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大学数学基礎解説
文献あり

【ストリング図で学ぶ圏論 #7】随伴

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はじめに

随伴は,圏論における基礎的な概念の一つであり,数学のいたるところで現れます。また, 第5回 第6回 の記事で述べたモナドは,随伴と密接な関係にあります。この記事では,随伴の2通りの同値な定義を紹介し,またモナドと随伴の関係などについて述べます。

補足:
随伴の定義として普遍射を用いるものについてはこの記事では述べません。第9回の記事で触れることにします。

本連載の目次

#1: 圏の定義と具体例
#2: 関手と自然変換
#3: 垂直合成と水平合成
#4: モノイダル圏
#5: モナドとは自己関手の圏におけるモノイド対象のこと
#6: モナドの例
#7: 随伴(この記事)
#8: 関手を表す線の順序の交換
#9: 普遍射と随伴・極限・カン拡張
#10: ホム関手のストリング図(前編)
#11: ホム関手のストリング図(後編)
#12: 米田の補題
番外編1: 視覚的に理解するクライスリトリプルとモナドの同値性
番外編2: 線形代数の圏論的な性質(?)を圏論なしで説明する

随伴の定義

定義1:2個の自然変換を用いた定義

随伴は次のように定義されます。慣れないうちはこの定義のココロを理解することは難しいと思いますが,気にせずに読み進めてください。

随伴

関手F:CDと関手G:DCを考える。自然変換η:1CGFと自然変換ε:FG1Dが存在して
(1Gε)(η1G)=1G,(ε1F)(1Fη)=1F (1)
を満たすとき,組F,G,η,ε随伴とよぶ。また,η単位とよび,ε余単位とよぶ。

なお,恒等関手1C,1Dや恒等自然変換1F,1Gについては 第2回の記事 を,垂直合成と水平合成については 第3回の記事 をご参照ください。

単位η:1CGFと余単位ε:FG1Dを,それぞれ次の図式の右辺のように表すことにします。

単位!FORMULA[15][1118736778][0]と余単位!FORMULA[16][1891918441][0] 単位ηと余単位ε

ただし,図式では恒等関手1C1Dを表す線は省略しています(直観的には,恒等関手は「何もしない」関手であり,省略しても問題は生じません)。このとき,式(1)は次式のように表されます。

ジグザグ等式 ジグザグ等式 (2)

なお,この式の1番左の式は(1Gε)(η1G)を表していますが,このことは

!FORMULA[21][-503926258][0] (1Gε)(η1G)

のように補助線を引いて4個の領域に分割すればわかりやすいと思います。左上・右上・左下・右下の領域がそれぞれ1G, ε, η, 1Gを表しており,これらの合成(水平合成・垂直合成)として(1Gε)(η1G)を表しています。

(2)(と式(1))はジグザグ等式のようによばれます。この図式は,直観的には「ジグザグした(=くねくねと曲がった)線は真っ直ぐに伸びた線に等しい」と解釈できます。

定義2:自然な可逆写像を用いた定義

定義1と同値な定義を紹介します。

随伴

関手F:CDと関手G:DCを考える。各cCdDについて次の可逆写像
φc,d:D(Fc,d)C(c,Gd) (3)

が存在し,この写像の組φ:={φc,d}cC,dDが任意のfD(Fc,d), gC(c,c), hD(d,d)に対して
Ghφc,d(f)g=φc,d(hfFg) (4)
を満たすとき,組F,G,φ随伴とよぶ。

補足:
定義1では組F,G,η,εを随伴とよんでいるのに対し,定義2では組F,G,φを随伴とよんでいます。しかし,ηεが与えられればφが定まり,逆も成り立つことがわかっていますので,実質的に同じものを表しています。

高度な話題:
詳しい説明は割愛しますが,関手D(F,=)と関手C(,G=)というものを用いれば,上の定義は「自然同型φ:D(F,=)C(,G=)が存在するとき組F,G,φを随伴とよぶ」と言い換えられます。

(3)では,集合D(Fc,d)(つまりFcからdへの射の全体)と集合C(c,Gd)(つまりcからGdへの射の全体)の間には可逆写像があることを主張しています。また,式(4)をすぐに理解することは困難かもしれませんが,この式はこれらの可逆写像の間に「自然な性質」が成り立っていることを主張しています。

定義1定義2の導出

ここでは,定義1で定められた随伴F,G,η,εから定義2を満たす随伴F,G,φを導けることを示します。各cC, dDについて,写像φc,d

φc,d:D(Fc,d)fGfηcC(c,Gd)

と定めます。図式で表すと次のようになります。

!FORMULA[56][715790010][0] φc,d(f)=Gfηc

また,写像ψc,d

ψc,d:C(c,Gd)gεdFgD(Fc,d)

と定めます。図式では次のように表されます。

!FORMULA[59][34364203][0] ψc,d(g)=εdFg

このとき,ψc,dφc,dの逆写像であることを容易に確認できます。実際,ψc,dφc,dが恒等写像であることは,各fD(Fc,d)について次式が成り立つことからわかります。

!FORMULA[64][-694922469][0]の証明 ψc,d(φc,d(f))=fの証明

補助線で囲まれた箇所はφc,d(f)です。2行目の最初の等号では余単位εを下に移動させており,最後の等号ではジグザグ等式(式(2))を用いています。

(4)が成り立つことは,次式からわかります(単位ηを下に移動させているだけです)。

式\eqref{eq:4} (4)

ここでは「定義1定義2」を示しましたが,この逆も容易に示せます(拙著[1]で説明しています)。

随伴が導くモナド

任意の随伴からモナドが得られることが知られています。

任意の随伴F,G,η,εについてGF,GεF,ηはモナドである。

このモナドは,随伴F,G,η,εが導くモナドとよばれます。

F:CDとして,T:=GFおよびμ:=GεFとおく。μηはそれぞれ次式のように表される。

!FORMULA[77][36095940][0]と!FORMULA[78][1118736778][0] μη

なお,直観的には,これらの左辺における青線が右辺では太い線で表され,線の内側が緑色になっていると捉えるとわかりやすいかもしれない。次のように,図式を重ねて考えてもよいと思う。

!FORMULA[79][36095940][0]と!FORMULA[80][1118736778][0]の図式の直観的な解釈 μηの図式の直観的な解釈

モナドの定義( 第5回の記事 を参照のこと)より,T,μ,ηがモナドであることを示すためには,結合律と単位律が成り立つことを示せば十分である。結合律が成り立つことは次式からわかる。

結合律の証明 結合律の証明

また,単位律が成り立つことは次式からわかる。

単位律の証明 単位律の証明

ただし,2番目と3番目の等号ではジグザグ等式(式(2))を用いた。

なお,この命題の逆として,任意のモナドT,μ,ηはある随伴F,G,η,εが導くモナドになっていることが知られています(拙著[1]で説明しています)。

随伴は圏同値の一般化

次の命題が示すように,2個の圏CDが圏同値とよばれる関係にあれば,そこから随伴が得られます。この意味で,随伴は圏同値の一般化といえます。

圏同値は随伴を導く

2個の圏C,Dについて,2個の関手F:CD, G:DCと2個の自然同型η:1CGF, τ:FG1Dが存在するとする(この条件を満たすとき,CD同値であるとよぶ)。このとき,ηを単位とするような随伴F,G,η,εが存在する。

自然変換ε:FG1Dを次のように定義する。

!FORMULA[94][1891918441][0] ε

このとき,随伴の定義1よりηεがジグザグ等式(式(2))を満たすことを示せばよい。式(2)の右側の等式が成り立つことは次式からわかる。

式\eqref{eq:2}の右側の等式の証明 (2)の右側の等式の証明

ただし,最初の式の補助線で囲まれた箇所はηを表している。また,

!FORMULA[98][1242830142][0] α

1Gに等しいことを示す。

!FORMULA[100][-874546976][0] αα=α

が成り立つため,αα=αである。一方,自然同型のみを合成して得られる自然同型は自然同型であり(証明は割愛),ここからεは自然同型で,αも同様に自然同型であることがわかる。したがってα1が存在する。αα=αの両辺に(左側または右側から)α1を施せばα=1Gを得る。

まとめ

随伴の定義を示した後,随伴とモナドの関係を紹介しました。また,随伴は圏同値の一般化とみなせることを述べました。

今回の記事で示した図式は,慣れれば直観的に理解できることと思います。随伴に関するほかの多くの性質も,同様に視覚的にわかりやすい形で示せます。

参考文献

[1]
中平健治, ストリング図で学ぶ圏論の基礎, 森北出版, 2025
投稿日:20241221
更新日:6日前
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投稿者

量子論 / 量子情報理論 / 量子測定 の研究者です。

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  1. はじめに
  2. 本連載の目次
  3. 随伴の定義
  4. 定義1:2個の自然変換を用いた定義
  5. 定義2:自然な可逆写像を用いた定義
  6. 定義1定義2の導出
  7. 随伴が導くモナド
  8. 随伴は圏同値の一般化
  9. まとめ
  10. 参考文献