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【ストリング図で学ぶ圏論 #8】関手を表す線の順序の交換

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はじめに

2個の関手F:CDG:DEの合成GF

!FORMULA[3][-2091036229][0] GF

のように線Gを線Fの左側に描くことで表すのでした。この合成では,関手Gを写像

FGGF

のように捉えることができます。逆に,関手Fを次の写像

GFGF

のように捉えたい場合もあります。このように捉えたとき,図式では線Gと線Fの位置を逆にして表すと都合がよいときがしばしばあります。このような表記の仕方などについて説明します。

本連載の目次

#1: 圏の定義と具体例
#2: 関手と自然変換
#3: 垂直合成と水平合成
#4: モノイダル圏
#5: モナドとは自己関手の圏におけるモノイド対象のこと
#6: モナドの例
#7: 随伴
#8: 関手を表す線の順序の交換(この記事)
#9: 普遍射と随伴・極限・カン拡張
#10: ホム関手のストリング図(前編)
#11: ホム関手のストリング図(後編)
#12: 米田の補題
番外編1: 視覚的に理解するクライスリトリプルとモナドの同値性
番外編2: 線形代数の圏論的な性質(?)を圏論なしで説明する

関手を前(または後ろ)から施す関手

準備として,いくつかの関手を導入します。

関手を前から施す関手

まず,任意の関手F:CDと任意の圏Eについて,次のように定まる関手をFとおきます。

  • 関手圏EDの各対象(つまり関手)Gを関手圏ECの対象(つまり関手)GFに写す。
  • 関手圏EDの各射(つまり自然変換)βを関手圏ECの射(つまり自然変換)βFに写す。

FEDからECへの関手であることは容易に確認できます。

この関手は各βED(G,G)βFEC(GF,GF)に写します。このことは,次の図式で表されます。

!FORMULA[28][-8283875][0] (F)β=βF

直観的には,関手Fは「Fを前(図式では右側)から施すような関手」です。

また,関手Fと同様に,任意の自然変換α:FF(ただしF,F:CD)について自然変換αが定められます。具体的にはα:={Gα}GEDは関手Fから関手Fへの自然変換です(証明は省きます)。この自然変換αは各βED(G,G)βαEC(GF,GF)に写します。このことは,次の図式で表されます。

!FORMULA[42][1163352327][0] (α)β=βα

直観的には,自然変換αは「αを前(図式では右側)から施すような自然変換」です。

関手を後ろから施す関手

関手Fと同様に,「関手を後ろ(図式では左側)から施すような関手」を定められます。具体的には,任意の関手G:DEに対して次のように定まるようなDCからECへの関手が考えられ,これをGとおきます。

  • 関手圏DCの各対象(つまり関手)Fを関手圏ECの対象(つまり関手)GFに写す。
  • 関手圏DCの各射(つまり自然変換)αを関手圏ECの射(つまり自然変換)Gαに写す。

この関手は各αDC(F,F)GαEC(GF,GF)に写します。このことは,次の図式で表されます。

!FORMULA[60][1457054131][0] (G)α=Gα

関手Gは,しばしば単にGと表します。

関手Gと同様に,任意の自然変換β:GG(ただしG,G:DE)について自然変換βが考えられます。具体的にはβ:={βF}FDCGからGへの自然変換であり,各αDC(F,F)βαEC(GF,GF)に写します。このことは,次の図式で表されます。

!FORMULA[73][-970686801][0] (β)α=βα

関手を前と後ろの両方から施す関手

関手F:CDと関手G:EFについて,関手Fと関手Gの合成(G)(F)が考えられます(GFのように表すとわかりやすいかもしれません)。この関手は「Fを前(図式では右側)から施してGを後ろ(図式では左側)から施すような関手」になります。

線の順序の入れ替え

恒等自然変換1GFの図式

関手を前または後ろから施す関手を用いて,線の順序を入れ替えたかのような図式を描くことができます。具体的には,まず関手F:CDと関手G:DEについて恒等自然変換1GFを次のように表すことにします。

恒等自然変換!FORMULA[86][-2020533067][0] 恒等自然変換1GF

この左辺と右辺は中央の式と同じであり,単に表記を変えただけです。(G)F(F)GがどちらもGFに等しいことを考えれば,このような表記をしても問題ないことに納得できるのではないかと思います。この左辺と右辺の図式は,「線を交差させることで線の順序を入れ替えている」と解釈できます。

自然変換の入れ替えも同様に行えます。自然変換α:FF(ただしF,F:CD)と自然変換β:GG(ただしG,G:DE)について次式が成り立ちます。

!FORMULA[94][-1137072192][0]を表す4通りの方法 βαを表す4通りの方法

念のため数式で表しておくと,

(α)β=((F)β)(Gα)=βα=((α)G)(βF)

です。

応用例

応用例1:錐の表記

圏論では,(極限に関連する概念として)錐というものがよく現れます。錐について述べるための準備として,任意の圏Jから圏1への唯一の関手について説明します。圏1は1個の対象と1個の射1のみをもつ圏です。Jから1への関手はJのすべての対象をに写し,すべての射を1に写すものしか存在しません。この関手を!と書くことにします。この定義より,Jの任意の射fについて

関手!FORMULA[109][35655][0]のふるまい 関手!のふるまい

が成り立ちます。ただし,この図式のように関手!をグレーの点線で表すものとして,ラベル「!」はしばしば省略します。任意の圏Cに対して,関手ΔJ:=!:CCJ対角関手とよばれます。各cCについてΔJcJからCへの関手であり,Jのすべての対象をcに写し,すべての射を1cに写します。

cCからDJCへの錐とは,ΔJcからDへの自然変換のことです。対角関手の定義よりΔJc=c!です。このため,cからDへの錐αは図式では次のように表せます。

錐!FORMULA[130][1242830142][0] α

この左辺の関手ΔJcを右辺ではc!として表しています。ΔJc=c!から左辺と右辺が等しいことがわかると思いますが,念のため中央の式ではこれらが等しいことを「線の順序を交換する図式」を用いて表しています。

応用例2:極限やカン拡張の保存

ここでは詳細は述べませんが,ある種の関手は「極限を保存する」,または「カン拡張を保存する」という性質をもっています。これらの関手は,図式において極限を表す線,またはカン拡張を表す線と順序を入れ替えられると捉えると直観的にわかりやすい場合がしばしばあります。

まとめ

GFのような関手の合成を表す方法として,線Fを線Gの右側に描く方法を紹介しました。このような方法を用いると視覚的にわかりやすく表せる場合があります。

投稿日:2024年12月28日
更新日:7日前
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投稿者

量子論 / 量子情報理論 / 量子測定 の研究者です。

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  1. はじめに
  2. 本連載の目次
  3. 関手を前(または後ろ)から施す関手
  4. 関手を前から施す関手
  5. 関手を後ろから施す関手
  6. 関手を前と後ろの両方から施す関手
  7. 線の順序の入れ替え
  8. 恒等自然変換1GFの図式
  9. 応用例
  10. 応用例1:錐の表記
  11. 応用例2:極限やカン拡張の保存
  12. まとめ