-
Fisher不等式
-
自己同型群
-
アフィン平面
-
Steinerトリプルシステム
-
STSの直積
- Mathieu群 と
- S(2,3,9)の性質
-
S(3,4,10)の構成
構成したSteinerシステム
(2,3,7)
,
(2,3,9)
,
(2,3,13)
,
(2,3,117)
(3,4,8)
Mathieu群
以下のように定義されるSteinerシステムの自己同型群をMathieu群と呼ぶ.
余談
クリックして開く
Mathieu群は複雑さや応用上の理由から群論の入門書で本格的に扱われている姿を見れず, 発展的な立ち位置にあるという印象だが, 歴史的に見れば基礎的なSylowの定理よりも早い段階で発見されている. 大まかな年表は以下の通り.
1845年 Cauchyの定理[8]
46年 LiouvilleによりGalois理論の原稿[10]が公開される
61年 Mathieu群[6]
72年 Sylowの定理[9]
73年 Mathieu群[7]
Sylowの定理は数十年の蓄積の結果であり, 年代の指標とするのはナンセンスかもしれないが, いずれにせよMathieu群が群論の黎明期に発見されたことは間違いない. 19世紀中頃の多重推移群としては, Kroneckerにより二重推移群が, Hermiteにより三重推移群が研究されており, 四重・五重推移の群は未踏の領域であった. そのような中で, MathieuはCauchyの回想録からヒントを得[6], 鋭五重推移のを構成することで有限群論を前進させた. さらに, [6]の274ページにはへの示唆が確認でき, 1860年頃には既に5つのMathieu群の構想があったものと思われる. このことからもMathieu群は数年, 数十年を先取りしているような代物であることが窺えるが, 散在型有限単純群という視点からはその先駆性がより際立つ.
1861年 Mathieu群
73年 Mathieu群
1938年 の構成(Witt)[1]
65年 散在型のJanko群
66年 の指標表との全ブロック列挙(Todd)
76年 Miracle Octad Generatorを用いたの構成(Curtis)[12]
Curtisが構築したの構成法Miracle Octad Generator(MOG)はJanko群やモンスターの構成に必要不可欠であり[14], Mathieu群は有限群論の中心的な要素であり続けている.
とに関しては,
と, からの拡大で得られ, Ernst Witt[1]に因んでをそれぞれと略記する.
を構成するためにはを通らなければならないが, はブロックとしての直線と四角形を持っており, 任意の三角形が必ずどこかの四角形に一度だけ含まれているという条件を満足している. そこで, の四角形や自己同型群など基本的な性質について調べることから始める.
以下, とする.
の四角形
証明(修正前)
同一直線上にない5点集合を選べたと仮定すると, の中の点を通る2直線の位置関係は, の外で交差するか, の中で交差するか, そうでなければ平行であるかの3通りであり, どの場合でもの外に1つ以上の点がなければならない.
即ち, の中の点を通る2直線を決めれば, の外にある点が1つ以上定まり, の中から2直線を選ぶ方法は少なくとも通りあるため, の外には5つ以上の点が存在することになるが, は9点集合であるため矛盾.
したがって, の任意の5点は少なくとも1本の直線に含まれる.
証明(修正後)
5点集合をとする.
の2点を選べば一意にそれらを含む直線が決まることから, が含まれる直線をと表記する. ここで, がすべて異なれば, 同じ2点が複数の直線に含まれることはあり得ないため, はすべて異なる. このことをに適用することで矛盾を導く.
はすべて異なり, 仮定からすべての外にある. は9点集合であったから, での点は言い尽くされている.
についてもすべて異なり, に対してなるを取ることができる.
このとき, が決まる.
なぜなら, はと異なり, またはであるから, いずれにせよ.
同様にが成り立つが, これはに矛盾.
したがって, のいずれかはの中にいなければいけない.
添数は任意だったため, のすべての5点集合について同様のことが示せる.
証明
の5点集合をとする.
補題1から同一直線上にある点が存在して, それをとしても一般性を失わない.
アフィン平面の同値な条件
からに対してを選ぶとと共通部分を持たず, を通る直線が一意に定まり, これをとする.
残りのがどこに位置していたとしても四角形が存在することを示す.
まずは上にはない.
上にあったとすると, 上の任意の2点とで四角形が作れる.
直線が存在していたとすると, で四角形が作れる.
これはものときも同様である.
が上のどの場合にも当てはまらないとき, の点で同一直線上にあるのはのみであるから, の任意の2点とで四角形が作れる.
平行類への作用
証明
(が平行類に作用すること)
とすると
であるから, が平行であることとが平行であることが同値である.
よって, は平行類の置換を引き起こす.
(作用がであること)
として,平行類を
とおく. 対称群は隣接互換から生成されるのだからという置換を見つければ十分である.
実際,はを,
はを,
はを引き起こすため, はの平行類にとして作用する.
証明中に登場した3つの置換はすべてアフィン平面を反転させる操作を表している.
Fig1. の作用の一意性
これまでの構成法として,
の辺彩色
,
STSの直積
,
ラテン方格を用いた方法
の3種類を扱ってきたが, 実のところ生成されたシステムはすべて同じ構造を持っている. このようなことから, Steinerシステムも群などと同様, ある構造に従う無限系列であることが見え隠れしていて, 実際「システム」よりも「族」という語が適切との指摘もある[3].
証明
Steinerシステムの同型とは, 点集合から点集合への全単射であって, ブロックをブロックに移すような写像である. 厳密には,
定義1
2つのSteinerシステムとが同型であるとは,
を満たす全単射が存在することである.
と定義される.
任意のに対して, 以下に示すような操作が可能である.
アフィン平面-定理2
より, について, 3つの直線を含んだ4つの平行類が得られ, その中の2つをとする.
から直線をそれぞれ取る.
としてしまうと, 2点がの両方に含まれることになるが, これはSteinerシステムの定義に反するため, .
とおき, その交点をとすると, この2点を含む直線と点が存在する.
このとき, とすると, であるから, となるが, より矛盾.
同様にとすると矛盾するため, .
アフィン平面の同値な条件
から, はのいずれかに含まれていなければならない.
したがって, .
同様にして, .
, , , , の5つについても上記の操作を行えば, すべて合わせて12本の直線が得られ, のブロックを網羅できる.
与えられた2つの異なるに対して, この操作を行い, 点と点, ブロックとブロックを対応させれば同型が得られる.
と
はSTSの直積を用いて
と表せ, ブロックを下図のように直線として表現できるのだった.
Fig2. これは次のように上下左右に循環したトーラスとしても描ける.
Fig3. とFig3. を上の線型空間と見做す. 原点を1とすると, 任意のベクトルはの直線と対応付けができる. のベクトルは8つしかないので列挙してみると
が得られる. の自己同型群は, の直線を直線に移すような写像全体であり, これはのベクトルをベクトルに移す一般線型群と同じ構造を持つことが分かる. さらに, 原点を1に固定する必要はないため, そこへ平行移動を加えたアフィン群
がの対称性を表している.
証明(概略)
, をによって添え字付けられた集合とし, それぞれの元をとする.
定理4からはすべてと同型であり,
にを代表させても一般性を失わない.
の基底をそれぞれへ送れば, のベクトルとの元が一対一に対応する. よって, はの添え字を動かすが, の構成ではかの添え字が固定されているため, はのブロックをブロックへ移す.
基底が対応しているため, は全単射であり,
要するに, とが等価であるため, その写像も等価ということである.
証明(概略)
正則であることと行列式が0でないことは同値である.
ある列の成分がすべて0である行列の行列式は0であるから, 1列目の選び方は通り.
2列目が1列目の定数倍であれば, 列基本変形で2列目の成分をすべて0にできてしまうため, 2列目には, 1列目の線型結合ではない, という制約が加わる. よって2列目の選び方は通り.
以下同様に列を選んでいくと, 正則な行列の個数はとなる.
詳細については, [4]青雪江p. 130-131, [5]鈴木p. 77-78などを参照されたい.