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大学数学基礎解説
文献あり

Mathieu群 - S(2,3,9)の性質

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1

  1. Fisher不等式

  2. 自己同型群

  3. アフィン平面

  4. Steinerトリプルシステム

    1. STSの直積


  5. Mathieu群 M11M12

    1. S(2,3,9)の性質

    2. S(3,4,10)の構成


構成したSteinerシステム

(2,3,7) , (2,3,9) , (2,3,13) , (2,3,117)
(3,4,8)

Mathieu群

 以下のように定義されるSteinerシステムの自己同型群をMathieu群と呼ぶ.
M11=AutS(4,5,11)M12=AutS(5,6,12)M22=AutS(3,6,22)M23=AutS(4,7,23)M24=AutS(5,8,24)

余談


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Mathieu群は複雑さや応用上の理由から群論の入門書で本格的に扱われている姿を見れず, 発展的な立ち位置にあるという印象だが, 歴史的に見れば基礎的なSylowの定理よりも早い段階で発見されている. 大まかな年表は以下の通り.

1845年 Cauchyの定理[8]
46年 LiouvilleによりGalois理論の原稿[10]が公開される
61年 Mathieu群M11,M12[6]
72年 Sylowの定理[9]
73年 Mathieu群M22,M23,M24[7]

Sylowの定理は数十年の蓄積の結果であり, 年代の指標とするのはナンセンスかもしれないが, いずれにせよMathieu群が群論の黎明期に発見されたことは間違いない. 19世紀中頃の多重推移群としては, Kroneckerにより二重推移群が, Hermiteにより三重推移群が研究されており, 四重・五重推移の群は未踏の領域であった. そのような中で, MathieuはCauchyの回想録からヒントを得[6], 鋭五重推移のM12を構成することで有限群論を前進させた. さらに, [6]の274ページにはM24への示唆が確認でき, 1860年頃には既に5つのMathieu群の構想があったものと思われる. このことからもMathieu群は数年, 数十年を先取りしているような代物であることが窺えるが, 散在型有限単純群という視点からはその先駆性がより際立つ.

1861年 Mathieu群M11,M12
73年 Mathieu群M22,M23,M24
1938年 S(5,8,24)の構成(Witt)[1]
65年 散在型のJanko群J1
66年 M24の指標表とS(5,8,24)の全ブロック列挙(Todd)
76年 Miracle Octad Generatorを用いたS(5,8,24)の構成(Curtis)[12]

 Curtisが構築したS(5,8,24)の構成法Miracle Octad Generator(MOG)はJanko群J4やモンスターMの構成に必要不可欠であり[14], Mathieu群は有限群論の中心的な要素であり続けている.

M11M12に関しては, S(5,6,12)=S(4+1,5+1,11+1)=S(2+3,3+3,9+3)
と, S(2,3,9)からの拡大で得られ, Ernst Witt[1]に因んでS(4,5,11),S(5,6,12)をそれぞれW11,W12と略記する.
W11,W12を構成するためにはS(3,4,10)=:W10を通らなければならないが, W10はブロックとしてS(2,3,9)の直線と四角形を持っており, 任意の三角形が必ずどこかの四角形に一度だけ含まれているという条件を満足している. そこで, S(2,3,9)の四角形や自己同型群など基本的な性質について調べることから始める.
以下, S:=S(2,3,9)とする.

Sの四角形

証明(修正前)

同一直線上にない5点集合Fを選べたと仮定すると, Fの中の点を通る2直線の位置関係は, Fの外で交差するか, Fの中で交差するか, そうでなければ平行であるかの3通りであり, どの場合でもFの外に1つ以上の点がなければならない.
即ち, Fの中の点を通る2直線を決めれば, Fの外にある点が1つ以上定まり, Fの中から2直線を選ぶ方法は少なくとも(54)=5通りあるため, Fの外には5つ以上の点が存在することになるが, Sは9点集合であるため矛盾.
したがって, Sの任意の5点は少なくとも1本の直線に含まれる.

証明(修正後)

5点集合をF={α1,α2,α3,α4,α5}とする.
Sの2点を選べば一意にそれらを含む直線が決まることから, (αi,αj)が含まれる直線を(αi,αj,αij)と表記する. ここで, i,j,kがすべて異なれば, 同じ2点が複数の直線に含まれることはあり得ないため, αij,αjk,αkiはすべて異なる. このことをFに適用することで矛盾を導く.
α1i(i=2,3,4,5)はすべて異なり, 仮定からすべてFの外にある. Sは9点集合であったから, α1,αi,α1iSの点は言い尽くされている.
α2j(j=3,4,5)についてもすべて異なり, jに対してα2j=α1k(k=3,4,5,jk)なるkを取ることができる.
このとき, α34=α12が決まる.
なぜなら, α34α13,α14と異なり, α15=α23またはα15=α24であるから, いずれにせよα34α15.
同様にα35=α12が成り立つが, これはα34α35に矛盾.
したがって, α1iのいずれかはFの中にいなければいけない.
添数は任意だったため, Sのすべての5点集合について同様のことが示せる.

定理2
Sの任意の5点は少なくも1つの四角形を含む.
証明
αl
αl

Sの5点集合をF={α1,α2,α3,α4,α5}とする.
補題1から同一直線上にある点が存在して, それをl={α3,α4,α5}としても一般性を失わない.
アフィン平面の同値な条件 からlに対してα2を選ぶとlと共通部分を持たず, α2を通る直線が一意に定まり, これをlとする.
残りのα1がどこに位置していたとしても四角形が存在することを示す.
まずα1l上にはない.
l上にあったとすると, l上の任意の2点とα1,α2で四角形が作れる.
直線(α1,α2,α3)が存在していたとすると, (α1,α2,α4,α5)で四角形が作れる.
これは(α1,α2,α4)(α1,α2,α5)のときも同様である.
α1が上のどの場合にも当てはまらないとき, Fの点で同一直線上にあるのは(α3,α4,α5)のみであるから, lの任意の2点とα1,α2で四角形が作れる.

平行類への作用

定理3
AutSSの平行類にS4として作用する.
証明

(AutSが平行類に作用すること)
σAutS,l1,l2Sとすると
σ(l1l2)=σl1σl2
であるから, l1,l2が平行であることとσl1,σl2が平行であることが同値である.
よって, σは平行類の置換を引き起こす.
(作用がS4であること)
S={(1,2,9),(3,4,5),(6,7,8),(1,3,8),(2,4,6),(5,7,9),(1,4,7),(2,5,8),(3,6,9),(1,5,6),(2,3,7),(4,8,9)}
として,平行類を
A={(1,2,9),(3,4,5),(6,7,8)}B={(1,3,8),(2,4,6),(5,7,9)}C={(1,4,7),(2,5,8),(3,6,9)}D={(1,5,6),(2,3,7),(4,8,9)}
とおく. 対称群は隣接互換から生成されるのだから(AB),(BC),(CD)という置換を見つければ十分である.
実際,(15)(27)(48)AutS(AB)を,
(29)(34)(78)(BC)を,
(13)(24)(59)(CD)を引き起こすため, AutSSの平行類にS4として作用する.

 証明中に登場した3つの置換はすべてアフィン平面を反転させる操作を表している.

Fig1. (13)(24)(59)の作用

Sの一意性

 これまでSの構成法として, K9の辺彩色 , STSの直積 , ラテン方格を用いた方法 の3種類を扱ってきたが, 実のところ生成されたシステムはすべて同じ構造を持っている. このようなことから, Steinerシステムも群などと同様, ある構造に従う無限系列であることが見え隠れしていて, 実際「システム」よりも「族」という語が適切との指摘もある[3].

証明

Steinerシステムの同型とは, 点集合から点集合への全単射であって, ブロックをブロックに移すような写像である. 厳密には,

定義1
2つのSteinerシステムT=S(Ω,B)T=S(Ω,B)が同型であるとは,
(α1,α2,,αb)B(f(α1),f(α2),,f(αb))B
を満たす全単射f:ΩΩが存在することである.

と定義される.
任意のSに対して, 以下に示すような操作が可能である.
アフィン平面-定理2 より, Sについて, 3つの直線を含んだ4つの平行類が得られ, その中の2つをR,Cとする.
R,Cから直線BR,BCをそれぞれ取る.
|BRBC|2としてしまうと, 2点がBR,BCの両方に含まれることになるが, これはSteinerシステムの定義に反するため, |BRBC|=1.
R={BR1,BR2,BR3},C={BC1,BC2,BC3}とおき, その交点を|BR1BC1|=α1,|BR2BC2|=α2とすると, この2点を含む直線B={α1,α2,α3}と点α3が存在する.
このとき, α3BR1とすると, α1,α3BR1であるから, B=BR1となるが, α2BR1より矛盾.
同様にα3BR2,BC1,BC2とすると矛盾するため, α3BR1,BR2,BC1,BC2.
アフィン平面の同値な条件 から, α3BR1,BR2,BR3のいずれかに含まれていなければならない.
したがって, α3BR3.
同様にして, α3BC3.
BR1BC1,BR2BC3, BR1BC2,BR2BC1, BR1BC2,BR2BC3, BR1BC3,BR2BC1, BR1BC3,BR2BC2の5つについても上記の操作を行えば, すべて合わせて12本の直線が得られ, Sのブロックを網羅できる.
与えられた2つの異なるSに対して, この操作を行い, 点と点, ブロックとブロックを対応させれば同型が得られる.

SF32

  SはSTSの直積を用いて
S=STS(9)=STS(3)×STS(3)
と表せ, ブロックを下図のように直線として表現できるのだった.

Fig2. STS(3)×STS(3)

これは次のように上下左右に循環したトーラスとしても描ける.

Fig3. SF32

Fig3. をF3上の線型空間と見做す. 原点を1とすると, 任意のベクトルvF32Sの直線と対応付けができる. F32のベクトルは8つしかないので列挙してみると
[13](1,3,8)[15](1,5,6)[19](1,2,9)[17](1,4,7)[18](1,3,8)[16](1,5,6)[12](1,2,9)[14](1,4,7)
が得られる. Sの自己同型群は, Sの直線を直線に移すような写像全体であり, これはF32のベクトルをベクトルに移す一般線型群GL2(F3)と同じ構造を持つことが分かる. さらに, 原点を1に固定する必要はないため, そこへ平行移動を加えたアフィン群
AGL2(F3)={ta,v|ta,v(u)=au+v,aGL2(F3),u,vF32}
Sの対称性を表している.

証明(概略)

F3={0,1,2}, Ω1,Ω2F3によって添え字付けられた集合とし, それぞれの元をΩ1={α0,α1,α2},Ω2={β0,β1,β2}とする.
定理4からSはすべてSTS(3)×STS(3)と同型であり, STS(Ω1)×STS(Ω2)
{((α0,βr),(α1,βr),(α2,βr))βrΩ2((αi,β0),(αi,β1),(αi,β2))αiΩ1((α0,βr),(α1,βs),(α2,βt))βr,βs,βtΩ2
Sを代表させても一般性を失わない.
F32の基底[10],[01]F32をそれぞれ(α1,β0),(α0,β1)Ω1×Ω2へ送れば, F32のベクトルとΩ1×Ω2の元が一対一に対応する. よって, tAGL2(F3)α,βの添え字を動かすが, STS(Ω1)×STS(Ω2)の構成ではαβの添え字が固定されているため, tSTS(Ω1)×STS(Ω2)のブロックをブロックへ移す.
基底が対応しているため, AGL2(F3)AutSは全単射であり, AGL2(F3)AutS

 要するに, F32STS(3)×STS(3)が等価であるため, その写像も等価ということである.

証明(概略)

正則であることと行列式が0でないことは同値である.
ある列の成分がすべて0である行列の行列式は0であるから, 1列目の選び方はpn1通り.
2列目が1列目の定数倍であれば, 列基本変形で2列目の成分をすべて0にできてしまうため, 2列目には, 1列目の線型結合ではない, という制約が加わる. よって2列目の選び方はpnp通り.
以下同様に列を選んでいくと, 正則な行列の個数はi=0n1(pnpi)となる.

詳細については, [4]青雪江p. 130-131, [5]鈴木p. 77-78などを参照されたい.

補題6から#GL2(F3)=(91)(93)=48.
原点を含め9つの平行移動があるため, #AutS=948=432

参考文献

[4]
雪江 明彦, 代数学2 環と体とガロア理論
[5]
鈴木 道夫, 群論 上
[6]
Mathieu, Émile, Mémoire sur l'étude des fonctions de plusieurs quantités, sur la manière de les former et sur les substitutions qui les laissent invariables, Journal de Mathématiques Pures et Appliquées, 1861, 241-323
[7]
Mathieu, Émile, Sur la fonction cinq fois transitive de 24 quantités, Journal de Mathématiques Pures et Appliquées, 1873, 25-46
[8]
Cauchy, A.-L., Mémoire sur les arrangements que l'on peut former avec des lettres données, et sur les permutations ou substitutions à l'aide desquelles on passe d'un arrangement à un autre, Exercises d'analyse et de physique mathématique, 1845, 151-252
[10]
Galois, Évariste, OEuvres mathématiques d'Évariste Galois, Journal de Mathématiques Pures et Appliquées, 1847
投稿日:19日前
更新日:5日前
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  2. 余談
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  4. 平行類への作用
  5. Sの一意性
  6. SF32
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