kX)としてpの近傍でSS(F)Λと仮定する.さらにφ:XRpにおいてΛに横断的なC級函数とする.このとき,k12(dimX+dim(λ0(p)λΛ(p))) mod Zを満たすk12Zに対して,
RΓ{φ0}(F)π(p)[k+12τφ(p)]
φの取り方によらない.

概略

まずXの閉部分多様体Mに対してΛ=TMXである場合に示す.このときは, 第3回 の命題3よりVDb(k)が存在して,Db(kX;p)においてFVMが成り立つ.さらに,上で述べた注意によりφ|Mπ(p)は非退化臨界点であり,同形
RΓ{φ0}(F)π(p)V[ind(π(p);φ|M)]
が成り立つ.ここで,τφ(p)=2ind(π(p);φ|M)dimMであるから,結局
RΓ{φ0}(F)π(p)V[12dimM12τφ(p)]
が得られる.よって,この場合に定理は正しい.

Λが一般でp0Xの場合は量子化接触変換で上の場合に帰着する(p0Xのときは別にやる).pの近傍で定義された接触変換χ:TXTXXの閉部分多様体MC級函数ψ:XRであって,χ(p)の近傍でχ(Λ)=TMXかつχ(T{φ=0}X0X)=T{ψ=0}X0Xなるものが存在する.このχの量子化接触変換ΦKを考える.超局所化の性質( 第4回 の定理5)とμhomが超局所化を回復すること( 第5回 の命題2)から,
RΓ{φ}(F)π(p)μhom(k{φ=0},F)p
である.したがって,量子化接触変換がμhomと両立することを用いてシフトの計算を頑張ると,φψに依存しないδ12Zが存在して
RΓ{φ0}(F)π(p)[k+12τφ(p)]RΓ{ψ0}(ΨK(F))π(χ(p))[k+12τψ(p)+δ]
となることがチェックできる.これで証明が完了する.

純層・単純層

ΛTXの錐状ラグランジュ部分多様体,pΛとする.FDb(kX)としてpの近傍でSS(F)Λと仮定する.さらにφ:XRpにおいてΛに横断的なC級函数,d12Zd12(dimX+dim(λ0(p)λΛ(p))) mod Zを満たす数とする.このとき,
RΓ{φ0}(F)π(p)[d+12dimX+12τφ(p)]V
であるならば,Fpにおいてシフトd超局所的タイプVを持つという.さらに,LMod(k)(複体として0次に集中しているとみる)が存在してVLのとき,Fpにおいてシフトd (pure) であるという.Vkであるとき,Fpにおいてシフトd単純 (simple) であるという.FΛに沿って純(単純)であるとは全てのpΛに対して,pにおいて純(単純)であることをいう.

単純層の例

(i) MXの閉部分多様体とするとき,上の命題2の証明概略中の計算からkMTMXに沿ってシフト12codimMの単純層である.
(ii) ψ:XRC級函数として,Z:={ψ0},U:={ψ<0}とおく.dψ(x0)0なるx0ψ1(0)を取り,p=(x0;dψ(x0))とする.すると,pにおいてkZはシフト12の単純層であることが次数を真面目に調べることでチェックできる.Db(kX;p)においてkZkU[1]であるから,kUはシフト12の単純層である.
(iii) Z:={(x1,x2)R2x1>0,x13/2x2<x13/2}として,kZを考える.このとき,
SS(F)0R2={(x1,x2;ξ1,ξ2)ξ2>0,x1=(2ξ1/3ξ2)2,x2=(2ξ1/3ξ2)3}=:Λ
となる(以下の図1を参照).(ii)よりkZΛ{x2<0}でシフト12の単純層,Λ{x2>0}でシフト12の単純層である.さらに(0,0;0,1)におけるシフトは0であることもチェックできる.このように,その近傍で余接束の形になっていない点を越える際にシフトは1だけジャンプする.

!FORMULA[311][1265760346][0]のマイクロ台とシフト kZのマイクロ台とシフト

Λが連結な場合はp0Λにおける超局所的タイプがVならば,任意のpΛにおける超局所的タイプはVであることがチェックできます.これが 第8回 で重複度を計算する際にpの取り方によらないことを保証します.kは体なので,FΛに沿って単純であることと,同形
kΛμhom(F,F)|Λ
が成り立つことは同値であることもチェックできます.様々な層の演算で純層のシフトがどのように変化するかも調べることができますが,大変なのでここでは述べません.実際,既に上の命題2の証明の概略中では量子化接触変換に関するシフト変化の結果が使われていました.

偏屈層

最後に複素多様体上の偏屈層の超局所的取り扱いについて少しだけ述べます.偏屈層に関してはリーマン・ヒルベルト対応とのつながり,交叉コホモロジー,特異点論への応用など様々なことが説明できますが,ここでは超局所的な側面だけに着目してそれ以外は注意で少し触れるだけにします.

以降はXは複素多様体とします.またdimCで複素次元をあらわすことにします.

偏屈層の定義と使われ方

まずは天下り的に偏屈層の定義を与えます.DX=RHom(,ωX):DC-cb(kX)DC-cb(kX)でVerdier双対函手をあらわしたことを思い出しましょう.

偏屈層

DC-cb(kX)の二つの充満部分圏pDC-c0(kX),pDC-c0(kX)を以下のように定める:
pDC-c0(kX):={FDC-cb(kX)dimCSuppHn(F)n (nZ)},pDC-c0(kX):={FDC-cb(kX)dimCSuppHn(DXF)n (nZ)}.
Perv(kX):=pDC-c0(kX)pDC-c0(kX)と定めて,Perv(kX)の対象を偏屈層 (perverse sheaf) と呼ぶ.

DC-cb(kX)においてDXDXidであることと定義から,DXpDC-c0(kX)pDC-c0(kX)を入れ替えていることが分かります.特にPerv(kX)は変換DXで閉じています.Perv(kX)の対象は層の複体であって普通の意味の層ではないですが,UPerv(kU)の対応が貼り合わせ条件を満たす(スタックになる)ので「層」と呼ばれています.

局所系のシフトは偏屈層

LMod(kX)X上の局所系とすると,L[dimCX]Perv(kX)である.実際,L=Hom(L,kX)を双対局所系とするとωXkX[2dimCX]よりDX(L[dimCX])L[dimCX]となるからである.

上の議論をさらに精密に見ることによってstratificationを取ったときにFDC-cb(kX)pDC-c0(kX)またはpDC-c0(kX)に入ることを次のように言うこともできます.X=αAXαを複素μ-stratificationであって各αに対してF|Xαのコホモロジー層が全て局所定数層になるものを取ります.iXα:XαXで埋め込みをあらわすと,
FpDC-c0(kX)Hn(iXα1F)0 (n>dimCXα)FpDC-c0(kX)Hn(iXα!F)0 (n<dimCXα)
となります.

実は充満部分圏の組(pDC-c0(kX),pDC-c0(kX))t-構造 (t-structure) というものをなして,Perv(kX)はその心臓 (heart) としてアーベル圏になることが一般論から従います.このModC-c(kX)DC-cb(kX)とは異なる部分アーベル圏を使うことによって色々なことができるというのが偏屈層の理論です.

リーマン・ヒルベルト対応との関係

偏屈層はD加群の理論と深く関係している.リーマン・ヒルベルト対応は確定特異点型のホロノミックDX-加群の解を与える函手がC-構成可能層に値を取り,それが圏同値を引き起こすことを主張する.詳しくは説明しないが,より正確には圏同値
DRX:Drhb(DX)DC-cb(CX)
が存在する.左側の解析的な対象と右側の位相的な対象をつないでいるのである.この対応で左側のDrhb(DX)0次に集中している対象からなる標準的な部分アーベル圏Modrh(DX)の像がPerv(CX)である.

交叉コホモロジー

偏屈層は特異空間,特に複素代数多様体のPoincaré双対性を考える際にも役立つ. 層理論第7回 でPoincaré双対性は層理論でどのように解釈されるかを見たが,そこでは上付きびっくり・Verdier双対がキーであった.そこでVerdier双対DXに関して自己双対になる偏屈層が作れればPoincaré双対性が得られそうに思える.これが交叉コホモロジー複体 (intersection cohomology complex) というものである.

Xを複素次元dXの既約な複素代数多様体とする.上では偏屈層を複素多様体上でしか考えていなかったが,実は代数多様体上でも偏屈層の圏Perv(kX)が同様に定義できる.このとき,Xの正則部分U:=Xregの埋め込みj:UXによってU上の偏屈層kU[dX]Xに拡張することを考えよう.実は,偏屈層の意味で順像・固有順像を取ることができて,自然な射
pj!kU[dX]pjkU[dX]
が存在する.Perv(kX)はアーベル圏なので像Im(pj!kU[dX]pjkU[dX])を取ることができ,これを交叉コホモロジー複体ICXPerv(kX)とする.すると,双対性を真面目に調べることで自己双対性DXICXICXとなることが分かる.これにより,代数多様体のPoincaré双対性
Hn(X;ICX[dV])Hc2dXn(X;ICX[dX])
が得られるのである(偏屈層にするのにdXシフトしたので,コホモロジーを取る際にもどした).さらに余談だが「偏屈」という言葉は交叉(コ)ホモロジーの理論から来ている.Goresky-MacPhersonがはじめに交叉ホモロジーを考える際に,次数のずれをあらわす概念としてperversityというものを導入し,それが引き継がれてBeilinson-Bernstein-Deligneで偏屈層が定義された.

偏屈層の超局所的特徴づけ

ここでは上で定義した偏屈層の超局所的特徴づけについて説明します.そのために上で導入した超局所的タイプを用いてDC-cb(kX)の二つの充満部分圏二つの充満部分圏μDC-c0(kX),μDC-c0(kX)を次のように定めます:FDC-cb(kX)FμDC-c0(kX)であるとは,SS(F)の非特異点pにおけるシフトdimCXの超局所的タイプVHn(V)0 (n>0)を満たすことをいう.同様にFμDC-c0(kX)であるとはHn(V)0 (n<0)であることをいう.特に,μDC-c0(kX)μDC-c0(kX)の対象はマイクロ台の非特異点でシフトdimCXの純層のことです.この準備の下で偏屈層の超局所的特徴づけは次のように述べられます.

偏屈層の超局所的特徴づけ

pDC-c0(kX)=μDC-c0(kX),pDC-c0(kX)=μDC-c0(kX)が成り立つ.特に,C-構成可能層が偏屈層であることとマイクロ台の非特異点でシフトdimCXの純層であることは同値である.

この証明は大変なので全部は述べませんが,少しだけ説明を加えておきます.pDC-c0(kX)μDC-c0(kX)の方が十分層の形が分かっている場合に超局所的な条件を導くという方向で比較的簡単です.逆に超局所的な条件から大域的な条件を得るμDC-c0(kX)pDC-c0(kX)の方が面白いパートです.そこでは局所的な消滅条件から大域的な消滅を導く必要があり,キーとなるのは次のStein多様体上の消滅定理です.証明は正に層のモース理論という感じなので概略も述べます.Stein多様体はあるNに関してCNの閉部分多様体となることを思い出しておきましょう.

XをStein多様体とする.
(i) FμDC-c0(kX)ならばHn(X;F)0 (n>0)が成り立つ.
(ii) FμDC-c0(kX)ならばHn(X;F)0 (n<0)が成り立つ.

概略

(i)だけを説明する.XCNに閉部分多様体として埋め込む.Λ=SS(F)とする.すると,あるz0CNが存在してφ(x)=|xz0|2としたとき,ΛΓdφΛが局所的に余接束になっている点のみで横断的に交わる.pΓdφΛをとり,x0:=π(p)とおく.すると,上の条件からある複素部分多様体Yが存在して,pの近傍でΛ=TYXが成り立つ.したがって, 第3回 の命題3より,あるVDb(k)が存在してDb(kX;p)において同形FVM[dimCY]が成り立つ.次数を真面目に調べることでFμDC-c0(kX)より,Hn(V)0 (n>0)がチェックできる.

さて,φ|Yx0におけるモース指数を考える.複素の状況ではMilnorの「複素超曲面の特異点」で使われているのと同等のテクニックを使うことができる.すなわち,¯φTx0Y上正定値なので,Hess(φ|Y)の正の固有値の個数はdimCY以上であることが分かる.したがって,モース指数ind(x0;φ|Y)dimCY以下である.φに関するpにおける超局所的な障害を計算すると,
RΓ{φφ(x0)}(F)x0V[dimCYind(x0;φ|Y)]
であるから,Vとモース指数の条件から0次より大きいコホモロジーは消滅している.

最後に,RΓ(X;F)RΓ(R;RφF)を計算するために層のモース理論を適用する.実はφ(π(ΓdφΛ))は離散集合{t1,t2,}となることがチェックできる.tiにおける完全三角を考えることによって,RΓ(X;F)0からスタートしてtiで最大
RΓ[ti,)(RφF)tixφ1(ti)π(ΓdφΛ)RΓ{φti}(F)x
の変化を起こして得られる複体であることが分かる.最後の複体の0次より大きいコホモロジーは全て消滅しているので,結局n>0に対してHn(X;F)=Hn(RΓ(X;F))0であることが示された.

まとめ

今回は

  • 量子化接触変換
  • 純層・単純層と慣性指数に付随するシフト
  • 偏屈層の定義と超局所的特徴づけ

について説明しました.これでSheaves on Manifoldsに従って超局所層理論の外観を説明するのは終わりです!ここまで見てみると超局所層理論はモース理論を非常に精密に層係数に一般化していることが少しは分かったのではないでしょうか?この記事が少しでも超局所層理論の理解の助けになることを願ってやみません.それではまたの機会に!

参考文献

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Masaki Kashiwara and Pierre Schapira, Sheaves on Manifolds, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften, Springer, 1990
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竹内潔, D加群, 共立講座数学の輝き, 共立出版, 2017
[13]
John Willard Milnor(著),佐伯修(翻訳),佐久間一浩(翻訳), 複素超曲面の特異点, シュプリンガー数学クラシックス, 丸善出版, 2012
[16]
Mark Goresky and Robert MacPherson, Intersection homology theory, Topology, 1980, 135-162
[17]
Mark Goresky and Robert MacPherson, Intersection homology II, Inventiones Mathematicae, 1983, 77-129
[18]
Alexander A. Beilinson, Joseph Bernstein, and Pierre Deligne, Faisceaux pervers, Astérisque, 1982
投稿日:2021630
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  1. はじめに
  2. 前回までの高速おさらい
  3. 量子化接触変換と純層・単純層
  4. 量子化接触変換
  5. 純層・単純層
  6. 偏屈層
  7. 偏屈層の定義と使われ方
  8. 偏屈層の超局所的特徴づけ
  9. まとめ
  10. 参考文献