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大学数学基礎解説
文献あり

【ストリング図で学ぶ圏論 #12】米田の補題

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はじめに

米田の補題は,圏論における非常に重要な命題です。この命題は,次のように述べられます。

米田の補題1

任意の集合値関手X:CSetと任意の対象cCについて,SetC(c,X)Xcである。

ここで,cはホム関手C(c,)のことで,SetC(c,X)cからXへの自然変換をすべて集めた集合です(SetC 第3回の記事 で述べた関手圏です)。また,Xcも集合です。このため,この命題はcからXへの各自然変換を集合Xcの要素に写すような可逆写像(つまり全単射)があることを主張しています。

以降では, 第10回 第11回 の記事で紹介した「点線の枠による表記」を用いて,この補題を視覚的にわかりやすい形で証明します。

なお,同型SetC(c,X)XcXcについて自然でもあり,一般的に米田の補題とよんだ場合にはこの自然性も含まれます。この自然性については,あとで証明します。

補足:この記事では詳細は割愛しています。拙著Nak-2025では,よりていねいに説明しています。

本連載の目次

#1: 圏の定義と具体例
#2: 関手と自然変換
#3: 垂直合成と水平合成
#4: モノイダル圏
#5: モナドとは自己関手の圏におけるモノイド対象のこと
#6: モナドの例
#7: 随伴
#8: 関手を表す線の順序の交換
#9: 普遍射と随伴・極限・カン拡張
#10: ホム関手のストリング図(前編)
#11: ホム関手のストリング図(後編)
#12: 米田の補題(この記事)
番外編1: 視覚的に理解するクライスリトリプルとモナドの同値性
番外編2: 線形代数の圏論的な性質(?)を圏論なしで説明する

準備

第1回の記事 で述べたように,任意の集合Xについて,各xXと写像{}xX(ただし{}は1点集合)を同一視することにします。

ホム関手c=C(c,)Cの各恒等射1dを恒等写像1C(c,d)に写します。この恒等写像は次式のように表せます。

恒等写像!FORMULA[24][257973514][0] 恒等写像1C(c,d)
(1)

ただし,右辺の黒丸は写像{}1cC(c,c)を表しており,これは上で述べた同一視により恒等射1cのことです。実際に確認すると,左辺はc(1d),つまり恒等写像1C(c,d)を表しています。また,右辺は写像

C(c,d)fc(f)1cSet({},C(c,d))

を表しています。なぜならば,この右辺の点線の枠に各fC(c,d)を入力すると図式全体としてc(f)1cを表すためです。一方,c(f)1cは写像c(f)=f1cを代入したもの,つまりf1cに等しいため,fです。したがって,式(1)の右辺は写像ffを表しており,これは恒等写像1C(c,d)にほかなりません。

自然変換τ:cXを任意に選んだとき,式(1)を用いるとτの各成分τdは次のように表されます。

!FORMULA[43][1776765679][0] τd
(2)

このため,τは次のように表されます。

!FORMULA[46][1119166004][0] τ

実際,この右辺の線を各線dCに置き換えると式(2)τdに等しくなるため,右辺は自然変換τを表しています。

命題1の証明

では,米田の補題を証明します。

写像αX,cと写像βX,c

まず,写像αX,c:SetC(c,X)Xcを次のように定めます。

写像!FORMULA[54][630457012][0] 写像αX,c

この写像は,米田写像とよばれます。

補足:
念のため数式で表しておくと,米田写像αX,cは各τSetC(c,X)τc(1c)Xcに写すような写像です。

また,写像βX,c:XcSetC(c,X)を次のように定めます。

写像!FORMULA[59][-1302307470][0] 写像βX,c
(3)

補足:
βX,c(x)が自然変換であることは,この図式が「点線の枠による表記」の規則にしたがっていることから明らかです。念のため数式で表しておくと,自然変換βX,c(x)はその各成分βX,c(x)dが各fC(c,d)(Xf)(x)に写すような写像です。

このとき,SetC(c,X)Xcを示すためにはβX,cαX,cの逆写像であることを示せば十分です。以下,これを示します。

βX,c=αX,c1の証明

まず,βX,cαX,cが恒等写像であることを示します。このことは次式からわかります。

!FORMULA[71][-1083805459][0] βX,cαX,c

次に,αX,cβX,cが恒等写像であることを示します。このことは次式からわかります。

!FORMULA[73][1407431319][0] αX,cβX,c

したがって,βX,cαX,cの逆写像です。

応用例:行列の圏

第1回の記事 で述べた行列を射とする圏Matにおいて,米田の補題を考えます。Matの対象の集合をNとおきます。このとき,任意の集合値関手X:MatSetと任意の自然数nNについて,

SetMat(n,X)Xn

が成り立ちます。なお,関手nは次のような関手です。

  • kNを集合Mat(n,k)(つまりkn列の行列全体)に写す。
  • kk列の各行列ZMat(k,k)を写像Z:Mat(n,k)AZAMat(n,k)に写す。

とくにX=m(ただしmN)の場合には,

SetMat(n,m)m(n)=Mat(m,n)

が成り立ちます。このとき,可逆写像φm,n:=βm,nは写像

Mat(m,n)XXSetMat(n,m)
(4)

に等しいことを示せます。ただし,自然変換X 第10回の記事 で述べた自然変換pp=Xを代入したものです。これは,関手nから関手mへの自然変換とnm列の行列が一対一に対応することを主張しています。また,nからmへの自然変換はX (XMat(m,n))の形で表されるものに限られることも主張しています。

以降では,写像φm,nが式(4)の写像に等しいことを確認しておきます。nm列の各行列XMat(m,n)について,式(3)より

!FORMULA[112][-1069751337][0] φm,n(X)

が成り立ちます(なお,XMat(m,n)=Set({},Mat(m,n))=Set({},m(n))の要素です)。この右辺はXにほかなりません。Xの各成分Xk (kN)は写像

X:Mat(n,k)ZZXMat(m,k)

のことであり,次の図式で表されます。

写像 !FORMULA[120][1748735021][0] 写像 Xk=X

ここでは圏Matの例を述べましたが,より一般の圏に対しても同様の議論が行なえます。

米田写像の自然性

米田写像αX,cが同型射であることをすでに述べました。米田の補題では,さらにこの同型がXcについて自然であることを主張しています。この自然性について説明するとやや煩雑になりますので,ここではこの自然性を明示的に表した次の命題を証明します。

米田の補題2

米田写像αX,c:SetC(c,X)Xcは,任意のσ:SetC(X,Y)と任意のpC(c,d)X,Y,c,dも任意)について次式を満たす。
(σp)αX,c=αY,d(σp) (1)

(1)は次の図式で表されます。

式\eqref{eq:nat} (1) (2)

ただし,左辺および右辺の補助線で囲まれた箇所は,それぞれ写像σp:XcYdおよび写像σp:SetC(c,X)SetC(d,Y)です。

(命題2)

c(p)=pおよびpd=pより( 第10回の記事 を参照のこと),次式が成り立つ。

c(p)(1c)=p1c=p=1dp=pd(1d)

この最初と最後の式は次の図式で表される。

式!FORMULA[137][783411527][0] c(p)(1c)=pd(1d)

この式を用いると,次のようにして式(2)を導ける。

式\eqref{eq:nat_diagram}の証明 (2)の証明

まとめ

「点線の枠による表記」を用いることで,米田の補題を視覚的にわかりやすい形で証明できることを述べました。米田の補題に限らず,ホムセットが登場する話題では「点線の枠による表記」を用いるとしばしば便利です。

参考文献

[1]
中平健治, ストリング図で学ぶ圏論の基礎, 森北出版, 2025
投稿日:118
更新日:6日前
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投稿者

量子論 / 量子情報理論 / 量子測定 の研究者です。

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  1. はじめに
  2. 本連載の目次
  3. 準備
  4. 命題1の証明
  5. 写像$\alpha_{X,c}$と写像$\beta_{X,c}$
  6. $\beta_{X,c} = \alpha_{X,c}^{-1}$の証明
  7. 応用例:行列の圏
  8. 米田写像の自然性
  9. まとめ
  10. 参考文献